真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

文字の大きさ
上 下
186 / 289
第三章

みんなで一緒に

しおりを挟む
「クレイ、ちょっといいかしら?」

クレイとティオの部屋をノックすると、ものすごい勢いで扉が開いた。
アズールのことをよほど心配していたみたい。

「母上! アズールは? アズールはどうだったんですか?」

「クレイ、少し落ち着いてちょうだい。こんなところじゃなんだから、とりあえず中に入らせてもらえるかしら?」

「は、はい。どうぞ」

クレイはすぐにティオのところに飛んでいく。
さっきのアズール以上に青褪めているティオを抱き寄せて、背中を撫でているのが見える。

気にしないでと言ったけれど、ティオは優しいから責任を感じていたのね。
こんなに心配してくれるなんて……本当にアズールは愛されているわ。

「ティオ、アズールのことは心配いらないわ」

「でも、私のお菓子のせいで……」

「いいえ、違うわ。あのお菓子は何も悪くないの。アズールはね、赤ちゃんができたのよ」

「「えっ……」」

ティオが大きな目をぱちくりとさせると、涙がポロリとこぼれ落ちる。
クレイは条件反射のようにその涙を優しく拭いながら、

「あ、あの……母上、アズールに、子が……と聞こえたのですが……それは、本当ですか?」

と信じられないと言った様子で尋ねてくる。

確かに、まだまだ子どものアズールに子どもができたなんて信じられないかもしれないわね。

「ええ、本当よ。さっきお医者さまに診ていただいたの。間違いないわ」

「アズールさまに、お子が……」

「ええ、だからティオのお菓子が悪いわけでもなんでもないの。妊娠初期にはよくあることなのよ。好きなものが食べられなくなったり、今まで食べたことなかったものを望んだり……本当はアズールもあのお菓子を食べたかったはずなのよ。心配かけてごめんなさいね」

「いいえ、そんな……っ。おめでたいことですから、気になさらないでください! それよりもアズールさまは大丈夫なのですか?」

「今はルーディーがついているし、大丈夫よ。ただ、妊娠による身体の不調を治すお薬はないから、当分はベッドから動けないかもしれないわ」

「そうなのですね。アズールさまが何も食べられなくなったら心配ですね」

「ふふっ。それは大丈夫よ。これから自分で何が食べたいかがわかってくるから。お医者さまも好きなものを好きなだけと仰っていたから、アズールも目を覚ましたらきっと自分の食べたいものを伝えてくると思うわ」

「そういうものなのですね」

「ええ。私も、甘いものが大好きだったのに、クレイを孕った時は一切受け付けなくなってね。お肉ばかりひたすら食べていた時期があったわ。アズールの時は果物に嵌まってね……」

その頃の思い出を話すとティオの表情にようやく笑顔が現れた。

「だから、またアズールが甘いものを食べられるようになったら、あのお菓子を食べさせてあげて。あの子、本当に嬉しそうにしていたから食べられなくて自分でもショックを受けていると思うわ」

「はい。お義母さま。私のことを気にかけてくださり、ありがとうございます」

優しいティオの笑顔に私も嬉しくなる。
それに引き換え、クレイはなんだかショックを受けているみたいね。
本当にこの子ったら……。

「クレイ? 一体どうしたの?」

「えっ、いえ。こんなに早くアズールに子ができるとは思っていなかったもので、驚いてしまって……」

「アズールとルーディーはもう正式な夫夫なのだから、いつできてもおかしくはないでしょう?」

「そうなのですが……まだ実感がわかないというか……」

「ふふっ。たしかにそうね。あのアズールが親になるなんて、私も信じられないけれど、それはみんな一緒よ。私もあなたを孕った時は自分が親になるなんて信じられなかったもの。みんな少しずつ親になっていくの。それに、アズールたちの子はあなたたちの子でもあるって話、覚えているでしょう?」

クレイとティオが運命の相手だとわかった時、誰に跡を継がせるかという話になって、アズールたちの子どもを養子にということで決まったの。
だから、アズールたちの子どもは二人の子どもであるけれど、生まれたての赤ちゃんをアズールから引き離すことはできないし、大きくなってから誰が公爵家の跡を継ぐかなんて選ばせるのも可哀想だし、最初からみんなで育てていくのが一番だと思っている。

だから、アズールが親となったと同時にクレイとティオも親となるべく勉強をしていかないとね。

「だから、クレイ。あなたも一緒に親になるの。みんなで赤ちゃんを育てていきましょう」

「はい。母上」

「じゃあ、私はヴィルにアズールのことを伝えてくるわ」

「まだ父上にはお話になっていなかったのですか?」

てっきり自分たちが最後だと思っていたのだろう。
でも

「ええ。早くティオを安心させてあげたかったから」

それに尽きる。
優しいティオが悲しむのは見たくないものね。

「――っ、お義母さま……。ありがとうございます」

「ふふっ。いいのよ。しばらくは家の中がバタバタするかもしれないけれど、気にしないでちょうだい」

「はい。私にもお手伝いできることがあれば、なんでも仰ってください」

「ええ、ありがとう。頼りにしてるわ」

そう言って、私はクレイたちの部屋を出た。

さて、次はヴィルね。
もしかしたらアズールの妊娠に気づいているかも……と思いたいけれど、多分気づいていないわね。
そういうところは鈍いもの。

ふふっ。きっと誰よりも驚いてしまいそうだわ。
しおりを挟む
感想 549

あなたにおすすめの小説

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...