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第二章

差し入れを作ろう!

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<sideアズール>

「ねぇ、ヴェル。訓練で疲れているだろうし、せっかくだからルーに差し入れを持って行ってあげたいな。」

「それなら、王子がお好きなあの『オニギリ』を作って差し上げたらいかがですか?」

「あっ! それいいかも!!」

ヴェルの言っている『オニギリ』はあのシャケとかおかかとか入っているあのおにぎり。
僕がルーに蒼央のことを打ち明けてから、ルーは僕がいた世界のことをいろいろ聞いてきた。

自分がいる世界と全く違う世界が存在していることに興味津々の様子だったな。

特に気になっていたのは食事のこと。
今の僕はお野菜や果物、それに甘いものが好きだけど、以前の世界でも同じようなものを食べていたのかと聞かれて、話をしたんだ。

僕は病気だったから病院で出されるものしか食べられなかったけれど、食べられるならおにぎりをいっぱい食べてみたかったなって言ったら、ルーが世界中を探してくれてお米にそっくりな食材を見つけ出してくれたんだ。
そのおかげでヴンダーシューン王国全土で今は食卓にご飯も並ぶようになったんだよ。

僕は見つけ出してくれたお礼に、ルーにおにぎりを作ることにしたんだ。
食べたことはなかったけれど作り方は知っていたから、すぐに作れると思ったんだよね。
でも、シャケもおかかもなかったから、うちの料理長のフランツに相談したら、

「お肉を入れてみてはどうですか?」

とアドバイスをもらって、早速ルーの大好きなステーキ肉を少し甘辛く味付けをしてもらったのをおにぎりの中に入れたんだ。

それが大成功ですっかりルーのお気に入り。

でも炊き立てのご飯は熱々で、しかも僕の小さな手だとお肉の一切れも入らなくて最初は全くできなかった。

どうしよう……と思っていると、その時まだ専属護衛をしてくれていたマックスが、おにぎりを作れる機械をさっと作ってくれたんだ。

熱々のご飯にお肉を入れて、上からご飯を乗せてフリフリしたら三角のおにぎりができるやつ。

初めて上手な三角のおにぎりができたのをみた時、あまりの嬉しさに思わずマックスに抱きつきそうになっちゃった。
でも、その時どこからともなく現れたルーが僕とマックスの間にさっと入って、気づいたらルーと抱き合ってたんだよね。
あれは今でも不思議だな。

おにぎりを作るたびにそう思う。

あれからあの機械はおにぎりを作る時の必需品になったんだよね。
本当、マックスってば、バロンを膨らませる機械とかおにぎりを作る機械とかすぐに作っちゃうからすごいよね。

そんなことを思い出しながら、僕は急いでヴェルとフランツのいる厨房に向かった。

「フランツ!」

「おや、アズールさま。こんなところに来られるなんて、また何かお作りになりたいのですか?」

「あのね、今からルーの訓練を見学に行くから差し入れにおにぎりを持っていきたいの。できる?」

「はい。15分ほどお待ちいただければ炊き上がりますよ」

「わぁーい、よかった。あのね、ルーの好きなお肉も入れたいの。ある?」

「はい。ご用意してございますよ」

「わぁー、フランツ! さすがだね!」

僕がそういうとフランツは嬉しそうにお米を炊いてくれた。

炊いている間に中に入れるお肉をジュージュー焼いて、タレをつけて……すごく美味しそうな匂いがしてきた。

と言っても僕はあんまりお肉は食べないんだよね。
やっぱりウサギさんだからかな。
お肉も美味しそうだとは思うけど、やっぱり僕は人参や果物が大好き。

でもルーが美味しそうにお肉を食べるのをみるのはもっと大好きなんだよね。


あっという間にお米が炊き上がり、ほかほかの湯気が出ているのがわかる。
うん、美味しそう!

目の前にドーンと大きなお肉も置かれる。
相変わらずルーのお肉は量もすごい。

「ねぇ、ヴェルもマックスの分作ろう」

そういうと、ヴェルは嬉しそうに、しかも機械を使わずにさっと大きなおにぎりを作ってしまった。

「わぁー、すごいっ!!」

「ふふっ。アズールさまが作り方をお教えくださったおかげですよ」

「僕も本当は機械じゃなくて自分の手で作りたいんだけどな」

両手を見るけれど、やっぱり小さい手。
これじゃあ、お肉の一切れも入らない。

「アズールさま。一口サイズならお作りになれるのではありませんか?」

そういってフランツは大きなお肉を包丁で小さく切ってくれた。

「すごい! これなら中に入れられるね」

嬉しくなって、僕は手のひらにご飯を乗せた。

「ああっ!」
「あちちっ、あちっ」

フランツの驚く声と同時に僕はせっかく手のひらに乗せたご飯をお皿に戻してしまった。

「もう少し冷ましてから出ないと火傷なさいますよ」

両手を見るとちょっと赤くなっているのがわかる。

「無理をなさってはいけませんよ」

そう注意するヴェルは次々に大きなおにぎりを作っていく。

「ヴェルは熱くないの?」

「私は騎士ですから熱さには慣れております」

「そっか……すごいなあ」

ようやく僕の手でも触れるくらいに冷めたご飯を手のひらに乗せてお肉を置いておにぎりを作る。
ヴェルの作ったものと比べると随分と小さい上に不格好だ。

「これじゃあ食べたくないって言われるかも……」

「何を仰っているんですか。王子ならアズールさまの作ったものしか食べたくないと仰るはずですよ。見た目よりも愛情です」

「ヴェル……うん、そうだね。僕、これルーに食べてもらう!」

機械でも作った大きなおにぎりと、僕の小さなおにぎりと、ヴェルの作った綺麗な大きなおにぎりをいっぱい詰めて、僕はようやくヴェルと一緒に訓練所に向かった。
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