真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

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第三章

驚きすぎて言葉にならない

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<sideヴィルヘルム(ヴォルフ公爵)>

ああ、邪魔になってはいけないと部屋に来てみたはいいが、アズールのあんな姿を見てしまった後では何も手につかない。
落ち着かなければと思えば思うほど、アズールの苦しげな顔がチラついてどうしていいかわからないんだ。

こんな時こそ、この家の当主としてしっかりしなければと思うのに気持ちがいうことを聞かない。

今まで病気らしい病気もしたことがなかったから、あのように弱っている姿を目にしたこともほとんどない。
あるとしたら、ルーディーが次期王と認められるための儀式でアズールとしばらく離れたあの時だけだ。

初めてあんなに長い間、ルーディーと離れ離れになったアズールは寂しさに食事も取れず、眠れなくなり、倒れてしまったのだったな。

アズールの精神状態を穏やかに保つためにはルーディーの存在が必要不可欠なのだとあの時改めて感じたのだ。
だからあの日以来、アズールがルーディーに泊まって欲しいと言った時は決して反対はしなかった。

その時のアズールがルーディーがそばにいることを求めていると思ったからだ。
それでもルーディーにとっては辛い日々だったことだろう。
愛しいつがいがそばにいても触れることも許されないのだから。

そう考えれば、ルーディーはよく頑張ってくれたものだ。

さっき、アズールの異変にいち早く気づいたのもルーディーだったし、アズールの口から異物を取り除き口内を洗浄してくれたのもルーディーだった。

伴侶なのだから当然と言えばそうなのだろうが、なかなかあのように素早く動けるものではない。

そのルーディーがついてくれているのだ。
きっと大丈夫に決まっている。
だが……早く、私を安堵させて欲しい。
アズールが大丈夫なのだと、心の底から安心したいのだ。

はぁーーっ。

私がこの部屋に戻ってきてから、もう何度目かになる大きなため息を吐いたところで、アリーシャが戻ってきた。

「ヴィル、お医者さまがお帰りになったわ」

「ああっ、アリーシャっ!! 待っていたぞ! それで、アズールはなんだって? やはり毒か? そうなのか?」

今まで待ちかねていた分が、一気に口から溢れてしまう。

「ヴィル! 落ち着いて! とりあえず、座らせてちょうだい」

呆れたようにアリーシャに言われ、もう一度大きく深呼吸して落ち着きを取り戻した。

「あ、ああ。悪かった。つい、興奮してしまって……」

「ふふっ。仕方ないわ。アズールは今まで体調を崩したこともほとんど無かったものね。ねぇ、ヴィル。覚えてる? アズールの中に『あお』という子が存在しているって話」

「ああ。生まれてから病気ばかりでずっとベッドの上で過ごして、両親の愛情も何も知らずに哀しい最期を迎えた子だろう? その子がアズールとしてここで愛されるために生まれてきたって話していたな」

「ええ。だから、アズールはその子の分まで元気いっぱいだったわ。『あお』がベッドで過ごしていた時間を補うようにアズールは毎日幸せそうだったものね」

「――っ、アリーシャ……まさか、アズールは……私たちの前からいなくなったりしないよな?」

「ヴィルっ! そんなことあるわけないでしょう!」

アリーシャが突然『あお』の話をし始めたから、もしかしたら……なんて、考えてはいけない想像をしてしまった。

「それじゃあ一体アズールはどうしたのだ?」

「アズールに、子どもができたの」

「えっ……い、ま……なん、と?」

「だから、アズールのお腹に赤ちゃんがいるのよ。私たちの孫よ」

ま、ご? 私たちの?
えっ?
アズールに、こども……?

これは夢なのか?

満面の笑みを見せるアリーシャとは対照的に私は気持ちが追いつかない。

「ヴィル? どうしたの?」

「あ、いや……あまりにも、驚きすぎて……言葉が出なくて……」

ついこの間、アズールが城で住み始めたばかりだというのに、もう子が……。
なんだか急に遠くに行ってしまったような気がする。

「ええ、確かにそうね。でもおめでたいことだわ」

そう言われてハッと気づく。

そうだ、これはめでたいことなのだ。

「アリーシャ、その通りだ。めでたいことなのだな」

「ええ、『あお』が欲しかった家族がまた増えるのよ」

最期の時まで家族を感じることもできずに一人で命を終えた『あお』が、新しい命を生み育てる。
だから、アリーシャは『あお』の話をしたのか……。

「大切な家族をみんなで守らないといけないのだな」

「ええ、そうよ、ヴィル。私たちにとっても、そして陛下にとっても喜ばしいニュースだわ」

「ああ、そうだ! 私はすぐに陛下に報告をしてこよう!!」

「ちょっと待って、ヴィル。それはルーディーに聞いてからにしましょう」

「どうしてだ? こんなにめでたいことをすぐに陛下にもお伝えしなければいけないだろう?」

「陛下は子どもができたと聞けば、すぐにアズールに会いに来られるかもしれないわ。でも今のアズールは安静第一なの。アズールに無理をさせたくないわ」

そう言われればそうかもしれない。
今は何よりもアズールを最優先に考えるべきだな。

「アズールと子どものことに関しては必ずルーディーに意見を求めるようにしましょう」

「ああ、わかった。そうしよう」

そう答えると、アリーシャはようやく笑顔を見せてくれた。
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