上 下
286 / 287
番外編

二人の可愛い孫

しおりを挟む
<sideヴォルフ公爵>

「ロルフとルルのお着替えの手伝いに行ってきますね」

可愛い双子の孫の誕生日当日、アリーシャとヴェルナーが二人の着替えの手伝いに呼ばれたのは、母親であるアズールが身重の身体で動けないからだ。

母親として自分でやってあげたいジレンマもあるだろうが体調も優れない中、仕立て屋のマティアス殿と打ち合わせを行い、二人のために頑張ったのだから胸を張ってもらいたいものだ。

それにしてもどのような衣装ができたのだろうな。
二人の姿を見るのが楽しみでたまらない。
着替えを終えたらダイニングルームに来るだろうと思って待っているが、やってきたのはクレイとティオ。

「父上、ロルフとルルはまだですか?」

「今、着替えをしているようだ。もうすぐここにやってくるだろう」

クレイもティオも早く二人の姿が見たくてたまらないようだ。
私は自分だけでも冷静を装っているふりをして待っていたが、

「んっ? きたか!」

二人の可愛い足音が耳に入ってきた途端、尻尾の揺さぶりが止められなかった。

大人として感情を尻尾に表すのは恥ずかしいことだが、クレイも廊下を駆けてくる足音に夢中だから気づかれてはいないようでホッとする。今のうちに尻尾の揺さぶりを止めようと神経を集中させた。

「びーじーたん! おはよーっ!!」

大きな声で私の名を呼びながら飛び込んできたのはロルフ。
そして、その後ろからアリーシャと手を繋いで入ってきたのは、可愛いルルの姿だった。

だが、待ち侘びていた衣装は私には全く見えない。

なぜか首から足まですっぽりと大きな布のようなものに覆われた二人が手足を出しているのが見えるだけだ。

「えっ? こ、これが、アズールの考えた二人の衣装なのか?」

あまりの驚きにあれほど激しく動いていた尻尾の揺さぶりも止まり、茫然と立ち尽くしていると

「ふふっ。あははっ、びーじーたん。ちあうちがうよーっ!」

ロルフが大声をあげて笑い始めた。
すぐ近くでルルも可愛らしい笑顔を見せている。
一緒にいたアリーシャもヴェルナーも笑っているのが見える。

「違うってどういうことなんだ?」

ロルフたちが笑っている意味も言葉の意味もわからず、助けを求めるようにクレイに視線を送るが、クレイもまた私と同じように困惑しているようだ。

するとヴェルナーがゆっくりと口を開いた。

「驚かせてしまいまして申し訳ありません。実は今ロルフさまとルルさまにはマクシミリアンが作ったエプロンをお召しいただいているのです」

「エプロン、とな? それはなんだ?」

「料理人が調理中に着用する前掛けのお子さま用と申し上げたらわかりやすいかもしれません。アズールさまがお二人のために誂えた御衣装が、お食事で汚れないためのものです。今から朝食を召し上がるのでその間だけお召しいただいています」

「食事で汚れないために……。ああ、なるほど、そういうことか。私はてっきりこれがアズールの考えた衣装なのかと思って驚いたぞ。もちろんこれはこれで可愛いが誕生日の衣装としては地味すぎるからな。それでは朝食を食べ終えたら、私にも二人の可愛い姿を見せてくれるか?」

「うん! びーじーたん。たのちみにちててねー」

「それでは食事にしようか」

ロルフとルルはアリーシャとヴェルナーの間に座り、二人の大好物が目の前に置かれていく。
ロルフの食事量は、すでにティオの量を超えているようで、食事だけ見ればどちらが大人かわからないくらいだ。やはりこれが狼族と猫族の違いなのだろうな。

「「いたらきまーしゅ!」」

二人とも元気よく声を上げると美味しそうにご飯を食べ始めた。
ははっ。やはりマクシミリアンの作ったエプロンとやらは必需品だったようだ。

「ベン、アズールたちの食事はどうした?」

「ルーディーさまとアズールさまはお部屋でお食事をとられるとのことでしたのでお運びいたしました」

「そうか。パーティーまではアズールも休ませておいた方がいいからな」

きっとルーディーの配慮だろうな。だからこそ安心してアズールを任せていられるのだ。

食事を終え、濡れタオルで手も顔も綺麗にしてから、ロルフとルルが私の前にやってきた。

「びーじーたん。おめめ、ちゅぶっちぇつぶってー」

「おお、驚かせてくれるのか。よしよし。ほら、これでいいか?」

目を瞑って見せると、ロルフとルルが服を脱ぐ音が聞こえる。

さて、どんな姿だろう……?
楽しみでたまらない。

「いいよーっ」

「みちぇーっ!」

可愛い声に年甲斐もなくドキドキしながらそっと目を開けると、目の前には懐かしいアズールの衣装に身を包んだロルフと、可愛らしい柔らかなドレスを着たルルの姿があった。
しおりを挟む
感想 546

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

処理中です...