70 / 286
第一章
神殿の中で
しおりを挟む
<sideヴェルナー>
王都を出発して二日を少し過ぎたところだが、もう神殿の近くまでやってきた。
通常から考えればとんでもない速さだ。
それもこれもアズールさまへの愛情の深さが物語っているのだろう。
「ヴェルナー、其方がついて来てくれたおかげでこんなにも早く神殿に到着できる。感謝するぞ」
「なにを仰います。王子が頑張られたからでございますよ。私もこれほど早く到着できるとは思っても見ませんでしたから嬉しいです。ですが、これからが大事でございますよ。儀式を無事に終えられるように祈っております」
ここから先は次期国王となられるお方しか、立ち入ることはできない。
私たちはここで王子が出てこられるのをただひたすらに待ち続けることしかできないのだ。
「ああ、任せておいてくれ。私は決して諦めたりはしない」
そう自信満々に言い切って、王子は一人で神殿に向かわれた。
次期国王となるものが、成人を迎える前に必ず行わなければならない儀式。
その全容は神殿にいる者と、儀式を受ける当事者しか知らない。
決して他言してはならないとされていることだ。
あの神殿で一体どのようなことが起こるのか、全く想像もつかないが私にはただ無事にお帰りくださいとしか、言いようがない。
〈sideルーディー〉
何の気配も感じられないな。
獣人である私にさえ感じられないとは……ここはどうなっているのだろう。
初めて訪れる神殿は、外界とは綺麗に切り離されているような感覚がする。
――ルーディー。儀式については口外することを禁じられているから、お前にも何も伝えることはできないが、ある一点だけ、忠告をしておくとすれば決して悩まないこと。お前の直感を信じること、それだけを頭に入れておけ。
王都を出発する前日、父上はそう助言してくださった。
悩むことなく、直感を信じること。
これからここで一体何が起こるのかはわからぬが、直感力なら自信がある。
きっと、いや、絶対にやり遂げてみせる!
神殿には誰の姿も見当たらないまま、行き先だけが示されている。
その通りに進んでいくと、壁に突き当たった。
なんだ?
途中で行き先を間違えたか?
だが、間違えるような道などなかったはずだ。
おかしい……。
目の前の壁にそっと触れると、
「おおっ!」
突然壁が無くなり、広い部屋が現れた。
ここが儀式を行う部屋なのか?
一歩足を踏み入れた途端、背後に再度壁が現れ、私は真っ暗で広い部屋にただ一人取り残された。
何か意図があるとしか考えられないこの部屋に置き去りにされたとはいえ、それで混乱するような私ではない。
そもそも狼獣人である私は暗闇でもなんの問題もないほどに見えるのだ。
だが、今は目で見えるものよりも、あえて気配を探ったほうが良さそうだ。
そっと目を瞑り、ほんのわずかな動きを探る。
「そこか!!」
ほんのわずかな気の揺らぎを見つけ、そこに向けて大声を上げれば、一瞬にして部屋に灯りが点った。
と同時に聞き慣れた声が私の耳に飛び込んでくる。
「ふぇーーんっ」
「――っ!! アズールっ!!! アズールっ!! どうしたんだ??」
目の前に現れたのは小さな檻に入れられたアズールの弱々しい姿。
ぐったりと檻の中で倒れ込んでいるのが見える。
「ルー……た、すけ、てぇ……っ」
「くっ――!!」
なぜこんな場所に?
いつの間に連れてこられたんだ?
もしや、儀式とは愛しいものを救い出すことなのか?
そのためにわざわざアズールが連れてこられて、こんな酷い目に遭っているというのか?
こんなことをしなければ国王になれぬのなら、私は国王などにはなりたくない!!
「アズールっ! 無理して話さなくていい! すぐに私が助けてやるからもうしばらくの辛抱だ! ぐぅーーーっああっ!!」
渾身の力を振り絞って、アズールの閉じ込められている檻を壊し、アズールを檻から救出しようと手を伸ばした。
「ルー、あいたかったぁ……っ」
アズールの方からギュッと抱きついてくる。
その勢いに驚きながらも、それほどまでに私と会える日を待ち望んでくれていたのかと思うと嬉しくなる。
「ああ、私もだよ。アズール」
「ルー、アズール、がんばったから、ちゅーして」
「――っ!! アズールから強請ってくれるとはな」
「だってぇ、ずっと、あいたかったから」
「ああ、そうだな」
アズールがゆっくりと目を瞑る。
この数日、ずっとアズールを思い続けていたんだ。
ようやく、アズールと会えた記念だな。
ゆっくりと唇を重ね合わせようとしたその時、
「――っ!」
私はアズールを抱きしめていた腕を離してしまった。
王都を出発して二日を少し過ぎたところだが、もう神殿の近くまでやってきた。
通常から考えればとんでもない速さだ。
それもこれもアズールさまへの愛情の深さが物語っているのだろう。
「ヴェルナー、其方がついて来てくれたおかげでこんなにも早く神殿に到着できる。感謝するぞ」
「なにを仰います。王子が頑張られたからでございますよ。私もこれほど早く到着できるとは思っても見ませんでしたから嬉しいです。ですが、これからが大事でございますよ。儀式を無事に終えられるように祈っております」
ここから先は次期国王となられるお方しか、立ち入ることはできない。
私たちはここで王子が出てこられるのをただひたすらに待ち続けることしかできないのだ。
「ああ、任せておいてくれ。私は決して諦めたりはしない」
そう自信満々に言い切って、王子は一人で神殿に向かわれた。
次期国王となるものが、成人を迎える前に必ず行わなければならない儀式。
その全容は神殿にいる者と、儀式を受ける当事者しか知らない。
決して他言してはならないとされていることだ。
あの神殿で一体どのようなことが起こるのか、全く想像もつかないが私にはただ無事にお帰りくださいとしか、言いようがない。
〈sideルーディー〉
何の気配も感じられないな。
獣人である私にさえ感じられないとは……ここはどうなっているのだろう。
初めて訪れる神殿は、外界とは綺麗に切り離されているような感覚がする。
――ルーディー。儀式については口外することを禁じられているから、お前にも何も伝えることはできないが、ある一点だけ、忠告をしておくとすれば決して悩まないこと。お前の直感を信じること、それだけを頭に入れておけ。
王都を出発する前日、父上はそう助言してくださった。
悩むことなく、直感を信じること。
これからここで一体何が起こるのかはわからぬが、直感力なら自信がある。
きっと、いや、絶対にやり遂げてみせる!
神殿には誰の姿も見当たらないまま、行き先だけが示されている。
その通りに進んでいくと、壁に突き当たった。
なんだ?
途中で行き先を間違えたか?
だが、間違えるような道などなかったはずだ。
おかしい……。
目の前の壁にそっと触れると、
「おおっ!」
突然壁が無くなり、広い部屋が現れた。
ここが儀式を行う部屋なのか?
一歩足を踏み入れた途端、背後に再度壁が現れ、私は真っ暗で広い部屋にただ一人取り残された。
何か意図があるとしか考えられないこの部屋に置き去りにされたとはいえ、それで混乱するような私ではない。
そもそも狼獣人である私は暗闇でもなんの問題もないほどに見えるのだ。
だが、今は目で見えるものよりも、あえて気配を探ったほうが良さそうだ。
そっと目を瞑り、ほんのわずかな動きを探る。
「そこか!!」
ほんのわずかな気の揺らぎを見つけ、そこに向けて大声を上げれば、一瞬にして部屋に灯りが点った。
と同時に聞き慣れた声が私の耳に飛び込んでくる。
「ふぇーーんっ」
「――っ!! アズールっ!!! アズールっ!! どうしたんだ??」
目の前に現れたのは小さな檻に入れられたアズールの弱々しい姿。
ぐったりと檻の中で倒れ込んでいるのが見える。
「ルー……た、すけ、てぇ……っ」
「くっ――!!」
なぜこんな場所に?
いつの間に連れてこられたんだ?
もしや、儀式とは愛しいものを救い出すことなのか?
そのためにわざわざアズールが連れてこられて、こんな酷い目に遭っているというのか?
こんなことをしなければ国王になれぬのなら、私は国王などにはなりたくない!!
「アズールっ! 無理して話さなくていい! すぐに私が助けてやるからもうしばらくの辛抱だ! ぐぅーーーっああっ!!」
渾身の力を振り絞って、アズールの閉じ込められている檻を壊し、アズールを檻から救出しようと手を伸ばした。
「ルー、あいたかったぁ……っ」
アズールの方からギュッと抱きついてくる。
その勢いに驚きながらも、それほどまでに私と会える日を待ち望んでくれていたのかと思うと嬉しくなる。
「ああ、私もだよ。アズール」
「ルー、アズール、がんばったから、ちゅーして」
「――っ!! アズールから強請ってくれるとはな」
「だってぇ、ずっと、あいたかったから」
「ああ、そうだな」
アズールがゆっくりと目を瞑る。
この数日、ずっとアズールを思い続けていたんだ。
ようやく、アズールと会えた記念だな。
ゆっくりと唇を重ね合わせようとしたその時、
「――っ!」
私はアズールを抱きしめていた腕を離してしまった。
238
お気に入りに追加
5,276
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
奴の執着から逃れられない件について
B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。
しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。
なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され...,
途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
竜人の王である夫に運命の番が見つかったので離婚されました。結局再婚いたしますが。
重田いの
恋愛
竜人族は少子化に焦っていた。彼らは卵で産まれるのだが、その卵はなかなか孵化しないのだ。
少子化を食い止める鍵はたったひとつ! 運命の番様である!
番様と番うと、竜人族であっても卵ではなく子供が産まれる。悲劇を回避できるのだ……。
そして今日、王妃ファニアミリアの夫、王レヴニールに運命の番が見つかった。
離婚された王妃が、結局元サヤ再婚するまでのすったもんだのお話。
翼と角としっぽが生えてるタイプの竜人なので苦手な方はお気をつけて~。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる