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第三章
緊張する
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「じゃあ、クレイ。ティオをアズールの元に案内しよう」
「ちょっと待ちなさい、ルーディー」
立ち上がって、部屋に戻ろうとした私に父上が声をかけてきた。
「まだ何かお話がございましたか?」
「そうではない。アズールにティオのことを話をして、アズールが喜ぶ姿を私も見たいのだ。だが、私が突然アズールの元に行けば、アズールが驚いてしまうだろう? だから、アズールをここに連れてくるのだ。それなら私も一緒にいられるだろう?」
本当に父上の思いつきにも困ったものだ。
だが、父上を私たちの部屋に入れるのも憚られる。
それならまだ連れてきた方がマシか。
「わかりました。ではすぐに連れてきますので、しばらくお待ちください」
そう言って、私はアズールを迎えに部屋に戻った。
「アズールは部屋にいるか?」
「いいえ。ただいま、ヴェルナーさまとフィデリオさまのお部屋でお過ごしでございます」
「そうか、わかった」
急いで爺の部屋に向かう。
ああ、爺の憩いの時間を邪魔するようで申し訳ないが、これからアズールとヴェルナーに加えてティオも爺の部屋で過ごす時間ができるのだから、それで許してもらうとしよう。
爺の部屋の扉を叩き、扉を開けると
「ルーっ!!」
と嬉しそうな声をあげながら、アズールが飛び込んできた。
「ははっ。私だとよくわかったな」
「だって、匂いがするもん」
「そうか。それは嬉しいな」
アズールは元々私の足音や匂いに敏感ではあったが、初夜を迎えてからその威力はさらに強くなった。
きっと運命のつがいとしての力が働いているのだろう。
「もう今日のお仕事は終わったの? お兄さまとティオには会った?」
「ああ、それでアズールを迎えにきたのだよ。みんな揃っているから、アズールも一緒に行こう」
「わぁ! じゃあ、ヴェルナーも一緒!」
「ああ、ヴェルナーも来てくれ」
父上はヴェルナーも気に入っているから、連れて行ったほうがアズールだけに固執せずに済むだろう。
「爺も一緒に来てくれ」
「はい、承知しました」
理由も聞かずについてきてくれるあたり、さすが爺だ。
私はアズールを抱きかかえたまま、ヴェルナーと爺を連れて父上たちが待つ部屋に戻った。
<sideティオ>
団長がアズールさまをお迎えに部屋を出て行かれて、少し緊張してしまう。
陛下とクレイさまに対してではない。
アズールさまとお会いするのが緊張するのだ。
これから専属護衛となるのだし、しっかりと挨拶をするべきなのだが、
――ティオも今夜はお兄さまにお腹の奥をゴリゴリと擦られて蜜をいっぱい出されて愛し合うんだね
クレイさまと初夜を迎える前にそんなことを言われてしまったことを思い出す。
あの時は団長がとりなしてくださったけれど、その後、陛下にご報告した後で、
――ティオーっ! がんばってねぇーっ!!
と大きな声をかけられたことを覚えている。
あの時は私自身、クレイさまとの初夜のことで頭がいっぱいで気にする余裕もなかったけれど、アズールさまが応援のお言葉をかけてくださったのだから、きっとその結果をお聞きになるのではないか……。
もし、あんなことやそんなことを尋ねられたら、なんと答えたら良いのだろう……。
しかも、陛下やクレイさまの前では流石に恥ずかしすぎる。
せめてアズールさまとヴェルナーさまだけならお話もできそうだけど……。
ああ、アズールさまとお話がしたいけれど、質問にはドキドキしてしまう。
この気持ちをなんと説明したらいいのだろう……。
「ティオ、どうした? 緊張しているのか?」
「いいえ。大丈夫です」
「そうか?」
心配かけてしまってクレイさまには申し訳ないけれど、自分でも説明のしようがないのだから仕方がない。
そうこうしている間に、
「アズールを連れてきました」
という団長の声が聞こえた。
「わぁ! お兄さまとティオがいる!!」
ご機嫌なアズールさまの可愛らしい声に緊張していたのも忘れて笑みが溢れる。
「ティオー!」
団長の腕に抱かれながら、私に手を振ってくださる。
その天真爛漫な笑顔に癒される。
ああ、本当に可愛らしい。
「ああ、アズール。よく来てくれたな。どうだ? 私の膝に来ないか?」
「父上! それが目的なら、アズールを部屋に帰らせますよ!」
「ルーディー、まってくれ! 冗談だ」
陛下はいつもああやってアズールさまを膝に乗せようとされるけれど、私が知る限りそれが叶えられたことは一度もない。
アズールさまのお気持ちというよりは団長が嫌なのだろう。
「あの……クレイさまも、もし私が陛下の膝に乗るようなことがあったら、お嫌ですか?」
「ティオが? それはダメだ! ティオを膝に乗せていいのは私だけだからな」
小声でそっと尋ねると、即答されてしまった。
獣人である団長だから独占欲が強いと思っていたけれど、狼族はどうやらみんな同じらしい。
私も別に陛下の膝に乗りたいわけではないけれど、クレイさまが嫌がるのならやめておいた方が良さそうだ。
副団長はどうだろう?
熊族はおおらかだったりするのだろうか?
そういうのもヴェルナーさまに尋ねてみたいものだ。
「ちょっと待ちなさい、ルーディー」
立ち上がって、部屋に戻ろうとした私に父上が声をかけてきた。
「まだ何かお話がございましたか?」
「そうではない。アズールにティオのことを話をして、アズールが喜ぶ姿を私も見たいのだ。だが、私が突然アズールの元に行けば、アズールが驚いてしまうだろう? だから、アズールをここに連れてくるのだ。それなら私も一緒にいられるだろう?」
本当に父上の思いつきにも困ったものだ。
だが、父上を私たちの部屋に入れるのも憚られる。
それならまだ連れてきた方がマシか。
「わかりました。ではすぐに連れてきますので、しばらくお待ちください」
そう言って、私はアズールを迎えに部屋に戻った。
「アズールは部屋にいるか?」
「いいえ。ただいま、ヴェルナーさまとフィデリオさまのお部屋でお過ごしでございます」
「そうか、わかった」
急いで爺の部屋に向かう。
ああ、爺の憩いの時間を邪魔するようで申し訳ないが、これからアズールとヴェルナーに加えてティオも爺の部屋で過ごす時間ができるのだから、それで許してもらうとしよう。
爺の部屋の扉を叩き、扉を開けると
「ルーっ!!」
と嬉しそうな声をあげながら、アズールが飛び込んできた。
「ははっ。私だとよくわかったな」
「だって、匂いがするもん」
「そうか。それは嬉しいな」
アズールは元々私の足音や匂いに敏感ではあったが、初夜を迎えてからその威力はさらに強くなった。
きっと運命のつがいとしての力が働いているのだろう。
「もう今日のお仕事は終わったの? お兄さまとティオには会った?」
「ああ、それでアズールを迎えにきたのだよ。みんな揃っているから、アズールも一緒に行こう」
「わぁ! じゃあ、ヴェルナーも一緒!」
「ああ、ヴェルナーも来てくれ」
父上はヴェルナーも気に入っているから、連れて行ったほうがアズールだけに固執せずに済むだろう。
「爺も一緒に来てくれ」
「はい、承知しました」
理由も聞かずについてきてくれるあたり、さすが爺だ。
私はアズールを抱きかかえたまま、ヴェルナーと爺を連れて父上たちが待つ部屋に戻った。
<sideティオ>
団長がアズールさまをお迎えに部屋を出て行かれて、少し緊張してしまう。
陛下とクレイさまに対してではない。
アズールさまとお会いするのが緊張するのだ。
これから専属護衛となるのだし、しっかりと挨拶をするべきなのだが、
――ティオも今夜はお兄さまにお腹の奥をゴリゴリと擦られて蜜をいっぱい出されて愛し合うんだね
クレイさまと初夜を迎える前にそんなことを言われてしまったことを思い出す。
あの時は団長がとりなしてくださったけれど、その後、陛下にご報告した後で、
――ティオーっ! がんばってねぇーっ!!
と大きな声をかけられたことを覚えている。
あの時は私自身、クレイさまとの初夜のことで頭がいっぱいで気にする余裕もなかったけれど、アズールさまが応援のお言葉をかけてくださったのだから、きっとその結果をお聞きになるのではないか……。
もし、あんなことやそんなことを尋ねられたら、なんと答えたら良いのだろう……。
しかも、陛下やクレイさまの前では流石に恥ずかしすぎる。
せめてアズールさまとヴェルナーさまだけならお話もできそうだけど……。
ああ、アズールさまとお話がしたいけれど、質問にはドキドキしてしまう。
この気持ちをなんと説明したらいいのだろう……。
「ティオ、どうした? 緊張しているのか?」
「いいえ。大丈夫です」
「そうか?」
心配かけてしまってクレイさまには申し訳ないけれど、自分でも説明のしようがないのだから仕方がない。
そうこうしている間に、
「アズールを連れてきました」
という団長の声が聞こえた。
「わぁ! お兄さまとティオがいる!!」
ご機嫌なアズールさまの可愛らしい声に緊張していたのも忘れて笑みが溢れる。
「ティオー!」
団長の腕に抱かれながら、私に手を振ってくださる。
その天真爛漫な笑顔に癒される。
ああ、本当に可愛らしい。
「ああ、アズール。よく来てくれたな。どうだ? 私の膝に来ないか?」
「父上! それが目的なら、アズールを部屋に帰らせますよ!」
「ルーディー、まってくれ! 冗談だ」
陛下はいつもああやってアズールさまを膝に乗せようとされるけれど、私が知る限りそれが叶えられたことは一度もない。
アズールさまのお気持ちというよりは団長が嫌なのだろう。
「あの……クレイさまも、もし私が陛下の膝に乗るようなことがあったら、お嫌ですか?」
「ティオが? それはダメだ! ティオを膝に乗せていいのは私だけだからな」
小声でそっと尋ねると、即答されてしまった。
獣人である団長だから独占欲が強いと思っていたけれど、狼族はどうやらみんな同じらしい。
私も別に陛下の膝に乗りたいわけではないけれど、クレイさまが嫌がるのならやめておいた方が良さそうだ。
副団長はどうだろう?
熊族はおおらかだったりするのだろうか?
そういうのもヴェルナーさまに尋ねてみたいものだ。
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