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第三章

正しい判断

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<sideマクシミリアン>

急いで駆け出して行かれたルーディーさまを見送ると、ヴェルナーと愛馬のカイルは力尽きたようにその場に崩れ落ちかけた。

ほとんど休憩に取らずにここまでやってきたのだろう。

ヴェルナーが地面に倒れ込む前に抱きかかえることができたが、ヴェルナーもカイルも疲労困憊で自力で動くこともできない様子だ。

「カイルに水を与えてマッサージをして休ませてあげてくれ。私はヴェルナーをテントに寝かせてくる」

騎士たちに指示を与え、ぐったりと私に身を預けるヴェルナーをテントに運んだ。

アズールさまのお命が危ないと言っていた。
つまり、ヴェルナーがここまで知らせに来るほどの事態だということだ。

今はただこの地からアズールさまのご無事とルーディーさまのご帰還を祈ることしかできないが、ヴェルナーとカイルが限界をこえてここまで来てくれたのだ。
絶対に間に合うと思いたい。

ヴェルナーを腕に抱いたまま、片手で寝袋を整え、ヴェルナーをゆっくりと横たわらせる。

「顔色が悪すぎるな」

あまりの疲労に血の気が引いてしまっているヴェルナーに、持ってきていた蜂蜜を荷物から取り出した。

これは訓練終わりに滋養強壮として摂取するために持ってきたものだから、今のヴェルナーにはぴったりだろう。
粘り気の強い蜂蜜を少しの水で溶かし、口に含んでヴェルナーにゆっくりと飲ませてやると少しずつ飲んでいくのがわかる。
それを何度か繰り返し飲ませてやると、疲れ果て青白くなっていたヴェルナーの頬に赤みが戻ってきた。

そして、ゆっくりと瞼が開いていく。
ヴェルナーの目が私を捉えてくれたのが嬉しくて、

「ヴェルナー」

と優しく声をかけると、

「ま、くし、みりあん……わ、たし……」

と必死に声を上げようとする。

「いいんですよ。まだ無理はしないでください。王都からここまでほとんど休憩も取らずにやってきたのでしょう? 動けなくなって当然です」

「か、いるは……?」

「大丈夫です。騎士たちがちゃんと世話をしてくれていますから」

私の言葉に安堵の表情を見せるヴェルナーを強く抱きしめた。

「心配しましたよ。一人でここまで来たこともそうですけど、カイルに乗ったままこの森に入るなんて無謀なことを……。本当に無事で良かった……」

「しん、ぱい、かけたな……」

「いえ。アズールさまのためだったのでしょう。そのおかげできっとアズールさまもご無事でいらっしゃるはずです」

「そうだと、いいが……」

「大丈夫ですよ。ルーディーさまはヴェルナーとカイルの頑張りを無にはなさらないですから」

「そうだな……」

「それで、アズールさまに何があったのですか? 話せそうなら伺いたいのですが」

「さっきの飲み物のおかげで楽になったから、大丈夫だ」

「ふふっ。良かったです」

ルーディーさまが参加される特別遠征訓練だからと貴重な蜂蜜を持ってきておいて正解だったな。

ヴェルナーが起きあがろうとするのを後ろから抱きしめるように支えて包み込むと、安心したように背中を私の胸に預けてくる。
その重みが何よりも嬉しい。

「実は、アズールさまが……ご懐妊された」

「――っ、なんとっ! それはめでたいことですね!」

「ああ、本当に喜ばしいことだ。だが、お腹のお子さまの成長のためにアズールさまの栄養がどんどん失われて、高熱をお出しになったんだ」

「な――っ、そんなことに……」

「食事も摂れず、栄養だけどんどん失われて、このままではお命が危ないというのがアントン医師の見立てだったんだ。だが、アズールさまは訓練を受けている騎士たちのため、ルーディーさまにはお教えしないようにと仰った」

「そんな……っ、アズールさまのお命より大切な訓練などないのに」

「そうだろう? だからアズールさまのご意向を無視した責任を全て取るとだけ告げてカイルに飛び乗り、ここまでやってきたんだ」

「ヴェルナー……」

「マクシミリアン……私はどうしてもアズールさまをお助けしたかった。私の行動は間違いだったと思うか?」

ヴェルナーの身体が震えているのは、アズールさまを失うかもしれないという恐怖もあるだろう。
私はヴェルナーの身体をギュッと抱きしめながら、耳元で囁いた。

「あなたの行動に何の間違いもありません。今頃、ルーディーさまが感謝していらっしゃいますよ。だから、安心してください」

「マクシ、ミリアン……」

震える声で私の名を呼ぶヴェルナーを抱き上げて、向かい合わせに抱き締め、唇を重ねる。

小さく啄んで、スッと開いた唇に舌を挿し入れて舌を絡ませると、ヴェルナーから甘い声が漏れる。

「んんっ……んっ」

ヴェルナーの口内を堪能してゆっくりと唇を離すと、ヴェルナーは恍惚とした表情を見せながら、

「あいたかった……」

と呟いた。

「ええ、私もヴェルナーと離れているのは訓練よりも耐え難いことでしたよ」

「ふふっ。マクシミリアン……」

甘いキスを交わし、ようやくヴェルナーの笑顔が見られた。
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