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第三章

アズールのおねだり

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<sideルーディー>

アズールを部屋に連れてきて早々に父上がアズールを膝に座らせようと誘いをかける。

アズールには私の膝以外には絶対に乗ってはならぬ――ただし、義母上は許可する――としっかりと教え込んでいるから、父上から誘われても決して飛び込んでいくようなことはしない。
だが、アズールは優しい子だから、父上が悲しげな表情を見せると罪悪感を抱いてしまうのだ。

アズールには決してそんな思いをさせたくない。
だからこそ、毎回父上にはそんな誘いをかけないように言っているのだが、毎回声をかければ一度くらいは機会ができるのではないかと狙っているようだ。
いいかげんそんなことなどあり得ないとわかってほしい。

「父上、そんな冗談を仰る前に、アズールに話があるのでしょう? そちらをお伝えください」

「えっ? お義父さまが僕にお話? 何かなぁ?」

これだけで嬉しそうな声をあげるアズールに父上が相好を崩す。
父上にこんな表情をさせられるのは、世界広しといえどもアズールだけだろうな。

「ふふっ。実はな、アズール。今日から、このティオがアズールの専属護衛に決まったのだよ」

「えっ? ヴェルは?」

「もちろんヴェルナーにも専属護衛を続けてもらう。これからアズールの専属護衛がヴェルナーとティオの二人になると言うことだよ。どうだ? 嬉しいか?」

「ヴェル、と……ティオ、が……」

アズールは小さく呟くと、ティオとヴェルナーに視線を向けて

「わぁーっ! 嬉しいっ!!」

と私の膝の上でぴょんぴょんと大きく跳ね始めた。
その力強さにアズールがどれほど喜んでいるかがわかると言うものだ。

「じゃあ、これから毎日ティオにお兄さまとのお話が聞けるね!」

「んっ? クレイとのことだと? アズールは何が聞きたいのだ?」

「――っ、父上っ! それは――」
「うーんとね、お腹の奥をゴリゴリされるのはどの体勢が好きなのかなとか、毎回どれくらい蜜をもらってるのかなとか、お兄さまのを全部お口に入れられるのかなとか、あとは――」

「アズール、その辺にしておけ。ティオが恥ずかしがっているぞ」

そう言って抱きしめると、ようやくアズールの口が止まった。

アズールは父上に尋ねられたから言ってしまったのだ。
今回のことはアズールが素直な子だとわかっていながら、あんなことを尋ねた父上にも責任がある。

父に視線を向け、ギロッと睨むと流石に父上も失言だったことに気づいたのか、

「ティオ、申し訳ない」

と謝罪の言葉を伝えていた。

ティオにしてみれば、人前であんなことを尋ねられた上に、陛下から頭を下げられてどうしていいかわからない状況だろうが、意を決した表情を見せるとアズールに向かって口を開いた。

「アズールさま。こういったご質問は、アズールさまとヴェルナーさまと三人の時にお答えしますので、今は秘密にさせておいてください」

そう言ってティオはにっこりと笑って見せた

「うん、そうだね。ティオとヴェルとお喋りするの楽しみだね」

これできっとアズールは私たちがいる前ではティオにも、そしてヴェルナーにもあのようなことを尋ねなくなるだろう。
もしかしたらティオは素直なアズールの対処法を私たちよりも知り尽くしているのかもしれないな。


「ねぇ、お兄さま。アズール、すぐにでもティオとヴェルとお喋りしたいの」

「えっ? これからか?」

「だって、ずっとお兄さまたちがお部屋から出てくるのを待っていたんだよ」

「――っ、そ、それはそうだが……」

「お兄さま……だめぇ?」

「くっ――! し、仕方ないな……」

ああ、最愛ができてもアズールに弱いのは変わらぬようだな。
まぁ、私もアズールのおねだりには弱いのだから、クレイのことは言えないが。

「ルー、お兄さまがいいって。ルーもいい?」

コテンと小首を傾げながら、耳を折って頼んでくるアズールにダメだなんて言えるはずもない。

「仕方がないな。義父上も義母上も、クレイとティオが戻ってくるのを待っているだろうから、一時間くらいなら許可しよう」

「うーん、ちょっと短いけど、そっか。お父さまとお母さまが待っているんだもんね。わかった! 約束する!!」

「アズール、えらいぞ。じゃあ、ヴェルナー。アズールを頼むぞ。一時間経ったら部屋に迎えに行くからな」

「承知しました」

ヴェルナーの言葉を聞いて、私の腕から飛び出しヴェルナーの元にぴょんと飛び込んでいく。
ヴェルナーはアズールを手慣れた様子で抱き止め、

「ではティオ。行きましょうか」

と声をかけ、三人で部屋を出ていった。

ポツンと取り残されたクレイは寂しそうに私を見つめて、

「私たちはどうしますか?」

と声をかけてきたが、流石に父上も入れて閨の話をする気にはならない。
ただただ時間だけがゆっくりと流れるのを待つしかなかった。
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