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第三章
不思議な違和感と嬉しい出来事
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<sideアリーシャ>
アズールが帰ってきて、私の胸に飛び込んできた時、いつもよりほんのり高い体温とアズールではない匂いを仄かに感じて少し違和感を覚えた。
けれど、暑い外から来たばかりで暑かったのかもしれない。
匂いはきっとルーディーのものだろう。
そうに違いないと思っていた。
現にアズールからはルーディーの匂いがするのだから。
お菓子を買いに行っていたクレイとティオが合流して、ようやく家族団欒が訪れた。
美味しそうなお菓子を前に飛び跳ねて、笑顔を見せてくれるアズールはいつものまま。
やっぱりあの違和感は私の勘違いだったのかも。
そう思いながらもやっぱり少し気になって、お菓子を食べるアズールに注意を向けていると、一口含んだだけでみるみるうちにアズールの顔から血の気が引いて青ざめていく。
それにいち早く気づいたのはルーディーだった。
アズールは買ってきてくれたティオに気遣ってなかなか吐き出せずにいたけれど、ようやく口を開くとルーディーは素早くアズールの口から菓子を取り出し、口内を洗浄させ、アズールの口から完全に異物を除去した。
その素早さに驚きつつも、さすがだと感心してしまう。
ルーディーが急いで部屋に連れて行くのを見送りながら、ティオは膝から崩れ落ちそうになっていた。
無理もないわ。
自分が買ってきたもので、アズールがあんなことになってしまったのを目の当たりにしたのだもの。
けれど、アズールのあの状態には覚えがある。
だから、もしかして……という思いが頭をよぎった。
「アズールさまに何かあったら、私は……」
「大丈夫だ、義兄上がついていてくれるのだから。それにティオだけが責任を感じることはない。私も一緒だろう?」
「クレイさま……」
涙を流すティオを優しく抱きしめるクレイ。
大切な伴侶を守ろうとするその姿に親としては嬉しい気持ちでいっぱいだわ。
以前のクレイならきっと、いの一番にアズールに飛び込んで行ったはずだから。
ティオのことはクレイに任せておけば大丈夫そうね。
とりあえず今はアズールの状態を確認しなければ。
「クレイ、とにかくティオを連れて部屋に戻っていなさい。アズールの診察が終わったら話もできるはずだから。ティオ、アズールのことは気にしなくていいわ。大丈夫だからね」
「お義母さま……ありがとうございます」
ティオはクレイに抱きかかえられながら部屋を出ていった。
「アリーシャ。いやに落ち着いているが何かわかったことがあるのか?」
「ヴィル、いいえ。今はまだ予測の範囲を超えていないの。すぐにお医者さんが来られるから診てもらったらわかるはずよ。それまでヴィルも待っていてもらえるかしら」
「ああ、心配だが、私がうろちょろしていても邪魔にしかならないだろうからな。だが、何かわかったらすぐに私を呼んでくれ。いいな?」
「ええ。わかったわ」
ヴィルはまだ不安げな表情をしていたけれど、私にキスをして部屋に戻って行った。
ヴィルの唇が少し震えていたわね。
アズールのことが心配でたまらないんだわ。
でも、もし私の考えが当たっていたら……。
いえ、まだ確定するまではそんなことを考えてはいけないわね。
私こそ落ち着かないと!
「奥さま。お医者さまがお越しになりました」
「よかった、早く来ていただけたのね。すぐにアズールの部屋に行きましょう!」
「奥さま、アズールさまが食べ物をお吐きになったとか?」
「ええ、口に含んだ途端に青褪めたの。吐き出した後、口内も洗浄したけれどまだ意識は戻っていないみたい」
「なるほど……」
ある程度の話をして、アズールたちの部屋にお医者さまを連れて行った途端、お医者さまの表情変わったのを私は見逃さなかった。
やっぱり……。
そんな思いが頭から離れない。
けれど、何も言わずにただじっとお医者さまの診断を見守っていると、
「王子。おめでとうございます」
とお医者さまが笑顔でそういったの。
ああ、やっぱりそうだったのね!!!
だって、私がクレイを孕った時とよく似ていたのだもの。
大好きだったものが受け付けられなくなって、吐いてばかりだったものね。
アズールの時は反対に大好きなものだけを食べたいだけ食べていたわ。
子どもによってこうも違うものだと教えられたの。
アズールが甘いものが受け付けられずに、ルーディーと同じ食事を好むようになったということはもしかしたら、ただの狼族ではなく、狼獣人の可能性もありそうね。
ふふっ。それはまた気がが早いわね。
それにしても私もおばあちゃんと呼ばれることになるのね。
ああ、アズールはまだ子どもだとばかり思っていたのに……なんだか不思議な気分だわ。
ルーディーはお医者さまからの注意事項をしっかりと深く心に留めているみたい。
アズールは元気いっぱいだから、ベッドから動かないように言ってもついつい動いてしまいそうだものね。
ここはみんなで協力してアズールとお腹の子どもたちを守らないとね!!
お医者さまが帰って、寝室にルーディーとアズール、そして私の三人だけが残った。
「ルーディー、おめでとう。新しい命ができるなんてとても嬉しいことだわ」
「はい。義母上。私も嬉しいです。ですが、これからの生活を考えると心配も多くて……」
「ええ。わかるわ。けれど、何も一人で気負うことはないわ。みんなでアズールとお腹の子どもたちを大切にしていきましょう」
「そうですね。義母上、ありがとうございます」
「今日はこのまま泊まる予定だったから、ここでゆっくり休んでいるといいわ。あ、ヴィルやクレイたちにはルーディーから伝える? その間、私がアズールを見ていましょうか?」
「申し訳ありませんが、義母上にお願いしてもよろしいですか? 私は目が覚めた時にアズールのそばにいてやりたいのです」
「ふふっ。そうね。アズールもその方が喜ぶわ。陛下にも早馬を出してご報告しておきましょうね」
「お願いします」
ルーディーはそう言いながらも、意識はアズールにずっと向いたまま。
ふふっ。それでいいの。
私は抱き合う二人を見ながら、そっと寝室の扉を閉めた。
アズールが帰ってきて、私の胸に飛び込んできた時、いつもよりほんのり高い体温とアズールではない匂いを仄かに感じて少し違和感を覚えた。
けれど、暑い外から来たばかりで暑かったのかもしれない。
匂いはきっとルーディーのものだろう。
そうに違いないと思っていた。
現にアズールからはルーディーの匂いがするのだから。
お菓子を買いに行っていたクレイとティオが合流して、ようやく家族団欒が訪れた。
美味しそうなお菓子を前に飛び跳ねて、笑顔を見せてくれるアズールはいつものまま。
やっぱりあの違和感は私の勘違いだったのかも。
そう思いながらもやっぱり少し気になって、お菓子を食べるアズールに注意を向けていると、一口含んだだけでみるみるうちにアズールの顔から血の気が引いて青ざめていく。
それにいち早く気づいたのはルーディーだった。
アズールは買ってきてくれたティオに気遣ってなかなか吐き出せずにいたけれど、ようやく口を開くとルーディーは素早くアズールの口から菓子を取り出し、口内を洗浄させ、アズールの口から完全に異物を除去した。
その素早さに驚きつつも、さすがだと感心してしまう。
ルーディーが急いで部屋に連れて行くのを見送りながら、ティオは膝から崩れ落ちそうになっていた。
無理もないわ。
自分が買ってきたもので、アズールがあんなことになってしまったのを目の当たりにしたのだもの。
けれど、アズールのあの状態には覚えがある。
だから、もしかして……という思いが頭をよぎった。
「アズールさまに何かあったら、私は……」
「大丈夫だ、義兄上がついていてくれるのだから。それにティオだけが責任を感じることはない。私も一緒だろう?」
「クレイさま……」
涙を流すティオを優しく抱きしめるクレイ。
大切な伴侶を守ろうとするその姿に親としては嬉しい気持ちでいっぱいだわ。
以前のクレイならきっと、いの一番にアズールに飛び込んで行ったはずだから。
ティオのことはクレイに任せておけば大丈夫そうね。
とりあえず今はアズールの状態を確認しなければ。
「クレイ、とにかくティオを連れて部屋に戻っていなさい。アズールの診察が終わったら話もできるはずだから。ティオ、アズールのことは気にしなくていいわ。大丈夫だからね」
「お義母さま……ありがとうございます」
ティオはクレイに抱きかかえられながら部屋を出ていった。
「アリーシャ。いやに落ち着いているが何かわかったことがあるのか?」
「ヴィル、いいえ。今はまだ予測の範囲を超えていないの。すぐにお医者さんが来られるから診てもらったらわかるはずよ。それまでヴィルも待っていてもらえるかしら」
「ああ、心配だが、私がうろちょろしていても邪魔にしかならないだろうからな。だが、何かわかったらすぐに私を呼んでくれ。いいな?」
「ええ。わかったわ」
ヴィルはまだ不安げな表情をしていたけれど、私にキスをして部屋に戻って行った。
ヴィルの唇が少し震えていたわね。
アズールのことが心配でたまらないんだわ。
でも、もし私の考えが当たっていたら……。
いえ、まだ確定するまではそんなことを考えてはいけないわね。
私こそ落ち着かないと!
「奥さま。お医者さまがお越しになりました」
「よかった、早く来ていただけたのね。すぐにアズールの部屋に行きましょう!」
「奥さま、アズールさまが食べ物をお吐きになったとか?」
「ええ、口に含んだ途端に青褪めたの。吐き出した後、口内も洗浄したけれどまだ意識は戻っていないみたい」
「なるほど……」
ある程度の話をして、アズールたちの部屋にお医者さまを連れて行った途端、お医者さまの表情変わったのを私は見逃さなかった。
やっぱり……。
そんな思いが頭から離れない。
けれど、何も言わずにただじっとお医者さまの診断を見守っていると、
「王子。おめでとうございます」
とお医者さまが笑顔でそういったの。
ああ、やっぱりそうだったのね!!!
だって、私がクレイを孕った時とよく似ていたのだもの。
大好きだったものが受け付けられなくなって、吐いてばかりだったものね。
アズールの時は反対に大好きなものだけを食べたいだけ食べていたわ。
子どもによってこうも違うものだと教えられたの。
アズールが甘いものが受け付けられずに、ルーディーと同じ食事を好むようになったということはもしかしたら、ただの狼族ではなく、狼獣人の可能性もありそうね。
ふふっ。それはまた気がが早いわね。
それにしても私もおばあちゃんと呼ばれることになるのね。
ああ、アズールはまだ子どもだとばかり思っていたのに……なんだか不思議な気分だわ。
ルーディーはお医者さまからの注意事項をしっかりと深く心に留めているみたい。
アズールは元気いっぱいだから、ベッドから動かないように言ってもついつい動いてしまいそうだものね。
ここはみんなで協力してアズールとお腹の子どもたちを守らないとね!!
お医者さまが帰って、寝室にルーディーとアズール、そして私の三人だけが残った。
「ルーディー、おめでとう。新しい命ができるなんてとても嬉しいことだわ」
「はい。義母上。私も嬉しいです。ですが、これからの生活を考えると心配も多くて……」
「ええ。わかるわ。けれど、何も一人で気負うことはないわ。みんなでアズールとお腹の子どもたちを大切にしていきましょう」
「そうですね。義母上、ありがとうございます」
「今日はこのまま泊まる予定だったから、ここでゆっくり休んでいるといいわ。あ、ヴィルやクレイたちにはルーディーから伝える? その間、私がアズールを見ていましょうか?」
「申し訳ありませんが、義母上にお願いしてもよろしいですか? 私は目が覚めた時にアズールのそばにいてやりたいのです」
「ふふっ。そうね。アズールもその方が喜ぶわ。陛下にも早馬を出してご報告しておきましょうね」
「お願いします」
ルーディーはそう言いながらも、意識はアズールにずっと向いたまま。
ふふっ。それでいいの。
私は抱き合う二人を見ながら、そっと寝室の扉を閉めた。
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