真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

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第一章

遠い日の思い出

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<sideアズール>

いつもベッドで寝るか、起き上がるかをして過ごす日々だった病室で、動き回れない僕の一番の楽しみが折り紙だった。

まだ大部屋にいた頃、隣のベッドにいた子が元気になって退院していく時、迎えにきたおばあちゃんが一緒の部屋だった僕たち3人に折り紙をくれたんだ。

金色と銀色も入った100枚入りの綺麗な折り紙。

――えーっ、お菓子がよかったのに。

そんなことを言っている子たちをよそに、僕は初めてみるこの綺麗な紙に釘付けだった。

「あの……おばあちゃん、ありがとう」

僕のあの短い人生でその言葉を話したのは、あの時が最初で最後だったかもしれない。

おばあちゃんは緊張に震えていた僕の言葉ににっこりと笑顔を浮かべて、

「これもあげよう。きっと楽しいよ」

一冊の本を手渡してくれたんだ。

それからすぐだった。
僕が一人部屋に移ったのは。

もらった折り紙は、何度も折っては何度も開いて、破れるまで何度も何度も繰り返し使った。
綺麗な色を使うのが勿体無くて、減っていくのを見るたびに心が痛かった。

僕が集中して折り続けているのをみた師長さんにあまり無理をしちゃいけないと怒られたけれど、僕は初めての娯楽に出会えたようなそんな幸せを止める気にはならなかった。

一冊まるまる作り方を覚えた頃には、折り紙は残り半分くらいになってしまっていた。

ちゃんとお昼寝をするという約束で、師長さんから余った紙をもらえるようになって、僕はすごく嬉しかった。

あの時覚えた折り紙がまさかこんなところで役に立つなんて……人生わからないものだよね。

ルーに似合う王冠。
やっぱり金色の紙がいいかな。

もしプレゼントしてもいいなら、金色の紙で作れたらな。

「じぃ、どう?」

久しぶりだったから覚えているか心配だったけど、蒼央としての記憶が残っているなら折り紙の作り方も覚えているんじゃないかって思ったのは当たっていたみたい。

驚くくらい滑らかに指が動いた気がする。

記憶の中の僕の指より、今の僕の指は随分と小さくて短いけれどそれでもできるものなんだな。
心の中で自分に感心しながら、王冠を被ったところを爺に見せると、爺は驚いた顔をしたまましばらく動かなかった。

「じぃ?」

「あ、アズールさま……あの、こちらは……一体、どちらで学ばれたのですか?」

「えっ? えっとぉ……」

お父さまに聞いた……はダメだよね。
なら、お母さまも……お兄さまはもっとダメだよね。
だって、お兄さまが知っていることを爺が知らないわけないもの。

っていうか、普通にあるものだと思ってたけど、もしかして折り紙ってここになかったとか?

うわーっ、どうしよう……。
それは考えてなかった。

「あの、えっとぉ……しらない、あいだに?」

「えっ?」

「だから……えっとぉ、あのいろいろ、おってたら……しらないあいだに、つくれるようになってたの。うん、そう! しらない、あいだに」

爺の視線がなんだかドキドキする。
でも、生まれるより前の記憶がある……なんてこと、いうわけにもいかないし。
これで貫き通すしかないよね。

「……そうでございましたか。なんと素晴らしいっ! さすが、ルーディーさまの運命の番さまでいらっしゃる!!」

少し興奮気味の爺にちょっとドキドキしつつも、何とか誤魔化せたことにホッとすると同時に、褒められて嬉しくなってしまう。

「あの、アズールさまがお作りになったその王冠を、爺にしっかりと見せていただけますか?」

「ふふっ。いいよ」

僕の頭から落ちないように王冠の中に耳を入れていたから、爺は僕の耳に触れないようにゆっくりと王冠を引き抜いた。

やっぱりルーが話していたように耳に触っちゃいけないんだよね。
爺もマックスもふわふわそうな耳してるから触ってみたいけど、昔、マックスの尻尾に触ろうとした時、ルーに注意されたから絶対にダメだよね。

あーあ、今はルーもいないから、ルーの耳も、もふもふなほっぺも、もふもふふさふさなしっぽにも触れなくて、なんか寂しいな。

今日行っちゃったばかりなのに、もうルーに会いたいよ。

「アズールさま? どうかなさいましたか?」

「ううん。だいじょうぶ」

「そうでございますか?」

爺は心配そうに僕を見つめながらも、

「この王冠は本当に素晴らしゅうございます。これはルーディーさまもお喜びになりますよ」

と言ってくれた。

「ほんと? わぁー、うれしいっ!」

「それではすぐにこの王冠にぴったりな紙をご用意いたしましょう」

「あのね、じぃー、ぼく……きんいろがいい……」

「承知いたしました。金色の素晴らしい紙をご用意いたします」

爺の言葉に僕は飛び上がりそうなほど嬉しかった。


「ふにゃっ!」

突然トントントンとすごい勢いで扉が叩かれて、僕はびっくりして声を上げてしまった。

「申し訳ございません、アズールさま。きっとマクシミリアンが帰ってきたのでしょう」

爺は急いで扉に駆け寄ると、勢いよく扉を開けた。

「アズールさまを驚かせてどうするんだ!」

「アズールさま、申し訳ございません」

部屋の中に入ってきて早々に僕に謝ってくるけれど、僕が勝手に驚いてしまっただけだから気にしないでいいのに。

「あずーる、もうだいじょうぶ。それより、まっくすのおててにあるの、なに?」

「これが騎士団の詰め所に置いてあったのを思い出して取ってきたのですが、これは誰にでもバロンを膨らませることができる道具でございます!」

「あずーるにも?」

「はい。もちろんでございますよ」

「どうやって、するの?」

「バロンの先を先端に差し込みます。そして、ここを手のひらで押すと簡単に膨らみますよ」

説明しながら、マックスがやってくれるのをみていると、風船はあっという間に綺麗に膨らんだ。

「わぁーっ! すごいっ、すごいっ! これなら、あずーるにも、できちゃうね」

「はい。もちろんでございます。早速やってみられますか?」

「やるー!!」

僕は手渡された風船をその道具の先端に差し込んで、最初は片手でぐっと押してみた。

「ふぇっ……うご、かない……」

重くて硬くてびくともしない。

「だ、大丈夫でございますよ。あのアズールさま、両手で。そう、両手でやってみましょう」

「りょうて?」

言われた通り、今度は両手でぐっと力一杯押してみた。
風船を差し込んだ側はマックスが持っているけれど、やっぱりびくともしない。

「ふぇ……っ、うご、かない……っ」

僕はルーのために風船を膨らませることもできないんだ……。

そう思っていると、

「アズールさま、申し訳ございません! 私のやり方が間違っておりました。もう一度やっていただけますか?」

と声をかけられた。

でも、僕にはきっと……。

そう思いながら、もう一度手のひらでぐっと押し込むと、スッと道具が動いた気がした。
と同時にさっきまで萎んでいた風船がパンパンに空気が入っている。

「わぁー! できた!!」

「さすがでございます! アズールさま! これでお作りになれますよ」

僕、できたんだ!
これでルーにそっくりな風船が作れるんだ!!
わぁー、よかった!
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