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第三章

素敵な相談相手

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公爵家で過ごす週末を終え、王城に戻り子どもたちを爺に任せてアズールのそばで仕事をしていると、ヴェルナーが訪ねてきた。

「お忙しいところ恐れ入ります」

「いや、ちょうど休憩に入ろうと思っていたところだ。どうした?」

ヴェルナーが直々にやってくるのだから、マクシミリアンのことか。
それとも騎士団のことか、いずれにしてもどちらかだろう。

「実は、特別遠征訓練のことなのです」

「ああ、もうすぐだったな。どうした? マクシミリアンが行き詰まっているか?」

「はい。それでルーディーさまにご意見を伺いたいようなのですがお声がかけづらいようで……」

「気遣ってくれているというわけか。騎士団のことだ。気にせずとも話をしにきたらいいのにな」

「はい。それでご都合のよろしい時にでも話を聞いていただけたらと思いまして伺った次第にございます」

マクシミリアンを思いやって私に話をしにきたのか。
さすが内助の功だな。

「そうか。なら、今から出向くとしよう」

「えっ? ルーディーさま自らでございますか?」

「ああ、お前がアズールのそばについていてくれるなら、問題はない。どうだ?」

「はい。それではお留守をお預かりいたします」

「子どもたちももうすぐ戻ってくる。頼むぞ」

「承知いたしました」

「じゃあ、アズール。少しの間だけ待っていてくれるか?」

「うん。大丈夫だよ。マックスとお話頑張ってね」

「ああ、頑張ってくるよ」

そう言って、アズールにキスを落として、マクシミリアンのいる訓練場に向かった。


<sideマクシミリアン>

「頑張っているな」

騎士たちの声が響き渡っている中、聞きなれた声が確実に私の耳に入り込んできて驚いて振り返った。

「えっ? あっ、団長!」

わざと気配を消して近づいて来られたのか。
私がこんなにも簡単に背後を取られるとは……私もまだまだだな。

「ははっ。何を言っているんだ。団長は其方だろう」

そう仰ってくださるが、私の中ではいつだって団長と言えば、ルーディーさまかヴェルナーだけだ。
今だって私はあくまでも二人の代理として団長という任務についていると思っている。

「失礼しました。ルーディーさま。今日はどうなさったのですか?」

「忘れたのか? そろそろ特別遠征の時期だろう。マクシミリアンが私に相談したそうだとヴェルナーが声をかけにきてくれたんだ」

「ヴェルナーが……それでわざわざ足をお運びくださったのですか? それは大変ありがたいのですが、アズールさまとお子さま方はよろしいのですか?」

「なんのためにヴェルナーが声をかけにきてくれたと思っているんだ? 今頃、アズールと子どもたちと一緒に過ごしてくれているから心配しないでいい。信頼のおけるヴェルナーだからこそ、私もアズールと子どもたちを任せてこうしてやってきたんだ。なんせ、アズールが妊娠してから、こうして離れるのは初めてだからな」

「アズールのさまの産後の肥立ちがよろしいのも、ルーディーさまがずっとおそばでついていらしたからですね」

「まぁ、妊娠出産のできない私には、アズールの世話をすることしか役に立てないからな」

「そんなこと……アズールさまがお聞きになったらお怒りになりますよ。ルーディーさまがいらっしゃるからこそ、アズールさまは安心なさってご出産に臨まれたのでしょうし」

「ははっ。そうか、そうだな。じゃあ、今のは内緒にしておいてくれ」

「はい。二人だけの秘密にしておきましょう」

「其方は少しヴェルナーに似てきたな。さすがパートナーだな」

ルーディーさまの揶揄いを嬉しく思う自分がいる。
ヴェルナーに似てきたなんて言葉は私にとっては褒め言葉でしかないのだから。

「じゃあ、団長室で少し話をしようか」

「はい」

私は騎士たちにあとは自主練をしておくようにと声をかけ、ルーディーさまとともに団長室に向かった。

<sideヴェルナー>

「ねぇねぇ、ヴェル。騎士団の特別遠征訓練ってどんなことをするの?」

「そうですね、賊の侵入などを想定して実戦を交えての訓練を行います」

「えっ、それってみんなで実際に戦い合うってこと?」

私の言葉にアズールさまの表情一気に青褪めていくのがわかる。

「ええ、そうですね。でもこの訓練に参加できるものはある一定の実力を持ったものと決められてますので、怪我などの心配はありませんよ」

「ああ、そうなんだ……」

本当は真剣を使うから、特別遠征訓練で怪我など日常茶飯事だけれどそこまで本当のことを言って、アズールさまを無駄に心配させるのは得策でない。
ルーディーさまが怪我をなさって帰ることは絶対にあり得ないから、問題はないだろう。

「ヴェルもその特別訓練に行ったことがあるの?」

「ええ、もちろんですよ。騎士団に入ってから、アズールさまの護衛になるまでは毎年参加しておりましたよ」

「そうなんだ……やっぱりすごいね、ヴェルは」

「そんなことはありませんよ」

「そんなことあるよ! ヴェル、かっこいいよ。ヴェルに守ってもらうの安心してたもん、ずっと」

「アズールさまにそう仰っていただくと照れてしまいますね」

アズールさまがお世辞を言われる方でないとわかっているだけに、アズールさまからの言葉が嬉しくてたまらない。
ああ、本当に騎士になって本当に良かったと思う。

「ねぇねぇ、この特別訓練はルーも行くの?」

「どうでしょうか。アズールさまとお子さま方がいらっしゃいますから、今回はどのようにしたらいいかという助言だけマクシミリアンにするのだと思いますよ」

「そっか、そうなんだ……」

「どうかなさったのですか?」

「ううん。もしルーが行くなら、アズールも一緒に行きたいなと思っただけ」

「えっ……それは……」

「やっぱりダメかなぁ?」

「確実にダメでしょうね。さすがのルーディーさまもそれはお許しにならないと思いますよ」

「そっか、やっぱりそうだよねぇ」

おそらくそこまで本気ではなかったのだろう。
すぐに引いてくれて助かったけれど、もし本当に行きたいと仰ったら、とんでもないことになりそうだ。

「それよりも、そろそろロルフさまとルルさまの一歳のお祝いのご準備をお考えになった方がよろしいのではありませんか?」

「えっ、でもまだ半年近くあるよ」

「半年なんてすぐですよ。その日にお召しになるお洋服も一からお作りになるのですし」

「そっか、そうだね。じゃあ、考えておかなくちゃ! ヴェル、相談に乗ってくれる?」

「はい。私にできることでしたら何なりと」

私のその返事にアズールさまは嬉しそうにその場で飛び跳ねた。
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