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第三章
みんなの声援を受けながら
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<sideアントン(公爵家専属医師)>
あれほど大きく育っているのだ。
食事もできなくて当然だろう。
しかも元気な双子がお腹の中で動き回っていては眠れないのも無理はない。
ウサギ族はどちらであっても妊娠は可能だが、アズールさまのように男性の場合はお腹を切って産むしかない。
いや、たとえウサギ族の女性であっても、小さな身体では産道を通って子を産むことは難しいのだという。
なので、ここ100年ほどの間に生まれたウサギ族の方々は皆、帝王切開で出産をなさっている。
お腹を切る上で最も重要なことはメスが入る場所を空けておかなければいけないということだ。
ただでさえ、華奢なアズールさまは脂肪も少なく、お腹の皮膚のすぐ近くにお子さまがいらっしゃる。
だから少しでもずれようものなら、鋭いメスでお子さま方が怪我をしてしまうこともありうるのだ。
これ以上、お子さま方が大きくなられるとその場所も無くなってしまう。
今日、私をお呼びくださったのは本当に素晴らしいタイミングだったといえよう。
すぐに明日の手術に向けて準備を整えなければ。
私は急いでヴォルフ公爵さまと奥方さまに伝えに向かった。
「予定が早まりまして、明日、アズールさまの手術を執り行うこととなりました」
「何か問題でもあったのか?」
「いえ、今が出産するにあたって一番いいタイミングなのです」
「アントンがそこまでいうのなら、其方に任せるとしよう。あの手術室はもうすでにいつ使っても問題のない様に整えている。今日中に其方が確認して必要なものがあれば、すぐに用意させるとしよう」
「はい。ありがとうございます。それから、奥方さまにお願いがございます」
「何かしら?」
「アズールさまがご出産された後、お子さま方を洗い清めていただく役を務めていただきたいのです。お子さまがお二人いらっしゃいますので、お一人はベン殿にお任せするのですが、もうお一人は奥方さまにお任せしてもよろしゅうございますか?」
「ええ。それは構わないけれど、ルーディーがしなくていいのかしら?」
「ルーディーさまにはアズールさまのおそばにいていただくという大役がございます」
その言葉に奥方さまは納得の表情を浮かべられた。
「アズールもルーディーがそばにいた方が安心だものね。わかったわ、任せてちょうだい」
これで明日は大丈夫だ。
帰る前に手術室に立ち寄ると、ベン殿がいた。
「いつも整えてくださっていたのですか?」
「はい。アズールさまとお子さまのためですから」
「アズールさまは明日ご出産なさることになりました。ベン殿、明日はよろしくお願いします」
「明日……。とうとう、お子さま方にお会いできるのですね。はい。このベン、命にかえてもお手伝いさせていただきます」
「ふふっ。気合を入れすぎないように気をつけてくださいね」
ああ、公爵家の皆さまがついていれば、アズールさまのご出産も無事に終えられるだろう。
私も緊張しないように気をつけよう。
<sideアズール>
久しぶりにお腹の赤ちゃんたちが静かにしてくれていたので、ぐっすりと眠ることができた。
たっぷり寝て頭がスッキリしてる。
「ルー、おはよう」
「アズール、よく眠れたか?」
「うん。ルーがいてくれたから大丈夫だったよ」
「そうか。それならよかった。今日は出産だが、体調におかしなところはないか?」
「大丈夫。赤ちゃんたちもわかってるんじゃないかな。今日、外に出られるって」
「ふふっ。そうかもしれないな。アズール、私がずっとそばについているから心配はいらないからな」
ルーはきっと、僕が手術を少し怖がっていることに気づいていたんだ。
蒼央の時、何度も手術したことを話したことがあるから。
あの時は誰もそばについてくれる人はいなかった。
麻酔から覚めてもお父さんもお母さんもいなくて……手術の痛みに共感してもらうことも、頑張ったねと労ってもらうこともなかった。
ただ一人で痛みに耐えてたんだ。
「アズールに辛い思いはさせないよ」
「ルー、ありがとう」
ポコポコといつもより控えめに動くお腹の中で赤ちゃんたちも、僕を勇気づけてくれているのかもしれないと思ったら、怖いなんて思わなくなった。
「可愛い赤ちゃんたちにもうすぐ会えるんだね」
「ああ、そうだな」
ルーの優しい笑顔と温もりに包まれて、穏やかな時間を過ごしているとアントン先生がやってきた。
「アズールさま。お加減はよろしい様ですね。昨夜はよく眠れたようで安心しました」
「ルーのおかげだよ」
「そうですか。手術の間もルーディーさまにはお近くにいていただきますので。ご安心くださいね」
そう言って、アントン先生は手術の話をしてくれた。
手術の時はお腹だけに麻酔をして、痛みを感じないようにしてくれるんだって。
蒼央の時はいつも全身麻酔だったから、不思議な感じ。
意識があるのに、そこだけ痛みを感じないなんて……。
一体どんな感じなんだろうな。
ドキドキしながら、手術室に連れて行かれる。
この日のために僕たちの部屋のすぐ近くに手術室が作られたから、移動も楽だ。
もちろん、僕は動いてはいけないから、ベッドのまま移動。
出産が終わったらまた自分で歩ける様になるんだよね。
ここ数ヶ月はルーにずっと抱っこしてもらっていたからなんだか不思議な感じだ。
部屋から手術室に移動している最中にお父さまとお母さま、そしてお兄さまとティオが声をかけてくれた。
「アズール、心配しなくていいぞ」
「すぐそばに私もいるからね」
「アズール、大丈夫だぞ」
「アズールさま、応援していますね」
こんなふうに手術前に皆に声をかけてもらえるだけで本当に心強い。
僕は幸せものだ。
「ありがとう。僕、頑張ってくるね」
そう言うと、ルーは僕のベッドを押して手術室の中に入った。
あれほど大きく育っているのだ。
食事もできなくて当然だろう。
しかも元気な双子がお腹の中で動き回っていては眠れないのも無理はない。
ウサギ族はどちらであっても妊娠は可能だが、アズールさまのように男性の場合はお腹を切って産むしかない。
いや、たとえウサギ族の女性であっても、小さな身体では産道を通って子を産むことは難しいのだという。
なので、ここ100年ほどの間に生まれたウサギ族の方々は皆、帝王切開で出産をなさっている。
お腹を切る上で最も重要なことはメスが入る場所を空けておかなければいけないということだ。
ただでさえ、華奢なアズールさまは脂肪も少なく、お腹の皮膚のすぐ近くにお子さまがいらっしゃる。
だから少しでもずれようものなら、鋭いメスでお子さま方が怪我をしてしまうこともありうるのだ。
これ以上、お子さま方が大きくなられるとその場所も無くなってしまう。
今日、私をお呼びくださったのは本当に素晴らしいタイミングだったといえよう。
すぐに明日の手術に向けて準備を整えなければ。
私は急いでヴォルフ公爵さまと奥方さまに伝えに向かった。
「予定が早まりまして、明日、アズールさまの手術を執り行うこととなりました」
「何か問題でもあったのか?」
「いえ、今が出産するにあたって一番いいタイミングなのです」
「アントンがそこまでいうのなら、其方に任せるとしよう。あの手術室はもうすでにいつ使っても問題のない様に整えている。今日中に其方が確認して必要なものがあれば、すぐに用意させるとしよう」
「はい。ありがとうございます。それから、奥方さまにお願いがございます」
「何かしら?」
「アズールさまがご出産された後、お子さま方を洗い清めていただく役を務めていただきたいのです。お子さまがお二人いらっしゃいますので、お一人はベン殿にお任せするのですが、もうお一人は奥方さまにお任せしてもよろしゅうございますか?」
「ええ。それは構わないけれど、ルーディーがしなくていいのかしら?」
「ルーディーさまにはアズールさまのおそばにいていただくという大役がございます」
その言葉に奥方さまは納得の表情を浮かべられた。
「アズールもルーディーがそばにいた方が安心だものね。わかったわ、任せてちょうだい」
これで明日は大丈夫だ。
帰る前に手術室に立ち寄ると、ベン殿がいた。
「いつも整えてくださっていたのですか?」
「はい。アズールさまとお子さまのためですから」
「アズールさまは明日ご出産なさることになりました。ベン殿、明日はよろしくお願いします」
「明日……。とうとう、お子さま方にお会いできるのですね。はい。このベン、命にかえてもお手伝いさせていただきます」
「ふふっ。気合を入れすぎないように気をつけてくださいね」
ああ、公爵家の皆さまがついていれば、アズールさまのご出産も無事に終えられるだろう。
私も緊張しないように気をつけよう。
<sideアズール>
久しぶりにお腹の赤ちゃんたちが静かにしてくれていたので、ぐっすりと眠ることができた。
たっぷり寝て頭がスッキリしてる。
「ルー、おはよう」
「アズール、よく眠れたか?」
「うん。ルーがいてくれたから大丈夫だったよ」
「そうか。それならよかった。今日は出産だが、体調におかしなところはないか?」
「大丈夫。赤ちゃんたちもわかってるんじゃないかな。今日、外に出られるって」
「ふふっ。そうかもしれないな。アズール、私がずっとそばについているから心配はいらないからな」
ルーはきっと、僕が手術を少し怖がっていることに気づいていたんだ。
蒼央の時、何度も手術したことを話したことがあるから。
あの時は誰もそばについてくれる人はいなかった。
麻酔から覚めてもお父さんもお母さんもいなくて……手術の痛みに共感してもらうことも、頑張ったねと労ってもらうこともなかった。
ただ一人で痛みに耐えてたんだ。
「アズールに辛い思いはさせないよ」
「ルー、ありがとう」
ポコポコといつもより控えめに動くお腹の中で赤ちゃんたちも、僕を勇気づけてくれているのかもしれないと思ったら、怖いなんて思わなくなった。
「可愛い赤ちゃんたちにもうすぐ会えるんだね」
「ああ、そうだな」
ルーの優しい笑顔と温もりに包まれて、穏やかな時間を過ごしているとアントン先生がやってきた。
「アズールさま。お加減はよろしい様ですね。昨夜はよく眠れたようで安心しました」
「ルーのおかげだよ」
「そうですか。手術の間もルーディーさまにはお近くにいていただきますので。ご安心くださいね」
そう言って、アントン先生は手術の話をしてくれた。
手術の時はお腹だけに麻酔をして、痛みを感じないようにしてくれるんだって。
蒼央の時はいつも全身麻酔だったから、不思議な感じ。
意識があるのに、そこだけ痛みを感じないなんて……。
一体どんな感じなんだろうな。
ドキドキしながら、手術室に連れて行かれる。
この日のために僕たちの部屋のすぐ近くに手術室が作られたから、移動も楽だ。
もちろん、僕は動いてはいけないから、ベッドのまま移動。
出産が終わったらまた自分で歩ける様になるんだよね。
ここ数ヶ月はルーにずっと抱っこしてもらっていたからなんだか不思議な感じだ。
部屋から手術室に移動している最中にお父さまとお母さま、そしてお兄さまとティオが声をかけてくれた。
「アズール、心配しなくていいぞ」
「すぐそばに私もいるからね」
「アズール、大丈夫だぞ」
「アズールさま、応援していますね」
こんなふうに手術前に皆に声をかけてもらえるだけで本当に心強い。
僕は幸せものだ。
「ありがとう。僕、頑張ってくるね」
そう言うと、ルーは僕のベッドを押して手術室の中に入った。
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