真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

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第三章

ありがとう、『あお』

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<sideルーディー>

眠っているアズールの頬を撫でるとふわりとした優しい笑顔を見せてくれる。
この笑顔を失うところだったと思うと、恐怖しかない。

もうそろそろ目を覚ましてくれるだろうか?
目を覚ましたら、アズールの存在の大切さについてしっかりと教えないといけないな。

そう思っていると、部屋の扉を叩く音が聞こえる。
この気配はロルフたちか。

あの子たちも心配しているに違いない。
子どもたちと一緒に呼び掛ければアズールも目を覚ましてくれるかもしれないな。

そっと寝室を出て、部屋の扉を開けると義母上と義父上がロルフとルルを抱っこして立っていた。

「ごめんなさいね。ロルフとルルがアズールに会いたいというものだから。アズールはまだ寝ているのかしら?」

「そろそろ起こそうと思っていたところなので、連れてきていただいてよかったです」

「そう、よかったわ。ロルフもルルも、熱を出したアズールを必死に守ろうとしてくれたの。きっと自分たちの弟か妹を守ろうとしていたのかもしれないわ。二人ずっといい子だったから褒めてあげて」

ロルフとルルがアズールと腹の子のために……。
まだ小さいのに、自分のなすべきことを理解してくれていたのだな。

「二人とも偉かったな。おいで、アズールのところに連れて行こう」

「まんまっ!」

「あえりゅ?」

「ああ。大丈夫だ。ロルフとルルの声を聞いたら目を覚ますよ」

二人を抱きかかえて、

「アズールが目を覚まして落ち着いたらお二人にも声をかけますので……」

というと、義父上も義母上も安堵の表情を浮かべて去っていった。

「みんなでアズールを起こそう」

そう言って、ロルフとルルを寝室に連れて行くと、二人は少し緊張しているようだったが、顔色のいいアズールを見てホッとしたのか、ベッドの上にぴょんと飛び降りた。
アズールの両隣にロルフとルルが座り、眠っているアズールを見つめる。

「声をかけてごらん」

その言葉にロルフとルルが、

「まんまっ、おちちぇおきて! まんまっ!」

と大きな声をかける。

私も一緒に、

「アズール、子どもたちが会いたがってるぞ!」

と声をかけると、ゆっくりとアズールの瞼が開き、綺麗な瞳が私たち三人を映した。

「アズールっ!」

「まんまっ!」

「んー……るー、ろるふ……それに、るる……おはよう」

柔らかな笑顔を見せるアズールにロルフとルルがぎゅっと抱きつく。
私はその上から三人を覆うように抱きしめた。

「もう身体は大丈夫か?」

「おねちゅ、にゃいない?」

「あちち、にゃいにゃい?」

私たちの言葉にアズールは笑顔を見せながら、

「もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

と言ってくれた。

「アズール……本当によかった。アントンから聞いたぞ。体調が悪いのを私に伝えないように頼んだのだろう? もしそうしていたらどうなったと思っているのだ?」

「ルー……ごめんなさい。アズール、本当に何もわかってなかった。自分が我慢したらそれでいいと思ってたの。でも、そのせいでロルフとルルに寂しい思いをさせるところだった。それにこの国のことだって何も考えてなかった。それから……もう二度とるーに会えなくなるなんて……思ってなかった……ごめんなさい……」

「アズール……わかってくれたのか? アズールの存在が私や子どもたちだけでなく、すべての人にとって大切だということが……」

「うん、教えてくれたの……」

「教えてくれた? 誰が?」

「アズールの中にいた、蒼央が……僕を叱ってくれたんだ。それで、もう二度とアズールが危ないことしないように蒼央がアズールの中からいなくなるって……」

「『あお』がいなくなる? でもそれでは……」

「ううん、蒼央はもう十分満足したんだって。だからもういいんだって……そう言ったから、さよならしたんだ」

「そうか……」

きっと『あお』は自分の存在と引き換えに、この国の未来と私たちにアズールを与えてくれたのだろう。

「アズール……『あお』はもういないのか?」

「あお? 誰?」

「えっ?」

アズールが、ついさっきまで話をしていた『あお』のことを忘れてしまったようだ。

――十分満足したから、さよならしたんだ……

アズールがそう言っていたのを思い出す。
そうか……さよならというのは、本当にアズールからのさよならだったということか。

今までずっと一緒にいた『あお』の存在が、消えてなくなったんだ……。

寂しいが、『あお』が満足してくれたのならきっと悔いはないのだろう。

『あお』……アズールのそばにいてくれたこと、私は忘れないよ。
ありがとう、『あお』
これから、どこかで幸せになることを願っているよ。
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