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第三章

唯一無二の出産祝い

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「お待たせしました」

戻ってきたマクシミリアンの手には大きな袋が二つ。

「早いな、崩れてはいないか?」

「保存液をかけておきましたから大丈夫ですよ」

「そうか。それにしてもこの大きさを二人で作って、かなりの時間がかかったのを考えると、あの時のものはすごかったのだな」

「ええ、それはもう。アズールさまのお力の賜物ですよ」

懐かしそうに笑顔を浮かべるマクシミリアンの表情に、私もつられて笑みが溢れた。

出産祝いを何にしようかとマクシミリアンと話し合って、洋服や菓子などはたくさんもらっているだろうということで、私たちが出産祝いに用意したものは、お子さま方を模したバロンクンスト。

そう、アズールさまがルーディーさまの成人祝いにお作りになったものだ。

あの祝いの席でルーディーさまとアズールさまにそっくりのバロンクンストを見た時には、あまりの素晴らしさに言葉が出なかった。
細部まで精巧に作られたそれを見るだけで、アズールさまがどれほどルーディーさまのことを思っていらっしゃるかが理解できた。
ルーディーさまもアズールさまのお気持ちの深さにそれはそれは感動していらした。

マクシミリアンの話では、あの時使用したバロンはお二人分で優に100を超えるらしい。
当時五歳でしかも握力もないアズールさまには、マクシミリアンの作った機械を使ってもバロンを膨らませることは難しかったけれど、そのバロンで形作ったのは間違いなくアズールさまのお力で、マクシミリアンはその技術にただただ驚くばかりだったという。

マクシミリアンはその時のことを鮮明に覚えていて、今回手作りの出産祝いにしようと提案してくれたのだ。

なんでも器用にこなすマクシミリアンと違って、あまり器用ではない私にはかなり難しい作業だったが、お生まれになったお子さま方への想いを込めてマクシミリアンと一緒に作り上げるというのは、かなり楽しい体験だった。
アズールさまもあの時はきっと離れ離れの中、儀式を無事に終えようとしているルーディーさまのことを思いながらお作りになったに違いない。

私たちが二人がかりで作り上げたバロンクンストはアズールさまが作られたものとは比べるのも烏滸がましいほどの普通の出来栄えだが、アズールさまなら喜んでくださるだろう。
あのお方はそういうお方だ。

「団長にそっくりなロルフさまと、アズールさまにそっくりなルルさまを想像しながら作ったが、似ていると嬉しいな」

「ふふっ。そうですね。そして、アズールさまがお作りになったあのバロンクンストと一緒に飾っていただけたら嬉しいですね」

「そうだな」

「では行きましょうか」

途中でアズールさまのお好きな菓子を買い求めて、私たちは公爵家に向かった。


<sideアズール>

「ねぇ、ルー。ヴェルとマックスは今日来てくれるんだよね?」

「ああ、そのように聞いているから大丈夫だ。支度を整えてすぐに向かうとのことだったから、もうそろそろ来るのではないか?」

「わぁー、楽しみだな。あっ、見て。ロルフとルルも楽しみにしているみたい。尻尾が動いてるよ」

「ふふっ。本当だな。アズールの楽しい気持ちが伝わっているのだろう」

「そういうこと? そっか。嬉しいな」

僕の嬉しい気持ちが伝わってるんだ。
そういえば、お腹の中にいた時も僕が嬉しい時はポコポコ元気に動いていたっけ。
体調がすぐれない時は大人しくしてくれてて……あの時からロルフもルルもママ思いの良い子だったんだな。


「おっ、二人が来たようだな」

リビングのソファーに寝かせてもらってのんびりと過ごしていると、ルーが教えてくれた。
きっと匂いでわかったんだろうな。
獣人の鼻は僕たちよりもずっとずっと良いっていうもんね。さすがだな。

扉が叩かれると、すぐにルーが開けてくれる。
それも二人だとわかっているからこそだ。

「ルーディーさま、アズールさま。お客さまをご案内いたしました」

「ああ、アズールが待ちかねていたぞ。さぁ、入ってくれ」

「失礼します」

その声だけですぐにわかる。

「ヴェルーっ! 来てくれてありがとう!!」

「アズールさまっ!! お元気そうで何よりです。この度はご出産おめでとうございます」

「ふふっ。ありがとう。そうだ! あのね、ヴェルとマックスがくれたお菓子、すっごく美味しくていっぱい食べたら、その後のミルク……ロルフとルルもたっぷり飲んでくれたんだよ。あのお菓子のおかげだね」

大好きなお菓子をもらったお礼を忘れないうちに言っておこうと思って伝えると、ヴェルは嬉しそうに笑ってくれた。

「それはようございました。今日もお持ちしましたので、お召し上がりください」

「わぁ、ありがとう。ヴェル、マックス」

「さぁさぁ、二人とも私たちの可愛い子どもたちを紹介しよう」

ルーはそういうと、二人をロルフとルルが寝ているベッドのそばに連れて行った。

「こちらがロルフだ。どうだ? 私に似ているか?」

「――っ!! はい。とても似ていらっしゃいます。強そうで、凛々しくて……将来が楽しみですね」

「ははっ。そうだろう。マクシミリアン、抱いてみるか?」

「よろしいのですか?」

「ああ、もちろんだ」

ルーは優しく抱き上げると、マックスに手渡す。
その手慣れた抱っこの様子に、僕が抱っこされていた頃のことを思い出す。
ルーに抱っこされるのはもちろん大好きだけど、マックスに抱っこされるのも好きだったんだよね。
やっぱりおっきな熊さんに抱っこされるのは安心できるのかな。
ふふっ。ロルフの表情見てるとあの時の僕と同じ気持ちになっているのかもしれないな。
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