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第三章

秘密兵器

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<sideティオ>

今回の特別遠征訓練は、ルーディーさまが参加するならば私も参加しようと思っていた。
国王となるルーディーさまが完全に騎士団から離れてしまう前に、ルーディーさまから直々に訓練を受けたいと持っていたからだ。

けれど、今回の訓練を前にルーディーさまから、アズールさまとお子さま方のそばにいて欲しいと頼まれた。

アズールさまの護衛にはヴェルナーさまがいらっしゃるけれど、元気いっぱいに駆け回るようになったロルフさまとルルさまも見るとなると話は別だ。

どうしたって手が足りない。

それを理解したからこそ、私はルーディーさまの頼みを受けることにしたのだ。
訓練から帰ってきてから特別にお相手をしてくださるというご褒美付きで。

アズールさまとお子さま方のことだけでなく、私のこともきちんと考えてくださったのが嬉しかった。

おかげでなんの憂いもなく、留守をお守りすることができる。

ちおティオー、ろん、こかなー?」

「ふふっ。そうですね。書庫でも探してみましょうか」

「ちょこーっ、ちゃがちゅさがすー。ううルル、いくよー」

「うん、いこう、いこう!」

ロルフさまはルルさまの手をしっかりと握り、書庫へむかわれる。
ルルさまはすっかり安心し切った様子でロルフさまについて行かれる。 
双子ではあるけれど、すっかり兄として成長なさっている姿に思わず笑みが溢れる。

「ロルフさまは良いお兄さまに成長なさっておられますね」

「はい。アズールさまをお守りするルーディーさまをいつも間近でご覧になっているからでしょうね」

「ああ、それは確かに。ルーディーさまという素晴らしいお手本がいらっしゃったらあのような素晴らしい兄上になられるのもわかりますね。それにルルさまも素直にお育ちになって……本当にルーディーさまとアズールさまをみているような気になります」

この半年で身体だけでなく、中身も大きく成長なさったロルフさまとルルさまの姿にフィデリオさまも感慨無量の様子。
ルーディーさまのご成長をずっと見守っていたフィデリオさまだからこそ、思うところもたくさんあるのだろう。

「じぃーっ、みちゅけちゃつけたぁーっ!!」

「みちぇー、ううが、みちゅけちゃのーっ」

一足早く書庫に入られた、ロルフさまとルルさまがパタパタと尻尾を揺らしながら目を輝かせて私たちの元に飛び込んでくる。

「おおっ、さすがでございますね。もう見つけられたのですか?」

「うん、におーい、たのー」

「匂い、ですか?」

「まっくちゅのにおい、ちたー」

「ああ、なるほど」

ふふっ。一生懸命作ってくださったから、マクシミリアン団長の匂いがバロンについてしまったのかもしれない。

まだ発達途中のお子さま方とはいえ、ルーディーさまとアズールさまのお子さまは驚くほど鼻が利く。
私が部屋に近づいたのもすぐに気づくくらいなのだから。

「かわいいー、まんまの、まろん」

「ふふっ、本当に可愛らしいですね。それでは他のも探しにいきましょうか。ロルフさまとルルさまに見つけて欲しくて、待っていらっしゃいますよ」

「ちゃがちゅーっ!!!」

可愛いアズールさまのバロンを見て俄然やる気になったのか、ロルフさまとルルさまは急いで書庫を出て次の場所に探しに行った。

<sideルーディー>

アズールと離れるのは幾つになっても辛いものがある。
行かないでと言われるのも辛いが、必死に我慢して送り出してくれようとする姿もいじらしくて離れ難い。

どちらにしても私自身がアズールと離れるのが辛いのだ。

アズールと子どもたちを悲しませてまで訓練に参加しなければいけないことは心苦しいが、この国の未来にとって必要なことだからと自分に言い聞かせるしかない。

訓練に参加した以上、あとは無事に終えることを願うだけだ。

「ルーディーさま、またアズールさまのことをお考えですか?」

馬たちを休ませる休憩の合間にマクシミリアンが声をかけてきた。

「当たり前だろう。私の頭の中からアズールのことが消える日などないぞ」

「それは確かにそうでしょうね。私の頭からヴェルナーが消えることなどありませんから」

「それにしては余裕の表情をしているじゃないか。以前の特別遠征訓練の時とは雲泥の差だな」

「ふふっ。わかりますか? 実は、今回は秘密兵器を持ってきましたので、数日なら我慢ができるのですよ」

「秘密兵器? なんだ、それは?」

「もったいないですが、ルーディーさまにだけお教えしますね」

そう言いながらも、言いたくてたまらない様子だ。

そしてマクシミリアンは、実は……と話し出した。

「特製の蜂蜜オイルを持ってきたのです」

「蜂蜜オイル? 確かにベーレンドルフ家は蜂蜜が有名だがそれが秘密兵器とはどういうことだ?」

「ふふっ。特製の蜂蜜オイルにはヴェルナーのフェロモンと純度の高い蜜が配合されているのですよ」

「――っ、なんだと? それは……すごいな」

「はい。この訓練に持っていくために、何度も改良を重ねて最高のものを作り上げて持ってきましたから。離れていてもヴェルナーのフェロモンを感じることができるのですよ」

私がアズールにたっぷりと蜜を染み込ませたブランケットを持たせたのと同じようなものだな。
しかもそれをヴェルナーにではなく、自分のために持ってきたというわけか。

「もしかしてヴェルナーにも同じものを置いてきたのか?」

「はい。それはもちろん。私のフェロモンと蜜をたっぷり配合したオイルを置いてきましたから、数日ならなんとか我慢できるでしょう」

さすが、ベーレンドルフ家。
我々狼族にはできない技術を持っているのだな。
こればかりは羨ましい……。

ああ、そんな話を聞いていたら、もうアズールに会いたくなってきた。
帰ったらすぐ寝室に連れ込もう。
そしてたっぷりと蜜を纏い合うのだ。

アズール、待っていてくれ。
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