真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

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第三章

幸せを願う

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<sideヴィルヘルム(ヴォルフ公爵)>

「ベン、アズールの様子はどうだった?」

「申し訳ありません。シーツを交換しに伺っただけでアズールさまのお姿は拝見しておりません」

「はぁーっ。そうか……そうだな」

「ですが、シーツの交換をお呼びになったということは、今からお休みになるのではないでしょうか?」

「そうか、ならば起きたら出てくるのかもしれんな」

「はい。その可能性は高いかと存じます」

そうだ、アリーシャも話していた。
たとえどんなにシーツが汚れても、初夜が終わるまでは他の者の匂いを寝室に入れるのを嫌がるのだと。
それはウサギ族であるアズールも獣人である王子も同じようだ。

だからこそ、シーツの交換に呼ばれたということは初夜が無事に終わったのだということだろう。

ああ、アズールがよくぞ一週間も王子との激しい交わりに耐え抜いてくれたものだ。
この一週間でアズールがどのようになってしまったのか想像もつかないが、もう今は、無事に出てきてくれるだけでいい。
早く元気な姿を見せてくれ。

その日は何も手につかず、廊下を行ったり来たりしていると、

「あなた。少しは落ち着いてください」

とアリーシャが声をかけてくる。

「そうは言ってもアズールが……」

「大丈夫ですよ。アズールと王子は運命の番なのですよ。それに……もしかしたら、大変だったのは王子の方だったかもしれませんし」

「アリーシャ、それはどういうことだ?」

「ふふっ。獣人よりウサギ族は強いということですよ」

にこやかな笑顔でそんなことを言ってくるが、あの小さくてすぐにでも壊れてしまいそうなアズールが、あの王子より強い?
その時はアリーシャの言っている意味がよくわからなかったが、二人が部屋から出てきた時にその謎は解けた。


シーツ交換後、待ち続けること半日。
ようやく二度目のベルが鳴らされた。

リビングからのベルに安心して、私とアリーシャでまず部屋に向かうことにした。

「アズール、入るぞ」

リビングからベルが鳴らされたのだから大丈夫だと思いつつも、一応外から声掛けをして、ガチャリといつもより重く感じる扉を開け中に入った。

すると、部屋の奥から

「ふふっ。ルーったら」

といつものように可愛らしい声が飛んできた。

想像していたよりもずっと元気そうで楽しげな声にホッとしながら足を進めた私の目に飛び込んできたのは、王子に

「ねぇ、もっとぉー、ちゅーしよう」

とねだりながら、抱きついているアズールの姿だった。
王子の方はといえば、表情に少し疲れた様子が見えるのは気のせいではないだろう。

「あ、アズール……」

「あっ、お父さまとお母さまだぁー! ふふっ。アズール、大人になったの、いーっぱい蜜を注いでもらったんだよ。ルーの、すっごくおっきくて気持ちよくってね、アズールもいっぱい蜜を出したんだよ。ねぇ、ルー」

「くっ――! アズールが……」

まだ頬を上気させ、情事後の色香漂う艶やかな表情を浮かべながらも、無邪気に初夜の感想を伝えられて、あまりの衝撃にその場に崩れ落ちてしまう。

「あれ? お父さま、どうしたの?」

「大丈夫、気にしなくていい。アズールが無事に大人になって喜んでおられるのだ。それよりもアズール、義父上ちちうえたちに報告があるのだろう?」

「ああっ! そうだった!!」

これ以上一体どんな報告があるのだ?
さっきの衝撃が強くて耳に入りそうにないのだが……。

「あのね、アズール。今日からルーと一緒にお城で住むの!」

「な――っ、きょ、今日から?」

「うん、だってアズールはルーのお嫁さんになったんだもん。だから、離れたくないの」

「アズール……」

やはりそうなったか……。
もうしばらく、アズールと一緒に暮らせると思っていたのだが……。

もう初夜を迎えたのだから、引き止めるわけにはいかないな。

だが、もう今日すぐに行ってしまうのか……それは寂しすぎる。
息子との別れがこんなにもあっけないものなのか。

「お父さま?」

「アズールが王子と一緒にいたいと望むなら、私たちが反対することはないわ。そうでしょう、あなた」

私が何もいえずにいると、アリーシャが横からアズールに声をかけてくれる。
本当に母親というのものは強いものだな。

「あ、ああ。そうだな」

「わぁー、ありがとう! アズール、とっても嬉しい!」

「ねぇ、アズール。お城に行ってしまう前に私たちのお願いも聞いてくれるかしら?」

「お母さまとお父さまの?」

「ええ。アズールと一緒にいつものテーブルで食事をしたいわ。みんなで楽しく食事をしてから送りたいわ」

「うん! 僕もお腹すいちゃった。みんなで楽しくお食事したい!!」

アズールの嬉しそうな声に、これは悲しいことではないのだと思い出す。

私は気を奮い立たせ立ち上がり、

「それでは食事を用意するように伝えておこう」

といって、アリーシャと共に部屋を出て部屋の前で待機していたベンに食事を作るように伝えた。

「これでよかったのだな」

「ええ、あなた。これでよかったのよ」

そう言ってくれるアリーシャと共に私はクレイに報告に向かった。
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