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第二章
話してみよう
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<sideルーディー>
考えてみれば、『あお』のことを話しても皆とアズールとの関係が壊れるわけではないのだ。
反対に、アズールと共に『あお』のことを皆が守ろうとするのではないか。
それくらいにアズールは皆に愛されているのだ。
誰一人、『あお』のことを信じない者などいないだろう。
アズールにとっても、隠し事をせずに過ごせるのは気持ちも楽になるだろうし、それに『あお』だって、自然に話題になれば嬉しいはずだ。
とりあえずはアズールにあの蜜のことについてだけ確認しておかないといけないな。
アズールを迎えにアリーシャ殿の部屋に向かうと、扉を叩く前に先に扉が開いた。
「アズール!」
「やっぱりルーだった!」
ぴょんと嬉しそうに私の胸に飛び込んでくるアズールを抱きしめる。
ああ、私の足音で気づいてくれたのか。
「お土産のケーキは渡せたか?」
「うん。お母さま、美味しいって言ってくれたの」
「そうか。んっ? アズールからイチゴの匂いがするな」
「ふふっ。さすがルーだね。お母さまがね、アズールが好きだからってイチゴ食べさせてくれたのー」
「食べさせて……そうか、よかったな」
今のアズールの言い方からすると、きっとアリーシャ殿がアズールに食べさせてあげたのだろう。
私以外の人間からアズールが食べさせてもらうのは許し難いが、アリーシャ殿は別だからな。
イチゴのケーキを入れておいたのも、アリーシャ殿ならきっとアズールに食べさせるだろうと思っていたし、アズールが嬉しいことはきっと『あお』も嬉しいはずだからな。
「ねぇ、ルー」
「どうした?」
「アズール、いつかルーの赤ちゃん産むの!」
「な――っ!! そっ、えっ? ど、どうしたのだ?」
「お母さまが教えてくれたのー! 大人になったら、アズールがルーの赤ちゃんを産むんだって。びっくりだよね」
いやいや、突然そんなことを告げられて私の方がびっくりなのだが……。
「ルーは、赤ちゃん欲しい?」
「えっ?」
「アズールとの赤ちゃん……欲しくない?」
「そんなことはない! 欲しいに決まっている。私が欲しいのはアズールとの子どもだけだ」
びっくりしてすぐには返せなかったが、これだけはきちんと伝えておかなくては!
「ふふっ。そっかぁー。さすが、大人だねぇ」
私の言葉にアズールは嬉しそうに笑う。
アズールもいつか本当に私の子を産んでくれるのだろうな。
くっ――!!
昨日から欲望を抑えつけているせいで、想像するだけで滾ってくる。
「あらあら、よかったわね。アズール」
「うん。僕も大人になったらそう思えるかな?」
「ええ、もちろんよ。だから、今は焦らなくていいの。少しずつ少しずつ大人になっていくんだから」
アリーシャ殿の言葉にアズールは嬉しそうに頷いて、私に視線を向けた。
「ルー、アズールが大人になるまで待っててね」
「ああ。私はずっと変わらないから安心してくれ」
「ふふっ。ルー、大好きっ!」
「私もアズールが大好きだよ」
小さなアズールを強く抱きしめると、ふわりとアズールの匂いが漂ってくる。
ああ、これ以上は抑えられなくなりそうだ。
とはいえ、アズールと今離れるわけにはいかないが……。
「アズール、お母さまのことも好き?」
「お母さま! もちろんだよ!」
「ふふっ。嬉しいわ。アズール、こっちにいらっしゃい」
アリーシャ殿が手を広げると、アズールは一瞬私を見たが、
「行っておいで」
というと、嬉しそうにアリーシャ殿の胸に飛び込んでいった。
ふぅと心の中で安堵のため息を漏らすと、アリーシャ殿が私を見て優しく微笑む。
私が困っていたことに気づいてくれていたのだろう。
さすがだな。
アリーシャ殿には、先に『あお』のことを教えていても良さそうだ。
「アズール、アリーシャ殿に『あお』の話をしてみないか?」
「ルー、それは……」
「アリーシャ殿ならアズールのことを疑ったりしないと思うぞ」
そう言ってやると、アズールは少し悩んでいたけれど意を決した様子でアリーシャ殿を見つめ、
「あのね……お母さま。僕……ずっと、内緒にしていたことがあるの。聞いてくれる?」
と伝えると、
「ええ。アズールのことならなんでも知りたいわ」
そう言って、アズールを優しく抱きしめていた。
「あのね、僕……アズールとして生まれる前の、記憶があるの」
「アズールの、前の記憶?」
「うん……僕ね、こんなお耳も尻尾もないところにいたの。蒼央って名前でね。生まれた時からずっと病気で……ずっと、ひとりぼっちだったの」
「どうして、ひとりぼっちだったの? 『あお』くんのご両親は?」
「僕がずっと病気だったから邪魔だったみたい。会いに来てくれなくて……やっと会いに来てくれた時、言われたんだ。どうして生まれてきたんだって。病気なら、さっさと死んでくれたらよかったのにって」
「そんな――っ、子どもにそんな酷いことを?」
アズールの話す、可哀想な『あお』の話に、アリーシャ殿は涙を潤ませているように見えた。
考えてみれば、『あお』のことを話しても皆とアズールとの関係が壊れるわけではないのだ。
反対に、アズールと共に『あお』のことを皆が守ろうとするのではないか。
それくらいにアズールは皆に愛されているのだ。
誰一人、『あお』のことを信じない者などいないだろう。
アズールにとっても、隠し事をせずに過ごせるのは気持ちも楽になるだろうし、それに『あお』だって、自然に話題になれば嬉しいはずだ。
とりあえずはアズールにあの蜜のことについてだけ確認しておかないといけないな。
アズールを迎えにアリーシャ殿の部屋に向かうと、扉を叩く前に先に扉が開いた。
「アズール!」
「やっぱりルーだった!」
ぴょんと嬉しそうに私の胸に飛び込んでくるアズールを抱きしめる。
ああ、私の足音で気づいてくれたのか。
「お土産のケーキは渡せたか?」
「うん。お母さま、美味しいって言ってくれたの」
「そうか。んっ? アズールからイチゴの匂いがするな」
「ふふっ。さすがルーだね。お母さまがね、アズールが好きだからってイチゴ食べさせてくれたのー」
「食べさせて……そうか、よかったな」
今のアズールの言い方からすると、きっとアリーシャ殿がアズールに食べさせてあげたのだろう。
私以外の人間からアズールが食べさせてもらうのは許し難いが、アリーシャ殿は別だからな。
イチゴのケーキを入れておいたのも、アリーシャ殿ならきっとアズールに食べさせるだろうと思っていたし、アズールが嬉しいことはきっと『あお』も嬉しいはずだからな。
「ねぇ、ルー」
「どうした?」
「アズール、いつかルーの赤ちゃん産むの!」
「な――っ!! そっ、えっ? ど、どうしたのだ?」
「お母さまが教えてくれたのー! 大人になったら、アズールがルーの赤ちゃんを産むんだって。びっくりだよね」
いやいや、突然そんなことを告げられて私の方がびっくりなのだが……。
「ルーは、赤ちゃん欲しい?」
「えっ?」
「アズールとの赤ちゃん……欲しくない?」
「そんなことはない! 欲しいに決まっている。私が欲しいのはアズールとの子どもだけだ」
びっくりしてすぐには返せなかったが、これだけはきちんと伝えておかなくては!
「ふふっ。そっかぁー。さすが、大人だねぇ」
私の言葉にアズールは嬉しそうに笑う。
アズールもいつか本当に私の子を産んでくれるのだろうな。
くっ――!!
昨日から欲望を抑えつけているせいで、想像するだけで滾ってくる。
「あらあら、よかったわね。アズール」
「うん。僕も大人になったらそう思えるかな?」
「ええ、もちろんよ。だから、今は焦らなくていいの。少しずつ少しずつ大人になっていくんだから」
アリーシャ殿の言葉にアズールは嬉しそうに頷いて、私に視線を向けた。
「ルー、アズールが大人になるまで待っててね」
「ああ。私はずっと変わらないから安心してくれ」
「ふふっ。ルー、大好きっ!」
「私もアズールが大好きだよ」
小さなアズールを強く抱きしめると、ふわりとアズールの匂いが漂ってくる。
ああ、これ以上は抑えられなくなりそうだ。
とはいえ、アズールと今離れるわけにはいかないが……。
「アズール、お母さまのことも好き?」
「お母さま! もちろんだよ!」
「ふふっ。嬉しいわ。アズール、こっちにいらっしゃい」
アリーシャ殿が手を広げると、アズールは一瞬私を見たが、
「行っておいで」
というと、嬉しそうにアリーシャ殿の胸に飛び込んでいった。
ふぅと心の中で安堵のため息を漏らすと、アリーシャ殿が私を見て優しく微笑む。
私が困っていたことに気づいてくれていたのだろう。
さすがだな。
アリーシャ殿には、先に『あお』のことを教えていても良さそうだ。
「アズール、アリーシャ殿に『あお』の話をしてみないか?」
「ルー、それは……」
「アリーシャ殿ならアズールのことを疑ったりしないと思うぞ」
そう言ってやると、アズールは少し悩んでいたけれど意を決した様子でアリーシャ殿を見つめ、
「あのね……お母さま。僕……ずっと、内緒にしていたことがあるの。聞いてくれる?」
と伝えると、
「ええ。アズールのことならなんでも知りたいわ」
そう言って、アズールを優しく抱きしめていた。
「あのね、僕……アズールとして生まれる前の、記憶があるの」
「アズールの、前の記憶?」
「うん……僕ね、こんなお耳も尻尾もないところにいたの。蒼央って名前でね。生まれた時からずっと病気で……ずっと、ひとりぼっちだったの」
「どうして、ひとりぼっちだったの? 『あお』くんのご両親は?」
「僕がずっと病気だったから邪魔だったみたい。会いに来てくれなくて……やっと会いに来てくれた時、言われたんだ。どうして生まれてきたんだって。病気なら、さっさと死んでくれたらよかったのにって」
「そんな――っ、子どもにそんな酷いことを?」
アズールの話す、可哀想な『あお』の話に、アリーシャ殿は涙を潤ませているように見えた。
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