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第二章
厳しい訓練
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<sideマクシミリアン>
「あのね、差し入れ持ってきたの」
なるほど。
これが今日の突然のご訪問の目的か。
どおりで甘辛い良い匂いが漂っていると思った。
この匂いは王子の大好物のオニギリだろう。
どうやら私の作ったオニギリ機は今でもまだまだお役に立てているようだ。
「私の分はヴェルナーが作ってくれたのでしょう?」
スッとヴェルナーの隣に行き、小声でそう尋ねるとヴェルナーは小さく頷いてみせた。
「どうしたのですか?」
「私のせいで……マクシミリアンが怪我をしていたのかもしれないと思ったら怖かったんだ」
「ヴェルナー。大丈夫ですよ。私はどんなことがあっても怪我なんてしませんから」
「マクシミリアン……」
「でも、今夜はお仕置きですよ」
「わかってる。もう、覚悟しているよ」
いや、多分わかってない。
ヴェルナーにどんなお仕置きをするつもりか。
でもそれでいい。
あの瞬間のヴェルナーの表情が見たいのだから。
「お前たちの分も差し入れがあるぞ」
アズールさまと話を終えられた王子が我々の後方で見守っていた若い騎士たちに声をかけると、騎士たちが待ってましたとばかりに大声を上げた。
その声にアズールさまがまた驚き泣いてしまうのではないかと心配になったが、さすがに王子の腕の中にいるアズールさまはすっかり安心なさっているようだ。
やはり運命の番の安心感はものすごい威力があるのだな。
ヴェルナーが持っていた大きな荷物から、大きな箱を取り出し王子に手渡す。
これは王子のための特別なオニギリらしい。
ということは全てアズールさまがお作りになったということだろう。
機械で作ったものとはいえ、アズールさまがお作りになったものを王子が他の者に食べさせるわけがないからな。
最初からわけてきたというわけか。
ヴェルナーの配慮はさすがだな。
王子はオニギリの入った箱を受け取ると、アズールさまを抱いたまま、訓練場の二階にある来賓席に向かった。
おそらく、いや、絶対にアズールさまとの楽しい食事時間を邪魔されたくないのだろう。
それだけでなくアズールさまの可愛らしいお顔を見せたくないというのが一番だろうが。
お二人でいる間は護衛の必要もない。
こちらはこちらで差し入れを味わうとしよう。
<side若騎士・ティオ>
ルーディー団長とマクシミリアン副団長の試合は練習とは思えないほどの物凄い迫力だった。
なんせ練習用の木剣ではなく、少し掠っただけでもスパッと切れてしまう鋭い真剣での戦いなのだ。
こんな試合を目の前で拝見できるのは嬉しいが、正直震え上がりそうになりながら見守っていた。
剣を交わすごとにどんどん団長の力の威力が上がっていくのをビリビリと感じて、どんな結末を迎えるのかと期待と不安とが入り混じったような気持ちで見つめていたが、可愛らしい声が私の耳に飛び込んできたのを脳が理解したのと同時くらいに、途轍もない力が吹き飛んでいくのを感じた。
もう目で追うこともできない程の速さで、こんなにも近くにいたのに何が起こったのかも全くわからない。
私だけでなく、ここにいる全ての若騎士には何かが通り過ぎたと感じることしかできなかっただろう。
確実にわかったのは何かがすごい力で弾き飛ばされ、団長が勝ったということだけ。
途轍もない破壊音に震え上がってしまって、しんと静まり返った訓練場の中で誰も言葉を発することもできずにいた中で、聞こえてきたのは、この訓練場には似つかわしくない可愛らしい泣き声。
壊れてしまいそうなほどか細くて小さな声に一体誰の声だろうと思っていると、あれだけ殺気に満ちていた団長からフッと力が消え去って、
「アズールっ!」
と叫びながら入口へと駆け出して行かれた。
アズールさまといえば、団長の許嫁でこの世にただ一人しかいないというウサギ族のお方。
しかもヴェルフ公爵家のご令息というのだから、私たちが逆立ちをしてもお声などかけられないようなお方だ。
そのお方がわざわざこの訓練場に足を運ばれたのは団長に会いに来られたのだろうか。
そっと入り口の方に視線を送ると、団長の腕から可愛らしい耳が飛び出ているのが見える。
ゆらゆらと揺れる白くて長い耳は見ているだけで癒される。
しかもあの可愛らしい声。
そして、ちらっと見えたあの可愛らしいお顔。
その全てに心を鷲掴みにされる。
「お美しいお方だというお噂はかねがね伺っておりましたが、あれほどお美しいとは……」
副団長との会話につい本音を漏らすと、副団長からすぐに
「しっ! それ以上言葉にするなっ! 王子に斬り殺されても文句は言えぬぞ」
と厳しい声がかかる。
先ほど目の前で真剣を持つ団長の姿を拝見しているだけに、斬り殺される様子が容易に想像できて、私はもちろん皆も震え上がってしまった。
団長はそれほどまでに恐ろしいのか……。
アズールさまはよくそんな団長と一緒に居られるものだな。
やはり許嫁相手だと団長もお優しいのだろうな。
さっきの姿を見てしまってはお優しい姿はなかなか想像もつかないが。
アズールさまは団長への差し入れにこられたようで、我々の分も持ってきてくださったようだ。
お礼を言う暇もなく、団長はアズールさまを連れて二階にあがられ、下からはお二人の様子を窺い知ることはできないが、なんせハードな訓練を終えたばかりの私たちには、今はお二人よりも目の前の美味しそうな食べ物の方に興味津々だ。
これがアズールさまが発明されたというオニギリというものか。
母も作ってくれていたが、まさかここで本物をいただけるとは思っても見なかった。
驚くほど大きなオニギリを渡され、大きな口を開けた瞬間
「ふふっ。もっと食べて、ルー、あ~んして」
「あ~ん。ああ、アズールが作ってくれたのは最高だな」
「やぁ――っ、くすぐったいよぉ……っ、ふふっ。そんなとこまで、なめちゃ、だぁめ」
「アズールが美味しすぎるからいけないのだぞ」
「ねぇ、ルー。美味しい?」
「ああ、私の大好物だからな」
「ふふっ。嬉しいっ。もっといっぱい食べてぇ」
「ああ、全部食べさせてくれ」
「ふふっ。はい、あ~ん。ああ、また舐めてるー、くすぐったいよぉ」
「「「「「「………………………………」」」」」」
なんとも甘ったるい会話に、美味しいはずのオニギリの味が甘さしか感じないのだが……。
これは私だけか?
そう思ったが、周りを見渡しても皆砂を噛むような表情で大きなオニギリを口に運んでいるのがわかる。
上ではあんなに美しいアズールさまにあ~んされて幸せそうに召し上がっているというのに……。
はぁーっ。
神はなんて不公平なんだろう。
副団長もさぞかし……と思って視線を向ければ、
「マクシミリアン、ほらこれも食べてみてくれ」
「食べさせてください」
「――っ、仕方がないな。ほら」
「ふふっ。美味しいですね。ヴェルナーの愛がたっぷり詰まってますね」
「ああ、それはたっぷりな」
「――っ、ヴェルナー」
「……………………」
あっちでもこっちでも幸せそうに食べている姿が飛び込んできた。
はぁーーっ。
どうやら団長も副団長も幸せ真っ盛りのようだ。
これも修行、訓練のうちだ。
そう言い聞かせながら、私たちは無心でオニギリを平らげた。
「あのね、差し入れ持ってきたの」
なるほど。
これが今日の突然のご訪問の目的か。
どおりで甘辛い良い匂いが漂っていると思った。
この匂いは王子の大好物のオニギリだろう。
どうやら私の作ったオニギリ機は今でもまだまだお役に立てているようだ。
「私の分はヴェルナーが作ってくれたのでしょう?」
スッとヴェルナーの隣に行き、小声でそう尋ねるとヴェルナーは小さく頷いてみせた。
「どうしたのですか?」
「私のせいで……マクシミリアンが怪我をしていたのかもしれないと思ったら怖かったんだ」
「ヴェルナー。大丈夫ですよ。私はどんなことがあっても怪我なんてしませんから」
「マクシミリアン……」
「でも、今夜はお仕置きですよ」
「わかってる。もう、覚悟しているよ」
いや、多分わかってない。
ヴェルナーにどんなお仕置きをするつもりか。
でもそれでいい。
あの瞬間のヴェルナーの表情が見たいのだから。
「お前たちの分も差し入れがあるぞ」
アズールさまと話を終えられた王子が我々の後方で見守っていた若い騎士たちに声をかけると、騎士たちが待ってましたとばかりに大声を上げた。
その声にアズールさまがまた驚き泣いてしまうのではないかと心配になったが、さすがに王子の腕の中にいるアズールさまはすっかり安心なさっているようだ。
やはり運命の番の安心感はものすごい威力があるのだな。
ヴェルナーが持っていた大きな荷物から、大きな箱を取り出し王子に手渡す。
これは王子のための特別なオニギリらしい。
ということは全てアズールさまがお作りになったということだろう。
機械で作ったものとはいえ、アズールさまがお作りになったものを王子が他の者に食べさせるわけがないからな。
最初からわけてきたというわけか。
ヴェルナーの配慮はさすがだな。
王子はオニギリの入った箱を受け取ると、アズールさまを抱いたまま、訓練場の二階にある来賓席に向かった。
おそらく、いや、絶対にアズールさまとの楽しい食事時間を邪魔されたくないのだろう。
それだけでなくアズールさまの可愛らしいお顔を見せたくないというのが一番だろうが。
お二人でいる間は護衛の必要もない。
こちらはこちらで差し入れを味わうとしよう。
<side若騎士・ティオ>
ルーディー団長とマクシミリアン副団長の試合は練習とは思えないほどの物凄い迫力だった。
なんせ練習用の木剣ではなく、少し掠っただけでもスパッと切れてしまう鋭い真剣での戦いなのだ。
こんな試合を目の前で拝見できるのは嬉しいが、正直震え上がりそうになりながら見守っていた。
剣を交わすごとにどんどん団長の力の威力が上がっていくのをビリビリと感じて、どんな結末を迎えるのかと期待と不安とが入り混じったような気持ちで見つめていたが、可愛らしい声が私の耳に飛び込んできたのを脳が理解したのと同時くらいに、途轍もない力が吹き飛んでいくのを感じた。
もう目で追うこともできない程の速さで、こんなにも近くにいたのに何が起こったのかも全くわからない。
私だけでなく、ここにいる全ての若騎士には何かが通り過ぎたと感じることしかできなかっただろう。
確実にわかったのは何かがすごい力で弾き飛ばされ、団長が勝ったということだけ。
途轍もない破壊音に震え上がってしまって、しんと静まり返った訓練場の中で誰も言葉を発することもできずにいた中で、聞こえてきたのは、この訓練場には似つかわしくない可愛らしい泣き声。
壊れてしまいそうなほどか細くて小さな声に一体誰の声だろうと思っていると、あれだけ殺気に満ちていた団長からフッと力が消え去って、
「アズールっ!」
と叫びながら入口へと駆け出して行かれた。
アズールさまといえば、団長の許嫁でこの世にただ一人しかいないというウサギ族のお方。
しかもヴェルフ公爵家のご令息というのだから、私たちが逆立ちをしてもお声などかけられないようなお方だ。
そのお方がわざわざこの訓練場に足を運ばれたのは団長に会いに来られたのだろうか。
そっと入り口の方に視線を送ると、団長の腕から可愛らしい耳が飛び出ているのが見える。
ゆらゆらと揺れる白くて長い耳は見ているだけで癒される。
しかもあの可愛らしい声。
そして、ちらっと見えたあの可愛らしいお顔。
その全てに心を鷲掴みにされる。
「お美しいお方だというお噂はかねがね伺っておりましたが、あれほどお美しいとは……」
副団長との会話につい本音を漏らすと、副団長からすぐに
「しっ! それ以上言葉にするなっ! 王子に斬り殺されても文句は言えぬぞ」
と厳しい声がかかる。
先ほど目の前で真剣を持つ団長の姿を拝見しているだけに、斬り殺される様子が容易に想像できて、私はもちろん皆も震え上がってしまった。
団長はそれほどまでに恐ろしいのか……。
アズールさまはよくそんな団長と一緒に居られるものだな。
やはり許嫁相手だと団長もお優しいのだろうな。
さっきの姿を見てしまってはお優しい姿はなかなか想像もつかないが。
アズールさまは団長への差し入れにこられたようで、我々の分も持ってきてくださったようだ。
お礼を言う暇もなく、団長はアズールさまを連れて二階にあがられ、下からはお二人の様子を窺い知ることはできないが、なんせハードな訓練を終えたばかりの私たちには、今はお二人よりも目の前の美味しそうな食べ物の方に興味津々だ。
これがアズールさまが発明されたというオニギリというものか。
母も作ってくれていたが、まさかここで本物をいただけるとは思っても見なかった。
驚くほど大きなオニギリを渡され、大きな口を開けた瞬間
「ふふっ。もっと食べて、ルー、あ~んして」
「あ~ん。ああ、アズールが作ってくれたのは最高だな」
「やぁ――っ、くすぐったいよぉ……っ、ふふっ。そんなとこまで、なめちゃ、だぁめ」
「アズールが美味しすぎるからいけないのだぞ」
「ねぇ、ルー。美味しい?」
「ああ、私の大好物だからな」
「ふふっ。嬉しいっ。もっといっぱい食べてぇ」
「ああ、全部食べさせてくれ」
「ふふっ。はい、あ~ん。ああ、また舐めてるー、くすぐったいよぉ」
「「「「「「………………………………」」」」」」
なんとも甘ったるい会話に、美味しいはずのオニギリの味が甘さしか感じないのだが……。
これは私だけか?
そう思ったが、周りを見渡しても皆砂を噛むような表情で大きなオニギリを口に運んでいるのがわかる。
上ではあんなに美しいアズールさまにあ~んされて幸せそうに召し上がっているというのに……。
はぁーっ。
神はなんて不公平なんだろう。
副団長もさぞかし……と思って視線を向ければ、
「マクシミリアン、ほらこれも食べてみてくれ」
「食べさせてください」
「――っ、仕方がないな。ほら」
「ふふっ。美味しいですね。ヴェルナーの愛がたっぷり詰まってますね」
「ああ、それはたっぷりな」
「――っ、ヴェルナー」
「……………………」
あっちでもこっちでも幸せそうに食べている姿が飛び込んできた。
はぁーーっ。
どうやら団長も副団長も幸せ真っ盛りのようだ。
これも修行、訓練のうちだ。
そう言い聞かせながら、私たちは無心でオニギリを平らげた。
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