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第三章
突然の訪問
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<sideフィデリオ>
「なんだかやけに城内が静かだと思ったら、アズールとルーディーはどこかに出かけているのか?」
「はい。今日はご夫夫でアズールさまのご実家にお里帰りをなさっておいででございます」
「ああ、そうだったな。だから、ティオもヴェルナーもいないのか」
陛下は早めに仕事が終わったから、ルーディーさまのいないうちにアズールさまとお茶をしようと目論んでいらっしゃったのに、当てが外れたようだ。
ティオさまもいらっしゃらないとわかってたいそう残念がっておられる。
まぁ、私も残念に思っているうちの一人なのだが、アズールさまが嬉しそうに外出なさったのを見ているだけに残念だとばかり言ってはいられない。
いつもはアズールさまとティオさま、ヴェルナー殿との楽しいお茶の時間を過ごさせてもらっているのだから、今日くらいは我慢も必要だろう。
今は子どものように拗ねておられる陛下の相手をするとしようか。
「陛下、話し相手なら私が……」
「お前と二人で今更何を話すのだ?」
「なんでもよろしいではございませんか。ルーディーさまのことでもアズールさまのことでも構いませんよ」
「うーん、そうだな………………」
やはり、というか当然とでもいうのか、陛下は考え込んだまま口を開くことはなかった。
流石に私にはアズールさまがたの代わりにはなれなかったようだ。
仕方がない。
それは最初から分かりきったことだ。
それでも今日はアズールさまとルーディーさまは公爵家にお泊まりになるのだし、明日まではなんとかお相手を務めなければいけない。
さて、どうしたものか……。
静寂に包まれた部屋の中で私も考え込んでいると、突然部屋の扉を叩く音が聞こえた。
急いで扉を開ければ、
「お寛ぎのところ失礼致します。ただいま、ヴォルフ公爵さまと奥方さまがお越しになりました。至急陛下への御目通りをご希望なさっておられます。いかがなさいますか?」
と伝令係の者が伝えにきた。
今、ルーディーさまとアズールさまが公爵家にいらっしゃるはずなのにご夫妻でお越しになるとは一体どういうことだろう?
まさか、何か大変なこともで起こったのではないだろうか?
私がそんなことを思ったと同時に陛下も同じ考えに至ったようだ。
「すぐに行く! 応接室に案内しておくんだ!」
「はっ。承知しました」
陛下からの直々の指示に伝令係は頭を下げ、急いで客人の元に向かった。
扉を閉め、陛下の元に戻ると
「フィデリオ、其方も一緒についてきてくれ」
と仰られた。
「もちろんでございます。すぐに参りましょう」
お二人が待っているはずの応接室までの道のりがやたら長く感じられた。
それにしても一体何があったというのだろう?
今頃久しぶりに里帰りなさったアズールさまと楽しい時間を過ごしていらっしゃると思っていたのに。
だが、ここで考えていても全く想像もつかない。
とにかく会って話を聞くしかないのだ。
応接室につき、扉を開き真っ先にヴォルフォ公爵夫妻の表情を見た。
やつれたり青褪めたりしている様子がないということは、悪い話ではないのかもしれない。
だが、決めつけはいけない。
「一体どうしたというのだ? しかも二人揃ってくるなど珍しい」
「突然お伺いいたしまして申し訳ございません。すぐにご報告するべき事案がございまして馳せ参じました」
「すぐに報告すべきこととはなんだ?」
陛下の言葉にヴォルフ公爵は隣にいらっしゃる奥方さまと笑顔で顔を見合わせてからゆっくりと口を開いた。
「はい。実は、アズールに子ができました」
「はっ?」
「えっ?」
思いがけない話に私も、そして陛下も驚きの声しか出なかった。
アズールさまに、御子が?
いつかはそんな報告を受ける日が来ると思っていたがまさかこんなに早く受けることになるとは思っても見なかった。
「い、いま、アズールに、子ができたと申したか?」
「はい。その通りでございます。医師の診断も受けまして、間違いないとのことでございます」
「うおーっ!!!! なんとめでたいことだ!!! 宴だ! 宴だ!! フィデリオ、すぐに宴の準備をするのだ!!!」
陛下は私以上に興奮しきった様子で雄叫びをあげ尻尾をバッサバッサと振り乱しながら、宴の準備を! と何度も言い続けていた。
「なんだかやけに城内が静かだと思ったら、アズールとルーディーはどこかに出かけているのか?」
「はい。今日はご夫夫でアズールさまのご実家にお里帰りをなさっておいででございます」
「ああ、そうだったな。だから、ティオもヴェルナーもいないのか」
陛下は早めに仕事が終わったから、ルーディーさまのいないうちにアズールさまとお茶をしようと目論んでいらっしゃったのに、当てが外れたようだ。
ティオさまもいらっしゃらないとわかってたいそう残念がっておられる。
まぁ、私も残念に思っているうちの一人なのだが、アズールさまが嬉しそうに外出なさったのを見ているだけに残念だとばかり言ってはいられない。
いつもはアズールさまとティオさま、ヴェルナー殿との楽しいお茶の時間を過ごさせてもらっているのだから、今日くらいは我慢も必要だろう。
今は子どものように拗ねておられる陛下の相手をするとしようか。
「陛下、話し相手なら私が……」
「お前と二人で今更何を話すのだ?」
「なんでもよろしいではございませんか。ルーディーさまのことでもアズールさまのことでも構いませんよ」
「うーん、そうだな………………」
やはり、というか当然とでもいうのか、陛下は考え込んだまま口を開くことはなかった。
流石に私にはアズールさまがたの代わりにはなれなかったようだ。
仕方がない。
それは最初から分かりきったことだ。
それでも今日はアズールさまとルーディーさまは公爵家にお泊まりになるのだし、明日まではなんとかお相手を務めなければいけない。
さて、どうしたものか……。
静寂に包まれた部屋の中で私も考え込んでいると、突然部屋の扉を叩く音が聞こえた。
急いで扉を開ければ、
「お寛ぎのところ失礼致します。ただいま、ヴォルフ公爵さまと奥方さまがお越しになりました。至急陛下への御目通りをご希望なさっておられます。いかがなさいますか?」
と伝令係の者が伝えにきた。
今、ルーディーさまとアズールさまが公爵家にいらっしゃるはずなのにご夫妻でお越しになるとは一体どういうことだろう?
まさか、何か大変なこともで起こったのではないだろうか?
私がそんなことを思ったと同時に陛下も同じ考えに至ったようだ。
「すぐに行く! 応接室に案内しておくんだ!」
「はっ。承知しました」
陛下からの直々の指示に伝令係は頭を下げ、急いで客人の元に向かった。
扉を閉め、陛下の元に戻ると
「フィデリオ、其方も一緒についてきてくれ」
と仰られた。
「もちろんでございます。すぐに参りましょう」
お二人が待っているはずの応接室までの道のりがやたら長く感じられた。
それにしても一体何があったというのだろう?
今頃久しぶりに里帰りなさったアズールさまと楽しい時間を過ごしていらっしゃると思っていたのに。
だが、ここで考えていても全く想像もつかない。
とにかく会って話を聞くしかないのだ。
応接室につき、扉を開き真っ先にヴォルフォ公爵夫妻の表情を見た。
やつれたり青褪めたりしている様子がないということは、悪い話ではないのかもしれない。
だが、決めつけはいけない。
「一体どうしたというのだ? しかも二人揃ってくるなど珍しい」
「突然お伺いいたしまして申し訳ございません。すぐにご報告するべき事案がございまして馳せ参じました」
「すぐに報告すべきこととはなんだ?」
陛下の言葉にヴォルフ公爵は隣にいらっしゃる奥方さまと笑顔で顔を見合わせてからゆっくりと口を開いた。
「はい。実は、アズールに子ができました」
「はっ?」
「えっ?」
思いがけない話に私も、そして陛下も驚きの声しか出なかった。
アズールさまに、御子が?
いつかはそんな報告を受ける日が来ると思っていたがまさかこんなに早く受けることになるとは思っても見なかった。
「い、いま、アズールに、子ができたと申したか?」
「はい。その通りでございます。医師の診断も受けまして、間違いないとのことでございます」
「うおーっ!!!! なんとめでたいことだ!!! 宴だ! 宴だ!! フィデリオ、すぐに宴の準備をするのだ!!!」
陛下は私以上に興奮しきった様子で雄叫びをあげ尻尾をバッサバッサと振り乱しながら、宴の準備を! と何度も言い続けていた。
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