上 下
264 / 288
第三章

穏やかで幸せな空間

しおりを挟む
<sideヴェルナー>

「ここは気持ちがいいね。日差しもポカポカで座っていると眠たくなってきちゃう」

きっと昨夜はルーディーさまと遅くまで愛し合っていらっしゃったのだろう。
私だって、昨夜はマクシミリアンと離れがたくて激しくしないまでもずっとマクシミリアンの愛を感じていた。
それくらい愛しい人との別れは、たとえ数日といえども辛いものがあるのだから遅くまで愛し合ってしまうのも当然だろう。

ただ、私もマクシミリアンも辛い訓練にも耐え得ることのできる騎士。
だから、初夜並みに激しい交わりでなければ、数時間の睡眠が取れれば多少の疲れは取れるし、何より、あの特製蜂蜜オイルが疲れを癒してくれる効果もあるので、翌日に支障をきたすことは少ない。

そして、ルーディーさまは言わずと知れた肉体と底なしの体力をお持ちだから、どれほど激しく愛し合おうとも、翌日に支障をきたすことは一切ないだろう。
むしろアズールさまとの交わりはルーディーさまのお力を倍増させる威力もあるだろうから、愛し合えば愛し合うほどルーディーさまは元気になると思ったほうがいいかもしれない。

けれど、アズールさまは別だ。
誰よりも小さなお身体でルーディーさまを受け入れていらっしゃるのだ。
いくら神の定めたもうた相手とはいえ、この体格差は如何ともし難い。

あの小さなお身体でロルフさまとルルさまという二人のお子さまをご出産されたこともいまだに信じられないと思ってしまうくらいだから、座っているだけで眠たくなってしまうのも当然かもしれない。

フィデリオさまもアズールさまの今の状態を理解なさっているから、ルーディーさまがご出発された後すぐに遊びに連れて行ってくださったのだろう。

ルーディーさまがいなくなって寂しがるお二人がアズールさまに甘えに行かれることがわかっていたからだ。
私たちに庭で待つようにとおっしゃられたのも今の間に身体を休むことができるようにという配慮だろう。

「枕と布団もご用意しておりますので、少し休まれてはいかがですか? お外で眠るのも楽しいですよ」

「うん、それいいかも!」

そんなアズールさまの声に、さっと枕と大きめのブランケットが用意される。
アズールさまは嬉しそうにそこに横たわり、気持ちよさそうに目を瞑る。

「風が気持ちいいね、ヴェル」

「ええ、本当に。今日みたいに天気がよろしければ、北の森へもスムーズに行けますからもしかしたら予定より早い帰還も期待できるかもしれませんね」

「ふふっ。そうだったらいいね。やっぱりルーがいないと寂しいもん」

「そうですね。さぁ、少しお休みください。ロルフさまとルルさまが戻られたらお起こしいたしますよ」

「うん、お願い」

そういうと、アズールさまはすぐにスウスウと可愛らしい寝息を立てて夢の世界に落ちていった。

それからしばらく経って、ロルフさまとルルさまが頬を赤く染めながら駆け足でこちらに向かってくるのが見えた。

お二人が戻ってきたら起こすとアズールさまには伝えていたけれど、正直なところもう少し寝かせて差し上げたい。

駆けてくるお二人に見えるように、人差し指を口の前につけて見せると、嬉しそうに駆けてきたお二人は私の意図に気づいたようで急ブレーキを駆けて止まり、ゆっくりとこっちに向かってきた。

本当に優しいお子さまたちだ。

「まんま、ねちぇるの?」

「お疲れなのですよ。もう少しだけ休ませて差し上げてもいいですか?」

そういうと二人は当然とでもいうように頷き、持っていたバスケットを低いテーブルの上に置いた。

そして、そっとアズールさまの元に近づくと、身体を小さく丸め、アズールさまに寄り添うように抱きついた。
お二人のふさふさの尻尾でがまるで羽毛布団のようにふわふわにアズールさまを包み込み、夢の中でも気持ちいいのがわかるのか、アズールさまは嬉しそうに笑って、

「ふふっ。ふわふわ……っ」

と幸せそうな声をあげていた。

ああ、これを私たちだけで見ていいのかと申し訳なく思うくらい、幸せな空間が広がっている。

けれど、それを壊してしまうのももったいなくて、私もフィデリオさまも、そしてティオもしばらくその可愛らしい3人の姿を目を細めて見守っていた。

「んっ……るる?」

「ふふっ。まんまっ」

「こっちは、ろるふ?」

「まんま、おきちゃ?」

「気持ちがいいと思ったら、ルルとロルフが抱きついてくれてたんだね。ありがとう」

「ふふっ。まんまに、ほめりゃれちゃられたー!」

目を覚まされたアズールさまと可愛らしい子どもたちの会話を垣間見るのも楽しくて仕方がない。

「爺の宝探しは見つかったの?」

「うん! じぇ~んぶ、ううと、ろーふが、みちゅけちゃー!!」

「そうなんだ、頑張ったね」

「みちぇみちぇーっ!」

飛び上がったお二人は競うようにバスケットを持ってくる。
その中には、マクシミリアンが一生懸命作っていたアズールさまにそっくりなバロンと、美味しそうなお菓子が入っている。

さぁ、これで、今からお茶会の始まりだ。
しおりを挟む
感想 547

あなたにおすすめの小説

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...