172 / 288
第三章
緊張する
しおりを挟む
「じゃあ、クレイ。ティオをアズールの元に案内しよう」
「ちょっと待ちなさい、ルーディー」
立ち上がって、部屋に戻ろうとした私に父上が声をかけてきた。
「まだ何かお話がございましたか?」
「そうではない。アズールにティオのことを話をして、アズールが喜ぶ姿を私も見たいのだ。だが、私が突然アズールの元に行けば、アズールが驚いてしまうだろう? だから、アズールをここに連れてくるのだ。それなら私も一緒にいられるだろう?」
本当に父上の思いつきにも困ったものだ。
だが、父上を私たちの部屋に入れるのも憚られる。
それならまだ連れてきた方がマシか。
「わかりました。ではすぐに連れてきますので、しばらくお待ちください」
そう言って、私はアズールを迎えに部屋に戻った。
「アズールは部屋にいるか?」
「いいえ。ただいま、ヴェルナーさまとフィデリオさまのお部屋でお過ごしでございます」
「そうか、わかった」
急いで爺の部屋に向かう。
ああ、爺の憩いの時間を邪魔するようで申し訳ないが、これからアズールとヴェルナーに加えてティオも爺の部屋で過ごす時間ができるのだから、それで許してもらうとしよう。
爺の部屋の扉を叩き、扉を開けると
「ルーっ!!」
と嬉しそうな声をあげながら、アズールが飛び込んできた。
「ははっ。私だとよくわかったな」
「だって、匂いがするもん」
「そうか。それは嬉しいな」
アズールは元々私の足音や匂いに敏感ではあったが、初夜を迎えてからその威力はさらに強くなった。
きっと運命のつがいとしての力が働いているのだろう。
「もう今日のお仕事は終わったの? お兄さまとティオには会った?」
「ああ、それでアズールを迎えにきたのだよ。みんな揃っているから、アズールも一緒に行こう」
「わぁ! じゃあ、ヴェルナーも一緒!」
「ああ、ヴェルナーも来てくれ」
父上はヴェルナーも気に入っているから、連れて行ったほうがアズールだけに固執せずに済むだろう。
「爺も一緒に来てくれ」
「はい、承知しました」
理由も聞かずについてきてくれるあたり、さすが爺だ。
私はアズールを抱きかかえたまま、ヴェルナーと爺を連れて父上たちが待つ部屋に戻った。
<sideティオ>
団長がアズールさまをお迎えに部屋を出て行かれて、少し緊張してしまう。
陛下とクレイさまに対してではない。
アズールさまとお会いするのが緊張するのだ。
これから専属護衛となるのだし、しっかりと挨拶をするべきなのだが、
――ティオも今夜はお兄さまにお腹の奥をゴリゴリと擦られて蜜をいっぱい出されて愛し合うんだね
クレイさまと初夜を迎える前にそんなことを言われてしまったことを思い出す。
あの時は団長がとりなしてくださったけれど、その後、陛下にご報告した後で、
――ティオーっ! がんばってねぇーっ!!
と大きな声をかけられたことを覚えている。
あの時は私自身、クレイさまとの初夜のことで頭がいっぱいで気にする余裕もなかったけれど、アズールさまが応援のお言葉をかけてくださったのだから、きっとその結果をお聞きになるのではないか……。
もし、あんなことやそんなことを尋ねられたら、なんと答えたら良いのだろう……。
しかも、陛下やクレイさまの前では流石に恥ずかしすぎる。
せめてアズールさまとヴェルナーさまだけならお話もできそうだけど……。
ああ、アズールさまとお話がしたいけれど、質問にはドキドキしてしまう。
この気持ちをなんと説明したらいいのだろう……。
「ティオ、どうした? 緊張しているのか?」
「いいえ。大丈夫です」
「そうか?」
心配かけてしまってクレイさまには申し訳ないけれど、自分でも説明のしようがないのだから仕方がない。
そうこうしている間に、
「アズールを連れてきました」
という団長の声が聞こえた。
「わぁ! お兄さまとティオがいる!!」
ご機嫌なアズールさまの可愛らしい声に緊張していたのも忘れて笑みが溢れる。
「ティオー!」
団長の腕に抱かれながら、私に手を振ってくださる。
その天真爛漫な笑顔に癒される。
ああ、本当に可愛らしい。
「ああ、アズール。よく来てくれたな。どうだ? 私の膝に来ないか?」
「父上! それが目的なら、アズールを部屋に帰らせますよ!」
「ルーディー、まってくれ! 冗談だ」
陛下はいつもああやってアズールさまを膝に乗せようとされるけれど、私が知る限りそれが叶えられたことは一度もない。
アズールさまのお気持ちというよりは団長が嫌なのだろう。
「あの……クレイさまも、もし私が陛下の膝に乗るようなことがあったら、お嫌ですか?」
「ティオが? それはダメだ! ティオを膝に乗せていいのは私だけだからな」
小声でそっと尋ねると、即答されてしまった。
獣人である団長だから独占欲が強いと思っていたけれど、狼族はどうやらみんな同じらしい。
私も別に陛下の膝に乗りたいわけではないけれど、クレイさまが嫌がるのならやめておいた方が良さそうだ。
副団長はどうだろう?
熊族はおおらかだったりするのだろうか?
そういうのもヴェルナーさまに尋ねてみたいものだ。
「ちょっと待ちなさい、ルーディー」
立ち上がって、部屋に戻ろうとした私に父上が声をかけてきた。
「まだ何かお話がございましたか?」
「そうではない。アズールにティオのことを話をして、アズールが喜ぶ姿を私も見たいのだ。だが、私が突然アズールの元に行けば、アズールが驚いてしまうだろう? だから、アズールをここに連れてくるのだ。それなら私も一緒にいられるだろう?」
本当に父上の思いつきにも困ったものだ。
だが、父上を私たちの部屋に入れるのも憚られる。
それならまだ連れてきた方がマシか。
「わかりました。ではすぐに連れてきますので、しばらくお待ちください」
そう言って、私はアズールを迎えに部屋に戻った。
「アズールは部屋にいるか?」
「いいえ。ただいま、ヴェルナーさまとフィデリオさまのお部屋でお過ごしでございます」
「そうか、わかった」
急いで爺の部屋に向かう。
ああ、爺の憩いの時間を邪魔するようで申し訳ないが、これからアズールとヴェルナーに加えてティオも爺の部屋で過ごす時間ができるのだから、それで許してもらうとしよう。
爺の部屋の扉を叩き、扉を開けると
「ルーっ!!」
と嬉しそうな声をあげながら、アズールが飛び込んできた。
「ははっ。私だとよくわかったな」
「だって、匂いがするもん」
「そうか。それは嬉しいな」
アズールは元々私の足音や匂いに敏感ではあったが、初夜を迎えてからその威力はさらに強くなった。
きっと運命のつがいとしての力が働いているのだろう。
「もう今日のお仕事は終わったの? お兄さまとティオには会った?」
「ああ、それでアズールを迎えにきたのだよ。みんな揃っているから、アズールも一緒に行こう」
「わぁ! じゃあ、ヴェルナーも一緒!」
「ああ、ヴェルナーも来てくれ」
父上はヴェルナーも気に入っているから、連れて行ったほうがアズールだけに固執せずに済むだろう。
「爺も一緒に来てくれ」
「はい、承知しました」
理由も聞かずについてきてくれるあたり、さすが爺だ。
私はアズールを抱きかかえたまま、ヴェルナーと爺を連れて父上たちが待つ部屋に戻った。
<sideティオ>
団長がアズールさまをお迎えに部屋を出て行かれて、少し緊張してしまう。
陛下とクレイさまに対してではない。
アズールさまとお会いするのが緊張するのだ。
これから専属護衛となるのだし、しっかりと挨拶をするべきなのだが、
――ティオも今夜はお兄さまにお腹の奥をゴリゴリと擦られて蜜をいっぱい出されて愛し合うんだね
クレイさまと初夜を迎える前にそんなことを言われてしまったことを思い出す。
あの時は団長がとりなしてくださったけれど、その後、陛下にご報告した後で、
――ティオーっ! がんばってねぇーっ!!
と大きな声をかけられたことを覚えている。
あの時は私自身、クレイさまとの初夜のことで頭がいっぱいで気にする余裕もなかったけれど、アズールさまが応援のお言葉をかけてくださったのだから、きっとその結果をお聞きになるのではないか……。
もし、あんなことやそんなことを尋ねられたら、なんと答えたら良いのだろう……。
しかも、陛下やクレイさまの前では流石に恥ずかしすぎる。
せめてアズールさまとヴェルナーさまだけならお話もできそうだけど……。
ああ、アズールさまとお話がしたいけれど、質問にはドキドキしてしまう。
この気持ちをなんと説明したらいいのだろう……。
「ティオ、どうした? 緊張しているのか?」
「いいえ。大丈夫です」
「そうか?」
心配かけてしまってクレイさまには申し訳ないけれど、自分でも説明のしようがないのだから仕方がない。
そうこうしている間に、
「アズールを連れてきました」
という団長の声が聞こえた。
「わぁ! お兄さまとティオがいる!!」
ご機嫌なアズールさまの可愛らしい声に緊張していたのも忘れて笑みが溢れる。
「ティオー!」
団長の腕に抱かれながら、私に手を振ってくださる。
その天真爛漫な笑顔に癒される。
ああ、本当に可愛らしい。
「ああ、アズール。よく来てくれたな。どうだ? 私の膝に来ないか?」
「父上! それが目的なら、アズールを部屋に帰らせますよ!」
「ルーディー、まってくれ! 冗談だ」
陛下はいつもああやってアズールさまを膝に乗せようとされるけれど、私が知る限りそれが叶えられたことは一度もない。
アズールさまのお気持ちというよりは団長が嫌なのだろう。
「あの……クレイさまも、もし私が陛下の膝に乗るようなことがあったら、お嫌ですか?」
「ティオが? それはダメだ! ティオを膝に乗せていいのは私だけだからな」
小声でそっと尋ねると、即答されてしまった。
獣人である団長だから独占欲が強いと思っていたけれど、狼族はどうやらみんな同じらしい。
私も別に陛下の膝に乗りたいわけではないけれど、クレイさまが嫌がるのならやめておいた方が良さそうだ。
副団長はどうだろう?
熊族はおおらかだったりするのだろうか?
そういうのもヴェルナーさまに尋ねてみたいものだ。
194
お気に入りに追加
5,332
あなたにおすすめの小説
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる