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第三章
フランツの料理教室
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<sideアズール>
「フランツ! いい匂いがしてきた!」
「はい。もう少しの辛抱ですよ、アズールさま」
「まだ?」
「まだまだ、ここはじっくりですよ。じっくりみていると、ひっくり返すタイミングが分かりますから、その時を狙うんです」
パチパチと油が跳ねるのを避けながら必死にタイミングを計り、ここぞ! というところでひっくり返すと美味しそうなお肉はいい焼き色を見せてくれた。
「どう?」
「はい。素晴らしいタイミングでございましたよ。アズールさま、本当にお上手になりましたね。ルーディー王太子殿下もお喜びになりますよ」
「ふふっ。よかった」
僕は今、毎日フランツに料理を習っている。
15歳の誕生日にお父さまにお願いして、フランツに料理を習うことを許してもらったんだ。
それでも危ないからと言って最初は野菜をちぎったり、ソースをかき混ぜたりするくらいしかさせてもらえなかったけれど、2年半毎日教えてもらったおかげで、今では包丁を使って果物の皮も薄く上手に剥けるようになったし、こうしてメインディッシュのお肉の焼き加減も任せてもらえるようになった。
なんで僕がフランツに料理を習おうと思ったかというと、理由はもちろんルー!
だって、毎日訓練で忙しいのに、終わったらいつも僕に会いに来てくれるから、少しでもルーの疲れが取れるように美味しいものを作ってあげたいなって思うようになったんだ。
もうすぐルーと結婚するわけだし、全部は無理でも毎日一品でもいいからお城でもルーのために料理を作れたらいいなと思ってる。
「もうすぐルーが帰ってくる時間だよ。これ、食べてもらえるかな」
「ええ、もちろんでございますよ」
僕が焼いたお肉をフランツの特製のママレードソースに漬け込んでじっくりと味を馴染ませると、ルーの大好きなお肉料理の完成だ。
「ねぇ、フランツ。このソースのレシピも僕が結婚するまでには教えてね」
「ふふっ。はい。このフランツの門外不出のレシピもアズールさまにだけこっそりとお教えしますね」
「わぁ、嬉しい! 約束だよ!」
約束をしようとフランツに小指を差し出した瞬間、
「こら、アズール」
「わっ!!」
突然、後ろからギュッと抱きしめられてびっくりして声が出てしまった。
だけど、この匂いは……
「ルー!! びっくりしたぁ! もう帰ってきたの?」
やっぱりルーだと思いながら、振り返って声をかけると
「ああ、アズールの夕食が待ちきれずに急いで帰ってきたのに。驚かせようと思って厨房に来たら、私の方が驚かされてしまったぞ。フランツと何をしようとしていたんだ?」
と少し怒った様子で言われてしまった。
「何って、約束――あっ、ごめんなさい……」
前にルーと約束だよって小指を絡めた時に、これはルー以外とはしてはいけない。
この国ではダメなことなんだって教えてもらったんだ。
あのレシピを教えてもらえると思って嬉しくて、そんな大事なことがすっかり抜け落ちていた。
僕はまだまだだな。
悪いことしちゃったって思ったら、ピンと立った耳がぺしょんと折れてしまう。
この長い耳は僕の気持ちとも連動しているみたいだ。
「約束の時にアズールが小指を絡めるのは可愛らしくて好きだが、私以外とはしてはいけないんだぞ」
「はい。ごめんなさい」
「ふふっ。わかってくれたらいいんだ」
「許してくれるの?」
「ああ。アズールが反省しているかどうかは耳を見たらわかることだからな。それよりも、アズールからいい匂いがするな」
スンスンと首筋を嗅がれてくすぐったくなる。
だけど、ルーはこうして僕の匂いを嗅ぐのが好きなんだ。
僕もルーの匂いは好きだから一緒だね。
「さすがルーだね。今日はルーの大好物のあのお肉料理を作ったんだよ」
「そうか。だが、それよりももっといい匂いがしているアズールを食べたくなるな」
「もう、ルーったら。僕は食べられないよ」
「ふふっ、そうか」
「あのお肉、今日は僕が食べさせてあげるから楽しみにしてて」
「ああ、じゃあお願いするとしよう。フランツ、すぐに食事の支度を頼む」
「は、はい。承知しました」
ふふっ。訓練でお腹空いているのかな。
こんなに食事を楽しみにしてくれるなんて。
僕が作った料理、美味しいって言ってくれたらいいなぁ。
「フランツ! いい匂いがしてきた!」
「はい。もう少しの辛抱ですよ、アズールさま」
「まだ?」
「まだまだ、ここはじっくりですよ。じっくりみていると、ひっくり返すタイミングが分かりますから、その時を狙うんです」
パチパチと油が跳ねるのを避けながら必死にタイミングを計り、ここぞ! というところでひっくり返すと美味しそうなお肉はいい焼き色を見せてくれた。
「どう?」
「はい。素晴らしいタイミングでございましたよ。アズールさま、本当にお上手になりましたね。ルーディー王太子殿下もお喜びになりますよ」
「ふふっ。よかった」
僕は今、毎日フランツに料理を習っている。
15歳の誕生日にお父さまにお願いして、フランツに料理を習うことを許してもらったんだ。
それでも危ないからと言って最初は野菜をちぎったり、ソースをかき混ぜたりするくらいしかさせてもらえなかったけれど、2年半毎日教えてもらったおかげで、今では包丁を使って果物の皮も薄く上手に剥けるようになったし、こうしてメインディッシュのお肉の焼き加減も任せてもらえるようになった。
なんで僕がフランツに料理を習おうと思ったかというと、理由はもちろんルー!
だって、毎日訓練で忙しいのに、終わったらいつも僕に会いに来てくれるから、少しでもルーの疲れが取れるように美味しいものを作ってあげたいなって思うようになったんだ。
もうすぐルーと結婚するわけだし、全部は無理でも毎日一品でもいいからお城でもルーのために料理を作れたらいいなと思ってる。
「もうすぐルーが帰ってくる時間だよ。これ、食べてもらえるかな」
「ええ、もちろんでございますよ」
僕が焼いたお肉をフランツの特製のママレードソースに漬け込んでじっくりと味を馴染ませると、ルーの大好きなお肉料理の完成だ。
「ねぇ、フランツ。このソースのレシピも僕が結婚するまでには教えてね」
「ふふっ。はい。このフランツの門外不出のレシピもアズールさまにだけこっそりとお教えしますね」
「わぁ、嬉しい! 約束だよ!」
約束をしようとフランツに小指を差し出した瞬間、
「こら、アズール」
「わっ!!」
突然、後ろからギュッと抱きしめられてびっくりして声が出てしまった。
だけど、この匂いは……
「ルー!! びっくりしたぁ! もう帰ってきたの?」
やっぱりルーだと思いながら、振り返って声をかけると
「ああ、アズールの夕食が待ちきれずに急いで帰ってきたのに。驚かせようと思って厨房に来たら、私の方が驚かされてしまったぞ。フランツと何をしようとしていたんだ?」
と少し怒った様子で言われてしまった。
「何って、約束――あっ、ごめんなさい……」
前にルーと約束だよって小指を絡めた時に、これはルー以外とはしてはいけない。
この国ではダメなことなんだって教えてもらったんだ。
あのレシピを教えてもらえると思って嬉しくて、そんな大事なことがすっかり抜け落ちていた。
僕はまだまだだな。
悪いことしちゃったって思ったら、ピンと立った耳がぺしょんと折れてしまう。
この長い耳は僕の気持ちとも連動しているみたいだ。
「約束の時にアズールが小指を絡めるのは可愛らしくて好きだが、私以外とはしてはいけないんだぞ」
「はい。ごめんなさい」
「ふふっ。わかってくれたらいいんだ」
「許してくれるの?」
「ああ。アズールが反省しているかどうかは耳を見たらわかることだからな。それよりも、アズールからいい匂いがするな」
スンスンと首筋を嗅がれてくすぐったくなる。
だけど、ルーはこうして僕の匂いを嗅ぐのが好きなんだ。
僕もルーの匂いは好きだから一緒だね。
「さすがルーだね。今日はルーの大好物のあのお肉料理を作ったんだよ」
「そうか。だが、それよりももっといい匂いがしているアズールを食べたくなるな」
「もう、ルーったら。僕は食べられないよ」
「ふふっ、そうか」
「あのお肉、今日は僕が食べさせてあげるから楽しみにしてて」
「ああ、じゃあお願いするとしよう。フランツ、すぐに食事の支度を頼む」
「は、はい。承知しました」
ふふっ。訓練でお腹空いているのかな。
こんなに食事を楽しみにしてくれるなんて。
僕が作った料理、美味しいって言ってくれたらいいなぁ。
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