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第三章

なんとしてでも

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「アズールさまっ、お目覚めになったのですか?」

顔を近づけると、アズールさまは私の言葉に返事を返さず、ただ弱々しい声で言葉を続ける。

「お、ねがい……るーには、いわ、ないで……」

「ですが、このままでは……」

「み、んな……るー、のくん、れん……たの、しみに、し……てる、から……ぼく、のせい、で……」

「――っ、アズールさまっ!」

高熱の中、必死に言葉を絞り出したアズールさまは、そのまま意識を失ってしまった。

「まんまっ!」

ロルフさまとルルさまが不安そうに声をかけるけれど、アズールさまは微動だにしない。

「アントン先生、アズールさまがっ!」

「無理なさったので意識が飛んでしまったのでしょう。とにかく、栄養剤を注入しながら休んでいただくより他はございません。なんとか熱が下がってくれればいいのですが……」

アズールさまが騎士たちを思ってくださるお気持ちは、私も騎士としてとても嬉しい。
けれど、ここでアズールさまを失ってしまったら、ご家族はもちろん、ルーディーさまも、そして、この国も終わりを迎えるしかない。
そうなればアズールさまの思いやりも全て無意味になってしまう。

そうはさせない!

私は急いでアリーシャさまにすぐにこちらに来られるようにと手紙を書きながら、アントン医師に言葉をかけた。

「今からアリーシャさまをお呼びします。お越しになったら、ロルフさまとルルさまをお任せして、部屋の前で待っていらっしゃる陛下とフィデリオさまにアズールさまの容体をお伝えください。どこまでお伝えなさるかは主治医であるアントン先生に一任いたします」

「ヴェルナー殿はどうなさるのですか?」

「私は、今からルーディーさまを呼びに北の森に行って参ります。アズールさまのご意向を無視したことの全責任は私が取ります。ロルフさまとルルさまのこともよろしくお願いします」

それだけ告げて、私は急いで部屋を出て目の前にいた騎士にすぐにヴォルフ公爵家に届けるように指示を出し、庭にある厩舎に向かった。

部屋の外で待っていたティオが声をかけようとしてきたけど、今は一分一秒を争う時。
申し訳ないが、話している暇はない。

いつでも出動できるように用意されていた私の馬に乗り、一路北の森に向かう。

「悪いけど、最小限の休憩で頼む!! アズールさまの緊急事態なんだ!!」

愛馬のカイルに言い聞かせながら、ただひたすらに先へ進む。

どうか、どうか間に合ってくれ!

アズールさまを失うわけにはいかないんだ!!

アズールさま、ルーディーさまが到着なさるまでどうかご無事で!

私はそれだけを願いながら、必死に馬を走らせた。


<sideアリーシャ>

「奥さま、お城から急ぎの伝達が届いております」

「一体何かしら?」

なんだかただならぬ気配を感じて、それを読んでみると

「なんてことっ!! ヴィルっ、来てっ!!」

あまりの内容に私はその場でヴィルの名前を叫んでいた。
その声に何かを察知したのか、ヴィルが執務室から飛んで出てきた。

「アリーシャ、どうしたんだ?」

「アズールがっ、アズールがっ!!」

私はお城から届いた手紙をヴィルに手渡しながらも、身体の震えが止まらなかった。

ヴィルはそれに目を通すと、

「アリーシャ! 落ち着くんだ! 君が慌ててどうする! 君が今、しなければいけないことは、ルーディーの代わりにアズールのそばにいてやることだろう!

と私を抱きしめてくれた。

「ヴィル……ごめんなさい。私、取り乱してしまって……」

「仕方のないことだから気にしないでいい。それよりにもすぐにアズールのそばに行ってやろう。すぐに馬車の準備をするから、アリーシャは必要なものを用意してきてくれ」

「わかったわ」

「アズールは絶対に大丈夫だから! 私を信じなさい!」

「ヴィル……ええ、そうね。アズールは大丈夫ね」

不安でたまらなかったけれど、ヴィルのこの強さは私の心も強くしてくれた。

とりあえずすぐに必要そうなものだけ用意して、玄関に戻るとヴィルが馬車を用意して戻ってきた。

「行こう、アリーシャ。ベン、後のことは頼む。クレイが戻ってきたら、城に行っていると伝えてくれ」

「承知いたしました」

こんなことになっているとは知らないクレイは隣の領地に出かけたばかり。
それでもクレイが戻ってくるまでは待っていられない。
後のことを全てベンに任せて、私たちはアズールの元に向かった。

<sideフィデリオ>

朝からアントン医師が呼ばれ、アズールさまのお部屋に入られた。
陛下も私も一緒に入りたかったが、ヴェルナー殿に止められてただ待つしかなかった。

それから時間がとてつもなく長く感じられた。

ようやく扉が開いたと思ったら、声をかけるのすら躊躇うほどの顔色の悪いヴェルナー殿が目の前にいた騎士に指示を出すと、私たちに見向きもせずに駆け出していった。

その姿に、この部屋の中で何かとんでもないことが起こっていることが容易に想像できた。

ルーディーさまがいらっしゃらない時にこのようなことが起こるなんて……。

とにかく何が起きているのか知りたい、ただそれだけだ。

部屋の中の様子が何もわからないのが、どうしようもなく怖い。
どうすることもできずに部屋の前で立ち尽くしていると、バタバタと駆けてくる音が聞こえた。

アリーシャさまは一度我々に視線を向けたけれど、声をかける余裕もないらしく、扉を叩き、急いで中に入って行った。

「陛下、挨拶もなく失礼いたしました」

一緒にやってきたヴォルフ公爵が頭を下げていると、扉が開き、中からアントン医師が出てきた。

「大事なお話がございます」

その言葉に一瞬にして緊張が走った。
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