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第三章

覚悟があるのなら……

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<sideクレイ>

哺乳瓶を探すところから、栄養ミルクを注ぎ入れるところまで必死に格闘し、ようやく寝室まで舞い戻ってきた私の目に飛び込んできたのは、惜しげもなく胸をはだけロルフにミルクをあげるように腕に抱き、聖母のように美しい微笑みを見せるティオの姿。

私しか見られない姿をロルフに見せていることに嫉妬する間もないほどのあまりにも麗しいその姿に、思わず見入ってしまい動くこともできない。

その場に立ち尽くしていた私の耳にティオの優しく穏やかな声が聞こえてくる。

「このままロルフくんがクレイさまと私の子になってくれたら嬉しいのにな……」

ティオは今、なんといった?
ロルフが私たちの子に……?

決して冗談だとは思えないその声に驚いてしまう。

この国では子どもを作ることのできない我々のような夫夫もたくさんおり、血筋の近い親戚から養子を取ることも決して珍しいことではない。

幸いにも私の弟であるアズールは子を宿すことができるばかりか、多子出産が可能なウサギ族。
だからより近い血筋の子を私たちの養子として迎えることができる。
だからこそ、公爵家の後継も心配はいらないとティオを説得して私の伴侶にしたのだ。

後継として養子を取る場合には赤子の時に引き取るのが定石となっているため、親子としての相性が大切になってくる。

その子を自分の子どもとして迎えることができるか、心から愛せるか、そこは一番大事なところだろう。

今のティオの言葉は、決して冗談ではないように聞こえた。
もし、ティオが本気でロルフを私たちの子として迎え入れたい覚悟があるのなら、私は義兄上とアズールに頭を下げて、ロルフを私たちの養子として認めてもらおう。

そう覚悟しながら、少し緊張しつつティオに聞き返した。

今のは本気なのか、と。

「えっ、クレイさま――あっ!」

ティオが私の声に驚きピクリと身体を震わせた瞬間、ロルフが口に含んでいたティオの乳首が外れたようだ。
泣いてしまうかと思ったが、どうやらティオのを咥えたことで満足した様子だ。

ティオが優しく揺らすとそのまま寝ついてくれた。

私は持ってきた哺乳瓶を持ってベッドに近づき、ロルフを腕に抱くティオの隣に座り頭を下げた。

「申し訳ない。盗み聞きをするつもりはなかったが、聞こえてしまった」

「いいえ、そんなっ、謝っていただくことでは……」

「ティオがロルフを養子にしたいという覚悟を決めたのかと驚いてしまったんだ」

「覚悟というか、ただ……愛おしいと思ったんです。一生懸命私の乳首に吸い付いてくれるロルフくんが可愛くて、守ってあげたいって思ったんです……」

「ティオ……その気持ちこそが大事なのだ。もし、ティオが本気でロルフを私たちの子として受け入れる気持ちがあるのなら、私は直ぐにでも義兄上とアズールに頼むつもりだ。ロルフもティオのことを気に入っているようだからな。親子としての相性は問題ない」

「クレイさま……。クレイさまのお気持ちはどうなのですか?」

「私にとってロルフは、血のつながりはもちろんのこと、自分のことなど二の次で大切に育ててきたアズールの子ども。ある意味、私の子どものようなものだ。だから、私はロルフを自分の子として受け入れる気持ちは十二分にある。養子を取ることに関しては、私よりティオの気持ちを優先させたい」

「クレイさま……ありがとうございます。私は……アズールさまとルーディーさまがお許しくださるのなら、ロルフくんを養子として迎えたいと思います。でも、あくまでもアズールさまとルーディーさまのお気持ちを最優先でお考えください。アズールさまは、ご自分の身体に傷をつけて必死にご出産なさったのですから、アズールさまが難色を示されたらその時は……」

「ああ、わかった。約束する。アズールの気持ちを最優先にすると誓うよ。明日にでもまず義兄上に話をしてみよう。ティオ……アズールの気持ちを慮ってくれてありがとう」

ロルフを抱いたままのティオをそっと抱きしめる。

「クレイさま……」

キスしてほしいと望んでいるような声に、そっと唇を重ねるとちゅぱちゅぱと何かに吸い付くような音が聞こえる。
ティオとキスしたまま視線を下ろすと、ロルフが自分の指に吸い付いているのが見える。

「ふふっ」

その可愛らしい姿に二人で顔を見合わせながら、重ねていた唇を離し、持っていた哺乳瓶をロルフの唇に当ててやると嬉しそうに吸い始めた。

「んくっ、んくっ……」

目を瞑ったまま、美味しそうに飲み干すロルフの姿を二人で見つめながら私たちは幸せなひとときを過ごした。
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