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第三章

陛下へのご挨拶

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<sideクレイ>

アズールの言葉には驚きつつも、義兄上のとりなしですぐに陛下にご挨拶できることとなった。

城に向かうとき、アズールは四人で馬車に乗りたがっていたが、ティオは私とアズールに加えて、義兄上とまで一緒の馬車に乗るのは気疲れするだろう。
陛下に会う前にティオを疲れさせたくなくて、二台の馬車で城に向かった。

「ティオ、心配しないでいい。陛下も狼族の習性はご存じだから、運命の相手だといえば、反対などなさらない」

「は、はい。でも……今でも信じられない思いです。私がクレイさまの運命の相手だなんて……」

「信じられなくとももう私たちは離れられないぞ。わかるだろう?」

「はい。私も……離れたくありません……」

「ふふっ。さっきもそう言ってくれたな。嬉しいよ」

「クレイさま……」

ティオが私に顔を擦り寄せる。
猫族は警戒心が強いが、その反面、心を許すと奥深くまで入ってきてくれる。

ああ、本当に愛おしい。

このまま唇を奪ってやりたくなるが、そんなことをしてはもう歯止めが効かなくなることが自分が一番よくわかっている。

なんとしてでも陛下にご挨拶をするまでは気合いで乗り越えなければな。

ティオと一緒に過ごせば過ごすだけ義兄上の偉大さに気づく。
私は義兄上の苦労を何も知らずに敵意剥き出しで張り合っていたが、今思えば、義兄上は私の相手もしながらアズールへの欲望と必死に戦い続けていたのだろう。

アズールが未成年だからという理由があったにしても、運命の相手がそばにいながら手出しできないのは本当に辛かっただろうな。

もし、今ティオがまだ年端もいかない子どもだったとして、すでに荒れ狂っている昂りを抑えつけられるかどうか……。
まだ出会ってから数時間も経っていない今で限界なのだから、18年も待ち続けた本当に義兄上は素晴らしい。
誰だ、獣人が本能のままに暴れるなんてことを言い出したやつは。

その犯人を見つけ出して皆の前で訂正させたいくらいだ。

「ティオ……陛下の前でも決して私から離れてはならぬぞ」

「えっ、ですが、それは……」

「大丈夫だ。今日のティオは陛下の護衛騎士ではない。私の運命の相手で大事な伴侶なのだからな」

そういうと、ティオは静かに頷いた。

城に到着し、私がティオを抱きかかえたまま馬車から降りると、玄関で並んでいた騎士たちはティオの姿を見て、驚きの表情を浮かべていた。
だが、今、彼らに説明している暇はない。

先に馬車を降りた義兄上とアズールの後に続くように城の中に入った。


<sideクローヴィス(ヴンダーシューン王国の国王でルーディーの父)>

「陛下。ルーディーさまとアズールさまがお戻りになりまして、陛下にお会いしたいそうです」

「なんだ? 今日はヴォルフ公爵家に泊まると言っていたのではなかったか?」

「はい。そのように仰っておいででしたが、何やら陛下に大切なお話があるとお戻りになったようでございます」

「私に大切な話とな? なんだ、それは?」

「それは私も存じ上げません。すぐにお越しになりますが、お部屋にご案内してもよろしゅうございますか?」

「ああ、それはかまわぬが……ルーディーが私に大切な話か……。一体なんだろうな? ああっ! もしや!!」

「何か心当たりでもおありなのですか?」

「まさか、アズールに子ができたのではないか?」

「ええっ!! それがまことでしたらおめでたいことでございますが……さすがに早すぎではございませんか?」

「やはりそうか……いや、そうだな。まぁいい、すぐに来るのだろう? 私は待っているから、来たらすぐに中に入れてくれ」

「承知しました」

部屋に一人になり、少し考える。
ルーディーが私に大切な話。
しかもアズールも一緒だとするとだいぶ限られてくるが……やはりアズールのことではないのか?

考えても想像もつかないのだからどうしようもないが、何もせずにいられない。
緊張したまま待っていると、しばらくして部屋の扉を叩く音が聞こえ、ルーディーとアズールが入ってくるのが聞こえた。

「父上、急に申し訳ありません」

「いや、それはかまわぬが、一体どうしたのだ? 今日は里帰りに行ったのではなかったか?」

「はい。その予定でしたが、父上に大切なご報告があり戻ってきたのです」

「それはなんだ?」

「はい。それは、本人を呼びますので、本人にお尋ねください」

「本人、だと?」

ルーディーが入れと扉の向こうに促すと、扉が開き中に入ってくる音が聞こえる。
その足取りは一人のように聞こえるが、二人いるのか?

何事かと見つめていると、私の前に現れたのは、アズールの兄である、ヴォルフ公爵家嫡男クレイ。
しかもその腕には、私の専属護衛であるティオが大切そうに抱きかかえられている。

「く、クレイ……その姿は……」

「はい。国王陛下。私、ヴォルフ公爵家嫡男クレイに運命の相手が見つかりましたことをご報告に参りました。私の運命の相手は、このティオにございます」

「な――っ、それはまことか?」

私の驚きの声に、クレイは満面の笑みで、そして、ティオは顔を真っ赤に染めながら、肯定の言葉を返した。
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