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第一章
神殿の中で
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<sideヴェルナー>
王都を出発して二日を少し過ぎたところだが、もう神殿の近くまでやってきた。
通常から考えればとんでもない速さだ。
それもこれもアズールさまへの愛情の深さが物語っているのだろう。
「ヴェルナー、其方がついて来てくれたおかげでこんなにも早く神殿に到着できる。感謝するぞ」
「なにを仰います。王子が頑張られたからでございますよ。私もこれほど早く到着できるとは思っても見ませんでしたから嬉しいです。ですが、これからが大事でございますよ。儀式を無事に終えられるように祈っております」
ここから先は次期国王となられるお方しか、立ち入ることはできない。
私たちはここで王子が出てこられるのをただひたすらに待ち続けることしかできないのだ。
「ああ、任せておいてくれ。私は決して諦めたりはしない」
そう自信満々に言い切って、王子は一人で神殿に向かわれた。
次期国王となるものが、成人を迎える前に必ず行わなければならない儀式。
その全容は神殿にいる者と、儀式を受ける当事者しか知らない。
決して他言してはならないとされていることだ。
あの神殿で一体どのようなことが起こるのか、全く想像もつかないが私にはただ無事にお帰りくださいとしか、言いようがない。
〈sideルーディー〉
何の気配も感じられないな。
獣人である私にさえ感じられないとは……ここはどうなっているのだろう。
初めて訪れる神殿は、外界とは綺麗に切り離されているような感覚がする。
――ルーディー。儀式については口外することを禁じられているから、お前にも何も伝えることはできないが、ある一点だけ、忠告をしておくとすれば決して悩まないこと。お前の直感を信じること、それだけを頭に入れておけ。
王都を出発する前日、父上はそう助言してくださった。
悩むことなく、直感を信じること。
これからここで一体何が起こるのかはわからぬが、直感力なら自信がある。
きっと、いや、絶対にやり遂げてみせる!
神殿には誰の姿も見当たらないまま、行き先だけが示されている。
その通りに進んでいくと、壁に突き当たった。
なんだ?
途中で行き先を間違えたか?
だが、間違えるような道などなかったはずだ。
おかしい……。
目の前の壁にそっと触れると、
「おおっ!」
突然壁が無くなり、広い部屋が現れた。
ここが儀式を行う部屋なのか?
一歩足を踏み入れた途端、背後に再度壁が現れ、私は真っ暗で広い部屋にただ一人取り残された。
何か意図があるとしか考えられないこの部屋に置き去りにされたとはいえ、それで混乱するような私ではない。
そもそも狼獣人である私は暗闇でもなんの問題もないほどに見えるのだ。
だが、今は目で見えるものよりも、あえて気配を探ったほうが良さそうだ。
そっと目を瞑り、ほんのわずかな動きを探る。
「そこか!!」
ほんのわずかな気の揺らぎを見つけ、そこに向けて大声を上げれば、一瞬にして部屋に灯りが点った。
と同時に聞き慣れた声が私の耳に飛び込んでくる。
「ふぇーーんっ」
「――っ!! アズールっ!!! アズールっ!! どうしたんだ??」
目の前に現れたのは小さな檻に入れられたアズールの弱々しい姿。
ぐったりと檻の中で倒れ込んでいるのが見える。
「ルー……た、すけ、てぇ……っ」
「くっ――!!」
なぜこんな場所に?
いつの間に連れてこられたんだ?
もしや、儀式とは愛しいものを救い出すことなのか?
そのためにわざわざアズールが連れてこられて、こんな酷い目に遭っているというのか?
こんなことをしなければ国王になれぬのなら、私は国王などにはなりたくない!!
「アズールっ! 無理して話さなくていい! すぐに私が助けてやるからもうしばらくの辛抱だ! ぐぅーーーっああっ!!」
渾身の力を振り絞って、アズールの閉じ込められている檻を壊し、アズールを檻から救出しようと手を伸ばした。
「ルー、あいたかったぁ……っ」
アズールの方からギュッと抱きついてくる。
その勢いに驚きながらも、それほどまでに私と会える日を待ち望んでくれていたのかと思うと嬉しくなる。
「ああ、私もだよ。アズール」
「ルー、アズール、がんばったから、ちゅーして」
「――っ!! アズールから強請ってくれるとはな」
「だってぇ、ずっと、あいたかったから」
「ああ、そうだな」
アズールがゆっくりと目を瞑る。
この数日、ずっとアズールを思い続けていたんだ。
ようやく、アズールと会えた記念だな。
ゆっくりと唇を重ね合わせようとしたその時、
「――っ!」
私はアズールを抱きしめていた腕を離してしまった。
王都を出発して二日を少し過ぎたところだが、もう神殿の近くまでやってきた。
通常から考えればとんでもない速さだ。
それもこれもアズールさまへの愛情の深さが物語っているのだろう。
「ヴェルナー、其方がついて来てくれたおかげでこんなにも早く神殿に到着できる。感謝するぞ」
「なにを仰います。王子が頑張られたからでございますよ。私もこれほど早く到着できるとは思っても見ませんでしたから嬉しいです。ですが、これからが大事でございますよ。儀式を無事に終えられるように祈っております」
ここから先は次期国王となられるお方しか、立ち入ることはできない。
私たちはここで王子が出てこられるのをただひたすらに待ち続けることしかできないのだ。
「ああ、任せておいてくれ。私は決して諦めたりはしない」
そう自信満々に言い切って、王子は一人で神殿に向かわれた。
次期国王となるものが、成人を迎える前に必ず行わなければならない儀式。
その全容は神殿にいる者と、儀式を受ける当事者しか知らない。
決して他言してはならないとされていることだ。
あの神殿で一体どのようなことが起こるのか、全く想像もつかないが私にはただ無事にお帰りくださいとしか、言いようがない。
〈sideルーディー〉
何の気配も感じられないな。
獣人である私にさえ感じられないとは……ここはどうなっているのだろう。
初めて訪れる神殿は、外界とは綺麗に切り離されているような感覚がする。
――ルーディー。儀式については口外することを禁じられているから、お前にも何も伝えることはできないが、ある一点だけ、忠告をしておくとすれば決して悩まないこと。お前の直感を信じること、それだけを頭に入れておけ。
王都を出発する前日、父上はそう助言してくださった。
悩むことなく、直感を信じること。
これからここで一体何が起こるのかはわからぬが、直感力なら自信がある。
きっと、いや、絶対にやり遂げてみせる!
神殿には誰の姿も見当たらないまま、行き先だけが示されている。
その通りに進んでいくと、壁に突き当たった。
なんだ?
途中で行き先を間違えたか?
だが、間違えるような道などなかったはずだ。
おかしい……。
目の前の壁にそっと触れると、
「おおっ!」
突然壁が無くなり、広い部屋が現れた。
ここが儀式を行う部屋なのか?
一歩足を踏み入れた途端、背後に再度壁が現れ、私は真っ暗で広い部屋にただ一人取り残された。
何か意図があるとしか考えられないこの部屋に置き去りにされたとはいえ、それで混乱するような私ではない。
そもそも狼獣人である私は暗闇でもなんの問題もないほどに見えるのだ。
だが、今は目で見えるものよりも、あえて気配を探ったほうが良さそうだ。
そっと目を瞑り、ほんのわずかな動きを探る。
「そこか!!」
ほんのわずかな気の揺らぎを見つけ、そこに向けて大声を上げれば、一瞬にして部屋に灯りが点った。
と同時に聞き慣れた声が私の耳に飛び込んでくる。
「ふぇーーんっ」
「――っ!! アズールっ!!! アズールっ!! どうしたんだ??」
目の前に現れたのは小さな檻に入れられたアズールの弱々しい姿。
ぐったりと檻の中で倒れ込んでいるのが見える。
「ルー……た、すけ、てぇ……っ」
「くっ――!!」
なぜこんな場所に?
いつの間に連れてこられたんだ?
もしや、儀式とは愛しいものを救い出すことなのか?
そのためにわざわざアズールが連れてこられて、こんな酷い目に遭っているというのか?
こんなことをしなければ国王になれぬのなら、私は国王などにはなりたくない!!
「アズールっ! 無理して話さなくていい! すぐに私が助けてやるからもうしばらくの辛抱だ! ぐぅーーーっああっ!!」
渾身の力を振り絞って、アズールの閉じ込められている檻を壊し、アズールを檻から救出しようと手を伸ばした。
「ルー、あいたかったぁ……っ」
アズールの方からギュッと抱きついてくる。
その勢いに驚きながらも、それほどまでに私と会える日を待ち望んでくれていたのかと思うと嬉しくなる。
「ああ、私もだよ。アズール」
「ルー、アズール、がんばったから、ちゅーして」
「――っ!! アズールから強請ってくれるとはな」
「だってぇ、ずっと、あいたかったから」
「ああ、そうだな」
アズールがゆっくりと目を瞑る。
この数日、ずっとアズールを思い続けていたんだ。
ようやく、アズールと会えた記念だな。
ゆっくりと唇を重ね合わせようとしたその時、
「――っ!」
私はアズールを抱きしめていた腕を離してしまった。
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