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第三章

可愛すぎて嫉妬する

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「本当に義兄上にそっくりな耳と尻尾をしている。これは逞しくなるな。なぁ、ティオ」

「はい。本当に。まだ赤子だというのに、凛々しくて……。未来の団長候補ですね」

「ははっ。ティオも気が早いぞ」

ティオの言葉にすぐに義兄上が反応する。
というか、赤子とはいえティオが手放しで褒めるのはなんとも面白くないものだな。

いやいや、生まれたばかりの、しかも甥を相手に何を嫉妬しているのだ。
恥ずかしい。

やはり、『神の御意志』である義兄上とその番であるアズールの、完全な血統を継ぐ存在に雄としての敗北を直感で感じているのかもしれない。

それくらい、このロルフには強いものを感じたのだ。

「クレイさま、私にも抱かせていただいてもよろしいですか?」

「あ、ああ」

慣れないながらもティオに渡すと、なんとも上手に抱き上げる。

「あら、ティオ。とっても上手だわ」

「親戚の子どもをよく面倒見ていたので抱っこしたりあやしたりするのは得意なんです」

「そうなのね。じゃあ、これからお願いしようかしら。アズールは完全に身体が回復するまでは無理をさせない方がいいのよ。抱っこはかなり重労働なのよね」

「そうですよね。私ならいつでもお手伝いいたしますから、アズールさまもいつでもお声掛けください」

ティオの声かけにアズールは嬉しそうに微笑む。
確かに腹を切ったばかりだ。
かなり大きな子どもを二人も産んだのだから、抱っこするのもままならないのはよくわかる。
ティオが手伝えば、かなり楽になるだろうな。

「ありがとう。ティオ。ああ、本当に上手。ロルフがもう寝そうになってる」

「あら、本当だわ。じゃあ、もう少し寝付くまでお願いしてもいいかしら?」

「はい。もちろんです。ふふっ。本当に可愛いですね」

ティオがロルフを見つめるたびに心の奥がざわざわとしてしまうが、必死にそれを抑えつける。
ティオの前でみっともないことをしたくないんだ。

「ヴィル、こっちが女の子。ルルよ」

「――っ、おおっ、本当に真っ白耳だな。アズールと一緒だ。なんと可愛らしいっ!!」

「あっ、ぶーっ」

「くぅ――!!!」

ルルの可愛らしい声と笑顔を見た父上がルルを抱っこしたままその場に崩れ落ちそうになるが、一瞬にしてルルが義兄上の腕の中にいる。

「えっ? 今、どうなったんだ?」

あまりの早技に私はもちろん、ルルを抱っこしていたはずの父上もよくわかっていないようだ。

「私の可愛い姫が怪我をすると大変だからな。父上、ルルを抱っこしたときはどれだけ可愛らしくても我慢してください」

「ああ、悪い。じゃあ、もう一度抱かせてもらおうか」

父上がそう言ったものの、義兄上は自分が抱いたまま父上に近づけるだけで、決して抱かせようとしない。

「ルーディー。抱かせてくれないのか?」

「今はまだ父上も慣れていないようですから。顔を見るだけにしておいてください」

「わ、わかった」

少し威圧を放ったような声に父上はすぐに引き下がった。
流石に子どもたちの前で威嚇フェロモンを出すことはないだろうが、威圧を放たれるだけでも怖いものだ。

父上は義兄上の腕に抱かれたままのルルに声をかけたり、頬を撫でたりして、ようやく私にも声をかけてくれた。

「クレイ、お前もルルに挨拶しろ」

「は、はい」

そう言われつつも、義兄上は渡そうとはしてくれない。
仕方ないな。

「ルル……耳の色だけでなく、顔もアズールにそっくりだな。ああ、なんて可愛らしいんだ」

「あっぷーっ」

「くぅ――っ!!」

にぱーと嬉しそうに笑顔を向けながら可愛い声が漏れ聞こえる。
こんなのを間近で見たら、父上が崩れ落ちるのもわかるというものだ。

必死に堪えながら、目の前の義兄上を見ればあまり可愛さにプルプルと震えているように見える。

「義兄上? 大丈夫、ですか?」

「あ、ああ。問題ない。それにしても本当にルルはアズールによく似ている。生まれて初めて会った時の可愛らしいアズールとそっくりだ」

ああ、私も覚えている。
本当に真っ白な羽を持った天使かと思ったくらいだった。

「ルーも、お兄さまも、ルルばっかり可愛い、可愛いって言ったら、アズールもティオも寂しくなっちゃうよ」

アズールの拗ねた声が聞こえるや否や、義兄上はルルを抱いたまますぐにアズールの元に駆け寄り、

「ルルだけを可愛いと言っているわけではないのだぞ。アズールに似ているから可愛いんだ」

と弁明する。

「ふふっ。冗談だよ」

そう言って笑顔を見せるアズールを可愛いと思いながら、私もティオに弁明する。

「ティオ、怒ったか?」

「いいえ、怒ったりしませんよ。でもちょっと寂しかったのは本当です。赤ちゃんに嫉妬するなんて恥ずかしいですね」

「――っ、ティオ! そんなことはない! 私もロルフに――」
「えっ? クレイさま、もしかして嫉妬してくださっていたんですか?」

そう言われて恥ずかしくなるが、嘘をつくわけにもいかない。

「ああ、そうだ」

と素直に答えると、ティオは嬉しそうに笑っていた。
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