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第三章
アズールにしかできないこと
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「なんだ? ヴェルナーはともかく二人揃ってここに来るとは珍しいな。マクシミリアン、訓練は終わったのか?」
「はい。そのご報告に参りました。本日の訓練は無事に終了いたしました」
「その報告のためだけにわざわざヴェルナーも連れてきたのか?」
「いいえ。実は団長にご相談がございましてお伺いしました」
わざわざこの報告のためだけにここにくるわけがないと思ってはいたが、マクシミリアンが相談事を持ちかけてくるなど珍しいこともあるものだ。
いや、それだけではない。
爺もアズールも、それにヴェルナーまで一緒の時というのも尚更不思議だ。
一体なんの相談があるというのだろう。
「実はアズールさまのお力をお借りしたくて、団長にその許可をいただきたいのです」
「アズールの力だと?」
「えっ? 僕に何かできることがあるの?」
「はい。アズールさまにしかできないことなのです」
マクシミリアンの言葉にアズールは目を輝かせて私を見た。
「ルー! マクシミリアンの役に立ちたい! アズールにしかできないことやりたい!!」
私の膝の上でアズールは興奮したようにぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。
こうなるとどうしようもない。
マクシミリアンめ。
二人っきりだと私が許可を出さないとわかっていたな?
自分が求められていると知れば、アズールはどんなことでも絶対にやりたいと言い出すに決まっているのだからな。
マクシミリアンとヴェルナーが一緒だから、おかしなことを言い出すとは到底考えられないが、それでも今はまだあまりアズールを私のそばから離したくないのだが。
アズールにしかできないこととは一体なんだ?
「アズール、落ち着いてくれ。マクシミリアン、とにかくどんな内容か教えてくれないか? 話はそれからだ」
何も聞かずに許可など出せるはずもない。
それはわかってくれるだろう。
話を聞いた上でアズールに危害を及ぼすことでなければ、私とて反対することもない……おそらく。
そういうと、マクシミリアンは真剣な表情で口を開いた。
「実はさきほどアリーシャさまが訓練場にお越しになりました」
「何? 義母上が? 義父上も一緒か?」
「いいえ。アリーシャさまがベン殿をお供にお一人でお越しになりました」
まさか。義母上だけで訓練場に来るとは……。
思いがけない言葉に驚きが隠せない。
よく、あの義父上が許したものだ。
これには流石のアズールも驚いたようだな。
「お母さまがどうして?」
「アズールさまにお会いになりたいそうです」
「えっ……」
「アリーシャさまだけでなく、公爵家のご家族さまも使用人たちも皆が寂しがっていらっしゃるようです。アズールさまは皆様に愛されていらっしゃいますから」
「お母さまも、みんなも……」
それはそうだろう。
アズールはあの家で太陽のように明るく、皆の癒しの存在だったんだ。
そんなアズールがいなくなれば、確かに寂しいだろう。
私だって、今アズールと離れるようなことがあれば一日も我慢などできそうにない。
もう離れる気などさらさらないが。
義母上がわざわざ訓練場まで相談に行くほど切羽詰まっていたのだろう。
アズールと過ごす日々が楽しいばかりに義家族のことを気遣うのを忘れていた私のせいだな。
「ですから、アズールさまに里帰りしていただいて、皆様にまた元気をお与えになってほしいのです。できればそれを定期的に……。団長、どうかお許しをいただけないでしょうか?」
こんな話を聞けば、アズールも皆に会いに行きたいというに決まっている。
だが、アズールは私がダメだと言えば、絶対にそれを守ろうとする。
たとえ、自分の心を押し殺してでも。
私がアズールにそんなことを強いるなんてできるはずもない。
私は何よりもアズールの涙に弱いのだから。
「許可などする必要はない」
「団長っ、それは……」
「アズールが家族に会いに行くのに許可などいらないだろう? アズールの家は私の家でもあるのだぞ。アズール、週末にでも一緒に実家に泊まりに行くとしようか」
私の言葉にアズールは一気に笑みを浮かべて
「ルーっ!!! うん!! 行く! ルーと一緒に行く!!」
私の膝の上でさっきよりも嬉しそうにぴょんぴょんと軽やかに飛び跳ねて見せた。
「ということだ。ヴェルナー、週末は護衛を頼むぞ」
「承知しました」
「ああ、もちろん夜の任務は必要ない。マクシミリアンと仲良く過ごすが良い」
「――っ!! は、はい。お心遣いに感謝いたします」
私の言葉に顔を赤らめるヴェルナーをマクシミリアンはさっと隠す。
ふふっ。マクシミリアンも私同様に狭量なようだな。
「はい。そのご報告に参りました。本日の訓練は無事に終了いたしました」
「その報告のためだけにわざわざヴェルナーも連れてきたのか?」
「いいえ。実は団長にご相談がございましてお伺いしました」
わざわざこの報告のためだけにここにくるわけがないと思ってはいたが、マクシミリアンが相談事を持ちかけてくるなど珍しいこともあるものだ。
いや、それだけではない。
爺もアズールも、それにヴェルナーまで一緒の時というのも尚更不思議だ。
一体なんの相談があるというのだろう。
「実はアズールさまのお力をお借りしたくて、団長にその許可をいただきたいのです」
「アズールの力だと?」
「えっ? 僕に何かできることがあるの?」
「はい。アズールさまにしかできないことなのです」
マクシミリアンの言葉にアズールは目を輝かせて私を見た。
「ルー! マクシミリアンの役に立ちたい! アズールにしかできないことやりたい!!」
私の膝の上でアズールは興奮したようにぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。
こうなるとどうしようもない。
マクシミリアンめ。
二人っきりだと私が許可を出さないとわかっていたな?
自分が求められていると知れば、アズールはどんなことでも絶対にやりたいと言い出すに決まっているのだからな。
マクシミリアンとヴェルナーが一緒だから、おかしなことを言い出すとは到底考えられないが、それでも今はまだあまりアズールを私のそばから離したくないのだが。
アズールにしかできないこととは一体なんだ?
「アズール、落ち着いてくれ。マクシミリアン、とにかくどんな内容か教えてくれないか? 話はそれからだ」
何も聞かずに許可など出せるはずもない。
それはわかってくれるだろう。
話を聞いた上でアズールに危害を及ぼすことでなければ、私とて反対することもない……おそらく。
そういうと、マクシミリアンは真剣な表情で口を開いた。
「実はさきほどアリーシャさまが訓練場にお越しになりました」
「何? 義母上が? 義父上も一緒か?」
「いいえ。アリーシャさまがベン殿をお供にお一人でお越しになりました」
まさか。義母上だけで訓練場に来るとは……。
思いがけない言葉に驚きが隠せない。
よく、あの義父上が許したものだ。
これには流石のアズールも驚いたようだな。
「お母さまがどうして?」
「アズールさまにお会いになりたいそうです」
「えっ……」
「アリーシャさまだけでなく、公爵家のご家族さまも使用人たちも皆が寂しがっていらっしゃるようです。アズールさまは皆様に愛されていらっしゃいますから」
「お母さまも、みんなも……」
それはそうだろう。
アズールはあの家で太陽のように明るく、皆の癒しの存在だったんだ。
そんなアズールがいなくなれば、確かに寂しいだろう。
私だって、今アズールと離れるようなことがあれば一日も我慢などできそうにない。
もう離れる気などさらさらないが。
義母上がわざわざ訓練場まで相談に行くほど切羽詰まっていたのだろう。
アズールと過ごす日々が楽しいばかりに義家族のことを気遣うのを忘れていた私のせいだな。
「ですから、アズールさまに里帰りしていただいて、皆様にまた元気をお与えになってほしいのです。できればそれを定期的に……。団長、どうかお許しをいただけないでしょうか?」
こんな話を聞けば、アズールも皆に会いに行きたいというに決まっている。
だが、アズールは私がダメだと言えば、絶対にそれを守ろうとする。
たとえ、自分の心を押し殺してでも。
私がアズールにそんなことを強いるなんてできるはずもない。
私は何よりもアズールの涙に弱いのだから。
「許可などする必要はない」
「団長っ、それは……」
「アズールが家族に会いに行くのに許可などいらないだろう? アズールの家は私の家でもあるのだぞ。アズール、週末にでも一緒に実家に泊まりに行くとしようか」
私の言葉にアズールは一気に笑みを浮かべて
「ルーっ!!! うん!! 行く! ルーと一緒に行く!!」
私の膝の上でさっきよりも嬉しそうにぴょんぴょんと軽やかに飛び跳ねて見せた。
「ということだ。ヴェルナー、週末は護衛を頼むぞ」
「承知しました」
「ああ、もちろん夜の任務は必要ない。マクシミリアンと仲良く過ごすが良い」
「――っ!! は、はい。お心遣いに感謝いたします」
私の言葉に顔を赤らめるヴェルナーをマクシミリアンはさっと隠す。
ふふっ。マクシミリアンも私同様に狭量なようだな。
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