イケメン店主に秘密の片想いのはずが何故か溺愛されちゃってます

波木真帆

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八尋さんの優しさ

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「えっ、あっ……」

今、食べた?
茫然とする俺を前に、八尋さんはなおも微笑みを浮かべたままで俺を見た。

「ふふっ。ご飯、いい硬さだったね。よかったよ」

「あ、ああ。そう、ですね……」

なるほど……。
ご飯の硬さが心配だったのか。

さすが料理人。
確かにお米の硬さって人それぞれこだわりがあるっているしな。

俺は基本なんでも食べるけど、好きなのは少し固め。
今のこのおにぎりくらいの硬さがちょうどいい。
八尋さんがいい硬さって言ってくれたってことは、好みが同じってことかな?

ふふっ、そっか。なんか、嬉しい。


「こっちも食べて」

「はい。あっ、美味しいですっ!!」

そうして勧められるままに食べ尽くして、あっという間に八尋さんが持ってきてくれたお弁当は空になった。
出してくれていた果物まで見事に完食して、朝からお腹が大満足してる。

「それにしても、この部屋は過ごしやすそうだね」

「あっ、はい。元々他の人が入る予定だったから揃えてくださってたみたいで、何も持ってなかったんで助かりました」

「他の人……ああ、藤乃くんか。なるほど、だから使わないまま空いてたわけか」

「はい。八尋さんもご存知なんですね? その、社長と藤乃くんのこと……」

「ああ、彼が西表にきた日から知ってるよ。あの二人の相思相愛っぷりは」

相思相愛……そうか。
八尋さんの目から見てもそう見えるってことは、幸せなんだろうな。

「あの、藤乃くん……元気にしてましたか?」

「ああ、元気だったよ。平松くんは、彼と知り合いなのかな?」

「はい。実は元同僚なんです……」

「そうなのか、その二人がまたここで一緒に働くなんてすごい縁だね」

「はい。社長のおかげです」

本当にその一言に尽きる。
俺なんて、本当は藤乃くんの前に出られるような人間じゃないのに、社長の温情に甘えてここまできてしまった。

「お、僕……今まで雑用ばっかりで、なんのスキルも持ってなくて……優秀だった藤乃くんと比べて役に立てるかわからないんですけど、そんな僕を雇ってもらえて感謝してます」

「平松くんは自分を卑下しすぎだと思うよ」

「えっ……?」

「君が今までどういう扱いをされてきたのかはわからないけど、少なくともあの倉橋社長は義理やお情けだけで自分の会社に入れたりはしないよ。彼は自分の仕事にやりがいを持っている人だからね。役に立たない人はどれだけ関係があっても切り捨てる。そういう人だよ。そんな彼が平松くんをここまで呼んで、家も提供してくれるってことは、ちゃんと君の能力を見抜いて期待してるってことじゃないのかな?」

「社長が……」

「新しい会社に入るときにはみんな緊張するものだけど、スタートはみんな同じだから。今までのことは忘れて、一からやる気になればいいんだよ。平松くんはそれができる人だと思うよ」

「八尋さん……」

――君が頑張ればできる子だってわかってる。しっかりやれば必ずそれに気づいてくれる人がいるから。

高校時代の恩師、栗原先生に言われた言葉が甦る。
ここでまさか聞けるとは思わなかったな。

「今日は初日だし、気楽にやればいいよ」

「はい。ありがとうございます」

「ああ、あと……」

「えっ?」

「ふふっ。わざわざ言い直さなくても、俺でいいよ。私は会社の人間でもないし、平松くんとは気楽に付き合いたいから」

「あっ……」

僕って言い直したことに気づかれたのか……。
慣れない言い方がバレて恥ずかしい……。

でもこうして言ってくれるのって、なんか嬉しいな。

「ねっ、平松くん」

「はい。俺も……八尋さんと気楽に話せるの、嬉しいです」

俺の言葉に八尋さんは一際優しい笑みを見せてくれた。

「会社まで送って行こうか?」

「あっ、でも名嘉村さんが迎えにきてくださることになってて……」

「ああ、そうなのか。じゃあ、邪魔しちゃ悪いかな。名嘉村くんの家はすぐそこだからもうすぐ来るだろう。じゃあ、私は失礼するよ」

「あの、お弁当……ありがとうございました」

「こっちこそ食べてもらえて嬉しかったよ。私の家ならもっと手の込んだものも食べさせてあげられるから、夜だけじゃなく、朝も来てもらって構わないよ」

「いえ、そこまで迷惑は……」

「ふふっ。迷惑なら最初から誘ったりしないよ。本当に来てほしいんだ」

「八尋さん……」

「じゃあ、頑張ってね」

「はい。ありがとうございました」

もう一度お礼を返すと、八尋さんは笑顔で手を振って帰っていった。

扉が閉まった途端、なぜか急に寂しくなる。
それくらい八尋さんとのこの時間が楽しすぎたんだ。

来てほしいなんて……言われたことがなさすぎてどう対応していいかわからないな。
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