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第一章
苦行からの回復
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<sideフィデリオ(爺)>
「ル、ルーディーさま。すぐに寝室に」
「あ、ああ。ありがとう。父上には……」
「私の方からお伝えいたします」
「頼む……」
よろよろと足をふらつかせながら部屋に入っていくルーディーさまを見送りながら、昨晩どれだけ過酷な夜を過ごしたのかが手に取るようにわかった。
――あずーる。ルーと、いっしょに、おねんねしたい。
アズールさまからそうおねだりされた時のルーディーさまのあの絶望に満ちたお顔。
もちろん運命の番さまからのおねだりだから喜びもあるだろう。
だが、何も手を出すことが許されない今の状況では拷問に近い。
なんせ、アズールさまと数日お離れになった上に、あのヴェルナーさまと行動を共にされていたのだから、思いのままに蜜を吐き出すなどということもできなかったに違いない。
だからこそ、アズールさまがお祝いをしてくださったパーティーを終えたら、すぐに自室に戻り己の欲を際限なく吐き出したかったのだ。
だが、可愛らしいあのおねだりによって、おいしそうなものを前に空腹のまま我慢し続けるという苦行を行うことになってしまったのだ。
どんな夜をお過ごしになったのか、直接伺うことはできないが、それでも公爵家からなんの報告もないことを踏まえれば、なんとか乗り越えることができたのだろうと思う。
今日は部屋には入らない方がいいな。
事前に部屋にたっぷりと食事と飲み物を用意しておいて正解だった。
ルーディーさま。
もう我慢はしなくとも良いのです。
どうか心ゆくまで欲をお吐き出しください。
そう心の中で叫びながら、私は陛下の元に向かった。
「ルーディーは帰ったのか?」
「はい。ですが、お帰りのご報告は明日以降になるかと存じます」
「ああ、それならわかっている。昨日のお前の報告を受けた時からな」
父として、一人の男として今のルーディーさまのお辛さを一番わかっておいでなのだろう。
「ルーディーには落ち着き次第、儀式を無事に終えたことの報告に来れば良いと伝えてくれ。といっても今日は無理だろうがな」
「はい。ルーディーさまが落ち着かれましたらすぐにでもお伝えいたします」
ご理解があるお方で本当に良かった。
安堵の息を漏らしつつ、ルーディーさまの動向を逐一報告を受けていたが、ルーディーさまのお部屋からベルが鳴ったのは
翌日の夕方近くになっていた。
「ルーディーさま。改めまして無事のご帰還、爺は嬉しゅうございました」
「ああ、ありがとう。爺とマクシミリアンがアズールを守っていてくれたから、安心して儀式を終えることができた。私からも礼を言う」
「いいえ。滅相もございません。アズールさまの頑張りに比べたらもう私など足元にも及びませぬ。アズールさまはルーディーさまをお思いになりながら必死にパーティーの準備をなさっておりましたよ」
「そのパーティーのことで爺に聞きたいことがあるのだが……」
「はい。私にお答えできることなら何なりとお尋ねください」
そう答えたが、ルーディーさまはしばらく思案されてから、
「いや、やはりやめておこう。これは私とアズールの問題だからな」
と仰った。
アズールさまのことで何かお聞きになりたいことがあったのだろうか……。
思い当たることといえばないわけではないが、それでも私にお尋ねにならないとは……。
ルーディーさまも大人になられたのだな。
<sideルーディー>
アズールの話していた、あおとやらのことについて、爺なら知っているかもしれないと思ったが、ここで爺に尋ねるのはなんとなくフェアではない気がした。
やはりこれはアズールに直接尋ねるべきだろう。
たとえどんな事実を知ったとしても、私のアズールへの愛情は変わらないと断言できる。
「それよりも父上に挨拶に行こう。ずっとお待たせしてしまって、お怒りではないか?」
「いいえ。陛下はルーディーさまのことを心配していらっしゃいましたよ。反対に想像よりも早いとお褒めになるのではないですか?」
「ははっ。それなら良いが」
父上の部屋に行き、二人っきりになった途端、
「儀式は大変だったか?」
と尋ねられた。
「えっ、あ、はい。あの……」
「ああ、詳しいことは言わずとも良い。ただ同じ試練を受けたものとして讃えあいたかっただけだ」
「父上の御指南のおかげで自分の判断を見誤らずに済みました」
「そうか。それなら良かった。お前はこれから、次期国王としてさらに勉強してもらうぞ。アズールのためにもこれからより一層励むように」
「はい。お任せください」
「うむ。今から公爵家に行くのか?」
「はい。昨日早々に帰宅しましたので、アズールの顔を見に行こうと思います」
そういうと、父上は気をつけて行ってこいと送り出してくれた。
アズールに会ったら、早速あのことを聞いてみようか。
なんと言われるか緊張するが、それでも悶々と悩んでいるよりはずっといい。
私は気合を入れ直して、アズールの待つ公爵邸に向かった。
「ル、ルーディーさま。すぐに寝室に」
「あ、ああ。ありがとう。父上には……」
「私の方からお伝えいたします」
「頼む……」
よろよろと足をふらつかせながら部屋に入っていくルーディーさまを見送りながら、昨晩どれだけ過酷な夜を過ごしたのかが手に取るようにわかった。
――あずーる。ルーと、いっしょに、おねんねしたい。
アズールさまからそうおねだりされた時のルーディーさまのあの絶望に満ちたお顔。
もちろん運命の番さまからのおねだりだから喜びもあるだろう。
だが、何も手を出すことが許されない今の状況では拷問に近い。
なんせ、アズールさまと数日お離れになった上に、あのヴェルナーさまと行動を共にされていたのだから、思いのままに蜜を吐き出すなどということもできなかったに違いない。
だからこそ、アズールさまがお祝いをしてくださったパーティーを終えたら、すぐに自室に戻り己の欲を際限なく吐き出したかったのだ。
だが、可愛らしいあのおねだりによって、おいしそうなものを前に空腹のまま我慢し続けるという苦行を行うことになってしまったのだ。
どんな夜をお過ごしになったのか、直接伺うことはできないが、それでも公爵家からなんの報告もないことを踏まえれば、なんとか乗り越えることができたのだろうと思う。
今日は部屋には入らない方がいいな。
事前に部屋にたっぷりと食事と飲み物を用意しておいて正解だった。
ルーディーさま。
もう我慢はしなくとも良いのです。
どうか心ゆくまで欲をお吐き出しください。
そう心の中で叫びながら、私は陛下の元に向かった。
「ルーディーは帰ったのか?」
「はい。ですが、お帰りのご報告は明日以降になるかと存じます」
「ああ、それならわかっている。昨日のお前の報告を受けた時からな」
父として、一人の男として今のルーディーさまのお辛さを一番わかっておいでなのだろう。
「ルーディーには落ち着き次第、儀式を無事に終えたことの報告に来れば良いと伝えてくれ。といっても今日は無理だろうがな」
「はい。ルーディーさまが落ち着かれましたらすぐにでもお伝えいたします」
ご理解があるお方で本当に良かった。
安堵の息を漏らしつつ、ルーディーさまの動向を逐一報告を受けていたが、ルーディーさまのお部屋からベルが鳴ったのは
翌日の夕方近くになっていた。
「ルーディーさま。改めまして無事のご帰還、爺は嬉しゅうございました」
「ああ、ありがとう。爺とマクシミリアンがアズールを守っていてくれたから、安心して儀式を終えることができた。私からも礼を言う」
「いいえ。滅相もございません。アズールさまの頑張りに比べたらもう私など足元にも及びませぬ。アズールさまはルーディーさまをお思いになりながら必死にパーティーの準備をなさっておりましたよ」
「そのパーティーのことで爺に聞きたいことがあるのだが……」
「はい。私にお答えできることなら何なりとお尋ねください」
そう答えたが、ルーディーさまはしばらく思案されてから、
「いや、やはりやめておこう。これは私とアズールの問題だからな」
と仰った。
アズールさまのことで何かお聞きになりたいことがあったのだろうか……。
思い当たることといえばないわけではないが、それでも私にお尋ねにならないとは……。
ルーディーさまも大人になられたのだな。
<sideルーディー>
アズールの話していた、あおとやらのことについて、爺なら知っているかもしれないと思ったが、ここで爺に尋ねるのはなんとなくフェアではない気がした。
やはりこれはアズールに直接尋ねるべきだろう。
たとえどんな事実を知ったとしても、私のアズールへの愛情は変わらないと断言できる。
「それよりも父上に挨拶に行こう。ずっとお待たせしてしまって、お怒りではないか?」
「いいえ。陛下はルーディーさまのことを心配していらっしゃいましたよ。反対に想像よりも早いとお褒めになるのではないですか?」
「ははっ。それなら良いが」
父上の部屋に行き、二人っきりになった途端、
「儀式は大変だったか?」
と尋ねられた。
「えっ、あ、はい。あの……」
「ああ、詳しいことは言わずとも良い。ただ同じ試練を受けたものとして讃えあいたかっただけだ」
「父上の御指南のおかげで自分の判断を見誤らずに済みました」
「そうか。それなら良かった。お前はこれから、次期国王としてさらに勉強してもらうぞ。アズールのためにもこれからより一層励むように」
「はい。お任せください」
「うむ。今から公爵家に行くのか?」
「はい。昨日早々に帰宅しましたので、アズールの顔を見に行こうと思います」
そういうと、父上は気をつけて行ってこいと送り出してくれた。
アズールに会ったら、早速あのことを聞いてみようか。
なんと言われるか緊張するが、それでも悶々と悩んでいるよりはずっといい。
私は気合を入れ直して、アズールの待つ公爵邸に向かった。
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