269 / 286
第三章
今すぐにでも……
しおりを挟む
「ロルフさま。おはようございます。皆さま、お目覚めですか?」
「まんまっ、あちちにゃのー」
「えっ?」
「おててぇー、あちゅいあちゅいのー」
アズールさまの手が熱い?
まさか……。
嫌な予感がして見張りの騎士たちと待機していたティオにそこで待っているように指示を出し、ロルフさまを抱きかかえたまま、急いで中に入ると寝室の扉が開いている。
きっとロルフさまが出てこられてそのままになっているのだろう。
「アズールさま、失礼致します」
一応、扉の外から声をかけて中に入ると、横たわっていらっしゃるアズールさまの肩口にルルさまが心配そうな表情で寄り添っていらっしゃるのが見えた。
「アズールさまっ!! どうかなさったのですか?」
近づいて尋ねると、はぁっ、はぁっと辛そうな荒い息をしていらっしゃる。
「失礼致します」
断りを入れて、おでこに触れると焼けるように熱い。
これはすぐに主治医であるアントン医師をお呼びしなければ!
すぐにティオを呼び、アントン医師を呼ぶように指示を出した。
私の焦りの様子にティオもただならぬ事態を察し、急いで出て行った。
この間に、アズールさまを寝室から移動させておかなければいけない。
この寝室だとルーディーさまの威嚇フェロモンに阻まれて、アントン医師も診察しにくいことだろう。
「ロルフさま。少しの間、こちらでルルさまとお待ちいただけますか?」
「わかっちゃぁーっ!」
二人でさっと手を上げてくださる。
本当にお利口なお子さま方だ。
リビングの大きなソファーに布団を整え、アズールさまを抱きかかえてそちらに移動させる。
その間もアズールさまは苦しげな呼吸のまま、辛そうに目を瞑っていた。
起きていらっしゃるのかもわからない。
突然こんなにも高熱を出されるなんて……ルーディーさまがおそばにいらっしゃらないことがもしかしたら影響なさっているのかもしれない。
ああ、やはり運命の番で身も心も固く結ばれたお二人を物理的に引き離してはいけなかったのかもしれないな。
せめてお子さま方だけでもおそばにいていただいた方がいいだろう。
私は寝室に戻りお二人を抱きかかえてアズールさまの元に戻った。
「まんまっ、いちゃいいちゃい?」
「少しお熱がありますが、今、アントン先生をお呼びしていますのですぐに良くなられますよ」
そうは言いつつも、私の不安そうな表情は聡いお子さま方には気づかれていただろう。
それでもロルフさまもルルさまも、泣きも叫びもせずただ黙ってアズールさまのおそばについていらっしゃった。
それからしばらくしてアントン医師がおいでになった。
一緒に陛下とフィデリオさまもお越しになったが、とりあえずはアントン医師だけにお入りいただいて診察をしていただいた。
それはルーディーさまがいらっしゃったらきっと、そのようにしていたと思ったからだ。
「アズールさまの発熱はいつ頃からでいらっしゃいますか?」
「正確な時間は分かりませんが、昨夜は平熱だったと思います。その時のご様子もいつもと変わらずでした」
「なるほど……んん?」
アズールさまの脈をとっていらっしゃったアントン医師の表情が険しくなり、緊張が走る。
「ルーディーさまのお戻りはいつになりますか?」
突然ルーディーさまのことを尋ねられて焦りながらも答える。
「予定では今日から三日後のご予定です」
「三日後……ギリギリだな……」
「何か大変なことでも?」
「アズールさまにご懐妊の兆候が見られます」
「えっ……ご懐妊、って……お子さまが?」
まさか、このタイミングで……。
あまりにも突然のことに私は驚きの声しか出なかった。
「はい。お腹のお子さまは成長に必要な栄養をアズールさまから摂っていらっしゃるのですが、今はアズールさまの栄養の方が足りず、失われていく栄養に身体が抵抗して発熱していらっしゃるのです」
「それで、どうすれば良いのですか?」
「ご懐妊の兆候が出ている以上、お薬を使うことはできませんので、とにかく栄養のあるものを召し上がっていただくしか方法はございません。ただ、高熱を出しておられるのでアズールさまに召し上がっていただくのは難しいでしょう。とりあえず栄養剤で凌いでいただくしか……。ルーディーさまがいらっしゃれば、かなり栄養の高い蜜を飲んでいただくことができますので、熱も下がるかと思いますが……」
「ルーディーさまの、蜜……」
ああ、そういえば前に聞いたな。
ルーディーさまの蜜がお子さまを出産なさった時の傷も癒したのだと。
「それをアズールさまが召し上がることができれば、熱は下がるのですね?」
「ええ、それはもう。すぐに楽になると思いますが、今は北の森に行ってらっしゃるのですよね?」
「私が今からルーディーさまを呼びに行って参ります」
急げば明日の朝までにはルーディーさまに戻ってもらえるかもしれない。
急いで向かおうとしたその時、
「ゔぇる……ぼく、は……がんばれる、から……るー、のくんれん……さい、ごまで……」
と必死に私を止めようとするアズールさまの声が聞こえた。
「まんまっ、あちちにゃのー」
「えっ?」
「おててぇー、あちゅいあちゅいのー」
アズールさまの手が熱い?
まさか……。
嫌な予感がして見張りの騎士たちと待機していたティオにそこで待っているように指示を出し、ロルフさまを抱きかかえたまま、急いで中に入ると寝室の扉が開いている。
きっとロルフさまが出てこられてそのままになっているのだろう。
「アズールさま、失礼致します」
一応、扉の外から声をかけて中に入ると、横たわっていらっしゃるアズールさまの肩口にルルさまが心配そうな表情で寄り添っていらっしゃるのが見えた。
「アズールさまっ!! どうかなさったのですか?」
近づいて尋ねると、はぁっ、はぁっと辛そうな荒い息をしていらっしゃる。
「失礼致します」
断りを入れて、おでこに触れると焼けるように熱い。
これはすぐに主治医であるアントン医師をお呼びしなければ!
すぐにティオを呼び、アントン医師を呼ぶように指示を出した。
私の焦りの様子にティオもただならぬ事態を察し、急いで出て行った。
この間に、アズールさまを寝室から移動させておかなければいけない。
この寝室だとルーディーさまの威嚇フェロモンに阻まれて、アントン医師も診察しにくいことだろう。
「ロルフさま。少しの間、こちらでルルさまとお待ちいただけますか?」
「わかっちゃぁーっ!」
二人でさっと手を上げてくださる。
本当にお利口なお子さま方だ。
リビングの大きなソファーに布団を整え、アズールさまを抱きかかえてそちらに移動させる。
その間もアズールさまは苦しげな呼吸のまま、辛そうに目を瞑っていた。
起きていらっしゃるのかもわからない。
突然こんなにも高熱を出されるなんて……ルーディーさまがおそばにいらっしゃらないことがもしかしたら影響なさっているのかもしれない。
ああ、やはり運命の番で身も心も固く結ばれたお二人を物理的に引き離してはいけなかったのかもしれないな。
せめてお子さま方だけでもおそばにいていただいた方がいいだろう。
私は寝室に戻りお二人を抱きかかえてアズールさまの元に戻った。
「まんまっ、いちゃいいちゃい?」
「少しお熱がありますが、今、アントン先生をお呼びしていますのですぐに良くなられますよ」
そうは言いつつも、私の不安そうな表情は聡いお子さま方には気づかれていただろう。
それでもロルフさまもルルさまも、泣きも叫びもせずただ黙ってアズールさまのおそばについていらっしゃった。
それからしばらくしてアントン医師がおいでになった。
一緒に陛下とフィデリオさまもお越しになったが、とりあえずはアントン医師だけにお入りいただいて診察をしていただいた。
それはルーディーさまがいらっしゃったらきっと、そのようにしていたと思ったからだ。
「アズールさまの発熱はいつ頃からでいらっしゃいますか?」
「正確な時間は分かりませんが、昨夜は平熱だったと思います。その時のご様子もいつもと変わらずでした」
「なるほど……んん?」
アズールさまの脈をとっていらっしゃったアントン医師の表情が険しくなり、緊張が走る。
「ルーディーさまのお戻りはいつになりますか?」
突然ルーディーさまのことを尋ねられて焦りながらも答える。
「予定では今日から三日後のご予定です」
「三日後……ギリギリだな……」
「何か大変なことでも?」
「アズールさまにご懐妊の兆候が見られます」
「えっ……ご懐妊、って……お子さまが?」
まさか、このタイミングで……。
あまりにも突然のことに私は驚きの声しか出なかった。
「はい。お腹のお子さまは成長に必要な栄養をアズールさまから摂っていらっしゃるのですが、今はアズールさまの栄養の方が足りず、失われていく栄養に身体が抵抗して発熱していらっしゃるのです」
「それで、どうすれば良いのですか?」
「ご懐妊の兆候が出ている以上、お薬を使うことはできませんので、とにかく栄養のあるものを召し上がっていただくしか方法はございません。ただ、高熱を出しておられるのでアズールさまに召し上がっていただくのは難しいでしょう。とりあえず栄養剤で凌いでいただくしか……。ルーディーさまがいらっしゃれば、かなり栄養の高い蜜を飲んでいただくことができますので、熱も下がるかと思いますが……」
「ルーディーさまの、蜜……」
ああ、そういえば前に聞いたな。
ルーディーさまの蜜がお子さまを出産なさった時の傷も癒したのだと。
「それをアズールさまが召し上がることができれば、熱は下がるのですね?」
「ええ、それはもう。すぐに楽になると思いますが、今は北の森に行ってらっしゃるのですよね?」
「私が今からルーディーさまを呼びに行って参ります」
急げば明日の朝までにはルーディーさまに戻ってもらえるかもしれない。
急いで向かおうとしたその時、
「ゔぇる……ぼく、は……がんばれる、から……るー、のくんれん……さい、ごまで……」
と必死に私を止めようとするアズールさまの声が聞こえた。
163
お気に入りに追加
5,285
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる