186 / 280
第三章
みんなで一緒に
しおりを挟む
「クレイ、ちょっといいかしら?」
クレイとティオの部屋をノックすると、ものすごい勢いで扉が開いた。
アズールのことをよほど心配していたみたい。
「母上! アズールは? アズールはどうだったんですか?」
「クレイ、少し落ち着いてちょうだい。こんなところじゃなんだから、とりあえず中に入らせてもらえるかしら?」
「は、はい。どうぞ」
クレイはすぐにティオのところに飛んでいく。
さっきのアズール以上に青褪めているティオを抱き寄せて、背中を撫でているのが見える。
気にしないでと言ったけれど、ティオは優しいから責任を感じていたのね。
こんなに心配してくれるなんて……本当にアズールは愛されているわ。
「ティオ、アズールのことは心配いらないわ」
「でも、私のお菓子のせいで……」
「いいえ、違うわ。あのお菓子は何も悪くないの。アズールはね、赤ちゃんができたのよ」
「「えっ……」」
ティオが大きな目をぱちくりとさせると、涙がポロリとこぼれ落ちる。
クレイは条件反射のようにその涙を優しく拭いながら、
「あ、あの……母上、アズールに、子が……と聞こえたのですが……それは、本当ですか?」
と信じられないと言った様子で尋ねてくる。
確かに、まだまだ子どものアズールに子どもができたなんて信じられないかもしれないわね。
「ええ、本当よ。さっきお医者さまに診ていただいたの。間違いないわ」
「アズールさまに、お子が……」
「ええ、だからティオのお菓子が悪いわけでもなんでもないの。妊娠初期にはよくあることなのよ。好きなものが食べられなくなったり、今まで食べたことなかったものを望んだり……本当はアズールもあのお菓子を食べたかったはずなのよ。心配かけてごめんなさいね」
「いいえ、そんな……っ。おめでたいことですから、気になさらないでください! それよりもアズールさまは大丈夫なのですか?」
「今はルーディーがついているし、大丈夫よ。ただ、妊娠による身体の不調を治すお薬はないから、当分はベッドから動けないかもしれないわ」
「そうなのですね。アズールさまが何も食べられなくなったら心配ですね」
「ふふっ。それは大丈夫よ。これから自分で何が食べたいかがわかってくるから。お医者さまも好きなものを好きなだけと仰っていたから、アズールも目を覚ましたらきっと自分の食べたいものを伝えてくると思うわ」
「そういうものなのですね」
「ええ。私も、甘いものが大好きだったのに、クレイを孕った時は一切受け付けなくなってね。お肉ばかりひたすら食べていた時期があったわ。アズールの時は果物に嵌まってね……」
その頃の思い出を話すとティオの表情にようやく笑顔が現れた。
「だから、またアズールが甘いものを食べられるようになったら、あのお菓子を食べさせてあげて。あの子、本当に嬉しそうにしていたから食べられなくて自分でもショックを受けていると思うわ」
「はい。お義母さま。私のことを気にかけてくださり、ありがとうございます」
優しいティオの笑顔に私も嬉しくなる。
それに引き換え、クレイはなんだかショックを受けているみたいね。
本当にこの子ったら……。
「クレイ? 一体どうしたの?」
「えっ、いえ。こんなに早くアズールに子ができるとは思っていなかったもので、驚いてしまって……」
「アズールとルーディーはもう正式な夫夫なのだから、いつできてもおかしくはないでしょう?」
「そうなのですが……まだ実感がわかないというか……」
「ふふっ。たしかにそうね。あのアズールが親になるなんて、私も信じられないけれど、それはみんな一緒よ。私もあなたを孕った時は自分が親になるなんて信じられなかったもの。みんな少しずつ親になっていくの。それに、アズールたちの子はあなたたちの子でもあるって話、覚えているでしょう?」
クレイとティオが運命の相手だとわかった時、誰に跡を継がせるかという話になって、アズールたちの子どもを養子にということで決まったの。
だから、アズールたちの子どもは二人の子どもであるけれど、生まれたての赤ちゃんをアズールから引き離すことはできないし、大きくなってから誰が公爵家の跡を継ぐかなんて選ばせるのも可哀想だし、最初からみんなで育てていくのが一番だと思っている。
だから、アズールが親となったと同時にクレイとティオも親となるべく勉強をしていかないとね。
「だから、クレイ。あなたも一緒に親になるの。みんなで赤ちゃんを育てていきましょう」
「はい。母上」
「じゃあ、私はヴィルにアズールのことを伝えてくるわ」
「まだ父上にはお話になっていなかったのですか?」
てっきり自分たちが最後だと思っていたのだろう。
でも
「ええ。早くティオを安心させてあげたかったから」
それに尽きる。
優しいティオが悲しむのは見たくないものね。
「――っ、お義母さま……。ありがとうございます」
「ふふっ。いいのよ。しばらくは家の中がバタバタするかもしれないけれど、気にしないでちょうだい」
「はい。私にもお手伝いできることがあれば、なんでも仰ってください」
「ええ、ありがとう。頼りにしてるわ」
そう言って、私はクレイたちの部屋を出た。
さて、次はヴィルね。
もしかしたらアズールの妊娠に気づいているかも……と思いたいけれど、多分気づいていないわね。
そういうところは鈍いもの。
ふふっ。きっと誰よりも驚いてしまいそうだわ。
クレイとティオの部屋をノックすると、ものすごい勢いで扉が開いた。
アズールのことをよほど心配していたみたい。
「母上! アズールは? アズールはどうだったんですか?」
「クレイ、少し落ち着いてちょうだい。こんなところじゃなんだから、とりあえず中に入らせてもらえるかしら?」
「は、はい。どうぞ」
クレイはすぐにティオのところに飛んでいく。
さっきのアズール以上に青褪めているティオを抱き寄せて、背中を撫でているのが見える。
気にしないでと言ったけれど、ティオは優しいから責任を感じていたのね。
こんなに心配してくれるなんて……本当にアズールは愛されているわ。
「ティオ、アズールのことは心配いらないわ」
「でも、私のお菓子のせいで……」
「いいえ、違うわ。あのお菓子は何も悪くないの。アズールはね、赤ちゃんができたのよ」
「「えっ……」」
ティオが大きな目をぱちくりとさせると、涙がポロリとこぼれ落ちる。
クレイは条件反射のようにその涙を優しく拭いながら、
「あ、あの……母上、アズールに、子が……と聞こえたのですが……それは、本当ですか?」
と信じられないと言った様子で尋ねてくる。
確かに、まだまだ子どものアズールに子どもができたなんて信じられないかもしれないわね。
「ええ、本当よ。さっきお医者さまに診ていただいたの。間違いないわ」
「アズールさまに、お子が……」
「ええ、だからティオのお菓子が悪いわけでもなんでもないの。妊娠初期にはよくあることなのよ。好きなものが食べられなくなったり、今まで食べたことなかったものを望んだり……本当はアズールもあのお菓子を食べたかったはずなのよ。心配かけてごめんなさいね」
「いいえ、そんな……っ。おめでたいことですから、気になさらないでください! それよりもアズールさまは大丈夫なのですか?」
「今はルーディーがついているし、大丈夫よ。ただ、妊娠による身体の不調を治すお薬はないから、当分はベッドから動けないかもしれないわ」
「そうなのですね。アズールさまが何も食べられなくなったら心配ですね」
「ふふっ。それは大丈夫よ。これから自分で何が食べたいかがわかってくるから。お医者さまも好きなものを好きなだけと仰っていたから、アズールも目を覚ましたらきっと自分の食べたいものを伝えてくると思うわ」
「そういうものなのですね」
「ええ。私も、甘いものが大好きだったのに、クレイを孕った時は一切受け付けなくなってね。お肉ばかりひたすら食べていた時期があったわ。アズールの時は果物に嵌まってね……」
その頃の思い出を話すとティオの表情にようやく笑顔が現れた。
「だから、またアズールが甘いものを食べられるようになったら、あのお菓子を食べさせてあげて。あの子、本当に嬉しそうにしていたから食べられなくて自分でもショックを受けていると思うわ」
「はい。お義母さま。私のことを気にかけてくださり、ありがとうございます」
優しいティオの笑顔に私も嬉しくなる。
それに引き換え、クレイはなんだかショックを受けているみたいね。
本当にこの子ったら……。
「クレイ? 一体どうしたの?」
「えっ、いえ。こんなに早くアズールに子ができるとは思っていなかったもので、驚いてしまって……」
「アズールとルーディーはもう正式な夫夫なのだから、いつできてもおかしくはないでしょう?」
「そうなのですが……まだ実感がわかないというか……」
「ふふっ。たしかにそうね。あのアズールが親になるなんて、私も信じられないけれど、それはみんな一緒よ。私もあなたを孕った時は自分が親になるなんて信じられなかったもの。みんな少しずつ親になっていくの。それに、アズールたちの子はあなたたちの子でもあるって話、覚えているでしょう?」
クレイとティオが運命の相手だとわかった時、誰に跡を継がせるかという話になって、アズールたちの子どもを養子にということで決まったの。
だから、アズールたちの子どもは二人の子どもであるけれど、生まれたての赤ちゃんをアズールから引き離すことはできないし、大きくなってから誰が公爵家の跡を継ぐかなんて選ばせるのも可哀想だし、最初からみんなで育てていくのが一番だと思っている。
だから、アズールが親となったと同時にクレイとティオも親となるべく勉強をしていかないとね。
「だから、クレイ。あなたも一緒に親になるの。みんなで赤ちゃんを育てていきましょう」
「はい。母上」
「じゃあ、私はヴィルにアズールのことを伝えてくるわ」
「まだ父上にはお話になっていなかったのですか?」
てっきり自分たちが最後だと思っていたのだろう。
でも
「ええ。早くティオを安心させてあげたかったから」
それに尽きる。
優しいティオが悲しむのは見たくないものね。
「――っ、お義母さま……。ありがとうございます」
「ふふっ。いいのよ。しばらくは家の中がバタバタするかもしれないけれど、気にしないでちょうだい」
「はい。私にもお手伝いできることがあれば、なんでも仰ってください」
「ええ、ありがとう。頼りにしてるわ」
そう言って、私はクレイたちの部屋を出た。
さて、次はヴィルね。
もしかしたらアズールの妊娠に気づいているかも……と思いたいけれど、多分気づいていないわね。
そういうところは鈍いもの。
ふふっ。きっと誰よりも驚いてしまいそうだわ。
応援ありがとうございます!
65
お気に入りに追加
5,136
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる