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第三章

見守ってやろう

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<sideルーディー>

階段を駆け降りてきたクレイが大事そうに抱きかかえているのがティオだとわかって、突然のことに一瞬どういうことかわからなかったが、アズールの声に慌てたようにクレイの腕から飛び降りたティオの様子と、ティオが離れていったことにあんなにも狼狽えたクレイの表情にすぐにわかった。

この二人が運命の相手なのだと。

猫族であるティオは運命の相手を嗅ぎ分ける力は弱いが、狼族であるクレイの力に引かれてクレイが運命の相手であることに気付いたのだろう。
だからこそ、クレイはティオが離れたことが不安で仕方がないのだ。

それにしても、ようやくか。

クレイにようやく運命が現れたのだな。

アズールのような可愛らしいウサギ族を弟に持ったせいか、アズールに対する執着はかなりのものだったが、アズールが正式に私の番となりこの家から出たことで、クレイにとってもいい方向に動いたのだろう。

アズールは二人の様子を見てもまだ何も気付いていないから、ティオがクレイと一緒にいる理由がわかっていないようだ。
クレイは正直に私たちに運命の相手だと伝えられるか?

ティオとしてはしっかりと宣言してもらいたいところだろう。

クレイ、ここはアズールよりもティオを優先すべきことだぞ!

クレイがどう出るか確かめていると、クレイは堂々とティオが運命の相手なのだと宣言した。
アズールがどう反応するかを心配しているようだが、そんな心配はいらない。

なんせ、アズールとティオは爺の部屋でお茶を楽しむ友達なのだからな。

もちろんティオはアズールを次期王妃だと理解した上で付き合っているが。それでも騎士団にいる時と比べても随分気楽に過ごしているように見える。
アズールにとっては初めての友達で、ティオとのお茶の時間を楽しみにしているのだ。

父上もアズールとティオが仲良くしているのは嬉しいようで率先してアズールとティオが過ごす時間を作ってくれているようだ。
まぁ、私としてもアズールのそばに腕の立つ騎士がいてくれるのは安心だ。
専属護衛であるヴェルナーと、父上の専属護衛を務めるティオが一緒なのだからこんなに心強いことはない。

そんな仲のいいティオが兄であるクレイと夫夫になるのだから、アズールが喜ばないわけがない。

だから、私もクレイとティオのためにひと肌脱いでやるとしよう。

せっかくここでアズールと初夜の時のように愛し合おうと思ったが、まぁそれはこれからいつでもできる。
私たちがついていけば父上に報告するのも容易いのだからな。

爺の話によれば、アズールとティオが話をしている内容は、ほとんど騎士団のことらしい。
アズールにとってはあまり知らない世界だから楽しいのだろう。
だが、これから義兄弟になるわけだから、家族としてもっと深い話をするかもしれないな。

あっ!! 
とすれば、もしかして……。

と思った瞬間、

「あ、じゃあ! お義父さまへの報告が終わったら、ティオも今夜はお兄さまにお腹の奥をゴリゴリと擦られて蜜をいっぱい出されて愛し合うんだね」

とアズールからなんとも明け透けな言葉が飛び出した。

思ったことを正直に話してしまうアズールにはもう私は慣れているが、ティオにとっては初めてのことだったろう。

アズールには常々、家族以外には身体の成長や閨のことなどを曝け出してはいけないと話していたから、素直なアズールはそれをしっかりと守っていた。

だからこそティオとのお茶会にはその話は出さなかったのだろう。

だが、クレイの伴侶になると分かれば、アズールにとってティオはもう家族同然というわけだ。

アズールの言葉にティオは顔を真っ赤にしているが、それ以上に顔を真っ赤にして困っているのはクレイのようだ。
まぁ、あれほど可愛がっていたアズールから赤裸々に閨の話を聞けば困ると同時に悲しみも強いのかもしれない。

「アズール、クレイもティオもたった今、運命の相手だとわかったばかりだから、そんなことを聞いては恥ずかしがってしまうぞ」

「えっ? そうなの?」

「ああ、初めての時は何も言わずに優しく見守ってあげないとな。アズールも私と初夜を迎える前に家族からそんなことを尋ねられたりはしなかっただろう?」

「うん。そうだった! 何にも尋ねられなかった。そっか、見守るのが大事なんだね」

「そうだ。ちゃんと理解ができてえらいな」

「ふふっ。よかった、ルーに褒められちゃった」

「クレイ、ティオもアズールが理解してくれたから、城に向かおう。今ならすぐに父上にもお会いできるはずだ。今日はそのまま城に泊まったらいい」

「えっ、お城に? 義兄上、いいのでしょうか?」

「ああ、もちろんだとも。私たちは家族なのだし、客間も空いているから好きに使うがいい」

「義兄上、ありがとうございます! ティオ、よかったな。早く行こう!」

クレイはティオを抱きかかようとするが、ティオが私たちが気になって仕方がないようだ。

「ティオ、抵抗はしない方がいい。私もだが、狼族は独占欲が強いから抱きかかえさせてもらわなければこのまま部屋に連れ込まれてしまうぞ。父上に報告する前に夫夫になってもいいのか?」

「――っ、それはダメです!」

「なら、素直に抱きかかえられているが良い。私もアズールを抱きかかえているのだから気にしないぞ」

そういうとようやくティオは大人しくクレイの腕の中に収まった。

ふふっ。クレイの幸せそうな顔と言ったら。
こんなにも甘く蕩けるような表情はアズールにも見せたことがない。
やはりクレイにとってティオは特別な存在のようだ。
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