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第二章

王子への報告

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<sideヴェルナー>

目的の店に近づき、馬車が停まる。
ひと足さきに店へ出向き、王子とアズールさまがお越しになると告げ、直ちにその準備を整える。

準備が整ったところを見計らって、馬車の中でお待ちくださっている王子とアズールさまをお迎えに行くと、アズールさまは王子の膝の上で嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねていらっしゃった。

「お待たせいたしました。どうぞご案内いたします」

「わぁ、ルー! 行こう!」

「アズール、決して私から離れてはいけないよ」

「はーい!」

元気よく返されるアズールさまにはもう先ほどまでの悲しげな様子はない。
どうやらすっかり納得してくださったようだ。
やはり公爵さまとアリーシャさまにお祝いの言葉をいただいたのがよかったのだろう。
あれで本当に嬉しいことなのだと理解なさったはずだ。

だが、それで終わりというわけにはいかない。

アズールさまに偽の情報を与えた者を見つけて、それなりの罰を与えなくては。
アズールさまに死の恐怖を与え、泣かせた罪は重い。

王子もこの話をお伝えしたらきっとすぐに犯人探しをなさるはずだ。
アズールさまの毒になるような者はすぐに排除しなくてはな。

店に入ると、一気に注目を浴びてしまうのは仕方がない。
そこまで規制することはできないからな。

「ねぇ、ルー。どれでもいいの?」

「ああ、もちろんだよ。だが、アズールはもう決まっているのだろう?」

「ふふっ。わかっちゃった? アズール、このフルーツがいっぱい乗ったのがいい」

「ははっ。やっぱりそうだと思ったよ。こっちのプリンが乗っているのはいらないのか?」

「うーん、そっちも悩んだけど……さっき、お菓子も食べちゃったし、入らないかも」

「そんなことを気にしないでいい。アズールが残した物は私が食べるよ」

「わぁーっ、ルー、大好きっ!!」

アズールさまは嬉しそうに王子の首に抱きついて頬にちゅっとキスをなさった。

『きゃーっ!』

店内から一斉に歓声が上がる。
その大きな声にアズールさまは身体を震わせたが、それも一瞬だけ。
店に来るたびにこういった声を聞くのだからもう慣れているのかもしれない。


アズールさまがお気に入りのこの店には個室がない。

他の客たちと離れた広い空間を整えてもらい、そこでお二人の甘い時間が始まる。

「ほら、アズール。あーんして」

「あーん、ふふっ。おいしい!」

「ああ、ここにクリームが付いているぞ」

そう言って王子はいつも長い舌を使って、アズールさまの口元についたクリームを舐めとる。

もう私にはそれがわざとだとわかっているが、アズールさまはそれに全くお気づきにならず自分の食べ方が悪いとさえ思っているようだ。

「アズール、いっつもクリームついちゃうね」

「仕方がないのだよ。アズールの口が小さいのだから。だが、いつも私が綺麗にしているから何も問題はない。私も味見ができるのだし気にしないでい」

「うん、ありがとう! ルーはやっぱり優しいね。ねぇ、ルー。そのプリンも一口食べたいな。いい?」

「――っ!! ああ、もちろんだとも。ほら、あーん」

「ふふっ。おいひぃ」

嬉しそうなアズールさまの表情を満足そうに見つめると、また長い舌でアズールさまの唇を舐める。

「プリン、付いてた?」

「ああ。だが、私が綺麗にしたから大丈夫だ」

「よかった、ルーありがとう」

無邪気に笑っていらっしゃるけれど、今は何も付いていませんでしたよ。
そう教えて差し上げたいけれど、王子から何もいうなよという威圧を放たれているからそっとしておくことにしよう。
まぁ、誰も損をしない嘘なのだ。
恋人同士にはよくあることだな。

マクシミリアンもよく……

と、そんなことはどうでもいい。

今は何も考えず、二人を見守るだけの壁になっていよう。


「ヴェルー! 見てぇー。ルーが、お母さまへのお土産を買ってくれたの」

「それはようございました。アリーシャさまもこちらのケーキはお好きでいらっしゃいますからね。お喜びになりますよ」

馬車に乗り込みながら、アズールさまは嬉しそうにケーキを見せてくださる。
それを崩さないように持ち帰るのは私の大事な役目だ。

公爵家に到着し、アズールさまはお土産のケーキをアリーシャさまにお渡しになった。

「まぁ、ありがとう。早速いただくわ。その間、アズールはお母さまの話し相手になってくれるかしら?」

「アズール、アリーシャ殿とお話をしておいで」

「でも、ルー……帰ったりしない?」

「大丈夫だよ。アズールに黙って帰ったりしないから」

「うん。じゃあいく!お母さま、どれが一番おいしくて僕のお気に入りか教えてあげる」

「ふふっ。それは楽しみだわ」

アズールさまとアリーシャさまを見送ってから、

「ヴェルナー、部屋でじっくりと話を聞かせてもらおうか」

と低い声が響いた。


ベンに応接室に案内してもらい、話がしにくいからと言われ、向かい合わせにソファーに腰を下ろした。

「それで、偽の情報とはどういうことなのだ?」

「はい。実は、アズールさまは精通の印であるあの白い蜜が、もうすぐ死んでしまうサインだと思われたようで、それを下着に見つけて、もうすぐ死ぬのだと勘違いなさっておられたのです」

「あの蜜を死ぬサインだと?」

「はい。本気で思っていらっしゃったようで王子と離れたくないと仰って涙を流しておられました」

「そんな偽の情報をアズールに与えた者がいるというのか?」

「はい。そうとしか考えられないのです。アズールさまが悪意を持った誰かにそう信じ込まされたのです、きっと。ですから、すぐにその者を調べましょう。アズールさまは一人ではお外にお出にならないのですから、犯人はおそらくこの屋敷の使用人かと……」

「いや、そう決めつけるのは早い。ヴェルナー、その話をした時にアズールは他に何か話していなかったか?」

「そういえば……」

――もうわかってるんだよ。まえと、おなじなんだもの……。

確かにそう仰っていた。

そのことを告げると、王子はやはりな……と何かに気づいたような、そんな表情を浮かべた。
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