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第二章
アズールさまを迎えに
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<sideアズール>
ふふっ。訓練していたルー、すっごくかっこよかったな。
差し入れで持って行ったおにぎりもいっぱい食べてくれた。
僕が握ったのはちっちゃくて形も悪くてすぐに崩れてしまっていたけれど、ルーは一番美味しいって言ってくれたんだ。
熱かったけど頑張って作って本当によかった。
そのご褒美にルーのお部屋にお泊まりもできたし、本当に僕は幸せだ。
ルーと夜中までいっぱいおしゃべりできたらなんて思っていたけれど、お風呂入って、ご飯食べてお腹いっぱいになったらら、もうすぐに眠たくなってしまった。
もう12歳になったというのに、僕はいつまで経っても小さな子どもみたいだ。
お母さまは僕の身体が狼族と比べて小さいから疲れやすくて、その疲れを癒すためにたくさん寝ないといけないからだって言っていたけど、もう少し大きくなったら少しは夜更かしできるようになるのかな。
いつかはルーと一緒に夜中までいろんなおしゃべりをしてみたいな。
眠くなってしまった僕を抱きかかえてルーがベッドに連れて行ってくれる。
甘くていい匂いに包まれていると、あっという間に夢の世界に落ちてしまう。
いつものベッドよりもいい匂いがするのは、やっぱりルーが毎日寝ているベッドだからかな。
ここなら、いつでも朝までぐっすり寝られそうだ。
夢の中までルーの甘い匂いに包まれるのはいつものことだけど、今日は匂いだけじゃなくて、口の中にも甘い味を感じる。
お腹いっぱいでもこの甘い味だけは食べられるんだから不思議だよね。
よくお母さまが甘いお菓子を食べて、別腹だって言っているのはこういうことなのかもしれない。
いつもよりも濃い甘い匂いに包まれて、目を覚ますと
「アズール、おはよう」
とルーが声をかけてくれた。
「るー、おはよぅ」
まだちょっと眠たくて、ルーの胸元に顔を擦り寄せると、ルーの身体がピクッと震えた。
「どうしたの?」
「あ、いや。アズールの耳が当たってくすぐったかっただけだ」
「ふふっ。そうなんだ。ねぇ、ルー……」
「どうした?」
「あのね、このベッドすっごくいいにおいがして、ぐっすりねむれたのー」
「そ、そうか。それならよかった」
「あずーる、またここにおとまりしたいな。そのときは、おそくまでがんばっておきるから……おしゃぶりしたいな」
「ぐぅ――っ!! ア、アズールっ、い、いまなんて言ったんだ?」
楽しくおしゃべりしてたのに、突然ルーが慌て始めて僕も驚いてしまった。
びっくりしながらも
「えっ? あの、だから、おそくまでがんばっておきるから、おしゃべりしたいなって。だめ?」
ともう一度頼んでみると、
「あ、ああ。おしゃべりか。そうだな。アズールが夜まで起きられるなら話もできるだろうが、無理はだめだぞ。たくさんの睡眠をとることがアズールの身体には必要だと主治医からも言われているだろう?」
と言われてしまった。
前にルーと一緒に過ごすのが楽しすぎて、眠るのを我慢していたら電池が切れたみたいに倒れてしまったことがあって、それ以来みんな睡眠には神経質なくらい言われてしまうんだ。
そういえば、蒼央の時もいっつも早く寝なさいって言われてたっけ。
折り紙に夢中になりすぎて怒られて、朝まで取り上げられたこともあったな。
ふふっ。そう考えたら、今の僕も昔の僕もそっくりだ。
「ねぇ、ルーはよく寝たの? なんか眠そうだよ」
「いや……その、そうっ! アズールがちゃんと寝れているか心配で見守ってたんだよ」
「心配しなくてもルーがいてくれたらぐっすりなんだよ。次からはちゃんと寝なきゃだめだよ! ルーも練習だからね」
「練習?」
「そう! アズールのことを気にしないでぐっすり寝られる練習! いい?」
「あ、ああ。わかった。頑張ってみよう」
僕とのお泊まりはいつだって眠そうなのが気になってたんだ。
僕のことを心配してくれるのは嬉しいけれど、やっぱりルーにもぐっすり寝てほしいもんね。
「さ、さぁ。そろそろ朝食にしようか」
「うん! なんだか喉が渇いてる気がする。そういえば夢の中でいっぱい甘いの食べたんだ!」
「ごほっ! ごほっ!」
「ルー、大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫だ。私も喉が渇いているのかもしれない」
そういうとルーは僕を抱っこして、寝室を出た。
<sideヴェルナー>
「ヴェルナー、まだ早いですよ」
「そんなことはない。きっと今日も早起きなさってるはずだからな」
アズールさまが王子のお部屋にお泊まりすることになり、私はマクシミリアンの部屋に泊まった。
甘い時間はあっという間に過ぎるもので、もう朝日が昇ってしまった。
私たちには甘く蕩けるような時間だったけれど、きっと王子にとっては途轍もない試練の時間を過ごしたことだろう。
それこそ、あの国王になるための試練より遥かに過酷な時を過ごしたに違いない。
それでもアズールさまの願いを決して拒むことをしないのだから頭がさがる。
目の前にいるこの熊はなんの手出しもできずに、煽られるだけの時間を過ごすなど到底できないのではないか。
まぁ、私自身手を出されることを望んでいるのだから、お二人と比べることなんてできないのだけど。
まだもう少し一緒にいたいという甘えん坊の熊をなんとか宥めながら、急いでお城に向かったのはいつもアズールさまの部屋にお泊まりになった後の窶れた王子の表情が頭に浮かんだからだ。
「あっ、フィデリオ殿。おはようございます」
「これはヴェルナーさま。お早いですね」
「ええ。王子のご様子が心配になりまして……」
「それはご配慮に感謝いたします。先ほどまでお二人で朝食をとっていらしたのですが、もうほとんど気力だけで過ごしていらっしゃるようでしたよ」
「そんなに? 昨夜はそれほど大変だったのですか?」
「ええ、それはもう! なんせ、アズールさまをお風呂にいれなさったのですから」
フィデリオ殿の言葉に私は言葉が出なかった。
まさか、王子がアズールさまをお風呂においれなさるなんて……。
でも考えてみればアズールさまのお風呂の担当はヴェルフ公爵夫人であるアリーシャさまだけ。
そのアリーシャさまがいらっしゃらないのだから、それ以外の人間を許すはずもなく、王子が担当となるのは必然だが、なんと言ってもお風呂だ。
愛しい番の裸を見て、我慢できるものがいるなら教えてほしいくらいだ。
あの熊ならきっと……
いやいや、マクシミリアンを引き合いに出すのはやめておこう。
だが、成人を迎えるまでは裸は見てはいけないという決まりだったはず。
どうしたのかと尋ねれば、フィデリオ殿はにこりと笑いながら教えてくれた。
「なんと――っ、そのような対策を?」
「はい。それでもこちらが哀れに思ってしまうほど、大変なご様子でしたよ」
それは私でも王子に同情する。
「ですが今回のお泊まりで大変なことが起きまして……ヴェルナーさまにもお手伝いいただくことになりそうですよ」
「私に?」
一体なんのことだろう。
不思議に思いつつも王子の元に行き、とんでもないことを頼まれて頭を抱えることになるとはこの時の私はまだ何も知らなかった。
ふふっ。訓練していたルー、すっごくかっこよかったな。
差し入れで持って行ったおにぎりもいっぱい食べてくれた。
僕が握ったのはちっちゃくて形も悪くてすぐに崩れてしまっていたけれど、ルーは一番美味しいって言ってくれたんだ。
熱かったけど頑張って作って本当によかった。
そのご褒美にルーのお部屋にお泊まりもできたし、本当に僕は幸せだ。
ルーと夜中までいっぱいおしゃべりできたらなんて思っていたけれど、お風呂入って、ご飯食べてお腹いっぱいになったらら、もうすぐに眠たくなってしまった。
もう12歳になったというのに、僕はいつまで経っても小さな子どもみたいだ。
お母さまは僕の身体が狼族と比べて小さいから疲れやすくて、その疲れを癒すためにたくさん寝ないといけないからだって言っていたけど、もう少し大きくなったら少しは夜更かしできるようになるのかな。
いつかはルーと一緒に夜中までいろんなおしゃべりをしてみたいな。
眠くなってしまった僕を抱きかかえてルーがベッドに連れて行ってくれる。
甘くていい匂いに包まれていると、あっという間に夢の世界に落ちてしまう。
いつものベッドよりもいい匂いがするのは、やっぱりルーが毎日寝ているベッドだからかな。
ここなら、いつでも朝までぐっすり寝られそうだ。
夢の中までルーの甘い匂いに包まれるのはいつものことだけど、今日は匂いだけじゃなくて、口の中にも甘い味を感じる。
お腹いっぱいでもこの甘い味だけは食べられるんだから不思議だよね。
よくお母さまが甘いお菓子を食べて、別腹だって言っているのはこういうことなのかもしれない。
いつもよりも濃い甘い匂いに包まれて、目を覚ますと
「アズール、おはよう」
とルーが声をかけてくれた。
「るー、おはよぅ」
まだちょっと眠たくて、ルーの胸元に顔を擦り寄せると、ルーの身体がピクッと震えた。
「どうしたの?」
「あ、いや。アズールの耳が当たってくすぐったかっただけだ」
「ふふっ。そうなんだ。ねぇ、ルー……」
「どうした?」
「あのね、このベッドすっごくいいにおいがして、ぐっすりねむれたのー」
「そ、そうか。それならよかった」
「あずーる、またここにおとまりしたいな。そのときは、おそくまでがんばっておきるから……おしゃぶりしたいな」
「ぐぅ――っ!! ア、アズールっ、い、いまなんて言ったんだ?」
楽しくおしゃべりしてたのに、突然ルーが慌て始めて僕も驚いてしまった。
びっくりしながらも
「えっ? あの、だから、おそくまでがんばっておきるから、おしゃべりしたいなって。だめ?」
ともう一度頼んでみると、
「あ、ああ。おしゃべりか。そうだな。アズールが夜まで起きられるなら話もできるだろうが、無理はだめだぞ。たくさんの睡眠をとることがアズールの身体には必要だと主治医からも言われているだろう?」
と言われてしまった。
前にルーと一緒に過ごすのが楽しすぎて、眠るのを我慢していたら電池が切れたみたいに倒れてしまったことがあって、それ以来みんな睡眠には神経質なくらい言われてしまうんだ。
そういえば、蒼央の時もいっつも早く寝なさいって言われてたっけ。
折り紙に夢中になりすぎて怒られて、朝まで取り上げられたこともあったな。
ふふっ。そう考えたら、今の僕も昔の僕もそっくりだ。
「ねぇ、ルーはよく寝たの? なんか眠そうだよ」
「いや……その、そうっ! アズールがちゃんと寝れているか心配で見守ってたんだよ」
「心配しなくてもルーがいてくれたらぐっすりなんだよ。次からはちゃんと寝なきゃだめだよ! ルーも練習だからね」
「練習?」
「そう! アズールのことを気にしないでぐっすり寝られる練習! いい?」
「あ、ああ。わかった。頑張ってみよう」
僕とのお泊まりはいつだって眠そうなのが気になってたんだ。
僕のことを心配してくれるのは嬉しいけれど、やっぱりルーにもぐっすり寝てほしいもんね。
「さ、さぁ。そろそろ朝食にしようか」
「うん! なんだか喉が渇いてる気がする。そういえば夢の中でいっぱい甘いの食べたんだ!」
「ごほっ! ごほっ!」
「ルー、大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫だ。私も喉が渇いているのかもしれない」
そういうとルーは僕を抱っこして、寝室を出た。
<sideヴェルナー>
「ヴェルナー、まだ早いですよ」
「そんなことはない。きっと今日も早起きなさってるはずだからな」
アズールさまが王子のお部屋にお泊まりすることになり、私はマクシミリアンの部屋に泊まった。
甘い時間はあっという間に過ぎるもので、もう朝日が昇ってしまった。
私たちには甘く蕩けるような時間だったけれど、きっと王子にとっては途轍もない試練の時間を過ごしたことだろう。
それこそ、あの国王になるための試練より遥かに過酷な時を過ごしたに違いない。
それでもアズールさまの願いを決して拒むことをしないのだから頭がさがる。
目の前にいるこの熊はなんの手出しもできずに、煽られるだけの時間を過ごすなど到底できないのではないか。
まぁ、私自身手を出されることを望んでいるのだから、お二人と比べることなんてできないのだけど。
まだもう少し一緒にいたいという甘えん坊の熊をなんとか宥めながら、急いでお城に向かったのはいつもアズールさまの部屋にお泊まりになった後の窶れた王子の表情が頭に浮かんだからだ。
「あっ、フィデリオ殿。おはようございます」
「これはヴェルナーさま。お早いですね」
「ええ。王子のご様子が心配になりまして……」
「それはご配慮に感謝いたします。先ほどまでお二人で朝食をとっていらしたのですが、もうほとんど気力だけで過ごしていらっしゃるようでしたよ」
「そんなに? 昨夜はそれほど大変だったのですか?」
「ええ、それはもう! なんせ、アズールさまをお風呂にいれなさったのですから」
フィデリオ殿の言葉に私は言葉が出なかった。
まさか、王子がアズールさまをお風呂においれなさるなんて……。
でも考えてみればアズールさまのお風呂の担当はヴェルフ公爵夫人であるアリーシャさまだけ。
そのアリーシャさまがいらっしゃらないのだから、それ以外の人間を許すはずもなく、王子が担当となるのは必然だが、なんと言ってもお風呂だ。
愛しい番の裸を見て、我慢できるものがいるなら教えてほしいくらいだ。
あの熊ならきっと……
いやいや、マクシミリアンを引き合いに出すのはやめておこう。
だが、成人を迎えるまでは裸は見てはいけないという決まりだったはず。
どうしたのかと尋ねれば、フィデリオ殿はにこりと笑いながら教えてくれた。
「なんと――っ、そのような対策を?」
「はい。それでもこちらが哀れに思ってしまうほど、大変なご様子でしたよ」
それは私でも王子に同情する。
「ですが今回のお泊まりで大変なことが起きまして……ヴェルナーさまにもお手伝いいただくことになりそうですよ」
「私に?」
一体なんのことだろう。
不思議に思いつつも王子の元に行き、とんでもないことを頼まれて頭を抱えることになるとはこの時の私はまだ何も知らなかった。
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