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消えない感触
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「あっ、そうだ。これ」
車に乗り込んだ八尋さんが、長い手で後部座席から取ったのは蓋のついた小さなバスケット。
それを俺に手渡しながら、
「おにぎりを作ってきたんだ。よかったら食べて」
と言ってくれた。
「えっ、いいんですか?」
「ああ、きっと朝食は果物だけで済ませたんじゃないかなって思ってたから。違った?」
「い、いえ、その通りです。でもどうして?」
「ふふっ。簡単だよ。冷蔵庫にあったカップの野菜は昨日の朝食で盛り付けに使わせてもらったし、ヨーグルトは朝食べるのが苦手な人もいるしね。まぁ、平松くんの好みの料理のラインナップ考えたら、ヨーグルトは嫌いじゃないけど好んでは食べなそうな気がしたんだ。で、それ以外にすぐに食べられるように用意していたのは果物だけだったからね」
「――っ!!」
確かに、卵もソーセージも焼くのが面倒だなって思ってフルーツだけにしたんだ。
ヨーグルトも八尋さんに言われたように嫌いじゃないけど、昔から朝に食べると何故かお腹が緩くなる。
八尋さんと出かけるのに、それは困るなと思ったんだ。
でも、こんなにも俺の行動を見透かされてるなんて……。
本当、料理人さんってすごいんだな。
「ふふっ。今日はあちこち動くから、朝はしっかり食べておかないとね! ゆっくり走るから、焦らずに食べて」
「は、はい。あの、いただきます」
ロックを外しバスケットの蓋を開けると、小さな竹籠とおしぼりが入っていた。
おしぼりで手を拭き、小さな竹籠を開けると、いろんな味のおにぎりが入っていた。
「わぁっ、美味しそう!!」
「ふふっ。召し上がれ。手前から昆布と鮭とジューシーだよ」
昆布も捨て難いけど、八尋さんのところで食べたこのジューシーっていうのは絶品だった。
俺は悩んだけれど、ジューシーを手に取り、パクリと頬張った
「んんっ!! おいひぃ、れすっ!」
まだ握ってそんなに時間が経っていないんだろう。
ほんのり温かくて美味しい。
「そんなに嬉しそうに食べてくれると作り甲斐があるよ」
「本当に美味しいです! 本当にすごいですよ、八尋さん」
「ふふっ。ありがとう」
パクッと二口目に入ったところで、そういえば八尋さんも朝食……と大事なことに気がついた。
「すみません、俺ばっかり食べてて。八尋さんも何か食べますか?」
「ああ、気遣ってくれてありがとう。じゃあ、これもらおうかな」
そう言って、八尋さんの手が伸びてきたかと思ったら、俺の手から食べかけのおにぎりを持っていく。
「あっ……」
声をかけようとした時にはもう、食べかけのおにぎりは八尋さんの口の中に入ってしまっていた。
八尋さんはそれを美味しそうに食べると、
「ああ、今日のジューシーは良くできてたな。安心したよ」
と笑った。
ああ、そうか。
炊き込みご飯って難しいって聞いたことがある。
料理人さんでもきっと毎日全く同じにできるってわけじゃないんだろうな。
でも、今日のだけじゃなく八尋さんのならきっと毎日美味しい気がする。
俺なら絶対にそう思えるんだけどな。
「あ、あの……どっち食べますか?」
残った二つのおにぎりを見せながらいうと、
「平松くんが選んでいいよ」
と言われたけど、昆布も鮭も美味しそうで選べそうにない。
「ふふっ。じゃあ、半分こしようか。その方が両方食べられるだろう?」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん、私も両方食べられるし」
「ですよね!!」
八尋さんと同じだと思ったら嬉しくて、早速おにぎりを半分に割ろうとしたら、
「海苔巻いてるから割りづらいだろう。先に半分食べて渡してくれたらいいよ」
と言われてしまった。
また食べかけを渡すことになるけどいいのかな……と思ったけど、八尋さんが言ってくれるのならそれに従った方かいいか。
「じゃ、じゃあお先にいただきます」
パクリと鮭にかぶりつくと鮭の程よい脂がなんともいえないくらい美味しい!
「ん――っ、おいひぃっ!!」
「ふふっ。本当に平松くんは美味しそうに食べてくれるなぁ」
「だって、本当に美味しいです! 八尋さんもどうぞ。あーん」
つい興奮してしまった俺は、そのまま八尋さんの口に運んでしまった。
八尋さんが一瞬驚いた表情をしたから、俺もあっ! と気づいて八尋さんに手渡そうとしたけれど、それよりも先に八尋さんの口に入ってしまった。
かすかに俺の指が八尋さんの唇に触れて、ドキッとする。
「ああ、美味しいな」
そう言って笑う八尋さんを見ながら、俺は八尋さんの唇に触れた指にそっと触れた。
あんな一瞬だったのに、八尋さんの唇の感触が全然消えてくれない。
俺……なんだかおかしくなりそうだ。
だけど、八尋さんはそんな俺を見ても全く気にするそぶりもない。
俺ばっかりがドキドキしちゃってる気がする。
あー、だめだ、だめだ。
八尋さんがせっかく俺を気遣っていろいろしてくれてるのに、俺は余計なことばっかり考えて……。
八尋さんは優しいから、砂川さんや名嘉村さんに頼まれて慣れない俺にいろいろしてくれてるだけ。
それを忘れちゃいけないんだ!!
俺は心の中で自分にしっかりと言い聞かせた。
* * *
楽しすぎてまさかのおにぎりで一話(汗)すみません。
次回こそは観光ツアーに行けるはず。
ところで、二話目で悠真が名嘉村くんの紹介をした時に特に説明もなかったので、口頭で聞いただけならきっと友貴也は『名嘉村』を『中村』だと勘違いしちゃってるかもというご指摘をいただき、確かにそうだ!!と思ったので、二話目の<優しい教育係>の回にその辺りのやりとりを追加しています。
悠真と名嘉村くんが親しいという関係性も見えてくるやりとりになっていますので、もしよかったら戻って覗いてくださると嬉しいです♡
車に乗り込んだ八尋さんが、長い手で後部座席から取ったのは蓋のついた小さなバスケット。
それを俺に手渡しながら、
「おにぎりを作ってきたんだ。よかったら食べて」
と言ってくれた。
「えっ、いいんですか?」
「ああ、きっと朝食は果物だけで済ませたんじゃないかなって思ってたから。違った?」
「い、いえ、その通りです。でもどうして?」
「ふふっ。簡単だよ。冷蔵庫にあったカップの野菜は昨日の朝食で盛り付けに使わせてもらったし、ヨーグルトは朝食べるのが苦手な人もいるしね。まぁ、平松くんの好みの料理のラインナップ考えたら、ヨーグルトは嫌いじゃないけど好んでは食べなそうな気がしたんだ。で、それ以外にすぐに食べられるように用意していたのは果物だけだったからね」
「――っ!!」
確かに、卵もソーセージも焼くのが面倒だなって思ってフルーツだけにしたんだ。
ヨーグルトも八尋さんに言われたように嫌いじゃないけど、昔から朝に食べると何故かお腹が緩くなる。
八尋さんと出かけるのに、それは困るなと思ったんだ。
でも、こんなにも俺の行動を見透かされてるなんて……。
本当、料理人さんってすごいんだな。
「ふふっ。今日はあちこち動くから、朝はしっかり食べておかないとね! ゆっくり走るから、焦らずに食べて」
「は、はい。あの、いただきます」
ロックを外しバスケットの蓋を開けると、小さな竹籠とおしぼりが入っていた。
おしぼりで手を拭き、小さな竹籠を開けると、いろんな味のおにぎりが入っていた。
「わぁっ、美味しそう!!」
「ふふっ。召し上がれ。手前から昆布と鮭とジューシーだよ」
昆布も捨て難いけど、八尋さんのところで食べたこのジューシーっていうのは絶品だった。
俺は悩んだけれど、ジューシーを手に取り、パクリと頬張った
「んんっ!! おいひぃ、れすっ!」
まだ握ってそんなに時間が経っていないんだろう。
ほんのり温かくて美味しい。
「そんなに嬉しそうに食べてくれると作り甲斐があるよ」
「本当に美味しいです! 本当にすごいですよ、八尋さん」
「ふふっ。ありがとう」
パクッと二口目に入ったところで、そういえば八尋さんも朝食……と大事なことに気がついた。
「すみません、俺ばっかり食べてて。八尋さんも何か食べますか?」
「ああ、気遣ってくれてありがとう。じゃあ、これもらおうかな」
そう言って、八尋さんの手が伸びてきたかと思ったら、俺の手から食べかけのおにぎりを持っていく。
「あっ……」
声をかけようとした時にはもう、食べかけのおにぎりは八尋さんの口の中に入ってしまっていた。
八尋さんはそれを美味しそうに食べると、
「ああ、今日のジューシーは良くできてたな。安心したよ」
と笑った。
ああ、そうか。
炊き込みご飯って難しいって聞いたことがある。
料理人さんでもきっと毎日全く同じにできるってわけじゃないんだろうな。
でも、今日のだけじゃなく八尋さんのならきっと毎日美味しい気がする。
俺なら絶対にそう思えるんだけどな。
「あ、あの……どっち食べますか?」
残った二つのおにぎりを見せながらいうと、
「平松くんが選んでいいよ」
と言われたけど、昆布も鮭も美味しそうで選べそうにない。
「ふふっ。じゃあ、半分こしようか。その方が両方食べられるだろう?」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん、私も両方食べられるし」
「ですよね!!」
八尋さんと同じだと思ったら嬉しくて、早速おにぎりを半分に割ろうとしたら、
「海苔巻いてるから割りづらいだろう。先に半分食べて渡してくれたらいいよ」
と言われてしまった。
また食べかけを渡すことになるけどいいのかな……と思ったけど、八尋さんが言ってくれるのならそれに従った方かいいか。
「じゃ、じゃあお先にいただきます」
パクリと鮭にかぶりつくと鮭の程よい脂がなんともいえないくらい美味しい!
「ん――っ、おいひぃっ!!」
「ふふっ。本当に平松くんは美味しそうに食べてくれるなぁ」
「だって、本当に美味しいです! 八尋さんもどうぞ。あーん」
つい興奮してしまった俺は、そのまま八尋さんの口に運んでしまった。
八尋さんが一瞬驚いた表情をしたから、俺もあっ! と気づいて八尋さんに手渡そうとしたけれど、それよりも先に八尋さんの口に入ってしまった。
かすかに俺の指が八尋さんの唇に触れて、ドキッとする。
「ああ、美味しいな」
そう言って笑う八尋さんを見ながら、俺は八尋さんの唇に触れた指にそっと触れた。
あんな一瞬だったのに、八尋さんの唇の感触が全然消えてくれない。
俺……なんだかおかしくなりそうだ。
だけど、八尋さんはそんな俺を見ても全く気にするそぶりもない。
俺ばっかりがドキドキしちゃってる気がする。
あー、だめだ、だめだ。
八尋さんがせっかく俺を気遣っていろいろしてくれてるのに、俺は余計なことばっかり考えて……。
八尋さんは優しいから、砂川さんや名嘉村さんに頼まれて慣れない俺にいろいろしてくれてるだけ。
それを忘れちゃいけないんだ!!
俺は心の中で自分にしっかりと言い聞かせた。
* * *
楽しすぎてまさかのおにぎりで一話(汗)すみません。
次回こそは観光ツアーに行けるはず。
ところで、二話目で悠真が名嘉村くんの紹介をした時に特に説明もなかったので、口頭で聞いただけならきっと友貴也は『名嘉村』を『中村』だと勘違いしちゃってるかもというご指摘をいただき、確かにそうだ!!と思ったので、二話目の<優しい教育係>の回にその辺りのやりとりを追加しています。
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