161 / 287
第三章
陛下へのご挨拶
しおりを挟む
<sideクレイ>
アズールの言葉には驚きつつも、義兄上のとりなしですぐに陛下にご挨拶できることとなった。
城に向かうとき、アズールは四人で馬車に乗りたがっていたが、ティオは私とアズールに加えて、義兄上とまで一緒の馬車に乗るのは気疲れするだろう。
陛下に会う前にティオを疲れさせたくなくて、二台の馬車で城に向かった。
「ティオ、心配しないでいい。陛下も狼族の習性はご存じだから、運命の相手だといえば、反対などなさらない」
「は、はい。でも……今でも信じられない思いです。私がクレイさまの運命の相手だなんて……」
「信じられなくとももう私たちは離れられないぞ。わかるだろう?」
「はい。私も……離れたくありません……」
「ふふっ。さっきもそう言ってくれたな。嬉しいよ」
「クレイさま……」
ティオが私に顔を擦り寄せる。
猫族は警戒心が強いが、その反面、心を許すと奥深くまで入ってきてくれる。
ああ、本当に愛おしい。
このまま唇を奪ってやりたくなるが、そんなことをしてはもう歯止めが効かなくなることが自分が一番よくわかっている。
なんとしてでも陛下にご挨拶をするまでは気合いで乗り越えなければな。
ティオと一緒に過ごせば過ごすだけ義兄上の偉大さに気づく。
私は義兄上の苦労を何も知らずに敵意剥き出しで張り合っていたが、今思えば、義兄上は私の相手もしながらアズールへの欲望と必死に戦い続けていたのだろう。
アズールが未成年だからという理由があったにしても、運命の相手がそばにいながら手出しできないのは本当に辛かっただろうな。
もし、今ティオがまだ年端もいかない子どもだったとして、すでに荒れ狂っている昂りを抑えつけられるかどうか……。
まだ出会ってから数時間も経っていない今で限界なのだから、18年も待ち続けた本当に義兄上は素晴らしい。
誰だ、獣人が本能のままに暴れるなんてことを言い出したやつは。
その犯人を見つけ出して皆の前で訂正させたいくらいだ。
「ティオ……陛下の前でも決して私から離れてはならぬぞ」
「えっ、ですが、それは……」
「大丈夫だ。今日のティオは陛下の護衛騎士ではない。私の運命の相手で大事な伴侶なのだからな」
そういうと、ティオは静かに頷いた。
城に到着し、私がティオを抱きかかえたまま馬車から降りると、玄関で並んでいた騎士たちはティオの姿を見て、驚きの表情を浮かべていた。
だが、今、彼らに説明している暇はない。
先に馬車を降りた義兄上とアズールの後に続くように城の中に入った。
<sideクローヴィス(ヴンダーシューン王国の国王でルーディーの父)>
「陛下。ルーディーさまとアズールさまがお戻りになりまして、陛下にお会いしたいそうです」
「なんだ? 今日はヴォルフ公爵家に泊まると言っていたのではなかったか?」
「はい。そのように仰っておいででしたが、何やら陛下に大切なお話があるとお戻りになったようでございます」
「私に大切な話とな? なんだ、それは?」
「それは私も存じ上げません。すぐにお越しになりますが、お部屋にご案内してもよろしゅうございますか?」
「ああ、それはかまわぬが……ルーディーが私に大切な話か……。一体なんだろうな? ああっ! もしや!!」
「何か心当たりでもおありなのですか?」
「まさか、アズールに子ができたのではないか?」
「ええっ!! それがまことでしたらおめでたいことでございますが……さすがに早すぎではございませんか?」
「やはりそうか……いや、そうだな。まぁいい、すぐに来るのだろう? 私は待っているから、来たらすぐに中に入れてくれ」
「承知しました」
部屋に一人になり、少し考える。
ルーディーが私に大切な話。
しかもアズールも一緒だとするとだいぶ限られてくるが……やはりアズールのことではないのか?
考えても想像もつかないのだからどうしようもないが、何もせずにいられない。
緊張したまま待っていると、しばらくして部屋の扉を叩く音が聞こえ、ルーディーとアズールが入ってくるのが聞こえた。
「父上、急に申し訳ありません」
「いや、それはかまわぬが、一体どうしたのだ? 今日は里帰りに行ったのではなかったか?」
「はい。その予定でしたが、父上に大切なご報告があり戻ってきたのです」
「それはなんだ?」
「はい。それは、本人を呼びますので、本人にお尋ねください」
「本人、だと?」
ルーディーが入れと扉の向こうに促すと、扉が開き中に入ってくる音が聞こえる。
その足取りは一人のように聞こえるが、二人いるのか?
何事かと見つめていると、私の前に現れたのは、アズールの兄である、ヴォルフ公爵家嫡男クレイ。
しかもその腕には、私の専属護衛であるティオが大切そうに抱きかかえられている。
「く、クレイ……その姿は……」
「はい。国王陛下。私、ヴォルフ公爵家嫡男クレイに運命の相手が見つかりましたことをご報告に参りました。私の運命の相手は、このティオにございます」
「な――っ、それはまことか?」
私の驚きの声に、クレイは満面の笑みで、そして、ティオは顔を真っ赤に染めながら、肯定の言葉を返した。
アズールの言葉には驚きつつも、義兄上のとりなしですぐに陛下にご挨拶できることとなった。
城に向かうとき、アズールは四人で馬車に乗りたがっていたが、ティオは私とアズールに加えて、義兄上とまで一緒の馬車に乗るのは気疲れするだろう。
陛下に会う前にティオを疲れさせたくなくて、二台の馬車で城に向かった。
「ティオ、心配しないでいい。陛下も狼族の習性はご存じだから、運命の相手だといえば、反対などなさらない」
「は、はい。でも……今でも信じられない思いです。私がクレイさまの運命の相手だなんて……」
「信じられなくとももう私たちは離れられないぞ。わかるだろう?」
「はい。私も……離れたくありません……」
「ふふっ。さっきもそう言ってくれたな。嬉しいよ」
「クレイさま……」
ティオが私に顔を擦り寄せる。
猫族は警戒心が強いが、その反面、心を許すと奥深くまで入ってきてくれる。
ああ、本当に愛おしい。
このまま唇を奪ってやりたくなるが、そんなことをしてはもう歯止めが効かなくなることが自分が一番よくわかっている。
なんとしてでも陛下にご挨拶をするまでは気合いで乗り越えなければな。
ティオと一緒に過ごせば過ごすだけ義兄上の偉大さに気づく。
私は義兄上の苦労を何も知らずに敵意剥き出しで張り合っていたが、今思えば、義兄上は私の相手もしながらアズールへの欲望と必死に戦い続けていたのだろう。
アズールが未成年だからという理由があったにしても、運命の相手がそばにいながら手出しできないのは本当に辛かっただろうな。
もし、今ティオがまだ年端もいかない子どもだったとして、すでに荒れ狂っている昂りを抑えつけられるかどうか……。
まだ出会ってから数時間も経っていない今で限界なのだから、18年も待ち続けた本当に義兄上は素晴らしい。
誰だ、獣人が本能のままに暴れるなんてことを言い出したやつは。
その犯人を見つけ出して皆の前で訂正させたいくらいだ。
「ティオ……陛下の前でも決して私から離れてはならぬぞ」
「えっ、ですが、それは……」
「大丈夫だ。今日のティオは陛下の護衛騎士ではない。私の運命の相手で大事な伴侶なのだからな」
そういうと、ティオは静かに頷いた。
城に到着し、私がティオを抱きかかえたまま馬車から降りると、玄関で並んでいた騎士たちはティオの姿を見て、驚きの表情を浮かべていた。
だが、今、彼らに説明している暇はない。
先に馬車を降りた義兄上とアズールの後に続くように城の中に入った。
<sideクローヴィス(ヴンダーシューン王国の国王でルーディーの父)>
「陛下。ルーディーさまとアズールさまがお戻りになりまして、陛下にお会いしたいそうです」
「なんだ? 今日はヴォルフ公爵家に泊まると言っていたのではなかったか?」
「はい。そのように仰っておいででしたが、何やら陛下に大切なお話があるとお戻りになったようでございます」
「私に大切な話とな? なんだ、それは?」
「それは私も存じ上げません。すぐにお越しになりますが、お部屋にご案内してもよろしゅうございますか?」
「ああ、それはかまわぬが……ルーディーが私に大切な話か……。一体なんだろうな? ああっ! もしや!!」
「何か心当たりでもおありなのですか?」
「まさか、アズールに子ができたのではないか?」
「ええっ!! それがまことでしたらおめでたいことでございますが……さすがに早すぎではございませんか?」
「やはりそうか……いや、そうだな。まぁいい、すぐに来るのだろう? 私は待っているから、来たらすぐに中に入れてくれ」
「承知しました」
部屋に一人になり、少し考える。
ルーディーが私に大切な話。
しかもアズールも一緒だとするとだいぶ限られてくるが……やはりアズールのことではないのか?
考えても想像もつかないのだからどうしようもないが、何もせずにいられない。
緊張したまま待っていると、しばらくして部屋の扉を叩く音が聞こえ、ルーディーとアズールが入ってくるのが聞こえた。
「父上、急に申し訳ありません」
「いや、それはかまわぬが、一体どうしたのだ? 今日は里帰りに行ったのではなかったか?」
「はい。その予定でしたが、父上に大切なご報告があり戻ってきたのです」
「それはなんだ?」
「はい。それは、本人を呼びますので、本人にお尋ねください」
「本人、だと?」
ルーディーが入れと扉の向こうに促すと、扉が開き中に入ってくる音が聞こえる。
その足取りは一人のように聞こえるが、二人いるのか?
何事かと見つめていると、私の前に現れたのは、アズールの兄である、ヴォルフ公爵家嫡男クレイ。
しかもその腕には、私の専属護衛であるティオが大切そうに抱きかかえられている。
「く、クレイ……その姿は……」
「はい。国王陛下。私、ヴォルフ公爵家嫡男クレイに運命の相手が見つかりましたことをご報告に参りました。私の運命の相手は、このティオにございます」
「な――っ、それはまことか?」
私の驚きの声に、クレイは満面の笑みで、そして、ティオは顔を真っ赤に染めながら、肯定の言葉を返した。
187
お気に入りに追加
5,307
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる