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第三章
アズールとティオ
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「は、はい。その通りにございます」
「ふふっ。ティオ、よく言ってくれたな」
「クレイさま……」
あまりにも突然のことに茫然としている私の前で、すっかり二人の世界に入っている。
それにしても私のそばで数年仕えてくれていたティオがクレイの運命の相手だとは全く想像もしていなかったな。
マクシミリアンのような熊族や、ヴェルナーのような黒豹族、そして獅子族や虎族などが多い騎士団の中で、ティオのような猫族の騎士はほとんどいない。
獅子も虎も黒豹も、そして猫も大きなまとまりで言えば同じ括りに入れられるが、その能力には圧倒的な差がある。
だからこそ、国王である私の専属護衛には熊族や獅子族など能力的に強い騎士たちから選ばれるのが慣例であるが、騎士団団長であるルーディーが選んだのはティオだった。
紹介された時に一瞬不安がよぎったものの、息子であり騎士団の団長を立派に務め上げているルーディーが十分に吟味を重ねて選んだ私の専属護衛だ。
ルーディーが私の護衛に相応しい能力を持っているとして、ティオを選んだのは間違いない。
そう思うことにした。
すると、ティオは騎士としての実力だけでなく、気遣いも素晴らしかった。
痒いところに手が届くとはまさにティオのようなもののことを言うのだろう。
ティオと過ごす時間は心地よく、穏やかだった。
そこには決して恋愛の情などはない。
私は妻を亡くした今でも変わらぬ愛を捧げているのだからな。
それでも甘いものを好むティオのために仕事終わりにはいつも甘いものを出し、労っていた。
最初こそ遠慮がちだったティオも、次第にこの時間を楽しんでくれるようになり、私の話も静かに聞いてくれていた。
私の話はもちろん、息子であるルーディーと可愛いアズールのこと。
二人が無事に初夜を迎え、城で暮らし始めると決まった時には、ティオと、そしてフィデリオと三人で祝いの酒を呑んだものだ。
アズールが城で暮らし始めてすぐにティオを紹介した。
ティオは、数年前訓練場に差し入れを持ってきたアズールとのことをよく覚えていたが、アズールはその時のことをあまりよく覚えていないようだった。
推測だが、きっと訓練場ではルーディーが若い騎士たちとアズールに接点を持たせないように引き離していたのだろう。
それならばアズールが覚えていなくても不思議はない。
けれどティオがあの時の差し入れのおにぎりが美味しくて忘れられず、何度も練習して自分で作れるようになったという話をすると、目を輝かせて喜び、アズールはティオのことをすっかり気に入ったようだった。
それ以来、アズールはティオの仕事が終わったのを見計ったようにしょっちゅう私の部屋に来ては、ティオと二人で楽しそうにお茶の時間を過ごすようになった。
もちろん、新婚であるアズールが一人で部屋に来るわけはない。
必ずルーディーがアズールを連れてきて、アズールとティオが美味しそうに甘いものを食べながら楽しげに会話をするのを見守る。
決して邪魔はしないだけいい。
今までのルーディーならそんな寛大さなどなかったが、アズールと愛し合うようになってからは気持ちに余裕ができたように思う。
そんな感じで、アズールはティオのことをまるで第二の兄のように慕っていた。
今思えば、もしかしたらアズールはティオに何かしら感じていたのかもしれないな。
とすれば、ルーディーが私の護衛にティオを選んだのも偶然ではないのかもしれない。
獣人としての本能が何かを嗅ぎ分けたか……。
これほどまでに決まった運命なら、反対することもない。
いや、そもそも狼族が運命の相手を間違えることもないのだから、クレイがティオを運命の相手だと言うならば、そうなのだろう。
「そうか、クレイ。ティオ。おめでとう。似合いの二人だな」
「――っ!! 陛下……っ」
「陛下、ありがとうございます! それでは私たち二人が夫夫となることをお認めいただけますか?」
「ああ。もちろんだ。クレイ、ティオはもう両親もおらぬ。私はティオを自分の息子のように思ってきた。どうかティオを幸せにしてやってくれ」
私の言葉にティオは涙を流し、クレイはティオを優しく受け止めながら、
「もちろんです。どうぞご安心下さい!」
と言って頭を下げた。
「父上、このまま二人に客間を使わせてもよろしいですよね?」
「んっ? ああ、好きに使うが良い。どうせ、公爵家まで我慢もできぬだろう」
「陛下。ありがとうございます!」
クレイを早々と私の元に連れてきたことといい、客間も率先して使わせるように声掛けをしてくるとは。
ルーディーはやけにクレイに優しくなったものだ。
そういえば、クレイもルーディーに敵意をむき出しにしていたがな。
お互いに愛する存在ができたことで意識が変わったのか。
まぁ、いずれにしても義兄弟の仲がいいのは素晴らしいことだ。
だが……考えてみれば、クレイとティオには子が生まれぬのだな。
ルーディーと、特にアズールには頑張ってもらわなくてはならぬな。
「ふふっ。ティオ、よく言ってくれたな」
「クレイさま……」
あまりにも突然のことに茫然としている私の前で、すっかり二人の世界に入っている。
それにしても私のそばで数年仕えてくれていたティオがクレイの運命の相手だとは全く想像もしていなかったな。
マクシミリアンのような熊族や、ヴェルナーのような黒豹族、そして獅子族や虎族などが多い騎士団の中で、ティオのような猫族の騎士はほとんどいない。
獅子も虎も黒豹も、そして猫も大きなまとまりで言えば同じ括りに入れられるが、その能力には圧倒的な差がある。
だからこそ、国王である私の専属護衛には熊族や獅子族など能力的に強い騎士たちから選ばれるのが慣例であるが、騎士団団長であるルーディーが選んだのはティオだった。
紹介された時に一瞬不安がよぎったものの、息子であり騎士団の団長を立派に務め上げているルーディーが十分に吟味を重ねて選んだ私の専属護衛だ。
ルーディーが私の護衛に相応しい能力を持っているとして、ティオを選んだのは間違いない。
そう思うことにした。
すると、ティオは騎士としての実力だけでなく、気遣いも素晴らしかった。
痒いところに手が届くとはまさにティオのようなもののことを言うのだろう。
ティオと過ごす時間は心地よく、穏やかだった。
そこには決して恋愛の情などはない。
私は妻を亡くした今でも変わらぬ愛を捧げているのだからな。
それでも甘いものを好むティオのために仕事終わりにはいつも甘いものを出し、労っていた。
最初こそ遠慮がちだったティオも、次第にこの時間を楽しんでくれるようになり、私の話も静かに聞いてくれていた。
私の話はもちろん、息子であるルーディーと可愛いアズールのこと。
二人が無事に初夜を迎え、城で暮らし始めると決まった時には、ティオと、そしてフィデリオと三人で祝いの酒を呑んだものだ。
アズールが城で暮らし始めてすぐにティオを紹介した。
ティオは、数年前訓練場に差し入れを持ってきたアズールとのことをよく覚えていたが、アズールはその時のことをあまりよく覚えていないようだった。
推測だが、きっと訓練場ではルーディーが若い騎士たちとアズールに接点を持たせないように引き離していたのだろう。
それならばアズールが覚えていなくても不思議はない。
けれどティオがあの時の差し入れのおにぎりが美味しくて忘れられず、何度も練習して自分で作れるようになったという話をすると、目を輝かせて喜び、アズールはティオのことをすっかり気に入ったようだった。
それ以来、アズールはティオの仕事が終わったのを見計ったようにしょっちゅう私の部屋に来ては、ティオと二人で楽しそうにお茶の時間を過ごすようになった。
もちろん、新婚であるアズールが一人で部屋に来るわけはない。
必ずルーディーがアズールを連れてきて、アズールとティオが美味しそうに甘いものを食べながら楽しげに会話をするのを見守る。
決して邪魔はしないだけいい。
今までのルーディーならそんな寛大さなどなかったが、アズールと愛し合うようになってからは気持ちに余裕ができたように思う。
そんな感じで、アズールはティオのことをまるで第二の兄のように慕っていた。
今思えば、もしかしたらアズールはティオに何かしら感じていたのかもしれないな。
とすれば、ルーディーが私の護衛にティオを選んだのも偶然ではないのかもしれない。
獣人としての本能が何かを嗅ぎ分けたか……。
これほどまでに決まった運命なら、反対することもない。
いや、そもそも狼族が運命の相手を間違えることもないのだから、クレイがティオを運命の相手だと言うならば、そうなのだろう。
「そうか、クレイ。ティオ。おめでとう。似合いの二人だな」
「――っ!! 陛下……っ」
「陛下、ありがとうございます! それでは私たち二人が夫夫となることをお認めいただけますか?」
「ああ。もちろんだ。クレイ、ティオはもう両親もおらぬ。私はティオを自分の息子のように思ってきた。どうかティオを幸せにしてやってくれ」
私の言葉にティオは涙を流し、クレイはティオを優しく受け止めながら、
「もちろんです。どうぞご安心下さい!」
と言って頭を下げた。
「父上、このまま二人に客間を使わせてもよろしいですよね?」
「んっ? ああ、好きに使うが良い。どうせ、公爵家まで我慢もできぬだろう」
「陛下。ありがとうございます!」
クレイを早々と私の元に連れてきたことといい、客間も率先して使わせるように声掛けをしてくるとは。
ルーディーはやけにクレイに優しくなったものだ。
そういえば、クレイもルーディーに敵意をむき出しにしていたがな。
お互いに愛する存在ができたことで意識が変わったのか。
まぁ、いずれにしても義兄弟の仲がいいのは素晴らしいことだ。
だが……考えてみれば、クレイとティオには子が生まれぬのだな。
ルーディーと、特にアズールには頑張ってもらわなくてはならぬな。
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