5 / 21
どういうこと?
しおりを挟む
「じゃあ、駐車場に行こうか」
欧介さんに手を取られ、ホテルを出て連れて行かれたのは高級車専用駐車場。
その中で一際目を惹く車があった。
欧介さんはその車に躊躇いもなく近づいていく。
「あの、この車が欧介さんの、ですか?」
「ああ、そうだよ。さぁ、乗って」
エスコートされながら助手席に乗り込むと、欧介さんはさっと回り込んで運転席へと座った。
この車は車好きのお父さまがずっと欲しいと言っていたイタリアの高級車だ。
世界に10台しかないらしいとずっと話を聞かされていたのでよく覚えている。
でも、まさかその車にお父さまより先に僕が乗れる日が来るとは思っても見なかった。
かっこいい欧介さんにはぴったりの車で、運転しているのを見ているだけで見惚れてしまう。
「ふふっ。そんなに見つめられると照れるな」
「――っ、あっごめんなさい、つい……欧介さんがかっこよくて……」
「かっこいいなんて、渚くんにそう思ってもらえて嬉しいよ」
「――っ!!!」
パチンとウインクされてもうおかしくなってしまいそうだ。
車はあっという間に僕の家へと到着した。
そういえば、住所も何も教えていないのについたということはやっぱり、欧介さんとお父さまは知り合いなのかもしれない。
「あの、ありがとうございました」
お礼を言って車を降りようと思ったら、欧介さんにそっと手を掴まれた。
「連絡先交換しよう。パーティーの日時なんかも伝えないといけないしね。それに10日後の仮縫いには一緒に行くだろう?」
「あ、はい。そうですね」
慌ててポケットからスマホを取り出したけれど、いまいちやり方がわからない。
いつもこういうのはお兄さまにお願いしていたしな。
「ふふっ。貸して。私がやろう」
そういうと、欧介さんは僕のスマホと自分のスマホをちょこちょこっと操作をしてあっという間に連絡先を入れてくれた。
「よし、これでいい」
渡されたスマホのメッセージアプリを開くと、欧介さんのアイコンがちゃんと入っていた。
それだけでなんだか嬉しい。
「ありがとうございます!」
「何かあったら……いや、何もなくてもいつでもメッセージ入れて。渚くんから入ってくると嬉しいから」
にっこりと微笑まれて、僕は嬉しくなって頷いた。
「あの、今日は本当にありがとうございました」
「ああ。こちらこそ、ありがとう。渚くんと出会えて本当に嬉しいよ」
「――っ!」
チュッと頬にキスされて、僕は驚いたけれど欧介さんはニコニコ笑っているだけだ。
頬へのキスなんて欧米じゃ挨拶だっていうし、当然なのかもしれない。
じゃあ……
「きょ、今日はありがとうございました!」
僕も欧介さんの頬にそっと触れるかどうかくらいのキスをして車を降りた。
あまりにも恥ずかしくて僕は慌てて門の中に駆け入ったから、その後もしばらくの間、欧介さんの車が門の前に停まっていたことは知らなかった。
「ただいま帰りました」
声をかけて家に入ると、慌てた様子でお父さまが僕のところにやってきた。
「渚、桐島さんはどうした?」
「あっ、えっと……もう、お帰りになったと思います」
「そうか……。それで、渚……桐島さんがお話になっていたことだが……お前もそのつもりなのか?」
「えっ? あの、僕……」
「い、いや。渚、咎めているわけではないから心配するな。お前が決めたことなら私は何も反対する気はさらさらない。しかもお相手が桐島さんなら言うことは何もないんだ。ただお前の気持ちをはっきりと聞いておきたいだけだよ。その……桐島さんからスーツを……スーツを受け取ったというのは本当なのか?」
「あ、はい。あの……だめ、でしたか? 今からでも、お断りした方がいいですか?」
「ああっ、いや、いいんだ。思ったより早かったが、まぁお前の場合は就職するより桐島さんのようなお方のそばにいるのが安心だからな。蒼也は寂しがるだろうが、お相手が桐島さんだと聞けばきっとあいつも安心するはずだ」
「えっ? あの、お父さま……さっきから一体、何を仰っているのですか?」
「ふふっ。恥ずかしがらずとも良い。私は喜んでいるのだからな」
お父さまは僕の肩をポンポンと叩くと嬉しそうに笑いながら自分の部屋へ入って行った。
何?
一体どういうこと?
よくわからないまま、部屋へと入りソファーに腰をかけると、ピリリリっとスマホの通知音が聞こえた。
<今日は渚くんと会えて良かったよ。良かったら明日、どこかに行かないか?>
欧介さんからのお誘いは嬉しいけれど、今は何が何だかわからなくてどう返していいかわからない。
あっ、でもお父さまは欧介さんのお話が……って言っていたから、欧介さんに聞いてみたらさっきのよくわからない話が理解できるかもしれない。
<あの、お誘いはとっても嬉しいです。でもそれよりも先にお伺いしたいことがあって……もし、良かったら電話してもいいですか?>
そう送ると、既読がついたと同時にすぐに電話がかかってきた。
わっ!
こんなにすぐにっ!!
まだ心の準備が……。
少し戸惑いながらも通話ボタンを押した。
ーどうした? 何かあった?
心配そうな声に申し訳ない気持ちとなぜか少し嬉しくなる自分がいて、自分でもよくわからない。
ーあ、あの……ちょっと気になることがあって……。なんて言えばいいのかわからないんですけど……。
ー大丈夫。ゆっくりでいいよ。ちゃんと聞いてるから。
耳に届く欧介さんの優しい声に癒されながら、僕はさっきのお父さまとのやりとりを伝えた。
ーそれで、父の話していることがよくわからなくて……欧介さんなら、意味がわかるのかもと思って……。
ーあの、もしかして……渚くんは、知らなかったのかな?
ーえっ? 何がですか?
ーそうか……そうだったのか……だが、私はもう……。
欧介さんが少し戸惑い気味に何かを呟いているのが聞こえるけれど、正直何を言っているのかはわからない。
僕は何を知らなかったんだろう?
ーあの……一体何のお話しなんですか?
ーごめん。渚くんは気になるだろうな。だが、それは……明日、会って話そう。電話なんかで話したくないんだ。
ー欧介さん……わかりました。
ーじゃあ、朝9時に迎えにいくから。
そう言って電話は切れたものの、結局詳細はわからないままだった。
でも明日教えてくれるって言ってたし。
それを待てばいいか。
欧介さんに手を取られ、ホテルを出て連れて行かれたのは高級車専用駐車場。
その中で一際目を惹く車があった。
欧介さんはその車に躊躇いもなく近づいていく。
「あの、この車が欧介さんの、ですか?」
「ああ、そうだよ。さぁ、乗って」
エスコートされながら助手席に乗り込むと、欧介さんはさっと回り込んで運転席へと座った。
この車は車好きのお父さまがずっと欲しいと言っていたイタリアの高級車だ。
世界に10台しかないらしいとずっと話を聞かされていたのでよく覚えている。
でも、まさかその車にお父さまより先に僕が乗れる日が来るとは思っても見なかった。
かっこいい欧介さんにはぴったりの車で、運転しているのを見ているだけで見惚れてしまう。
「ふふっ。そんなに見つめられると照れるな」
「――っ、あっごめんなさい、つい……欧介さんがかっこよくて……」
「かっこいいなんて、渚くんにそう思ってもらえて嬉しいよ」
「――っ!!!」
パチンとウインクされてもうおかしくなってしまいそうだ。
車はあっという間に僕の家へと到着した。
そういえば、住所も何も教えていないのについたということはやっぱり、欧介さんとお父さまは知り合いなのかもしれない。
「あの、ありがとうございました」
お礼を言って車を降りようと思ったら、欧介さんにそっと手を掴まれた。
「連絡先交換しよう。パーティーの日時なんかも伝えないといけないしね。それに10日後の仮縫いには一緒に行くだろう?」
「あ、はい。そうですね」
慌ててポケットからスマホを取り出したけれど、いまいちやり方がわからない。
いつもこういうのはお兄さまにお願いしていたしな。
「ふふっ。貸して。私がやろう」
そういうと、欧介さんは僕のスマホと自分のスマホをちょこちょこっと操作をしてあっという間に連絡先を入れてくれた。
「よし、これでいい」
渡されたスマホのメッセージアプリを開くと、欧介さんのアイコンがちゃんと入っていた。
それだけでなんだか嬉しい。
「ありがとうございます!」
「何かあったら……いや、何もなくてもいつでもメッセージ入れて。渚くんから入ってくると嬉しいから」
にっこりと微笑まれて、僕は嬉しくなって頷いた。
「あの、今日は本当にありがとうございました」
「ああ。こちらこそ、ありがとう。渚くんと出会えて本当に嬉しいよ」
「――っ!」
チュッと頬にキスされて、僕は驚いたけれど欧介さんはニコニコ笑っているだけだ。
頬へのキスなんて欧米じゃ挨拶だっていうし、当然なのかもしれない。
じゃあ……
「きょ、今日はありがとうございました!」
僕も欧介さんの頬にそっと触れるかどうかくらいのキスをして車を降りた。
あまりにも恥ずかしくて僕は慌てて門の中に駆け入ったから、その後もしばらくの間、欧介さんの車が門の前に停まっていたことは知らなかった。
「ただいま帰りました」
声をかけて家に入ると、慌てた様子でお父さまが僕のところにやってきた。
「渚、桐島さんはどうした?」
「あっ、えっと……もう、お帰りになったと思います」
「そうか……。それで、渚……桐島さんがお話になっていたことだが……お前もそのつもりなのか?」
「えっ? あの、僕……」
「い、いや。渚、咎めているわけではないから心配するな。お前が決めたことなら私は何も反対する気はさらさらない。しかもお相手が桐島さんなら言うことは何もないんだ。ただお前の気持ちをはっきりと聞いておきたいだけだよ。その……桐島さんからスーツを……スーツを受け取ったというのは本当なのか?」
「あ、はい。あの……だめ、でしたか? 今からでも、お断りした方がいいですか?」
「ああっ、いや、いいんだ。思ったより早かったが、まぁお前の場合は就職するより桐島さんのようなお方のそばにいるのが安心だからな。蒼也は寂しがるだろうが、お相手が桐島さんだと聞けばきっとあいつも安心するはずだ」
「えっ? あの、お父さま……さっきから一体、何を仰っているのですか?」
「ふふっ。恥ずかしがらずとも良い。私は喜んでいるのだからな」
お父さまは僕の肩をポンポンと叩くと嬉しそうに笑いながら自分の部屋へ入って行った。
何?
一体どういうこと?
よくわからないまま、部屋へと入りソファーに腰をかけると、ピリリリっとスマホの通知音が聞こえた。
<今日は渚くんと会えて良かったよ。良かったら明日、どこかに行かないか?>
欧介さんからのお誘いは嬉しいけれど、今は何が何だかわからなくてどう返していいかわからない。
あっ、でもお父さまは欧介さんのお話が……って言っていたから、欧介さんに聞いてみたらさっきのよくわからない話が理解できるかもしれない。
<あの、お誘いはとっても嬉しいです。でもそれよりも先にお伺いしたいことがあって……もし、良かったら電話してもいいですか?>
そう送ると、既読がついたと同時にすぐに電話がかかってきた。
わっ!
こんなにすぐにっ!!
まだ心の準備が……。
少し戸惑いながらも通話ボタンを押した。
ーどうした? 何かあった?
心配そうな声に申し訳ない気持ちとなぜか少し嬉しくなる自分がいて、自分でもよくわからない。
ーあ、あの……ちょっと気になることがあって……。なんて言えばいいのかわからないんですけど……。
ー大丈夫。ゆっくりでいいよ。ちゃんと聞いてるから。
耳に届く欧介さんの優しい声に癒されながら、僕はさっきのお父さまとのやりとりを伝えた。
ーそれで、父の話していることがよくわからなくて……欧介さんなら、意味がわかるのかもと思って……。
ーあの、もしかして……渚くんは、知らなかったのかな?
ーえっ? 何がですか?
ーそうか……そうだったのか……だが、私はもう……。
欧介さんが少し戸惑い気味に何かを呟いているのが聞こえるけれど、正直何を言っているのかはわからない。
僕は何を知らなかったんだろう?
ーあの……一体何のお話しなんですか?
ーごめん。渚くんは気になるだろうな。だが、それは……明日、会って話そう。電話なんかで話したくないんだ。
ー欧介さん……わかりました。
ーじゃあ、朝9時に迎えにいくから。
そう言って電話は切れたものの、結局詳細はわからないままだった。
でも明日教えてくれるって言ってたし。
それを待てばいいか。
314
お気に入りに追加
1,285
あなたにおすすめの小説
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

彼の執着〜前世から愛していると言われても困ります〜
八つ刻
恋愛
女の子なら誰しもが憧れるであろうシンデレラ・ストーリー。
でも!私はそんなの望んでないんです!
それなのに絡んでくる彼。え?私たちが前世で夫婦?頭おかしいんじゃないですか?
これは今世でも妻を手に入れようとする彼とその彼から逃げようとする彼女との溺愛?ストーリー。
※【人生の全てを捨てた王太子妃】の続編なので前作を読んだ後、こちらを読んだ方が理解が深まります。読まなくても(多分)大丈夫です。
ただ、前作の世界観を壊したくない方はそっ閉じ推奨。
※相変わらずヤンデレですが、具合はゆるくなりました(作者比)
※前作のその後だけ知りたい方は25.26日分を読んで下さい。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。


初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています

たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる