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第三章
医師の見立て
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<sideルーディー>
クレイとティオが場に加わり、ようやく家族揃っての楽しい時間となるはずだった。
いつものように私の膝の上でぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ね、ティオがアズールのために用意してくれたお菓子を楽しみにしていたのに。
――ルー、あーん
そう言って、可愛い口を開けてくれたのに。
いま、私の腕の中にいるアズールは青白い顔をしたまま、微動だにしない。
いつもアズールに食べさせる時は、たとえどんなものでも匂いを嗅ぐのは忘れない。
誰にも感じられないほどの微量な毒であっても、私には見つけられるからだ。
今日の菓子にもどこにも異常は見当たらなかった。
けれど、アズールがあれを口にして体調を崩したのは事実。
それでも飲み込まなかったのはアズールの防衛本能が働いたからか。
舌の上に乗せたままのその状態で吐き出したから、急いで洗浄したがアズールの体調はまだ戻らぬまま。
ああ、こんなことになろうとは……。
アズールっ! アズールっ!!
私がもっと注意を払っていればよかった……。
さっきまでいつもと変わらぬ笑顔を見せてくれていたのに……。
アズールだけを苦しめていることが辛い。
考えたくもないが、もしアズールに万が一のことが起きれば私は生きていられないだろう。
そして、この国も終わりを迎えるのだ。
ああ、アズール……。
どうか元気になってその瞳に私を映してくれ。
そして、もう一度笑顔を見せてくれ……。
アズールを抱きしめたままベッドに横たわっていると、
「ルーディー! 先生がいらしたわ」
と義母上の声が聞こえた。
「中にどうぞ」
私の声に義母上と公爵家専属医師が入ってくる。
「アズールを診てやってくれ」
「はい」
医師はアズールに視線を向けたと思ったら、一瞬何か表情を変えた。
なんだ、今のは?
しかし、医師はすぐに表情を和らげ今度は私に視線を向けた。
「触診の前に少しお伺いしますが、アズールさまはお菓子を召し上がった後体調を崩されたのですか?」
「いや、違う。一口口に入れたが、舌に乗せただけで違和感を感じたのか、飲み込むことができなかったようだ」
「なるほど。アズールさまについて最近変わったことはございませんでしたか?」
「最近変わったこと? それが今、関係あるのか?」
目の前に青白い顔をしたアズールがいるというのに、診察を始めない医師に苛立ちが募る。
「申し訳ございません。医師としていろんな可能性を考えたいのです。お教えいただけないでしょうか?」
「感情的になって悪かった。だが、変わったことといっても……」
「些細なことでも構いません。今までと少しでも違うことはございませんか?」
そう念を押されてここ最近のアズールの様子を思い出す。
「そういえば……ここ、最近寝る時間がいつもより長くなった気がするな。それに食事が私と同じものを食べたいと言って肉を前より多く食べるようになったな。といっても私に比べれば微々たるものだが」
「なるほど……」
医師は少し考え込んだ様子で
「脈を直に取らせていただいてもよろしゅうございますか?」
と尋ねてきた。
「直に? それは必要なことなのか?」
医師の診察とはいえ、通常は服の上からの脈診が一般的だ。
触れればそこに医師の匂いがついてしまうからだ。
「はい。どうかご了承いただけないでしょうか?」
獣人である私には、アズールに他の匂いがつくことはどうにも許し難いことだがアズールの命には変えられない。
なんせ、アズールはまだ青白い顔のまま私の腕の中で目を覚ますこともできないのだから。
「わかった。特別に許そう」
「はっ。ありがとうございます。それでは王子。アズールさまの左腕を捲って私にお見せください」
私は言われた通り、アズールの左腕の服をまくり手首をみせると、医師はそっと指を置き、目を瞑った。
そして、しばらくの間、静寂が訪れた。
この時間が永遠に感じられるほど長く感じた。
そして、医師はゆっくりと目をあけアズールの腕から指を離した。
「それで、何かわかったのか? アズールは一体どうしてしまったのだ?」
「王子。おめでとうございます」
「はっ? どういうことだ?」
「アズールさまはご懐妊されたようです」
「な――っ、ご、懐妊……っ、それは、まことか?」
「はい。間違いないと存じます。詳しい検査はまた後ほど、アズールさまが落ち着いてからにいたしましょう」
「アズールに、子が……。アズールの腹に私の子が……ああっ!! アズールっ!!」
あまりにも嬉しくて、思わず腕の中のアズールを抱きしめると、
「王子。今は一番大切な時期でございます。お優しくお願いいたします」
と注意を受け慌てて腕の力を緩める。
「これからどのようにしたら良いのだ?」
「はい。ウサギ族のお方は一度に数人の子を産むと言われておりますが、アズールさまはお身体が小さいので、もし多胎となるとかなりの負担がかかります。しかも妊娠初期は体調の変化が大きく現れますので、無理をなさらないようにして差し上げてください。できるだけご自分で歩いたりすることは避け、しばらくはベッドでお過ごしになられた方がよろしいかと存じます」
「なるほど。わかった。私が責任持ってアズールの世話をすると約束しよう。他に注意することはあるか?」
「妊娠にはお薬は使用できませんので、お食事は食べられないものは決して無理して召し上がらないようにしてください。それからアズールさまが食べたいと仰るものはお好きなだけ差し上げてください。アズールさまが食べたいと仰るものは全てお腹の子が食べたいものだと思っていただいて構いません」
「わかった。アズールの食べたいものだけだな。それも約束しよう」
「ほんの少しでも気になることがございましたら、いつでも私をお呼びください。すぐに参ります」
医師の頼もしい言葉が心強く感じる。
ああ、私も父になるのか……感慨深いな。
クレイとティオが場に加わり、ようやく家族揃っての楽しい時間となるはずだった。
いつものように私の膝の上でぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ね、ティオがアズールのために用意してくれたお菓子を楽しみにしていたのに。
――ルー、あーん
そう言って、可愛い口を開けてくれたのに。
いま、私の腕の中にいるアズールは青白い顔をしたまま、微動だにしない。
いつもアズールに食べさせる時は、たとえどんなものでも匂いを嗅ぐのは忘れない。
誰にも感じられないほどの微量な毒であっても、私には見つけられるからだ。
今日の菓子にもどこにも異常は見当たらなかった。
けれど、アズールがあれを口にして体調を崩したのは事実。
それでも飲み込まなかったのはアズールの防衛本能が働いたからか。
舌の上に乗せたままのその状態で吐き出したから、急いで洗浄したがアズールの体調はまだ戻らぬまま。
ああ、こんなことになろうとは……。
アズールっ! アズールっ!!
私がもっと注意を払っていればよかった……。
さっきまでいつもと変わらぬ笑顔を見せてくれていたのに……。
アズールだけを苦しめていることが辛い。
考えたくもないが、もしアズールに万が一のことが起きれば私は生きていられないだろう。
そして、この国も終わりを迎えるのだ。
ああ、アズール……。
どうか元気になってその瞳に私を映してくれ。
そして、もう一度笑顔を見せてくれ……。
アズールを抱きしめたままベッドに横たわっていると、
「ルーディー! 先生がいらしたわ」
と義母上の声が聞こえた。
「中にどうぞ」
私の声に義母上と公爵家専属医師が入ってくる。
「アズールを診てやってくれ」
「はい」
医師はアズールに視線を向けたと思ったら、一瞬何か表情を変えた。
なんだ、今のは?
しかし、医師はすぐに表情を和らげ今度は私に視線を向けた。
「触診の前に少しお伺いしますが、アズールさまはお菓子を召し上がった後体調を崩されたのですか?」
「いや、違う。一口口に入れたが、舌に乗せただけで違和感を感じたのか、飲み込むことができなかったようだ」
「なるほど。アズールさまについて最近変わったことはございませんでしたか?」
「最近変わったこと? それが今、関係あるのか?」
目の前に青白い顔をしたアズールがいるというのに、診察を始めない医師に苛立ちが募る。
「申し訳ございません。医師としていろんな可能性を考えたいのです。お教えいただけないでしょうか?」
「感情的になって悪かった。だが、変わったことといっても……」
「些細なことでも構いません。今までと少しでも違うことはございませんか?」
そう念を押されてここ最近のアズールの様子を思い出す。
「そういえば……ここ、最近寝る時間がいつもより長くなった気がするな。それに食事が私と同じものを食べたいと言って肉を前より多く食べるようになったな。といっても私に比べれば微々たるものだが」
「なるほど……」
医師は少し考え込んだ様子で
「脈を直に取らせていただいてもよろしゅうございますか?」
と尋ねてきた。
「直に? それは必要なことなのか?」
医師の診察とはいえ、通常は服の上からの脈診が一般的だ。
触れればそこに医師の匂いがついてしまうからだ。
「はい。どうかご了承いただけないでしょうか?」
獣人である私には、アズールに他の匂いがつくことはどうにも許し難いことだがアズールの命には変えられない。
なんせ、アズールはまだ青白い顔のまま私の腕の中で目を覚ますこともできないのだから。
「わかった。特別に許そう」
「はっ。ありがとうございます。それでは王子。アズールさまの左腕を捲って私にお見せください」
私は言われた通り、アズールの左腕の服をまくり手首をみせると、医師はそっと指を置き、目を瞑った。
そして、しばらくの間、静寂が訪れた。
この時間が永遠に感じられるほど長く感じた。
そして、医師はゆっくりと目をあけアズールの腕から指を離した。
「それで、何かわかったのか? アズールは一体どうしてしまったのだ?」
「王子。おめでとうございます」
「はっ? どういうことだ?」
「アズールさまはご懐妊されたようです」
「な――っ、ご、懐妊……っ、それは、まことか?」
「はい。間違いないと存じます。詳しい検査はまた後ほど、アズールさまが落ち着いてからにいたしましょう」
「アズールに、子が……。アズールの腹に私の子が……ああっ!! アズールっ!!」
あまりにも嬉しくて、思わず腕の中のアズールを抱きしめると、
「王子。今は一番大切な時期でございます。お優しくお願いいたします」
と注意を受け慌てて腕の力を緩める。
「これからどのようにしたら良いのだ?」
「はい。ウサギ族のお方は一度に数人の子を産むと言われておりますが、アズールさまはお身体が小さいので、もし多胎となるとかなりの負担がかかります。しかも妊娠初期は体調の変化が大きく現れますので、無理をなさらないようにして差し上げてください。できるだけご自分で歩いたりすることは避け、しばらくはベッドでお過ごしになられた方がよろしいかと存じます」
「なるほど。わかった。私が責任持ってアズールの世話をすると約束しよう。他に注意することはあるか?」
「妊娠にはお薬は使用できませんので、お食事は食べられないものは決して無理して召し上がらないようにしてください。それからアズールさまが食べたいと仰るものはお好きなだけ差し上げてください。アズールさまが食べたいと仰るものは全てお腹の子が食べたいものだと思っていただいて構いません」
「わかった。アズールの食べたいものだけだな。それも約束しよう」
「ほんの少しでも気になることがございましたら、いつでも私をお呼びください。すぐに参ります」
医師の頼もしい言葉が心強く感じる。
ああ、私も父になるのか……感慨深いな。
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