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第二章
まさかの頼み事
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<sideヴェルナー>
マクシミリアンとの試合だけでも神経をお使いになっただろうに、そのままアズールさまがお部屋にお泊まりになって大変な夜をお過ごしになったと思っていたが、まさかアズールさまをお風呂にまで入れることになっていたとは思いもしなかった。
目隠しをして、分厚い手袋をつけ、そして拘束具で昂りを抑えてのお風呂でもかなりの忍耐力を試されたことだろう。
さぞ、今頃は魂の抜けたような顔で、私がアズールさまをお迎えに上がるのを待ち望んでいらしたのかと思ったけれど、王子の部屋に向かうと、思ったよりも元気そうなお姿に驚いてしまう。
すごいな。
あれほどの苦行を乗り越えるともう達観してしまうのか。
「ああ、ヴェルナー。アズールを迎えにきたのか?」
「は、はい。おはようございます。王子、アズールさま。よくお眠りになられましたか?」
「ヴェル、おはよう。ぐっすり眠ったよー。ヴェルは……ついさっきまで、マックスのところにいたの?」
「えっ?」
「だって、ヴェルの身体からマックスの匂いがしてるー」
すんすんと鼻を向けられて、途端に恥ずかしくなる。
「あ、いえ。その……」
「ふふっ。照れなくてもいいのにぃー」
アズールさまは、私とマクシミリアンが恋人同士だというのをご存知でいつもこうやって揶揄ってこられるが、実際には私たちがどのような間柄なのかはご存知ないだろう。
なんせ、まだ色ごとについては何もご存知ではないのだから。
「ヴェルナー。少し話がしたいのだがいいか?」
「は、はい。もちろんでございます」
王子は私の返事に頷くと、アズールさまにお声をかけた。
「アズール、爺がアズールのために美味しいお菓子と紅茶を用意していると言っていたから、帰る前に食べていかないか?」
「わぁー、食べたいっ!!」
「そうか、ならそうしよう。ヴェルナー、少し待っていてくれ」
そういうと、王子はアズールさまをフィデリオ殿に預けて戻ってこられた。
「待たせて悪かったな」
「いえ、滅相もございません」
「なんだか口調が硬いな。久しぶりで緊張しているのか?」
確かにそうかもしれない。
以前は騎士団の執務室で二人っきりなどということもあった。
次期国王となるための儀式にも一緒に向かったこともある。
けれど、あの時は私の中では団長という位置付けの方が大きかった。
だから私は副団長としてそばに仕えるのが普通だと思っていたのだ。
けれど、アズールさまの護衛になってからは、団長から王子という認識に変わってしまった。
だから二人っきりになると緊張してしまうのかもしれない。
「まぁ、いい。今日はヴェルナーにどうしても話しておきたいことがあって時間を作った。アズールのことだ」
「アズールさまに何かございましたか?」
「昨夜のことは爺から話を聞いているか?」
「え? はい。王子がアズールさまをお風呂にお入れになったことは伺いましたが」
「そうだ、そのことをきっかけに重要な事柄が発生した」
持って回ったような王子の口ぶりが気になりつつも、先を待っていると、
「実は……アズールの、その……昂りが反応したんだ」
と思いがけない言葉が耳に飛び込んできた。
「えっ? たか、ぶり……? そ、それは、その……アズールさまの、お大事な場所が、ということですか?」
「そうだ。まだ蜜を出すまでには至らなかったが、兆したということは精通も近いのではないかと踏んでいる」
「アズールさまに……精通が……」
天真爛漫で真っ白な穢れなき天使のアズールさまにそのようなことが……。
王子には悪いが一生精通など現れないのではないかとさえ思っていた。
それくらいアズールさまにはそのような事柄とは無縁に思えたのだ。
「ヴェルナー、大丈夫か?」
「申し訳ありません。想像だにしておりませんでしたので……」
「アズールを見ていればそのように思っても不思議はない。だが、ウサギ族というものは元々性欲の強い種族だそうだ」
「な――っ、それはまことでございますか?」
「ああ。男女問わずに孕むことができるのが何よりの証拠だ。そもそも我々獣人の強い性欲を受け止められる存在として生まれてくるのだからな」
「あ――っ!! 確かに……」
そう言われればそうだ。
けれど、今までのウサギ族のお方がどうかわからないが、アズールさまに関してはどう見てもそのようには思えない。
アズールさまがいつか王子の蜜でお腹を膨らませるのかも信じられないというのに。
「アズールが時々私を煽ってくるのは、アズールの潜在意識の中に性に関しての知識があるからではないか?」
「それは……わかりませんが、少なくともアズールさまにはそのような意識は見られません」
「ヴェルナーにはそう見えるだろうな。だが、私にはいつでもそうだぞ」
「まさか……っ」
「だからだ。ヴェルナーには少しずつアズールに性教育をしてほしいのだ」
「えっ? 私が……アズールさまに、性教育を?」
「ああ、いつかこのようなことになろうかと護衛をお前にしたんだ。マクシミリアンに性教育などさせられないからな」
確かにそれはそうだろう。
王子が嫌なように私だって、マクシミリアンがアズールさまに性教育を施すのは見たくない。
けれど、これはかなり難しい問題だ。
「あの、王子。私には荷が勝ちすぎます」
「いや、そんなことはない。アズールはお前を信頼しているからな。私もだ。だから、少しずつでいい。アズールに知識を与えてやってくれ。そうでないと、精通が起こった時アズールはどんな反応を起こすかわからないだろう?」
そう言われるともう私は頷くしかなかった。
マクシミリアンとの試合だけでも神経をお使いになっただろうに、そのままアズールさまがお部屋にお泊まりになって大変な夜をお過ごしになったと思っていたが、まさかアズールさまをお風呂にまで入れることになっていたとは思いもしなかった。
目隠しをして、分厚い手袋をつけ、そして拘束具で昂りを抑えてのお風呂でもかなりの忍耐力を試されたことだろう。
さぞ、今頃は魂の抜けたような顔で、私がアズールさまをお迎えに上がるのを待ち望んでいらしたのかと思ったけれど、王子の部屋に向かうと、思ったよりも元気そうなお姿に驚いてしまう。
すごいな。
あれほどの苦行を乗り越えるともう達観してしまうのか。
「ああ、ヴェルナー。アズールを迎えにきたのか?」
「は、はい。おはようございます。王子、アズールさま。よくお眠りになられましたか?」
「ヴェル、おはよう。ぐっすり眠ったよー。ヴェルは……ついさっきまで、マックスのところにいたの?」
「えっ?」
「だって、ヴェルの身体からマックスの匂いがしてるー」
すんすんと鼻を向けられて、途端に恥ずかしくなる。
「あ、いえ。その……」
「ふふっ。照れなくてもいいのにぃー」
アズールさまは、私とマクシミリアンが恋人同士だというのをご存知でいつもこうやって揶揄ってこられるが、実際には私たちがどのような間柄なのかはご存知ないだろう。
なんせ、まだ色ごとについては何もご存知ではないのだから。
「ヴェルナー。少し話がしたいのだがいいか?」
「は、はい。もちろんでございます」
王子は私の返事に頷くと、アズールさまにお声をかけた。
「アズール、爺がアズールのために美味しいお菓子と紅茶を用意していると言っていたから、帰る前に食べていかないか?」
「わぁー、食べたいっ!!」
「そうか、ならそうしよう。ヴェルナー、少し待っていてくれ」
そういうと、王子はアズールさまをフィデリオ殿に預けて戻ってこられた。
「待たせて悪かったな」
「いえ、滅相もございません」
「なんだか口調が硬いな。久しぶりで緊張しているのか?」
確かにそうかもしれない。
以前は騎士団の執務室で二人っきりなどということもあった。
次期国王となるための儀式にも一緒に向かったこともある。
けれど、あの時は私の中では団長という位置付けの方が大きかった。
だから私は副団長としてそばに仕えるのが普通だと思っていたのだ。
けれど、アズールさまの護衛になってからは、団長から王子という認識に変わってしまった。
だから二人っきりになると緊張してしまうのかもしれない。
「まぁ、いい。今日はヴェルナーにどうしても話しておきたいことがあって時間を作った。アズールのことだ」
「アズールさまに何かございましたか?」
「昨夜のことは爺から話を聞いているか?」
「え? はい。王子がアズールさまをお風呂にお入れになったことは伺いましたが」
「そうだ、そのことをきっかけに重要な事柄が発生した」
持って回ったような王子の口ぶりが気になりつつも、先を待っていると、
「実は……アズールの、その……昂りが反応したんだ」
と思いがけない言葉が耳に飛び込んできた。
「えっ? たか、ぶり……? そ、それは、その……アズールさまの、お大事な場所が、ということですか?」
「そうだ。まだ蜜を出すまでには至らなかったが、兆したということは精通も近いのではないかと踏んでいる」
「アズールさまに……精通が……」
天真爛漫で真っ白な穢れなき天使のアズールさまにそのようなことが……。
王子には悪いが一生精通など現れないのではないかとさえ思っていた。
それくらいアズールさまにはそのような事柄とは無縁に思えたのだ。
「ヴェルナー、大丈夫か?」
「申し訳ありません。想像だにしておりませんでしたので……」
「アズールを見ていればそのように思っても不思議はない。だが、ウサギ族というものは元々性欲の強い種族だそうだ」
「な――っ、それはまことでございますか?」
「ああ。男女問わずに孕むことができるのが何よりの証拠だ。そもそも我々獣人の強い性欲を受け止められる存在として生まれてくるのだからな」
「あ――っ!! 確かに……」
そう言われればそうだ。
けれど、今までのウサギ族のお方がどうかわからないが、アズールさまに関してはどう見てもそのようには思えない。
アズールさまがいつか王子の蜜でお腹を膨らませるのかも信じられないというのに。
「アズールが時々私を煽ってくるのは、アズールの潜在意識の中に性に関しての知識があるからではないか?」
「それは……わかりませんが、少なくともアズールさまにはそのような意識は見られません」
「ヴェルナーにはそう見えるだろうな。だが、私にはいつでもそうだぞ」
「まさか……っ」
「だからだ。ヴェルナーには少しずつアズールに性教育をしてほしいのだ」
「えっ? 私が……アズールさまに、性教育を?」
「ああ、いつかこのようなことになろうかと護衛をお前にしたんだ。マクシミリアンに性教育などさせられないからな」
確かにそれはそうだろう。
王子が嫌なように私だって、マクシミリアンがアズールさまに性教育を施すのは見たくない。
けれど、これはかなり難しい問題だ。
「あの、王子。私には荷が勝ちすぎます」
「いや、そんなことはない。アズールはお前を信頼しているからな。私もだ。だから、少しずつでいい。アズールに知識を与えてやってくれ。そうでないと、精通が起こった時アズールはどんな反応を起こすかわからないだろう?」
そう言われるともう私は頷くしかなかった。
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