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第二章

最高の差し入れ

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<sideルーディー>

破壊音と一瞬の静寂の後、訓練場に響き渡ったのは、

「ふぇ……っ」

というアズールの怯えた声。

なぜこんなところにアズールが?
いや、それよりも私はアズールを怯え泣かせてしまったのか?

そんな疑問が頭の中を駆け巡るが、そんなことよりもまずはアズールの元に行かなければ!

私は急いでアズールの声のする方に駆け寄った。

「アズールっ!」

「ふぇぇ……っ」

私の姿が見えたのか、アズールはヴェルナーの腕から私に向かって泣きながらぴょんと飛び込んできた。
その飛び込みがどれだけ小さかろうが絶対にアズールを落とすわけがない。
私はアズールをすっぽりと腕の中に抱きしめた。
腕の中でアズールが少し震えているように見える。

「どうしたんだ? なぜアズールがここにいる?」

「うぅ……あ、のね……るーが、くんれん、してる、ところ、みたかったの……だから、ゔぇる、につれてきて、もらったの……でも、すごい、おと、したから……びっくり、した……」

「そうか、そうだったか。悪い。驚かせてしまったのだな」

アズールの長い耳は小さな物音に敏感に反応するせいか、大きな音に弱い。
それがあんなに近くで大きな音を聴かせてしまったのだ。
怯えもするだろう。

「ううん。ぼくが、こえ、かけたから、だよね? るーを、おうえんしたかったの……ぐすっ」

「違うよ、アズールのせいじゃない。気にしないでいいんだ」

そう、アズールのせいじゃない。
アズールの声に心を奪われて制御できなかった私の弱さが出たせいだ。

「ほんとう?」

「ああ。本当だとも。アズールが応援してくれてるんだ。悪いはずないだろう?」

「じゃあ、ルー。嬉しかった?」

「ああ。アズールが私を応援してくれるなんて嬉しいよ」

「ふふっ。よかったぁ」

さっきまでの怯えはようやく治ったようだ。
嬉しそうに私の胸元に顔を擦り寄せる姿が何よりも可愛い。

「あっ、マックスは大丈夫?」

「そういえば……」

すっかり忘れていたが、剣を弾き飛ばしてしまったのだったな。
振り返ると、マクシミリアンは傷ひとつない様子で私の後ろに立っていた。

「悪かったな。つい、制御できなくて……」

「いえ。王子の本気を目の前で拝見できて嬉しゅうございました。このような機会でもないと、拝見できませんからありがたく思っております」

「そう言ってもらえると助かる」

「王子。訓練のお邪魔をいたしまして申し訳ございません」

私たちの様子を見守っていたヴェルナーがそっと近づいてきて頭を下げる。
その姿にアズールもヴェルナーが怒られるのかと心配そうな表情で私を見上げる。

「構わぬ。アズールを連れてきてくれたのだから邪魔ではない」

そう言ってやると、アズールはホッとしたように笑顔を見せた。

「はっ。それなら何よりでございます」

アズールの前だからそうは言ったが、やはり突然の訪問は危険も生じる。
ヴェルナーも今回のことで身にしみてわかっただろうから、あえて何も言わぬがマクシミリアンから言わせておけば良いか。

「それよりやけにいい匂いがするな」

「ふふっ。やっぱりルーにはわかったね。あのね、差し入れ持ってきたの」

汗に塗れた訓練場に似つかわしくない甘辛い良い匂いが漂っている。
私だけでなく、私とマクシミリアンの練習試合を見ていた騎士たちもこの匂いにすでに気づいている者たちもいるようだ。

なんせ、たっぷりと訓練をしたあとだからな。
食料の匂いには鼻が利くに決まっている。

「あのね、ヴェルとフランツもいっぱい作ってくれたから騎士さんたちがいっぱい食べても大丈夫だよ」

「そうか。それは嬉しいな。ちょうど試合も終わり、訓練も一区切りついたところだ。アズールの差し入れをいただくとしようか。お前たちの分も差し入れがあるぞ」

そういうと、騎士たちの

「おおーーーっ!!!!」

という雄叫びにも似た大声にアズールが私の腕の中でピクリと震えた。
ふふっ。
大きな音に敏感なのに、騎士たちの喜ぶことをやってくれるのだな。アズールは。

「はい。こちらが王子の分でございますよ」

ヴェルナーから差し出された箱を受け取りながら、

「私の分だけ別なのか?」

とアズールに尋ねると、

「ふふっ。特別仕様なの」

と可愛らしく笑みを浮かべる。

「そうか、ならじっくりと味わうとしようか」

そう言って、私はアズールを連れて訓練場の二階にあるゆったりとした席に座った。
ここなら一階にいる騎士たちの様子は気にせずに済む。
何より可愛らしいアズールを見せたくはないからな。

アズールを膝に乗せたままテーブルの上の箱を開けると、

「おおっ! 私の大好物のオニギリ! もしかしてアズールが作ってくれたのか?」

大きなオニギリが5個。
それとは別に小さくて丸いものが3個入っているのが見える。

「あのね、これ……僕が手でにぎにぎしたの」

「えっ? アズールが自分の手で? 熱かっただろう? 火傷はしていないか?」

慌ててアズールの手のひらを見ると、まだほんのり赤いのがわかる。
こんなにも繊細な手が赤くなるほど私のために……。

「すっごく熱かったけど、ルーのためにフゥフゥしながら作ったの。形が綺麗じゃないけど、ルー……食べてくれる?」

「ああ、もちろんだとも。というか食べさせてくれ!」

「ふふっ。よかったぁ。じゃあ、ルー、あーんして」

口を開け、長い舌を出すとその上に乗せてくれる。
オニギリと一緒にアズールの手を一緒に舐めてからオニギリを口に運ぶ。

小さいオニギリは私の口の中でほろほろと崩れてしまうが、味は今まで食べたオニギリの中でも群を抜いて一番に美味しく感じられた。

たっぷりと時間をかけて味わってから、

「アズール、最高に美味しいオニギリだ」

というとアズールは嬉しそうに笑った。
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