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欧介さんからのお誘い

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あれ?
少しため息を吐きながらスッとワイシャツに腕を通して驚いた。

わっ、僕のサイズにぴったりだ!
杉下さん、ちゃんと僕のサイズを見抜いて用意してくれたんだ……。
僕のサイズってなかなか既製品では見つからないって言われたのに……。

お兄さまとスーツを買いに行った時は、外国ブランドだったからということもあって僕にはどれも大きかったんだよね。
後で僕のサイズにお直ししてもらったけれど、それでも大きく感じた。

でも杉下さんの用意してくれたスーツはズボンの腰回りもフィットしている気がする。
裾が長いのはまぁ仕方ないけど……。

あっ!
ジャケットに手を伸ばそうとして気づいた。

僕……ネクタイ締められないや……。

大学の入学式の時はもちろん、高校の時の制服もずっとお兄さまにネクタイお願いしてたんだった……。

ああっ、どうしよう。
でも試着なのにネクタイがないのはおかしいよね?

「渚くん、着替え終わったかな?」

どうしようと悩んでいるとカーテンの外から声をかけられて、僕は恐る恐るちょこっとカーテンを開け、顔だけ出して欧介さんに声をかけた。

「あ、あの……」

「どうした?」

「その……ネクタイが、締められなくて……」

「ふふっ。ああ、そういうことか。大丈夫、私が締めてあげるよ。入ってもいいかな?」

「は、はい。どうぞ」

カーテンから離れると少しだけ開き、欧介さんが中に入ってきた。

「――っ!!」

僕を一目見て驚いた表情を見せるので、

「やっぱり……似合わないですよね?」

というと、

「いや、違うっ! よく似合っていて驚いたんだ。本当だよ」

と言ってくれた。

その焦った様子がなんとも可愛くて思わず笑ってしまった。

「ふふっ。ありがとうございます」

「――っ、ああ、本当に可愛いな」

「えっ?」

「あ、いや、ネクタイを締めてあげよう」

「あ、はい。お願いします」

スッと僕と向かい合わせに立ち、手際よくネクタイを締めてくれる欧介さんがあまりにもかっこよくてどこに視線を向けていいかわからない。
ネクタイを締められている間中、ずっとドキドキが止まらなかった。

「さぁ、これでいい」

お兄さまが締めてくれたネクタイとは形が違う気がする。
でも、この形の方が僕に……というよりこのスーツに似合っている気がする。

「どうだ?」

「はい。いつも締めてもらっている形とは違いますけど、すごく気に入りました」

「……誰に、締めてもらってるんだ?」

「えっ? あの……えっと、兄に……。自分でも締められるようになりたんですけど、不器用で……」

「ああ、そうかお兄さんか。ネクタイにもいくつか形があるんだが、小顔な君にはこの形が似合うよ。後でやり方を教えよう」

「わっ、ありがとうございます」

「ふふっ。と言っても自分で締める必要はもうないけどね」

「えっ? 何か言いました?」

「いや、なんでもない。さぁ、ジャケットを……」

急にご機嫌になった欧介さんにジャケットを羽織らせてもらって、一緒に試着室を出ると

「とてもよくお似合いでございます」

と杉下さんが声をかけてくれた。

大きな鏡に全身を映すと、入学式できたスーツよりすごく馴染んでいる気がする。

よかった……このスーツなら、好きになれそうだ。

その後も三着ほど試着して、杉下さんと欧介さんがいろいろと話しているのを眺めているうちにあっという間にデザインが決まったようだ。

「それでは最後に採寸をいたしましょう」

杉下さんは僕の事細かなサイズを測り、今日の打ち合わせは終わった。

「それではこちらのスーツは天都さまにご請求をお送りいたします。こちらのスーツは……」

「ああ、このカードで頼むよ」

欧介さんが財布からさっと取り出したカードを杉下さんに渡すのを見て、欧介さんからの贈り物だと思い出した僕は慌ててお礼を言った。

「あの、本当にありがとうございます」

「ふふっ。気にしないでいい。私は渚くんが受け入れてくれて嬉しく思っているんだから。完成が楽しみだな」

よかった、欧介さん……パーティーにいく相手を探すの、本当に大変だったんだな。
役に立ててよかった。

「はい。本当に楽しみです」

支払いが終わり、次は10日後の仮縫いの予約をとって僕は欧介さんと店を出た。

ふぅ……。

一仕事終わったように大きく深呼吸をすると、

「ふふっ。お疲れさま。よく頑張ったね。ご褒美にちょっとお茶でもして帰らないか?」

と誘われてしまった。

「えっ、でも大丈夫なんですか?」

「ああ、今日はもう休みだから問題ないよ。すぐそこのホテルのラウンジのケーキが美味しいんだ。行こう!」

欧介さんに手を取られ、連れられた先はさっきのお店からほど近い場所にあるイリゼホテル銀座。
僕自身は来た事がないけれど、お父さまがお料理もホテルスタッフの質も超一流だと言っていたお気に入りのホテルだ。

ここのスイーツもすごく美味しいと聞いていて一度行ってみたいと思っていたから、ここに連れて来てもらえて本当に嬉しい。

中に入ると、すぐに黒服のスタッフさんが近づいてきた。

「桐島さま。いらっしゃいませ。今日はご宿泊でいらっしゃいますか?」

「いや、ラウンジにお茶をしに来たんだ。席を頼むよ」

「承知いたしました」

スタッフさんは頭を下げるとすぐにラウンジへと向かい、あっという間に僕たちの席を用意してくれた。

お父さまと出かけた時もこういう対応を受けた事があるけれど、欧介さんはお父さま以上かも……。
きっとすごい人なんだろうな。
僕が一緒にいて申し訳ないくらいだ。
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