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第一章

専属護衛選定会議

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<sideルーディー>

「るー、おちょとおそといきちゃいいきたい!」

そう言われてからずっと待たせていたが、無事に1歳のお披露目も終わって、ようやく外に連れ出せる時期になった。
だがそのためにはまず、アズールの専属護衛を決めなくてはいけない。

次期国王となる私の婚約者と正式に決まったアズールには、王国騎士団の精鋭から護衛を決めることになっている。

現国王である父上、そして婚約者である私。
アズールの父であるヴォルフ公爵。
私の世話役である爺とアズールの世話役であるベン。
そして、王国騎士団団長のヴェルナーの6人が、10人に絞られた騎士たちの中からたっぷりじっくり時間をかけて協議を重ねた。

まずは、アズールを守ることができる身体能力と格闘能力を備えていること。
物音や不審な動きにすぐ対処できるように日々のトレーニングを怠らない人物であることが求められる。

アズールのために身を挺して守ることを厭わないこと。
何かあったときにアズールを危険から守ることが最も重要であるから、これは王国騎士団にいるものとしての当然の心得である。

そして、アズールの専属護衛として最も重要な事はアズールに邪な思いを向けず、純粋にアズールのそばに居られる者が求められる。

アズールは誰がどう見ても可愛い。
誰でも一目見ただけで虜になる。
それは誰の心も奪ってしまうウサギ族の習性であるから仕方がない部分があるが、アズールは歴代のウサギ族の中でも群を抜いて可愛いのだ。
なんと言ってもあの純粋で無邪気で透き通った綺麗な心を表しているかのような真っ白で美しい毛並み。
ピンと張った長い耳。
ぴょこぴょこと動くのも、時に垂れているのも実に可愛らしい。
そして、小さくて丸くてふわふわな尻尾。

それだけでも可愛いのに、今はまだ舌足らずな口調も、ぴょんぴょん跳ねる姿も何もかもが愛おしい。

私がそばにいない間、こんなにも可愛いアズールを安心して任せられるためにはアズールに決して邪な思いを向けないことが専属護衛としての最重要事項となる。

だが、選ばれし10人の精鋭たちはどの者も決め手にかける。
さて、どうしたものか……。

専属護衛が決まらなければいつまで経ってもアズールを外に連れていく事はできない。

どうしようかと思っていると、

「僭越ではございますが、お話をさせていただいても宜しゅうございますか?」

と爺が口を挟んだ。

「ああ、フィデリオ。気づいたことがあればなんでも言ってくれ」

「はい。アズールさまの専属護衛にはマクシミリアンを推薦いたしたく存じます」

「マクシミリアン? お前の孫か?」

「はい。昨年、騎士になったばかりではございますが、すでに陛下の護衛にと打診をいただいているようでございます。そうでございますよね? ヴェルナーさま」

「そうなのか?」

皆の視線が一斉に騎士団長ヴェルナーに注がれる。

「は、はい。確かにマクシミリアン・ベーレンドルフは武術に長け、体格、性格共に申し分なく、新人ながら陛下の護衛に抜擢されるほどの逸材でございます」

「私の護衛に声がかかるくらいなら、護衛としての実力に問題はない。それでマクシミリアンは伴侶はいるのか? パートナーすらいない全くの独り身であれば、いくらフィデリオの孫とはいえアズールのそばにはおく事はできぬが……」

「それは問題ございません。そうでございますね? ヴェルナーさま」

爺のその言葉に一気にヴェルナーの顔が赤くなる。

なるほど。
そういうことか。

それならばアズールの護衛として問題はなさそうだ。

「ならば、マクシミリアンをアズールの護衛にしよう。それで良いか?」

父上の言葉に私も含めて全員が賛成した。

これでようやくアズールを連れて出かけられる。

それにしてもあのヴェルナーとマクシミリアンがなぁ……。
全く知らなかった。
いくら自分の孫とはいえ、さすが爺だな。

アズールに専属護衛が決まったから明日少しの時間だが早速外に出てみようと話をすると、こちらが驚くほど喜んでくれた。
こんなにも待ち侘びていたのだな。

なかなか連れて行けずかわいそうなことをしたものだ。

アズールと外に出たらどこに行こうか、考えるだけで楽しい。

アズールの好きな果物やデザートの店には絶対に連れて行こう。
あとは、どこがいいか。

アズールが興味をもったものを見て回るだけでもきっと楽しいだろうな。

ああ、アズールと出かけるのが楽しみだ。


翌日、全ての準備を整え、マクシミリアンをつれ公爵家に向かった。

逸る気持ちを抑えながら、数時間ぶりに会うアズールの部屋に飛び込んで行ったらアズールは私の名を呼びながら歓待してくれた。

どうやら私がくるのを待ち侘びてくれていたようだ。

だが、アズールの口から

「おちょと、いくっ! おちょと!」

と興奮した声が飛び出した。

こんなにもアズールに会いたかった私と違って、アズールは外に行くのを楽しみにしていたのかと一瞬寂しくなったが、私と一緒に行きたいのだと言われれば嫌な気はしない。

アズールを抱き上げ、出かける前に専属護衛のマクシミリアンをアズールに紹介することにした。

アズールをいつでも守ってくれるから安心だといえば、喜んでくれるかと思いきや、

「るーは、まもっちぇまもってくりぇにゃいのくれないの? もう、あじゅーるの、ちょばにいにゃいそばにいない?」

とアズールはうっすらと涙を溜めながら訴えてきた。

アズールがこれほどまでに私を求めてくれているのだと思うと、心が痛い。
勘違いとはいえ、アズールを一瞬でも悲しませたことを侘びながら、専属護衛の意味を教えてやれば、アズールはホッとしたように笑った。

ああ、やっぱりアズールは笑顔が一番だ。

改めてマクシミリアンを紹介すれば、名前が長く言いにくそうだ。
なんといってもルーディーが言えないくらいだからな。

すると、マクシミリアンが愛称である『マックス』と呼んで欲しいと言い出した。
もしかしたらヴェルナーもそう呼んでいるのかと思うと少し笑ってしまう。

アズールに言えるかと尋ねれば、

「まっくちゅ?」

と可愛い言葉が返ってきた。

あまりにもその可愛い口調にさすがのマクシミリアンも崩れ落ちそうになっていたが、さすが爺が推薦するだけあってなんとかその場に止まっていたようだ。

これなら、合格だな。
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