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第一章
幸せになろう
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<sideルーディー>
「な、んで……その、なまえ……」
――あお、とは一体誰なんだ?
私の問いにアズールは青褪めた表情を見せながら、震える声を絞り出すように尋ね返した。
「昨夜、アズールと一緒に寝た時に、アズールが寝言で話していたんだ。『あお、しあわせになろう』と。その前にも、寝つき始める時に『あおのおかげだ』とも言っていた。だから、夢の中での話ではないのだろう? あおとはどこの誰なのだ?」
決して問い詰めたいわけではなかった。
アズールのことで私が知らないものがあることが耐えられなかったのだ。
だが、アズールは私の言葉に大粒の涙を流し、私の腕の中で小さい身体をさらに小さく縮ませながら
「ご、め……なさ、い」
と震える声で謝る。
私は愛しいアズールを苦しめたかったのではない。
ただ知りたかっただけなのに。
こんなにも震えて……。
私にはそんなに知られたくないことなのだろうか。
「すまない、アズールを泣かせるつもりではなかったんだ。ただ知りたかっただけだ。だが、そんなにも辛いことを聞いてしまったか? それなら――」
「ちが……っ、でも……しんじて、もらえるか、わからないから……」
「そんな心配をしていたのか。私はアズールの言葉を嘘だと思ったことは一度もないし、いつでも本当の気持ちを伝えてくれていると思っているよ」
「ルー……」
「だから、なんでも話してほしい。アズールを一人にはしたくないんだ」
ギュッと抱きしめながら、そう告げる。
私の胸元に顔を擦り寄せているアズールの表情は私にはわからないが、私の気持ちは少しは伝わっただろうか。
しばらくの静寂が私たちの間を通り抜ける。
こんなにも小さなアズールが必死になって隠し通しておきたいことを無理やりに言わせなくてもいいじゃないか。
そんな思いが頭を過ぎる。
『あお』が誰であろうと、アズールが私を想ってくれる気持ちに嘘偽りなどないのだから。
「アズール、もう――」
「あのね……あおは、ぼくなの」
「えっ? 今、なんと?」
思いもかけない言葉に思わず聞き返してしまった。
すると、アズールは私の胸元に隠していた顔を上げて、まだ涙が溜まった目を潤ませながら、
「あおは、まえの、ぼくなの」
と繰り返した。
<sideアズール>
どうしてルーが、蒼央を知っていたんだろうと思ったけれど、まさか僕が寝言で話していたなんて……。
あまりにも不意打ちの話に、なんて話したらいいのかもわからなくなって震えることしかできなかった。
生まれる前の記憶があって、その時の名前が<あお>だって話して信じてくれるかな?
僕だったらすぐには信じられないかも。
しかもこの世界じゃない別の世界の話なんて言っても、想像もつかないかもしれない。
ルーにおかしなことを言い出す子だって嫌われるかもしれない。
それなのに、ルーに話す?
でも……僕はいつまでも蒼央としての記憶は忘れないし、忘れたくない。
ルーに話せないのに、忘れたくないっておかしなこと言ってるってわかってる。
でもちゃんと話せるか不安しかないんだ。
どうしよう……どうしよう……。
ルーは自分が悪いことを聞いたと思って謝ってくれている。
ルーに悪いところなんてどこにもないのに。
だから話しても信じてもらえないかも……ってルーに正直に言ってみた。
だけどルーは僕のいうことを嘘だと思ったことは一度もないって言ってくれた。
そして、僕を一人にしたくないとも……。
そうだ。
この世界にはひとりぼっちだったあの僕はいないんだ。
だったら、ずっと一人で寂しかった蒼央も一緒に入れてほしい。
きっとルーなら、僕の心にずっと一緒にいた蒼央のことも優しくしてくれるかもしれない。
だから僕は初めて口にしたんだ。
「あおは、まえの、ぼくなの」
って。
<sideルーディー>
「前の、アズールとはどういうことなんだ?」
アズールの言っている意味を私なりに必死に理解しようと優しく尋ねてみた。
すると、アズールは拙い言葉ながらも、必死に私に説明をしてくれた。
「あのね、ぼく……あずーるとして、うまれるまえのことを、おぼえてるの」
「生まれる前のこと?」
「うん。こんなかわいいみみもないところで、うまれてから、ずっと、びょうきで、ひとりぼっちだったの」
「生まれてから、ひとりぼっちって……両親はいなかったのか?」
「びょうきばっかり、してたから、めいわくだって。うまなきゃよかったって、いわれた」
「な――っ、そんな酷い言葉を自分の子どもに?」
「だから、ずっとひとりぼっちだったの。そのままびょうきが、ひどくなって、しんじゃったって、おもったら、ここにいたの」
アズールは淡々と昔の記憶を話すが、それがどれほど辛いことか……。
アズールの中にもう一人の記憶が残ったまま生まれてきたのは、神の思し召しなのか。
もしかしたら前世で辛い思いをした分、今世でもっと幸せになれるように昔の記憶を残しておいてくれたのかもしれない。
「そうか。アズール、いや、あおは寂しかったのだな」
「ルー、しんじてくれるの?」
「ふふっ。そういっただろう? アズールは今は寂しくないか?」
「うん。ルーがいるし、おとうさまもおかあさまも、やさしいし、いまはあんまりあえないけど、おにいさまもやさしいし、それにベンも、じいもみんなみんなやさしいから、さみしくない」
「なら、あおもさみしくないな。もしかして、あの誕生日の演出は……」
「あおがずっとやってみたかったことをやってみたの」
なるほど。
そういうことだったか。
誰も知らない誕生日の歌に、ケーキに蝋燭を立てて吹き消したりする演出。
そして、あの王冠。
まだ五歳のアズールが一人で全てを思いつくなんてあり得ない。
昔の記憶があったのなら、それも納得がいく。
「夢が叶ったというわけか?」
「うん。あおのおかげで、ルーを、よろこばせることができて、うれしかった。ずっとおいわいして、よろこんで、もらいたかったんだ」
「そうか。アズールからあんなにも嬉しいことをしてもらえたのは、あおのおかげだったのだな。じゃあ、私もお礼を言わねばな」
「えっ? おれい?」
「ああ。あお、ありがとう。おかげでアズールに嬉しい贈り物をたくさん貰えた。本当にありがとう」
アズールを抱きしめながらそういうと、アズールは嬉しそうに涙を流した。
「これから、ルーのまえでは、あおのはなしを、してもいい?」
「ああ。アズールもあおも私の大事な人だからな」
「ルー、ありがとう!!」
アズールは嬉しそうに私の膝の上で飛び跳ねる。
きっとアズールの中であおも嬉しそうに飛び跳ねているのだろう。
ずっとひとりぼっちだったというあお。
たったひとりぼっちで死んでしまったと言っていたな。
だが、ヴォルフ公爵家に生まれて、あの愛情深い家族に出会えて、きっと幸せを感じられたことだろう。
そして、これからは私がいつでもアズールと共に幸せにしよう。
叶えたかった夢も全て叶えてやる。
それがアズールの幸せでもあるのだからな。
アズール、そしてあお。
一緒に幸せになろう。
* * *
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ここで第一章完結です。
次の第二章から少し年齢が進みます。
引き続きどうぞお楽しみに♡
「な、んで……その、なまえ……」
――あお、とは一体誰なんだ?
私の問いにアズールは青褪めた表情を見せながら、震える声を絞り出すように尋ね返した。
「昨夜、アズールと一緒に寝た時に、アズールが寝言で話していたんだ。『あお、しあわせになろう』と。その前にも、寝つき始める時に『あおのおかげだ』とも言っていた。だから、夢の中での話ではないのだろう? あおとはどこの誰なのだ?」
決して問い詰めたいわけではなかった。
アズールのことで私が知らないものがあることが耐えられなかったのだ。
だが、アズールは私の言葉に大粒の涙を流し、私の腕の中で小さい身体をさらに小さく縮ませながら
「ご、め……なさ、い」
と震える声で謝る。
私は愛しいアズールを苦しめたかったのではない。
ただ知りたかっただけなのに。
こんなにも震えて……。
私にはそんなに知られたくないことなのだろうか。
「すまない、アズールを泣かせるつもりではなかったんだ。ただ知りたかっただけだ。だが、そんなにも辛いことを聞いてしまったか? それなら――」
「ちが……っ、でも……しんじて、もらえるか、わからないから……」
「そんな心配をしていたのか。私はアズールの言葉を嘘だと思ったことは一度もないし、いつでも本当の気持ちを伝えてくれていると思っているよ」
「ルー……」
「だから、なんでも話してほしい。アズールを一人にはしたくないんだ」
ギュッと抱きしめながら、そう告げる。
私の胸元に顔を擦り寄せているアズールの表情は私にはわからないが、私の気持ちは少しは伝わっただろうか。
しばらくの静寂が私たちの間を通り抜ける。
こんなにも小さなアズールが必死になって隠し通しておきたいことを無理やりに言わせなくてもいいじゃないか。
そんな思いが頭を過ぎる。
『あお』が誰であろうと、アズールが私を想ってくれる気持ちに嘘偽りなどないのだから。
「アズール、もう――」
「あのね……あおは、ぼくなの」
「えっ? 今、なんと?」
思いもかけない言葉に思わず聞き返してしまった。
すると、アズールは私の胸元に隠していた顔を上げて、まだ涙が溜まった目を潤ませながら、
「あおは、まえの、ぼくなの」
と繰り返した。
<sideアズール>
どうしてルーが、蒼央を知っていたんだろうと思ったけれど、まさか僕が寝言で話していたなんて……。
あまりにも不意打ちの話に、なんて話したらいいのかもわからなくなって震えることしかできなかった。
生まれる前の記憶があって、その時の名前が<あお>だって話して信じてくれるかな?
僕だったらすぐには信じられないかも。
しかもこの世界じゃない別の世界の話なんて言っても、想像もつかないかもしれない。
ルーにおかしなことを言い出す子だって嫌われるかもしれない。
それなのに、ルーに話す?
でも……僕はいつまでも蒼央としての記憶は忘れないし、忘れたくない。
ルーに話せないのに、忘れたくないっておかしなこと言ってるってわかってる。
でもちゃんと話せるか不安しかないんだ。
どうしよう……どうしよう……。
ルーは自分が悪いことを聞いたと思って謝ってくれている。
ルーに悪いところなんてどこにもないのに。
だから話しても信じてもらえないかも……ってルーに正直に言ってみた。
だけどルーは僕のいうことを嘘だと思ったことは一度もないって言ってくれた。
そして、僕を一人にしたくないとも……。
そうだ。
この世界にはひとりぼっちだったあの僕はいないんだ。
だったら、ずっと一人で寂しかった蒼央も一緒に入れてほしい。
きっとルーなら、僕の心にずっと一緒にいた蒼央のことも優しくしてくれるかもしれない。
だから僕は初めて口にしたんだ。
「あおは、まえの、ぼくなの」
って。
<sideルーディー>
「前の、アズールとはどういうことなんだ?」
アズールの言っている意味を私なりに必死に理解しようと優しく尋ねてみた。
すると、アズールは拙い言葉ながらも、必死に私に説明をしてくれた。
「あのね、ぼく……あずーるとして、うまれるまえのことを、おぼえてるの」
「生まれる前のこと?」
「うん。こんなかわいいみみもないところで、うまれてから、ずっと、びょうきで、ひとりぼっちだったの」
「生まれてから、ひとりぼっちって……両親はいなかったのか?」
「びょうきばっかり、してたから、めいわくだって。うまなきゃよかったって、いわれた」
「な――っ、そんな酷い言葉を自分の子どもに?」
「だから、ずっとひとりぼっちだったの。そのままびょうきが、ひどくなって、しんじゃったって、おもったら、ここにいたの」
アズールは淡々と昔の記憶を話すが、それがどれほど辛いことか……。
アズールの中にもう一人の記憶が残ったまま生まれてきたのは、神の思し召しなのか。
もしかしたら前世で辛い思いをした分、今世でもっと幸せになれるように昔の記憶を残しておいてくれたのかもしれない。
「そうか。アズール、いや、あおは寂しかったのだな」
「ルー、しんじてくれるの?」
「ふふっ。そういっただろう? アズールは今は寂しくないか?」
「うん。ルーがいるし、おとうさまもおかあさまも、やさしいし、いまはあんまりあえないけど、おにいさまもやさしいし、それにベンも、じいもみんなみんなやさしいから、さみしくない」
「なら、あおもさみしくないな。もしかして、あの誕生日の演出は……」
「あおがずっとやってみたかったことをやってみたの」
なるほど。
そういうことだったか。
誰も知らない誕生日の歌に、ケーキに蝋燭を立てて吹き消したりする演出。
そして、あの王冠。
まだ五歳のアズールが一人で全てを思いつくなんてあり得ない。
昔の記憶があったのなら、それも納得がいく。
「夢が叶ったというわけか?」
「うん。あおのおかげで、ルーを、よろこばせることができて、うれしかった。ずっとおいわいして、よろこんで、もらいたかったんだ」
「そうか。アズールからあんなにも嬉しいことをしてもらえたのは、あおのおかげだったのだな。じゃあ、私もお礼を言わねばな」
「えっ? おれい?」
「ああ。あお、ありがとう。おかげでアズールに嬉しい贈り物をたくさん貰えた。本当にありがとう」
アズールを抱きしめながらそういうと、アズールは嬉しそうに涙を流した。
「これから、ルーのまえでは、あおのはなしを、してもいい?」
「ああ。アズールもあおも私の大事な人だからな」
「ルー、ありがとう!!」
アズールは嬉しそうに私の膝の上で飛び跳ねる。
きっとアズールの中であおも嬉しそうに飛び跳ねているのだろう。
ずっとひとりぼっちだったというあお。
たったひとりぼっちで死んでしまったと言っていたな。
だが、ヴォルフ公爵家に生まれて、あの愛情深い家族に出会えて、きっと幸せを感じられたことだろう。
そして、これからは私がいつでもアズールと共に幸せにしよう。
叶えたかった夢も全て叶えてやる。
それがアズールの幸せでもあるのだからな。
アズール、そしてあお。
一緒に幸せになろう。
* * *
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ここで第一章完結です。
次の第二章から少し年齢が進みます。
引き続きどうぞお楽しみに♡
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