イケメン店主に秘密の片想いのはずが何故か溺愛されちゃってます

波木真帆

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優しい教育係

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東京から石垣までの旅は緊張しっぱなしだった。
けれど、隣に座る砂川さんが俺の負担にならない程度に声をかけてくれて、そのおかげでここまで来ることができた。

「これから離島ターミナルに向かいます。小一時間ほどで西表島に到着しますよ」

「は、はい」

「船はあっという間ですから、安心してくださいね」

そんな言葉の通り、あっという間に西表島の船着場に到着した。

船を降りると、空気が違うことに気づく。

「東京から来るとここの空気が美味しいことを感じますよね」

「はい。なんだかすごく落ち着きます」

「平松さん、ここに住む素質がありますよ。きっとここは安住の地になると思いますよ」

ニコッと微笑まれてどきっとする。
航くんのことは可愛いと思っていたけれど、他の男に興味を持ったことはなかった。
だから、男が好きなのではなくて人間として航くんが好きなのだと思っていた。

けれど、砂川さんを綺麗だと思う俺がいる。
好きだという感情ではないことはわかっているけれど、男性を綺麗だと思えるのはきっとそんな素質があったのかもしれない。

そうか……俺はゲイ、だったんだな。
初めて知った。

なんだかそれを受け入れると、スーッと気が楽になった。

今までは航くんだけが特別だと思っていたから。
だから、倉橋社長と航くんがもうすでに恋人同士だと知って、俺はもう二度と恋はしないだろうと思っていたんだ。

でも自分がゲイなら話は別だ。

いつか俺にだって、倉橋社長と航くんのように心から愛せる人が見つかるかもしれない。

この島がそう教えてくれた気がする。

「あっ、名嘉村くん! 平松さん、迎えが来たみたいです。行きましょうか」

「は、はい」

砂川さんは桟橋を渡って一直線に一台の車に近づいていく。
俺はその後に黙ってついて行った。

「砂川さん、出張お疲れさまです」

「出迎えありがとう。早速だけど、彼が明日からK.Yリゾートで働くことになった平松友貴也さん。平松さん、彼は名嘉村なかむら郁未いくみさん。29歳だから、平松くんより少し年上かな」

「はい、俺……いや、僕は26歳です」

「平松くん、よろしく。まだ仕事中でもないから俺でかまわないよ」

「はい。ご迷惑をおかけしないように頑張ります」

「そんなに気負わなくていいよ。ここは離島だし、ゆっくりのんびり慣れていけば良いからね」

「は、はい……」

上司にこんなにも優しい声をかけられたことなんて一度もなかったから面食らってしまう。
でもその笑顔が本心だと思わせてくれて、ホッとしたんだ。

「あ、あの……中村さんって、もしかして僕と同じ本土から来た人ですか?」

「えっ? どうしてそう思ったんですか?」

「えっ、だって中村って……沖縄の人の名前じゃないですよね? 沖縄の人の苗字って珍しいのが多いと聞いたので……」

そういうと、砂川さんと中村さんは

「ああ、なるほどね」

と言いながら顔を見合わせて笑った。

「あ、あの……俺、何か変なこと言いましたか?」

「僕のなかむらはこう書くんだよ」

そう言って、彼は上着の内ポケットから名刺を取り出して俺に見せてくれた。
そこには<名嘉村 郁未>と見慣れない漢字表記が書いてあった。

「あっ……」

「沖縄ではにんべんのつく仲村と僕の名嘉村が多いかな。もちろん本土と同じ中村さんもいるよ」

「そう、なんですね……知らなかったです……」

なかむらって音の響きだけだとわからない違いもあるんだな。
こういうのも怒らずに笑って教えてくれるって……本当にいい上司だ。

「名嘉村くんの名前の謎も解けたところで悪いんだけど、私はこのまま石垣に戻るから平松くんのことお願いして良いかな?」

「良いですよ、ちゃんと社長からそのことは伺ってますから。ゆっくり過ごしてきてくださいね」

「ありがとう。じゃあ、平松くん、後のことは名嘉村くんに任せてあるから、わからないことがあったらなんでも聞いてくださいね」

「は、はい、わかりました」

「慌ただしくて申し訳ありません。それでは失礼しますね」

砂川さんは慌ただしくさっき乗ってきたばかりの船に乗りに桟橋を駆けて行った。

「お忙しいんですね、これから石垣島でお仕事ですか……」

「違う、違う」

「えっ?」

「砂川さんの恋人が石垣島にいて、元々今日は恋人さんのところで一泊して西表に戻ってくる予定だったんだよ」

「あっ、それじゃあ俺のためにわざわざここまで送ってくれたんですか?」

「優しい人だから、砂川さんは……。それに社長の大切な人をずっと守ってきた方だからちゃんと送り届けたいって思っていたみたいだよ」

「あ、あの……名嘉村さんはその、俺のこと……全部ご存知なんですか?」

「大体のことは社長から教えてもらったよ。藤乃くんのことをずっと守っていてくれたんだよね。ありがとう」

「そんな……っ」

名嘉村さんの優しい言葉に涙が出そうになる。

「本当に平松くんは優しいんだね」

「俺は何もできなくて……」

「そんなことないよ。きっと藤乃くんも誰も味方がいない中、平松くんの存在は心の支えだったと思うよ」

「名嘉村さん……」

「今までずっと人のために過ごしてきたんだから、これからは自分のために頑張ってみるといいよ」

「はい……ありがとうございます」

「じゃあ、まずは会社に案内するね。車に乗って」

ああ、本当に俺は良い場所に巡り会えた気がする。


「ここがうちの会社だよ」

「わぁ、すごく大きな会社ですね」

K.Yリゾートが大手企業だということは知っていたけれど、この離島でこれだけの建物を持っているとは想像以上だった。

「今まで事務の仕事をしていたと聞いているけど、合ってるかな?」

「は、はい。一応五年ほど事務員として勤めてましたが、正直戦力にはなっていなかったと思います。雑用ばかりしていたので……」

「大丈夫。これからゆっくり覚えていけばいいよ。僕が教育係で教えていくからわからないことがあったらなんでも聞いて」

「はい。よろしくお願いします」

名嘉村さんは本当に優しい人だ。
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