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第一章
大事な教訓
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<sideクレイ>
おかしな騒ぎでお披露目会の雰囲気がおかしくなりそうになったけれど、アズールの可愛い泣き声に大広間中の緊張が解けていくのがわかった。
王子はいつでもアズール優先。
王子と国王さまの計らいですぐに食事が始まった。
まだ機嫌が悪いらしいアズールは掛けられたブランケットからなかなか出てこないけれど、王子が何か話しかけるとモゾモゾとブランケットから出てくるのが見えた。
僕のいる場所からはアズールの表情は見えないけれど、王子の嬉しそうな表情を見る限り、アズールの機嫌は治ったのかもしれない。
さっきアズールが泣いた時も王子はすぐに泣き止ませていた。
父上はもちろん、母上だってあんなに早く泣き止ませたのを見たことがない。
それほど、王子はアズールのことを理解しているのかもしれない。
そう思ったら、ちょっと面白くない気がした。
だって……僕だってアズールのことをわかっているのに!
楽しそうに料理を選んでいるのを見ていると、なんだかちょっとイタズラしたい気持ちが出てきた。
前にアズールにご飯をあげていた時、アズールが美味しそうに食べていた人参を分けてもらったことがあった。
いつもアズールが幸せそうな顔で食べているから、どんな味なのか食べてみたかったんだ。
優しいアズールは自分の分を千切って僕に分けてくれた。
期待に胸を膨らませて、分けてもらった人参を口に入れたら……
今まで食べたことがないくらい、びっくりするほど美味しくなかった。
舌の上に乗せただけですぐに潰れるくらい柔らかいし、ぐちゃぐちゃと甘ったるい汁が出てきて、思わず吐き出したくなった。
でもキラキラとした目で
「にぃに、おいちっ?」
と聞かれたら、まずいなんて絶対に言えなかった。
僕の身体は飲み込むことすら拒否していたけれど、必死に喉の奥に流し込んだ。
あんな親指くらいの小さな人参が僕の身体に相当なダメージを与えたんだ。
あれからどれだけ肉を食べてもあのぐちゃぐちゃの食感と甘ったるい味が、舌と喉の奥に残ってしばらくの間食事の時間が楽しくなかったのを覚えている。
――クレイ、あれはウサギ族の、しかも赤ちゃん用の食事なの。だから、狼族の口に合わないかもしれないわ。でもね、栄養はたっぷりあるのよ。
母上はそう言っていたけれど、どれだけ栄養があっても僕は多分二度と人参は食べないと思う。
あの時、思ったんだ。
王子にあの人参を食べさせたら、流石に王子でもきっとまずそうな顔をするに決まってる。
僕以上にいつも美味しいご飯ばかり食べている王子のことだ。
僕のように喉の奥に流し込むなんてこともできずに、アズールの目の前で吐き出してしまうかもしれない。
いくらアズールでも、自分の好物を吐き出されたら王子をちょっと嫌いになるかもしれない。
――おにーちゃまぁーーっ、るー、おいちくないって。ふぇぇーーん。
ああ、アズール。よしよし、かわいそうに。
僕はおいしかったけれど、王子の口には合わなかったのかな。
すかさず僕はそういって、アズールが王子のそんな姿を見て悲しげな表情をしたところを、慰めてやるんだ!!
アズールと王子が料理をとったところを見計らって、適当に料理をとり急いでアズールたちの席に向かった。
そして、一緒に食事がしたいと声をかけると、王子は嫌そうな顔を全く見せずにすぐに僕の分のテーブルと椅子を用意させた。
アズールはあの時のように王子に抱きかかえられたまま、一番最初にあの人参を食べたいと言い出した。
小さな口をもぐもぐとさせて食べている姿に癒される。
けれど、食べているのがあの人参でなければもっと癒されるのに……と思ってしまうほど、僕にとって人参はトラウマになっている。
王子に『義兄上』と呼んでもいいという承諾をとり、その義兄上にあのイタズラを仕掛けてみることにした。
アズールが食べている食事を美味しそうだといえば、絶対にアズールのことを否定しない義兄上のことだ。
食べてみたいと言い出すに決まっている。
そこで僕がアズールに食べさせてあげてと言えば、アズールは義兄上に絶対に分けてあげるはずだ。
義兄上はアズールに差し出されたら絶対に拒否はしない。
そして、あまりのまずさに吐き出して、アズールが悲しんだところに僕が慰めてやるんだ!!
完全に完璧なシナリオだった。
それなのに……。
今、目の前で起こっているのは現実?
なんであんなにまずい人参を義兄上は美味しそうに食べているのだろう?
しかも何度も何度も……。
まるでアズールごと食べているような勢いで美味しそうに人参を食べていく義兄上の姿に、僕は信じられない思いで見続けていた。
「ルーディーさま! 周りをよくご覧ください!」
僕が茫然と二人の様子を見ていると、義兄上の世話役だといっていたフィデリオ殿が急いで近づいてきた。
その声にハッと我に返った義兄上は、急いでアズールを腕の中に隠した。
どうやら招待客たちにアズールのかわいらしい姿が見えてしまったのが嫌だったのだろう。
でもそれよりもずっと義兄上がアズールといちゃいちゃしながら食べている姿の方が印象的で、みんなはその姿に驚いていたと思う。
僕は、義兄上があんなにまずいものをあんなにたくさん、しかも極上のもののように食べ続けたことの方が驚きだけど。
そのあとは、ずっと義兄上はアズールも自分の姿も招待客からは見えないように食べ続けていた。
その時もずっとお互いに食べさせあっていて、僕はずっとその二人の姿を見続けるしかなかった。
義兄上にイタズラしてやろうと思っただけだったのに、間近で二人のイチャイチャとした幸せそうな様子を見る羽目になって、なんだかどっと疲れた。
もうイタズラはやめよう。
二人の邪魔は絶対にしちゃいけないんだと心に誓った。
* * *
前話の最後にも付け加えていますが、クレイがルーディーを義兄上と呼んでいますが、男同士の場合は、たとえ弟の伴侶であっても、年齢で兄弟を決めるのがヴンダーシューン王国では主流となっているため、クレイより年上のルーディーは、義兄と表記しています。
おかしな騒ぎでお披露目会の雰囲気がおかしくなりそうになったけれど、アズールの可愛い泣き声に大広間中の緊張が解けていくのがわかった。
王子はいつでもアズール優先。
王子と国王さまの計らいですぐに食事が始まった。
まだ機嫌が悪いらしいアズールは掛けられたブランケットからなかなか出てこないけれど、王子が何か話しかけるとモゾモゾとブランケットから出てくるのが見えた。
僕のいる場所からはアズールの表情は見えないけれど、王子の嬉しそうな表情を見る限り、アズールの機嫌は治ったのかもしれない。
さっきアズールが泣いた時も王子はすぐに泣き止ませていた。
父上はもちろん、母上だってあんなに早く泣き止ませたのを見たことがない。
それほど、王子はアズールのことを理解しているのかもしれない。
そう思ったら、ちょっと面白くない気がした。
だって……僕だってアズールのことをわかっているのに!
楽しそうに料理を選んでいるのを見ていると、なんだかちょっとイタズラしたい気持ちが出てきた。
前にアズールにご飯をあげていた時、アズールが美味しそうに食べていた人参を分けてもらったことがあった。
いつもアズールが幸せそうな顔で食べているから、どんな味なのか食べてみたかったんだ。
優しいアズールは自分の分を千切って僕に分けてくれた。
期待に胸を膨らませて、分けてもらった人参を口に入れたら……
今まで食べたことがないくらい、びっくりするほど美味しくなかった。
舌の上に乗せただけですぐに潰れるくらい柔らかいし、ぐちゃぐちゃと甘ったるい汁が出てきて、思わず吐き出したくなった。
でもキラキラとした目で
「にぃに、おいちっ?」
と聞かれたら、まずいなんて絶対に言えなかった。
僕の身体は飲み込むことすら拒否していたけれど、必死に喉の奥に流し込んだ。
あんな親指くらいの小さな人参が僕の身体に相当なダメージを与えたんだ。
あれからどれだけ肉を食べてもあのぐちゃぐちゃの食感と甘ったるい味が、舌と喉の奥に残ってしばらくの間食事の時間が楽しくなかったのを覚えている。
――クレイ、あれはウサギ族の、しかも赤ちゃん用の食事なの。だから、狼族の口に合わないかもしれないわ。でもね、栄養はたっぷりあるのよ。
母上はそう言っていたけれど、どれだけ栄養があっても僕は多分二度と人参は食べないと思う。
あの時、思ったんだ。
王子にあの人参を食べさせたら、流石に王子でもきっとまずそうな顔をするに決まってる。
僕以上にいつも美味しいご飯ばかり食べている王子のことだ。
僕のように喉の奥に流し込むなんてこともできずに、アズールの目の前で吐き出してしまうかもしれない。
いくらアズールでも、自分の好物を吐き出されたら王子をちょっと嫌いになるかもしれない。
――おにーちゃまぁーーっ、るー、おいちくないって。ふぇぇーーん。
ああ、アズール。よしよし、かわいそうに。
僕はおいしかったけれど、王子の口には合わなかったのかな。
すかさず僕はそういって、アズールが王子のそんな姿を見て悲しげな表情をしたところを、慰めてやるんだ!!
アズールと王子が料理をとったところを見計らって、適当に料理をとり急いでアズールたちの席に向かった。
そして、一緒に食事がしたいと声をかけると、王子は嫌そうな顔を全く見せずにすぐに僕の分のテーブルと椅子を用意させた。
アズールはあの時のように王子に抱きかかえられたまま、一番最初にあの人参を食べたいと言い出した。
小さな口をもぐもぐとさせて食べている姿に癒される。
けれど、食べているのがあの人参でなければもっと癒されるのに……と思ってしまうほど、僕にとって人参はトラウマになっている。
王子に『義兄上』と呼んでもいいという承諾をとり、その義兄上にあのイタズラを仕掛けてみることにした。
アズールが食べている食事を美味しそうだといえば、絶対にアズールのことを否定しない義兄上のことだ。
食べてみたいと言い出すに決まっている。
そこで僕がアズールに食べさせてあげてと言えば、アズールは義兄上に絶対に分けてあげるはずだ。
義兄上はアズールに差し出されたら絶対に拒否はしない。
そして、あまりのまずさに吐き出して、アズールが悲しんだところに僕が慰めてやるんだ!!
完全に完璧なシナリオだった。
それなのに……。
今、目の前で起こっているのは現実?
なんであんなにまずい人参を義兄上は美味しそうに食べているのだろう?
しかも何度も何度も……。
まるでアズールごと食べているような勢いで美味しそうに人参を食べていく義兄上の姿に、僕は信じられない思いで見続けていた。
「ルーディーさま! 周りをよくご覧ください!」
僕が茫然と二人の様子を見ていると、義兄上の世話役だといっていたフィデリオ殿が急いで近づいてきた。
その声にハッと我に返った義兄上は、急いでアズールを腕の中に隠した。
どうやら招待客たちにアズールのかわいらしい姿が見えてしまったのが嫌だったのだろう。
でもそれよりもずっと義兄上がアズールといちゃいちゃしながら食べている姿の方が印象的で、みんなはその姿に驚いていたと思う。
僕は、義兄上があんなにまずいものをあんなにたくさん、しかも極上のもののように食べ続けたことの方が驚きだけど。
そのあとは、ずっと義兄上はアズールも自分の姿も招待客からは見えないように食べ続けていた。
その時もずっとお互いに食べさせあっていて、僕はずっとその二人の姿を見続けるしかなかった。
義兄上にイタズラしてやろうと思っただけだったのに、間近で二人のイチャイチャとした幸せそうな様子を見る羽目になって、なんだかどっと疲れた。
もうイタズラはやめよう。
二人の邪魔は絶対にしちゃいけないんだと心に誓った。
* * *
前話の最後にも付け加えていますが、クレイがルーディーを義兄上と呼んでいますが、男同士の場合は、たとえ弟の伴侶であっても、年齢で兄弟を決めるのがヴンダーシューン王国では主流となっているため、クレイより年上のルーディーは、義兄と表記しています。
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