真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

文字の大きさ
91 / 296
第二章

厳しい訓練

しおりを挟む
<sideマクシミリアン>

「あのね、差し入れ持ってきたの」

なるほど。
これが今日の突然のご訪問の目的か。
どおりで甘辛い良い匂いが漂っていると思った。
この匂いは王子の大好物のオニギリだろう。
どうやら私の作ったオニギリ機は今でもまだまだお役に立てているようだ。

「私の分はヴェルナーが作ってくれたのでしょう?」

スッとヴェルナーの隣に行き、小声でそう尋ねるとヴェルナーは小さく頷いてみせた。

「どうしたのですか?」

「私のせいで……マクシミリアンが怪我をしていたのかもしれないと思ったら怖かったんだ」

「ヴェルナー。大丈夫ですよ。私はどんなことがあっても怪我なんてしませんから」

「マクシミリアン……」

「でも、今夜はお仕置きですよ」

「わかってる。もう、覚悟しているよ」

いや、多分わかってない。
ヴェルナーにどんなお仕置きをするつもりか。
でもそれでいい。
あの瞬間のヴェルナーの表情が見たいのだから。

「お前たちの分も差し入れがあるぞ」

アズールさまと話を終えられた王子が我々の後方で見守っていた若い騎士たちに声をかけると、騎士たちが待ってましたとばかりに大声を上げた。

その声にアズールさまがまた驚き泣いてしまうのではないかと心配になったが、さすがに王子の腕の中にいるアズールさまはすっかり安心なさっているようだ。
やはり運命の番の安心感はものすごい威力があるのだな。

ヴェルナーが持っていた大きな荷物から、大きな箱を取り出し王子に手渡す。
これは王子のための特別なオニギリらしい。
ということは全てアズールさまがお作りになったということだろう。
機械で作ったものとはいえ、アズールさまがお作りになったものを王子が他の者に食べさせるわけがないからな。
最初からわけてきたというわけか。
ヴェルナーの配慮はさすがだな。

王子はオニギリの入った箱を受け取ると、アズールさまを抱いたまま、訓練場の二階にある来賓席に向かった。
おそらく、いや、絶対にアズールさまとの楽しい食事時間を邪魔されたくないのだろう。
それだけでなくアズールさまの可愛らしいお顔を見せたくないというのが一番だろうが。

お二人でいる間は護衛の必要もない。
こちらはこちらで差し入れを味わうとしよう。

<side若騎士・ティオ>

ルーディー団長とマクシミリアン副団長の試合は練習とは思えないほどの物凄い迫力だった。
なんせ練習用の木剣ではなく、少し掠っただけでもスパッと切れてしまう鋭い真剣での戦いなのだ。
こんな試合を目の前で拝見できるのは嬉しいが、正直震え上がりそうになりながら見守っていた。
剣を交わすごとにどんどん団長の力の威力が上がっていくのをビリビリと感じて、どんな結末を迎えるのかと期待と不安とが入り混じったような気持ちで見つめていたが、可愛らしい声が私の耳に飛び込んできたのを脳が理解したのと同時くらいに、途轍もない力が吹き飛んでいくのを感じた。

もう目で追うこともできない程の速さで、こんなにも近くにいたのに何が起こったのかも全くわからない。
私だけでなく、ここにいる全ての若騎士には何かが通り過ぎたと感じることしかできなかっただろう。

確実にわかったのは何かがすごい力で弾き飛ばされ、団長が勝ったということだけ。

途轍もない破壊音に震え上がってしまって、しんと静まり返った訓練場の中で誰も言葉を発することもできずにいた中で、聞こえてきたのは、この訓練場には似つかわしくない可愛らしい泣き声。
壊れてしまいそうなほどか細くて小さな声に一体誰の声だろうと思っていると、あれだけ殺気に満ちていた団長からフッと力が消え去って、

「アズールっ!」

と叫びながら入口へと駆け出して行かれた。

アズールさまといえば、団長の許嫁でこの世にただ一人しかいないというウサギ族のお方。
しかもヴェルフ公爵家のご令息というのだから、私たちが逆立ちをしてもお声などかけられないようなお方だ。

そのお方がわざわざこの訓練場に足を運ばれたのは団長に会いに来られたのだろうか。

そっと入り口の方に視線を送ると、団長の腕から可愛らしい耳が飛び出ているのが見える。
ゆらゆらと揺れる白くて長い耳は見ているだけで癒される。
しかもあの可愛らしい声。
そして、ちらっと見えたあの可愛らしいお顔。

その全てに心を鷲掴みにされる。

「お美しいお方だというお噂はかねがね伺っておりましたが、あれほどお美しいとは……」

副団長との会話につい本音を漏らすと、副団長からすぐに

「しっ! それ以上言葉にするなっ! 王子に斬り殺されても文句は言えぬぞ」

と厳しい声がかかる。

先ほど目の前で真剣を持つ団長の姿を拝見しているだけに、斬り殺される様子が容易に想像できて、私はもちろん皆も震え上がってしまった。

団長はそれほどまでに恐ろしいのか……。

アズールさまはよくそんな団長と一緒に居られるものだな。
やはり許嫁相手だと団長もお優しいのだろうな。
さっきの姿を見てしまってはお優しい姿はなかなか想像もつかないが。

アズールさまは団長への差し入れにこられたようで、我々の分も持ってきてくださったようだ。
お礼を言う暇もなく、団長はアズールさまを連れて二階にあがられ、下からはお二人の様子を窺い知ることはできないが、なんせハードな訓練を終えたばかりの私たちには、今はお二人よりも目の前の美味しそうな食べ物の方に興味津々だ。

これがアズールさまが発明されたというオニギリというものか。
母も作ってくれていたが、まさかここで本物をいただけるとは思っても見なかった。

驚くほど大きなオニギリを渡され、大きな口を開けた瞬間


「ふふっ。もっと食べて、ルー、あ~んして」
「あ~ん。ああ、アズールが作ってくれたのは最高だな」
「やぁ――っ、くすぐったいよぉ……っ、ふふっ。そんなとこまで、なめちゃ、だぁめ」
「アズールが美味しすぎるからいけないのだぞ」
「ねぇ、ルー。美味しい?」
「ああ、私の大好物だからな」
「ふふっ。嬉しいっ。もっといっぱい食べてぇ」
「ああ、全部食べさせてくれ」
「ふふっ。はい、あ~ん。ああ、また舐めてるー、くすぐったいよぉ」


「「「「「「………………………………」」」」」」

なんとも甘ったるい会話に、美味しいはずのオニギリの味が甘さしか感じないのだが……。

これは私だけか?
そう思ったが、周りを見渡しても皆砂を噛むような表情で大きなオニギリを口に運んでいるのがわかる。

上ではあんなに美しいアズールさまにあ~んされて幸せそうに召し上がっているというのに……。
はぁーっ。
神はなんて不公平なんだろう。

副団長もさぞかし……と思って視線を向ければ、

「マクシミリアン、ほらこれも食べてみてくれ」
「食べさせてください」
「――っ、仕方がないな。ほら」
「ふふっ。美味しいですね。ヴェルナーの愛がたっぷり詰まってますね」
「ああ、それはたっぷりな」
「――っ、ヴェルナー」

「……………………」

あっちでもこっちでも幸せそうに食べている姿が飛び込んできた。

はぁーーっ。
どうやら団長も副団長も幸せ真っ盛りのようだ。

これも修行、訓練のうちだ。
そう言い聞かせながら、私たちは無心でオニギリを平らげた。
しおりを挟む
感想 570

あなたにおすすめの小説

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

処理中です...