イケメン店主に秘密の片想いのはずが何故か溺愛されちゃってます

波木真帆

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穏やかな時間

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お風呂が沸いたと声をかけられ、いつの間にか用意されていた着替えを渡されて風呂場に案内される。

「脱いだ服は洗濯機に入れてくれていいからね」

そんな優しい言葉をかけられて、扉が閉まる。

ついさっきまで八尋さんの優しさが辛いとか思っていたくせに、こうして八尋さんの優しさに触れると嬉しくてたまらない。

初めて八尋さん家に泊まった時、最初で最後の風呂かもと思ったのに、こんなにも早く八尋さん家のお風呂に入れるなんて思わなかった。
ぼーっとしている時間がもったいなくて急いで服を脱ぎ、言われた通りに脱いだものを洗濯機に入れた。

浴室に足を踏み入れると、花の香りに迎えられる。
どうやら八尋さんがわざわざ入浴剤を入れてくれたみたいだ。

本当にまめな人なんだな。

この前、お風呂を借りた時には確か入浴剤は入ってなかった。
今日は酔っ払って寝ちゃったから、特別に入れてくれたのかもしれない。
そんな八尋さんの心遣いが嬉しかった。

お風呂に入る前に髪と身体を洗おうと、八尋さんのシャンプーを手に取る。
そういえば、今度これを用意してもらえるんだっけ。

ちょっと恥ずかしかったけど、頑張って頼んでみてよかった。

これを使えたら、あの八尋さんの匂いになれるんだよね。
ちょっと浮かれながら、手に取ったシャンプーの匂いを嗅いでみた。

「あれ?」

俺の想像と全く違う。
というか、匂いがしない?

いや、そんなわけない。
だって、あんなにいい匂いがしていたんだから。

ああ、そうか。
多分この入浴剤の匂いでわからなくなっているんだろう。
風呂場を出たら、きっとこのシャンプーやボディーソープの匂いを感じるんだろうな。

なんだかちょっと楽しみになってきた。

綺麗に泡を洗い流し、湯船に浸かる。
大きなお風呂で足を伸ばして入るのはやっぱり気持ちがいい。

出るのが勿体無いと思いながらも、いつまでも入っているわけにはいかなくて風呂を出た。

用意されていた大きなふわふわのバスタオルで包み込むように身体を拭き、さっき手渡された着替えに手を通す。
下着は相変わらず新品で、俺なんかがこんなにいいパンツを穿いていいのかと申し訳なくなるらい着心地は抜群だけれど、流石にノーパンではいられないから、ありがたく穿かせてもらう。

ああ、やっぱりこのパンツ。
最高に着心地が良くて、穿いてることすら忘れそうになる。

着替えは八尋さんの服。
この前上着だけ着て出て行ったら驚かれたから、今日はちゃんと下も穿いていこう。
そう思ったけれど、どうやら短パンらしい。

俺が暑がっていたのを覚えててくれたんだろうな。
本当に八尋さんは優しい。

着替えを終えると、ふわっと八尋さんの匂いに包まれる。
ああ、これだ。これ。
さっきは入浴剤の匂いで感じられなかったけど、やっぱりこのシャンプーとボディーソープは最高だ。
この匂いを家でも感じられるなんて嬉しいしかない。

ウキウキしながら風呂場を出ると、前と同じようにいい匂いに迎えられる。

「八尋さん、お風呂いただきました。着替えもありがとうございます」

「あ、ああ。さっぱりしたならよかった。じゃあ食事にしようか」

手際よく俺の目の前に用意してくれた朝食は一人用の土鍋に入った、身体に優しそうな雑炊。
食べやすいサイズの野菜も卵も入っていて、栄養たっぷりという感じだ。

「すごく美味しそうですね!」

「おかわりもあるから、無理しない程度に食べて」

「はい。いただきます」

若干猫舌気味の俺はフウフウと冷ましながら、雑炊を食べていく。
出汁の味がしっかりとしていて、ものすごく美味しい。

体調が悪かったり、食欲がなかった時にコンビニで売っていたレトルトのお粥や雑炊をよく食べていたけれど、あの時は美味しいと思っていたのに、八尋さんの雑炊を食べると全く別物だとわかる。
今なら、きっとあれを食べても美味しいとは思えないかもしれない。
それくらい、俺は八尋さんの料理の虜になっているようだ。

あっという間に雑炊を平らげて、お腹もいっぱいになった。

「ご馳走さまでした」

手を合わせてそういうと、八尋さんは笑顔を見せてくれた。

「今日は休みだけど、何か予定でもある?」

「いえ、特に何も」

「それなら、ゆっくりしていくといいよ」

「えっ、でも……」

「今、洗濯機回しているし、終わったら乾燥機にかけるからそれが終わってから帰ってもいいだろう? 二時間くらいだし」

確かに下着を置いたまま帰るのも申し訳ないか。
それに畳んでもらうのも心苦しいし。

洗濯乾燥の時間で二時間くらいだっていうなら、待っていた方がいいかも。
八尋さんと少しでも同じ時間を過ごせるし。

「じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔します」

その言葉になぜか八尋さんはご機嫌になって、食器洗いを始めた。

「あっ、俺がやります」

「いいよ。すぐに終わるし、平松くんはソファーで休んでて」

やっぱり料理人だから、キッチンを触られるのが嫌なのかも。
料理人にとってキッチンは聖域だって聞いたことあるし。
ここは大人しく言うことを聞いておこう。

そう思い、ソファーに座りながら八尋さんの姿を眺めていた。


「はい。食後のコーヒー」

「あっ、ありがとうございます」

「砂糖とミルクは入れてよかったよね?」

「はい。ありがとうございます」

ふうふうと冷まして、一口飲むとちょうどいい甘さが口の中に広がる。
もうすっかり俺の好みの味を知られているようだ。

やっぱり料理人さんってさすがだな。

向かい合わせに座って、コーヒーを飲んでいると突然ピリリリと無機質な音が聞こえてきた。

「ああ、ごめん。ちょっと失礼するよ」

そう言って、八尋さんはコーヒーをテーブルに置き、電話をとった。
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