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砂川さんって、すごいな
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「こんばんはー」
「やぁ、いらっしゃい。あれ?」
「どうかしました?」
「いや、なんだかすごく嬉しそうに見えたから。何かあった?」
そう言われて、思わず両手で頬に触れてしまった。
「そう、ですか?」
「ああ、違った?」
「いえ、実は……」
俺は八尋さんとの観光で知ったこの島の絵を描いて、名嘉村さんに褒めてもらえたこと、そして砂川さんにも、ほぼ採用間違いなしと言われたことを話した。
「仕事でこうして認めてもらえたのって初めてなので嬉しくて、つい顔に出ちゃってたのかもしれません」
「そうだったのか、それはよかった。私も嬉しいよ」
「はい、もう八尋さんのおかげです。俺一人じゃできない経験ばかりさせてもらったので感謝してます」
「ありがとう。でも平松くんの感性がよかったのと、何より平松くんのイラストに心がこもっていたからだよ。完成したらぜひ見せてくれ」
「あ、はい。でも、まだ採用されたわけじゃないので……」
「大丈夫。砂川さんがほぼ決まりだと言ったなら、もう決定も同然だよ。砂川さんは倉橋くんがどういうものを選ぶかもわかっているし、倉橋くんも砂川さんの感性を認めているからね」
そんなに信頼しあっているからこそ、社長がいない間もあの会社は何の支障もなく業務ができているんだろうな。
「さぁ、ここに座って」
もうすっかり定位置になったカウンターの席に腰を下ろすと、
「何か食べたいものある? なければ、私の方でおすすめを用意してもいいかな?」
と尋ねられた。
「はい。八尋さんのおすすめなら喜んでいただきたいです」
「じゃあ、用意してくるから、飲み物とその小鉢を突きながら少し待ってて」
そう言って八尋さんは奥の厨房に入って行った。
かなり薄めの泡盛は、食事の前でもすっきりと呑める。
小鉢には、山菜のお浸しが入っていて、ほんのりと苦味があるけれどクセになる味で箸が止まらない。
泡盛との相性も抜群で、ついつい飲みすぎてしまいそうになる。
だからこそ、この薄さなんだろう。
「お待たせ」
トレイに運ばれてきたのは、煮込みハンバーグとご飯にスープ、そしてサラダ。
まるで洋食屋さんのような料理に驚いてしまう。
「これ……」
「毎日和食だと飽きるんじゃないかと思ってね」
「えっ、じゃあ俺のためにわざわざ?」
「私もハンバーグを食べようかなと思っていたからちょうどよかったんだ。煮込みハンバーグは一つ作るより多めに作った方が美味しいからね」
そうなんだ。
俺は料理のことは全くわからないけれど、八尋さんが言うならそうなんだろう。
「沖縄料理店でまさかハンバーグをいただけるとは思ってなかったですけど、すごく美味しそうです。いただきます!」
「ああ、召し上がれ」
ナイフを入れると、中からジュワッと肉汁が溢れ出す。
「うわっ、すごい! 美味しそう!!」
「ふふっ。熱いから気をつけて」
一口サイズに切り分けたハンバーグをフーフーと冷ましてから口に運ぶ。
「んんっ! ふっごく、おいひぃっ!!」
こんなハンバーグ、生まれて初めてかも。
あまりの美味しさにパクパク食べている俺を、八尋さんはずっと笑顔でみてくれていた。
途中で常連さんがやってきて、八尋さんはその人の対応を始める。
そんな姿を見ながらも、俺の手は止まることはなかった。
あっという間に完食して、ふぅと一息ついていると、
「はい。食後のデザート」
と黒糖ゼリーを出してくれた。
「あっ、ありがとうございます! これ、本当に美味しいですよね」
「毎日作ってたわけじゃなかったんだけど、平松くんが喜んでくれるから作ってるんだ。美味しいと言ってくれて嬉しいよ。明日の分もちゃんとあるからね」
「あっ、すみません……」
毎日食べにくるって約束してたんだから、作ってくれてるよな。
先に言わないといけなかったのに、俺ってば……。
「んっ? どうかした?」
「あの、実は……明日は来れそうになくて……すみません」
「いや、構わないけど……何かあるのかな?」
「はい。実は……名嘉村さんにお誘いいただいて、明日砂川さんも一緒に名嘉村さんのお家で夕食をいただくことになったんです……」
「ああ、そういうことか。それならよかった」
「えっ?」
「ああ、いや。親睦を深めるのは大事なことだからね。楽しんでおいで。名嘉村くんも砂川さんも料理は上手だから、きっと楽しい夕食会になると思うよ」
「へぇ、砂川さんもお料理上手なんですね。恋人さんがお料理上手だと伺っていたので、てっきりあまりされないのかと思ってました。今日も社食を召し上がってましたし」
「ああ、砂川さんの恋人は料理人だからね」
「えっ? そうなんですか?」
「だから、会ったときはいつも料理をしてもらっているみたいだよ。社食はメニューのチェックや社食の従業員のために週に二回は食べるようにしているって話をしていたかな。砂川さんのような立場の人が社食を食べるのは従業員の意識向上にもなるからね」
「そういう理由だったんですね……」
すごいな。
砂川さんはいつだって会社をより良くすることばかり考えてるんだ……。
本当にすごい人だな。
「砂川さんと名嘉村さんとゆっくり楽しんでおいで。こっちのことは気にしないでいいから」
「はい」
食事も終わったし、明日のことも話せたしそろそろ帰ろうかと腰をあげると、
「今日はどうする? このまま泊まる?」
と笑顔で尋ねられた。
「えっ? か、帰ります。そんな毎日泊めていただいては申し訳ないです」
「ふふっ。そんな気にしなくていいのに。じゃあ、明日の朝はお弁当とうちで食べるのとどっちがいい?」
また難しい二択がきた!
お弁当って手間かかるよな?
「あ、あのここに来させてもらいます」
「ふふっ。オッケー。じゃあそれで用意しておくよ。じゃあ、送っていくよ」
「えっ、あの……」
「仲間さん、彼を送ってくるからちょっと頼むよ」
「こっちは適当にやっとくよー」
俺が戸惑っている間に八尋さんは常連さんに声をかけて、さっさと手を取られて店の外に出てしまった。
「行こうか」
「は、はい」
いつも送ってもらって申し訳ないなと思いつつも、真っ暗な道を一人で歩かなくて済むことにホッとしている。
たわいない話をしながら、あっという間に家に到着した。
「じゃあまた明日ね」
そう言いながらも、八尋さんは俺が家の中に入るのを待ってくれている。
彼に見送られながら、俺は家の中に入った。
「やぁ、いらっしゃい。あれ?」
「どうかしました?」
「いや、なんだかすごく嬉しそうに見えたから。何かあった?」
そう言われて、思わず両手で頬に触れてしまった。
「そう、ですか?」
「ああ、違った?」
「いえ、実は……」
俺は八尋さんとの観光で知ったこの島の絵を描いて、名嘉村さんに褒めてもらえたこと、そして砂川さんにも、ほぼ採用間違いなしと言われたことを話した。
「仕事でこうして認めてもらえたのって初めてなので嬉しくて、つい顔に出ちゃってたのかもしれません」
「そうだったのか、それはよかった。私も嬉しいよ」
「はい、もう八尋さんのおかげです。俺一人じゃできない経験ばかりさせてもらったので感謝してます」
「ありがとう。でも平松くんの感性がよかったのと、何より平松くんのイラストに心がこもっていたからだよ。完成したらぜひ見せてくれ」
「あ、はい。でも、まだ採用されたわけじゃないので……」
「大丈夫。砂川さんがほぼ決まりだと言ったなら、もう決定も同然だよ。砂川さんは倉橋くんがどういうものを選ぶかもわかっているし、倉橋くんも砂川さんの感性を認めているからね」
そんなに信頼しあっているからこそ、社長がいない間もあの会社は何の支障もなく業務ができているんだろうな。
「さぁ、ここに座って」
もうすっかり定位置になったカウンターの席に腰を下ろすと、
「何か食べたいものある? なければ、私の方でおすすめを用意してもいいかな?」
と尋ねられた。
「はい。八尋さんのおすすめなら喜んでいただきたいです」
「じゃあ、用意してくるから、飲み物とその小鉢を突きながら少し待ってて」
そう言って八尋さんは奥の厨房に入って行った。
かなり薄めの泡盛は、食事の前でもすっきりと呑める。
小鉢には、山菜のお浸しが入っていて、ほんのりと苦味があるけれどクセになる味で箸が止まらない。
泡盛との相性も抜群で、ついつい飲みすぎてしまいそうになる。
だからこそ、この薄さなんだろう。
「お待たせ」
トレイに運ばれてきたのは、煮込みハンバーグとご飯にスープ、そしてサラダ。
まるで洋食屋さんのような料理に驚いてしまう。
「これ……」
「毎日和食だと飽きるんじゃないかと思ってね」
「えっ、じゃあ俺のためにわざわざ?」
「私もハンバーグを食べようかなと思っていたからちょうどよかったんだ。煮込みハンバーグは一つ作るより多めに作った方が美味しいからね」
そうなんだ。
俺は料理のことは全くわからないけれど、八尋さんが言うならそうなんだろう。
「沖縄料理店でまさかハンバーグをいただけるとは思ってなかったですけど、すごく美味しそうです。いただきます!」
「ああ、召し上がれ」
ナイフを入れると、中からジュワッと肉汁が溢れ出す。
「うわっ、すごい! 美味しそう!!」
「ふふっ。熱いから気をつけて」
一口サイズに切り分けたハンバーグをフーフーと冷ましてから口に運ぶ。
「んんっ! ふっごく、おいひぃっ!!」
こんなハンバーグ、生まれて初めてかも。
あまりの美味しさにパクパク食べている俺を、八尋さんはずっと笑顔でみてくれていた。
途中で常連さんがやってきて、八尋さんはその人の対応を始める。
そんな姿を見ながらも、俺の手は止まることはなかった。
あっという間に完食して、ふぅと一息ついていると、
「はい。食後のデザート」
と黒糖ゼリーを出してくれた。
「あっ、ありがとうございます! これ、本当に美味しいですよね」
「毎日作ってたわけじゃなかったんだけど、平松くんが喜んでくれるから作ってるんだ。美味しいと言ってくれて嬉しいよ。明日の分もちゃんとあるからね」
「あっ、すみません……」
毎日食べにくるって約束してたんだから、作ってくれてるよな。
先に言わないといけなかったのに、俺ってば……。
「んっ? どうかした?」
「あの、実は……明日は来れそうになくて……すみません」
「いや、構わないけど……何かあるのかな?」
「はい。実は……名嘉村さんにお誘いいただいて、明日砂川さんも一緒に名嘉村さんのお家で夕食をいただくことになったんです……」
「ああ、そういうことか。それならよかった」
「えっ?」
「ああ、いや。親睦を深めるのは大事なことだからね。楽しんでおいで。名嘉村くんも砂川さんも料理は上手だから、きっと楽しい夕食会になると思うよ」
「へぇ、砂川さんもお料理上手なんですね。恋人さんがお料理上手だと伺っていたので、てっきりあまりされないのかと思ってました。今日も社食を召し上がってましたし」
「ああ、砂川さんの恋人は料理人だからね」
「えっ? そうなんですか?」
「だから、会ったときはいつも料理をしてもらっているみたいだよ。社食はメニューのチェックや社食の従業員のために週に二回は食べるようにしているって話をしていたかな。砂川さんのような立場の人が社食を食べるのは従業員の意識向上にもなるからね」
「そういう理由だったんですね……」
すごいな。
砂川さんはいつだって会社をより良くすることばかり考えてるんだ……。
本当にすごい人だな。
「砂川さんと名嘉村さんとゆっくり楽しんでおいで。こっちのことは気にしないでいいから」
「はい」
食事も終わったし、明日のことも話せたしそろそろ帰ろうかと腰をあげると、
「今日はどうする? このまま泊まる?」
と笑顔で尋ねられた。
「えっ? か、帰ります。そんな毎日泊めていただいては申し訳ないです」
「ふふっ。そんな気にしなくていいのに。じゃあ、明日の朝はお弁当とうちで食べるのとどっちがいい?」
また難しい二択がきた!
お弁当って手間かかるよな?
「あ、あのここに来させてもらいます」
「ふふっ。オッケー。じゃあそれで用意しておくよ。じゃあ、送っていくよ」
「えっ、あの……」
「仲間さん、彼を送ってくるからちょっと頼むよ」
「こっちは適当にやっとくよー」
俺が戸惑っている間に八尋さんは常連さんに声をかけて、さっさと手を取られて店の外に出てしまった。
「行こうか」
「は、はい」
いつも送ってもらって申し訳ないなと思いつつも、真っ暗な道を一人で歩かなくて済むことにホッとしている。
たわいない話をしながら、あっという間に家に到着した。
「じゃあまた明日ね」
そう言いながらも、八尋さんは俺が家の中に入るのを待ってくれている。
彼に見送られながら、俺は家の中に入った。
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