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第一章
アズールさまの美技
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<sideマクシミリアン>
「それでは、まずこれを膨らませてみましょう」
初心者用の小さめのバロンを渡し、手本として私も自分の手に持ったものを膨らませてみた。
「ふぅーっ。こうして軽く息を入れるとあっという間に――えっ??」
「ふーっ! ふーっ!! ふぅーーーっ!!!」
私の手の中指ほどしかない大きさのバロンだというのに、アズールさまが何度息を吹き入れても、膨らむどころか形すら変わる気配がない。
「あ、アズールさま……」
「ふぇーーん、まっくすぅー……ぜんぜん、ふくらまないよぉ……」
このバロンは比較的軽く空気が入るように設計されていて、田舎にいった時に子どもたちにも実践させてあげるのだが、今まで誰一人バロンを膨らませることができなかったものはいない。
アズールさまより確か小さな子も簡単に膨らませていた記憶があったが……。
ウサギ族はそこまでか弱い種族なのか……。
そっとお祖父さまに視線を送るが、さすがのお祖父さまもどうしていいのかわからない様子だ。
うーん、これは困った。
どうしようか……。
代わりに私たちが膨らませたものをアズールさまに形作ってもらうか……。
いや、私たちの唾液がついたものをアズールさまに触れさせるばかりか、それを王子への贈り物にするのは難しいだろう。
ならば、どうしたら良いか……。
こういう時、ヴェルナーならどうするだろう……。
そう考えていると、あることを思い出した。
そうだ! あれだ!!
「アズールさま。私めに良い考えがございます。ここでしばらくお祖父さまとお待ちいただけますか?」
「ふぇ?」
専属護衛としてご主人のそばを離れるなど、本当はやってはいけないのだが、お祖父さまがアズールさまのおそばにいらっしゃれば、何の問題もない。
いくら70は疾うにすぎているとはいえ、今でも我がベーレンドルフ家の長であることに変わりはないのだから。
「お祖父さま。すぐに戻って参りますので、アズールさまをお願いいたします」
私は頭をさげ、驚くアズールさまを残し急いで騎士団詰め所に向かった。
<sideフィデリオ(爺)>
「じぃー、まっくすは、どこに、いっちゃったの?」
ルーディーさまとお離れになって、寂しがっていらっしゃるのに、さらにマクシミリアンまでアズールさまのおそばを離れて不安にならないわけがない。
「大丈夫でございますよ。すこし忘れ物を取りにいっただけでございます」
「わすれもの……そっか……」
一応納得はされているようだが、それでもマクシミリアンが帰ってきたのを見届けないと不安なのだろうな。
「バロンクンストはマクシミリアンが帰ってくるまで、少しお休みいたしましょう。それで、先ほどのアズールさまがなさりたいことのお話でございますが……」
なんとかアズールさまのお気持ちを元気に戻して差し上げたくて、ルーディーさまのお誕生祝いのアイディアをもう一度お尋ねすると、嬉しそうに顔を綻ばせながら今度は先ほどよりももっと具体的な話を出してくださった。
「あのね、ぼく……ルーに、おうかん、をぷれぜんとしたいの」
「おうかん……って、あの、王冠でございますか?」
王家に王冠と呼べるものはただ一つ。
このヴンダーシューン王国に代々伝わる純金でできた王冠は、国王さまだけが頭に載せるのを許されている。
しかもそれは特別な日だけ。
普段は大切に王家の金庫で厳重に保管されている。
いずれはルーディーさまもおつけになるが、これは次代の王へ引き継がれていくべきものである。
もしかしてその王冠を成人祝いでルーディーさまにおつけになりたいということなのだろうか?
「うん。ぼく、おうかんの、つくりかたはしってるんだぁ」
「えっ? 王冠の、作り方?」
思いもかけない言葉があげながら満足そうな表情を浮かべるアズールさまに、さすがの私も声が裏返った。
「あのね、じぃにみせてあげる」
アズールさまはそう仰ると、ぴょんと軽やかに椅子からおり、机の横に置かれていた数枚の紙を持って戻ってきた。
こんな薄っぺらい紙で一体何をなさるのだろう?
そう思って見つめていると、アズールさまはそれを小さな手で器用に折り始めた。
何をどうやっているのかも全くわからない。
折ってはひっくり返したり、広げたり、何をしているのかもわからないうちに、見慣れぬ形ができていく。
そしてそのまま同じものをいくつも器用に作っていくアズールさまの神技のような美技をただ眺めるしかなかった。
「じぃ、みててね」
「おおっ!!」
アズールさまはその出来上がった同じものの角を合わせ差し込んでいくと、それは綺麗な王冠の形になった。
それをご自分の小さな頭の上に載せ、
「じぃ、どう?」
嬉しそうに見上げてくるが、どうも何も可愛いの一言に尽きる。
本当にすっぽりと被れてなんと可愛らしい王冠なのだろう……。
こんな素晴らしいものを見たのは初めてだ。
「それでは、まずこれを膨らませてみましょう」
初心者用の小さめのバロンを渡し、手本として私も自分の手に持ったものを膨らませてみた。
「ふぅーっ。こうして軽く息を入れるとあっという間に――えっ??」
「ふーっ! ふーっ!! ふぅーーーっ!!!」
私の手の中指ほどしかない大きさのバロンだというのに、アズールさまが何度息を吹き入れても、膨らむどころか形すら変わる気配がない。
「あ、アズールさま……」
「ふぇーーん、まっくすぅー……ぜんぜん、ふくらまないよぉ……」
このバロンは比較的軽く空気が入るように設計されていて、田舎にいった時に子どもたちにも実践させてあげるのだが、今まで誰一人バロンを膨らませることができなかったものはいない。
アズールさまより確か小さな子も簡単に膨らませていた記憶があったが……。
ウサギ族はそこまでか弱い種族なのか……。
そっとお祖父さまに視線を送るが、さすがのお祖父さまもどうしていいのかわからない様子だ。
うーん、これは困った。
どうしようか……。
代わりに私たちが膨らませたものをアズールさまに形作ってもらうか……。
いや、私たちの唾液がついたものをアズールさまに触れさせるばかりか、それを王子への贈り物にするのは難しいだろう。
ならば、どうしたら良いか……。
こういう時、ヴェルナーならどうするだろう……。
そう考えていると、あることを思い出した。
そうだ! あれだ!!
「アズールさま。私めに良い考えがございます。ここでしばらくお祖父さまとお待ちいただけますか?」
「ふぇ?」
専属護衛としてご主人のそばを離れるなど、本当はやってはいけないのだが、お祖父さまがアズールさまのおそばにいらっしゃれば、何の問題もない。
いくら70は疾うにすぎているとはいえ、今でも我がベーレンドルフ家の長であることに変わりはないのだから。
「お祖父さま。すぐに戻って参りますので、アズールさまをお願いいたします」
私は頭をさげ、驚くアズールさまを残し急いで騎士団詰め所に向かった。
<sideフィデリオ(爺)>
「じぃー、まっくすは、どこに、いっちゃったの?」
ルーディーさまとお離れになって、寂しがっていらっしゃるのに、さらにマクシミリアンまでアズールさまのおそばを離れて不安にならないわけがない。
「大丈夫でございますよ。すこし忘れ物を取りにいっただけでございます」
「わすれもの……そっか……」
一応納得はされているようだが、それでもマクシミリアンが帰ってきたのを見届けないと不安なのだろうな。
「バロンクンストはマクシミリアンが帰ってくるまで、少しお休みいたしましょう。それで、先ほどのアズールさまがなさりたいことのお話でございますが……」
なんとかアズールさまのお気持ちを元気に戻して差し上げたくて、ルーディーさまのお誕生祝いのアイディアをもう一度お尋ねすると、嬉しそうに顔を綻ばせながら今度は先ほどよりももっと具体的な話を出してくださった。
「あのね、ぼく……ルーに、おうかん、をぷれぜんとしたいの」
「おうかん……って、あの、王冠でございますか?」
王家に王冠と呼べるものはただ一つ。
このヴンダーシューン王国に代々伝わる純金でできた王冠は、国王さまだけが頭に載せるのを許されている。
しかもそれは特別な日だけ。
普段は大切に王家の金庫で厳重に保管されている。
いずれはルーディーさまもおつけになるが、これは次代の王へ引き継がれていくべきものである。
もしかしてその王冠を成人祝いでルーディーさまにおつけになりたいということなのだろうか?
「うん。ぼく、おうかんの、つくりかたはしってるんだぁ」
「えっ? 王冠の、作り方?」
思いもかけない言葉があげながら満足そうな表情を浮かべるアズールさまに、さすがの私も声が裏返った。
「あのね、じぃにみせてあげる」
アズールさまはそう仰ると、ぴょんと軽やかに椅子からおり、机の横に置かれていた数枚の紙を持って戻ってきた。
こんな薄っぺらい紙で一体何をなさるのだろう?
そう思って見つめていると、アズールさまはそれを小さな手で器用に折り始めた。
何をどうやっているのかも全くわからない。
折ってはひっくり返したり、広げたり、何をしているのかもわからないうちに、見慣れぬ形ができていく。
そしてそのまま同じものをいくつも器用に作っていくアズールさまの神技のような美技をただ眺めるしかなかった。
「じぃ、みててね」
「おおっ!!」
アズールさまはその出来上がった同じものの角を合わせ差し込んでいくと、それは綺麗な王冠の形になった。
それをご自分の小さな頭の上に載せ、
「じぃ、どう?」
嬉しそうに見上げてくるが、どうも何も可愛いの一言に尽きる。
本当にすっぽりと被れてなんと可愛らしい王冠なのだろう……。
こんな素晴らしいものを見たのは初めてだ。
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