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第三章

母性が芽生える

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「ひゃっ!」

夜着の合わせから差し込まれたロルフの小さな手がティオの乳首に触れて、ティオの口から甘い声が漏れる。
私以外の者がティオにそんな声を出させたことが許せなくて思わず声を上げてしまう。

「ロルフ、イタズラしてはダメだ」

「ふぇ……っ、ふぇ……っ」

私の声に驚いたのか、ロルフがピクリと身体を震わせて泣き声を上げる。

「あっ……」

その泣き声に自分が大人げないことをしてしまったと感じるも、泣いてしまったロルフを慰める術を知らない。

「大丈夫だよ。ロルフくん。ちょっと寂しくなっちゃったかな?」

ティオはさっきまで戸惑いの声を上げていたのに、もうすっかり母のような顔になってロルフをあやし始めた。

ティオがロルフの背中を優しく摩ると、ロルフはティオの乳首に触れていた指を口に咥えてちゅぱちゅぱと吸い始めた。

「ああ……もしかしたら、喉が渇いているのかもしれないですね」

「喉が? だがアズールは……」

「大丈夫です。前にお義母さまが夜中に喉が渇いた時には哺乳瓶で栄養ミルクを飲ませていると仰ってました。クレイさま……私がキッチンから取ってきますからその間、ロルフくんを見ていてもらえますか?」

「いや、私が取ってこよう。そんな艶かしい姿のティオを誰の目にも触れさせたくない」

「――っ、クレイさまったら……」

「すぐに戻ってくるから、待っていてくれ」

「はい。わかりました。気をつけてくださいね」

「ああ。分かってる」

チュッとティオの唇にキスを落として、私は急いでキッチンに向かった。

とはいえ、栄養ミルクとやらはどこにあるのだろう……。

哺乳瓶を探すのも一苦労で、あちらこちらと探していると

「クレイ? お前、何をしているんだ?」

と声が聞こえてびっくりしてしまった。

「わぁっ、父上っ! びっくりさせないでください!」

「ああ、悪い、悪い。それでどうしたんだ?」

「ロルフが喉が渇いているようだというので、哺乳瓶と栄養ミルクをとりにきたんですよ」

「ああ、お前もか。それならここにあるぞ」

そういうと、父上は反対側の棚を開けると簡単にそれらを見つけて出してくれた。

「すごいですね、父上」

「いや、アリーシャから聞いてきただけだ」

まぁそうか。
父上が知るはずがない。

それを二人でああでもない、こうでもないと格闘しながらなんとか哺乳瓶に栄養ミルクを入れることができた。

「突然の世話で大変だろう?」

「はい。ですが、いつかは私たちもアズールたちから養子を取るつもりでしたから、世話になれておくことはいいことですよ」

「そうだな。ああ、ティオとロルフが待っているだろう。早く戻ってやれ」

「はい。父上。おやすみなさい」

私は哺乳瓶を手に急いでティオとロルフの待つ部屋に戻った。

<sideティオ>

可愛くて小さな手が私の胸に触れた瞬間、思わず声を上げてしまったけれど、その感触はクレイさまとは全く違う。
その可愛らしい手の感触に私の中の母性のようなものが芽生えた気がした。

指を咥えてちゅぱちゅぱと吸い付くのを見て、喉が渇いているのかもと思った私は栄養ミルクをとりに行こうとしたのだけど、代わりにクレイさまが行って下さった。

待っている間、ベッドのヘッドボードを背もたれにしてロルフくんを抱っこしていると、ロルフくんの手がまた私の夜着の合わせから中に入る。

もしかしたら、アズールさまを思い出して寂しくなっているのかもしれない。

何も出ない私の胸では寂しさを紛らせることもできないだろうけど、クレイさまが戻ってくるまでの間ならなんとか繋げるかもしれない。

そう思って、私は夜着をはだけさせロルフくんの顔を胸に近づけた。

ロルフくんは目を瞑ったままスンスンと匂いを嗅ぐと、長い舌を出しぺろっと乳首を舐めとった。

「んんっ!!」

思わず声を上げそうになるのを必死に堪えて見守っていると、ロルフくんは口を開けて、私の乳首をパクリと咥えてしまった。

「――っ!!」

驚いたけれど、引き離すわけにもいかずそのまま待つしかない。
何も出ないのだから諦めて離すだろう。

けれど、予想に反してロルフくんはちゅぱちゅぱと一定のリズムで吸い付いていて、飽きるどころか逆に安心している表情さえ見せてくれる。

そんな顔を見たらもう愛おしくてたまらない。

アズールさまがどんなに身体が辛くてもロルフくんとルルちゃんにミルクだけはあげたいと思う気持ちがよくわかる。
ミルクをあげるのは、母と子の癒しの時間なのだろう。

ロルフくんは、それを私に教えてくれたんだ。
ああ、本当に何て可愛いんだろう。

「このままロルフくんがクレイさまと私の子になってくれたら嬉しいのにな……」

ポツリと心の声が漏れ出た瞬間、

「今のは本気か?」

とクレイさまの驚いたような声が聞こえた。
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