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第三章

僕の幸せ

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<sideアズール>

「アズール、ヴェルナーがマクシミリアンたち騎士団と一緒にもうすぐ帰ってくるぞ」

「本当? もうすぐって、後どれくらい?」

「さっき早馬が来たから、あと二時間ほどで到着するだろう」

「二時間かぁ……早く来ないかなぁ」

あれから毎日ルーの蜜を朝も昼も夜もたっぷり飲ませてもらっているおかげで、ロルフとルルがお腹にいた時よりも体調良く感じる。
お母さまが言っていたけど、同じ妊娠でも毎回同じ体調になるとは限らないんだって。
まぁ、お腹にいる子が違うんだから、体調が変わるのも当然か。

さっきもルーに蜜を飲ませてもらったばかりだから、元気いっぱいだ。
それでもルーは心配でたまらないみたいで、僕のそばにずっとついていてくれているんだけど。
僕は訓練で離れていた分、元気でもそばにいてくれるのは嬉しい。

「ねぇ、あとどれくらい?」

「ふふっ。まだ五分も経っていないだろう」

そんな会話を何回繰り返しただろう。
ようやくその時がやってきた。

「んっ? アズール、わかるか? 近づいているぞ」

ルーに言われると同じくらいに僕の鼻にもヴェルとマックスの匂いを感じた。
お城に着いたらすぐに部屋に来てもらえることになっているから、すぐにここに来てくれるはずだ。

ノックする音が聞こえて扉が開いた途端、

「ヴェルっ!!」

僕は大声をあげながら、ヴェルに飛びついた。

「アズールさま! お加減はよろしいのですか?」

「うん、もう大丈夫。ヴェルのおかげだよ! ヴェル、ルーを呼びに行ってくれて本当にありがとう!!」

「ああっ、私はお叱りを受ける覚悟で参りましたが、アズールさまのお元気そうな姿を拝見できて本当に良かったです」

「怒られるなんてそんなこと! 僕が悪かったんだよ。何もわかってなくてごめんね」

「アズールさま……。そう仰っていただけただけで、私は嬉しゅうございます」

「ヴェル!」

「アズールさま!!」

ヴェルにずっと申し訳ない気持ちでいっぱいで嫌われたらどうしようなんて思ってたのに、ヴェルの優しい気持ちが伝わってきてたまらなくなる。

あまりにも嬉しくてぎゅっと抱きしめあっていると、

「わっ!!」

突然僕たちの間に入り込んできた腕に引き離されてしまった。

「ルーっ! なんで?」

「しばらくは我慢したのだぞ。だが、私以外のものとアズールがこれ以上抱き合うところを見るのは許可できない」

「抱き合うって……ふふっ」

「ルーディーさま、あまりにも狭量だと笑われますよ」

ただ再会の喜びを噛み締めていただけなのに。
ルーったら、本当に僕のこと好きなんだよね。

「アズールのことで狭量になるのは仕方がない。それに私が引き離さなかったら、マクシミリアンも同じことをしていたぞ。そうだろう?」

「はい。その通りです。ヴェルナー、あまり私の前でアズールさまとお戯れになるのはおやめ下さい」

そう言いながら、マックスはヴェルをぎゅっと抱き寄せた。

「離せっ」

「離しませんよ」

こんな二人の姿を見るのも楽しい。
でも本当にルーが僕を好きなのと同じくらい、マックスもヴェルが大好きなんだろうな。

「二人とも戯れはその辺にして、こちらに座れ」

ルーの言葉に二人はハッとして、少し恥ずかしそうにソファーに座った。

「改めてヴェルナーには礼を言う。父上からも後で褒美をいただけるはずだ。マクシミリアンも私の抜けた後、訓練を最後までやり遂げてくれて感謝している。その件も、父上からお褒めの言葉があるだろう」

「もったいのうございます」

「私は団長としてやるべきことをやっただけです」

頭を下げるヴェルとマックスに、ルーはさらに言葉を続けた。

「私たちの腹の子について、ヴェルナーは特にアズール同様に命の恩人でもある。だから、ヴェルナーとマクシミリアンだけには、伝えておこうと思う。これはアズールと二人で決めたことだ」

「何か、お腹のお子さまに重要なことでも……?」

「ああ、100%ではないが、アントンの見立てでは、腹の子は『神の御意志』ではないかとのことだ」

「――っ!!!! それは、まことでございますか?」

「ああ、可能性はかなり高いと言っていたが、まだ確実ではない。これは我々の他はアントンしか知らない。だから生まれるまでは心の中だけに留めておいてくれ。しかし、もし、その通りであれば、我が国は近い将来、私の後継者となるべく子が生まれるということだ。だから、ヴェルナーにはこれまで同様、アズールの護衛を頼む」

「はい。お任せ下さい!!」

「それからマクシミリアンには、大事な頼みがある」

「はい、何なりとご用命ください」

「今回のアズールの体調不良はイレギュラーなことであったが、またいつなんときこのような事態に襲われるかわからない。今回はヴェルナーとカイルが頑張ってくれたおかげでアズールと腹の子の命を守ることができたが、もし間に合わないなんてことになれば、この国はただではいられない。そのために、マクシミリアンには、いつでもどこでも連絡の取れる通信機のようなものを作って欲しいのだ」

「通信機、でございますか?」

「ああ、そのようなものがあれば呼び出したい時も、すぐに来られるようになるだろう」

「なるほど……確かに。それはこのような特別な時でなくとも、必要なものかもしれませんね……うーん、なるほど……」

ルーのお願いに、マックスはかなり難しそうな顔をしていたけれど、最後には

「承知しました、できるだけ早く、形にできるようにしたいと存じます」

と言ってくれた。

「ああ、頼むよ」


  *   *   *


それからしばらく経って、マックス特製の通信機が完成した。
いくつかの種類があり、北の森まで呼び出せるものから、この城内のような短い距離を呼び出せるものまで用途はいろいろだ。

特に爺はロルフとルルに

「じぃー、きちぇー」

と呼びかけられては大喜びでやってくる。

同じようにお父さまとお義父さまのところにも同じ通信機があって、いつでもロルフとルルと嬉しそうに会話を楽しんだり、ロルフとルルが食べたいと言ったものを買ってきてくれたり楽しんでいるみたいだ。

国王さまにお買い物させるなんて、ロルフとルルくらいしかできないかもね。

「マクシミリアンの通信機は騎士団内でも好評のようだぞ」

「そっか、やっぱりマックスはすごいね」

「ああ。マクシミリアンにはこれからもいろいろ役に立つものを作ってもらうことになるかもしれんな」

そう言いながら、ルーは僕のお腹を嬉しそうに撫でる。

「アズールの腹の子も元気に育っているな」

「うん。ルーのおかげだよ。ルーがずっとそばにいてくれるから……」

「私はアズールの伴侶であり、腹の子の父親なのだから当然だ」

「うん。僕たちの子どもだもんね」

「ああ、そうだ。私たちの子だ」

「元気いっぱいで生まれてきたらいいね」

「私たちの子だから大丈夫だよ」

「ふふっ。そうだね」

二人でお腹を撫でながら。

「元気に生まれておいでー」

と声をかけると、まだ小さなお腹がぽこっと動いた気がした。

この子が『神の御意志』かどうかはまだわからない。
だけど、こうして僕たちの幸せの命は繋がっていく。

僕は今、本当に幸せだ。



  *   *   *

いつも読んでいただきありがとうございます!
9ヶ月半にわたって続けてきましたこの連載ですが、こちらで一旦最終章完結となります。
とは言っても、まだロルフとルルの1歳のお誕生日やお腹の赤ちゃんのお話、そして、そのほかのお話も書きたいことはたくさんありますので、それらは番外編で書かせていただこうと思っています。
ほぼ毎日更新を続けてこられたのも読んでくださる皆さま方のおかげです。
本当にありがとうございます!
また番外編でお目にかかれますように♡
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