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第三章
どうか力を!
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<sideルーディー>
北の森での訓練中、集中しているというのになぜか平静でいられず、心がざわつく気がした。
もしかしたら、アズールと離れ離れになっているからかもしれない。
なんと言っても私たちは運命の番。
身体を繋げてから初めてこんなに物理的に離れるのだから、身体が反応しても不思議はない。
騎士たちには悪いが、やはり特別遠征訓練への参加は今回を最後にした方がいいかもしれないな。
そんなことを思いながら、訓練を続けていると、この辺りにいる野獣たちが一斉に遠く離れていく気配を感じた。
昨夜からの我々の強い気配に慄いて集団でここを離れることにしたのかとも一瞬思ったが、どうも違う気がする。
野獣たちの気配の先に、何かがいる。
そう気づいた瞬間、
「ヴェルナーっ!!!!!」
と、マクシミリアンがとんでもない大声をあげ、野獣たちの気配が集まった先に駆け出して行った。
ヴェルナー?
今、ヴェルナーといったか?
確かにヴェルナーと愛馬の気配を感じる。
まさか、本当にヴェルナーが?
だが、アズールと子どもたちの護衛をしているはずのヴェルナーがどうしてここに?
気になって仕方がなかったが、とりあえず今はマクシミリアンの動向を感じていよう。
ここにいてもわかるほどの威嚇と威圧を放ちながら、野獣たちの方へ向かっていく。
その正確さに私でも驚いてしまうほどだ。
やはり熊族の嗅覚は桁違いに素晴らしい。
マクシミリアンが駆けて行って数分もしないうちに、あの野獣たちの気配が一瞬にして消えた。
おそらくマクシミリアンが全て仕留めたのだろう。
通常ならここまでの威力はマクシミリアンでもそう簡単には出せないだろうが、野獣の矛先が愛しいパートナーであるヴェルナーなら自分の能力以上の力が出ても不思議はない。
ヴェルナーの気配もマクシミリアンの気配もある。
そして、それらはものすごい勢いでこちらに近づいてくる。
私はすぐにマクシミリアンたちが近づいてくる方向に意識を向けた。
少し離れた場所から私の姿を捉えたヴェルナーが
「ルーディーさま!」
と大声を張り上げながら駆け寄ってくる。
「一体どうしたんだ、其方がここにきたということは何かあったのか?」
「すぐにお城にお戻りください! このままではアズールさまのお命が!」
「な――っ、どういうことだ?」
「詳しいことは彼方に戻られてから、アントン医師にお聞きください。今は何をおいてもすぐにアズールさまの元にお戻りください!」
何がなんだかわからなかったが、とにかくこのままではアズールが危ないという状況にあるというのはよくわかった。
「マクシミリアン! ヴェルナー! あとは頼む!」
私はそう告げて、駆け出した。
アズールっ! アズールっ!!
――ルー、帰ってくるの待ってるから……
そういって、必死に笑顔を見せながら私を送り出してくれたばかりだというのに……。
ああ、私がアズールのそばを離れたばかりにこのようなことに……。
今、この時もアズールは苦しんでいるのかもしれない。
アズールに万が一のことがあれば……私は生きてはいられない。
いや、生きながらえろと言われても、半身をもがれた身で生き延びることは無理だろう。
そもそも、アズールのいない世界に生きる価値など見出せないのだから、アズールを失ったと同時に私の命の灯も消えるだろう。
アズールっ、どうか……無事でいてくれ!
そして、もう一度私にあの笑顔を見せてほしい!
ただひたすらにアズールのことを思い続けながら、城への道を駆け抜けていく。
馬も私のただならぬ様子に、これが緊急事態だと理解してくれているのか、休憩取らずに猛スピードで走ってくれている。
きっとヴェルナーの愛馬もアズールのために限界を超える走りをしてくれたのだろう。
みんながアズールのことを思っているのだぞ。
だから、アズール!
もう少しの辛抱だ。
私が帰るまでなんとか持ち堪えてくれ!!
<sideアリーシャ>
アントン医師が絶え間なく、栄養剤を投与してくれているけれど、アズールの熱は一向に下がる気配を見せない。
きっと投与された栄養は、アズールの身体ではなくお腹の子の栄養に使われているのだろう。
やはりアズールの栄養になるのは、ルーディーの蜜しかない。
ルーディーの蜜には手術痕すらすっかりと消してしまうくらいの威力があるのだから。
アズールはもう自分で身体を動かすこともできないほど、衰弱してしまっている。
アズールが元気になるためなら、なんだってする覚悟もあるのに、ここでアズールの様子を見守ることしかできない自分がもどかしい。
ああ、アズール。
きっともうすぐルーディーが来てくれるから、どうか、もう少しだけ耐えてちょうだい。
『あお』くん、どうかアズールに力を与えてちょうだい。
私たちはあなたの分まで、アズールを一生幸せにすると誓ったの。
だから、ここでアズールを失いたくない。
だから、お願い。
アズールに力を与えてちょうだい!
心からそう願った瞬間、今まで微動だにしなかったアズールの手がピクッと動いたかと思ったら、バーンとものすごい勢いで私たちのいる部屋の扉が開かれた。
北の森での訓練中、集中しているというのになぜか平静でいられず、心がざわつく気がした。
もしかしたら、アズールと離れ離れになっているからかもしれない。
なんと言っても私たちは運命の番。
身体を繋げてから初めてこんなに物理的に離れるのだから、身体が反応しても不思議はない。
騎士たちには悪いが、やはり特別遠征訓練への参加は今回を最後にした方がいいかもしれないな。
そんなことを思いながら、訓練を続けていると、この辺りにいる野獣たちが一斉に遠く離れていく気配を感じた。
昨夜からの我々の強い気配に慄いて集団でここを離れることにしたのかとも一瞬思ったが、どうも違う気がする。
野獣たちの気配の先に、何かがいる。
そう気づいた瞬間、
「ヴェルナーっ!!!!!」
と、マクシミリアンがとんでもない大声をあげ、野獣たちの気配が集まった先に駆け出して行った。
ヴェルナー?
今、ヴェルナーといったか?
確かにヴェルナーと愛馬の気配を感じる。
まさか、本当にヴェルナーが?
だが、アズールと子どもたちの護衛をしているはずのヴェルナーがどうしてここに?
気になって仕方がなかったが、とりあえず今はマクシミリアンの動向を感じていよう。
ここにいてもわかるほどの威嚇と威圧を放ちながら、野獣たちの方へ向かっていく。
その正確さに私でも驚いてしまうほどだ。
やはり熊族の嗅覚は桁違いに素晴らしい。
マクシミリアンが駆けて行って数分もしないうちに、あの野獣たちの気配が一瞬にして消えた。
おそらくマクシミリアンが全て仕留めたのだろう。
通常ならここまでの威力はマクシミリアンでもそう簡単には出せないだろうが、野獣の矛先が愛しいパートナーであるヴェルナーなら自分の能力以上の力が出ても不思議はない。
ヴェルナーの気配もマクシミリアンの気配もある。
そして、それらはものすごい勢いでこちらに近づいてくる。
私はすぐにマクシミリアンたちが近づいてくる方向に意識を向けた。
少し離れた場所から私の姿を捉えたヴェルナーが
「ルーディーさま!」
と大声を張り上げながら駆け寄ってくる。
「一体どうしたんだ、其方がここにきたということは何かあったのか?」
「すぐにお城にお戻りください! このままではアズールさまのお命が!」
「な――っ、どういうことだ?」
「詳しいことは彼方に戻られてから、アントン医師にお聞きください。今は何をおいてもすぐにアズールさまの元にお戻りください!」
何がなんだかわからなかったが、とにかくこのままではアズールが危ないという状況にあるというのはよくわかった。
「マクシミリアン! ヴェルナー! あとは頼む!」
私はそう告げて、駆け出した。
アズールっ! アズールっ!!
――ルー、帰ってくるの待ってるから……
そういって、必死に笑顔を見せながら私を送り出してくれたばかりだというのに……。
ああ、私がアズールのそばを離れたばかりにこのようなことに……。
今、この時もアズールは苦しんでいるのかもしれない。
アズールに万が一のことがあれば……私は生きてはいられない。
いや、生きながらえろと言われても、半身をもがれた身で生き延びることは無理だろう。
そもそも、アズールのいない世界に生きる価値など見出せないのだから、アズールを失ったと同時に私の命の灯も消えるだろう。
アズールっ、どうか……無事でいてくれ!
そして、もう一度私にあの笑顔を見せてほしい!
ただひたすらにアズールのことを思い続けながら、城への道を駆け抜けていく。
馬も私のただならぬ様子に、これが緊急事態だと理解してくれているのか、休憩取らずに猛スピードで走ってくれている。
きっとヴェルナーの愛馬もアズールのために限界を超える走りをしてくれたのだろう。
みんながアズールのことを思っているのだぞ。
だから、アズール!
もう少しの辛抱だ。
私が帰るまでなんとか持ち堪えてくれ!!
<sideアリーシャ>
アントン医師が絶え間なく、栄養剤を投与してくれているけれど、アズールの熱は一向に下がる気配を見せない。
きっと投与された栄養は、アズールの身体ではなくお腹の子の栄養に使われているのだろう。
やはりアズールの栄養になるのは、ルーディーの蜜しかない。
ルーディーの蜜には手術痕すらすっかりと消してしまうくらいの威力があるのだから。
アズールはもう自分で身体を動かすこともできないほど、衰弱してしまっている。
アズールが元気になるためなら、なんだってする覚悟もあるのに、ここでアズールの様子を見守ることしかできない自分がもどかしい。
ああ、アズール。
きっともうすぐルーディーが来てくれるから、どうか、もう少しだけ耐えてちょうだい。
『あお』くん、どうかアズールに力を与えてちょうだい。
私たちはあなたの分まで、アズールを一生幸せにすると誓ったの。
だから、ここでアズールを失いたくない。
だから、お願い。
アズールに力を与えてちょうだい!
心からそう願った瞬間、今まで微動だにしなかったアズールの手がピクッと動いたかと思ったら、バーンとものすごい勢いで私たちのいる部屋の扉が開かれた。
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