36 / 286
第一章
この責任は……
しおりを挟む
<sideパウル(ホフマン侯爵家次男)>
ここに集まった人が、僕と同じ思いを持っていると思ったんだ。
そして、国王陛下でも本心はアズールさまのために誰か異議を唱える者を探していると思ったんだ。
でも……僕が大声を出した瞬間、大広間中にいた人全員の敵意に満ちた視線に襲われた。
これほどたくさんの人に敵意を持った目で睨まれて、自分が思っていた展開と違いすぎてどうしていいかわからなくなった。
「えっ、あ、あの……僕、そんな……」
そんなつもりじゃなかった。
てっきりよくぞ言ってくれたと、英雄になれるとばかり思っていた。
それなのに……。
とんでもない視線の強さに、立っていられないほど足がガクガク震える。
あまりにも怖すぎて漏らしてしまいそうなほどだ。
今更ながら自分がしでかしたことがとんでもないことだと思い知らされる。
それくらい、恐怖を感じた。
どうしよう……っ、どうしたらいいんだろう……っ。
パニックになってわぁーーっ! と大声を出してしまいそうになった時、
「パウルっ!! お前は一体何をやっているんだっ!!」
と僕が叫んだよりもずっとずっと大きな父上の声を浴びせられた。
その瞬間、
「ふぇぇーーーっん!」
と父上の怒声を打ち消すほどの威力のある可愛い泣き声が大広間中に響き渡った。
その声にまた静まり返り、僕に向いていた視線は一気に正面に向けられた。
僕もそれに倣うように正面を向くと、ルーディー王子が立ち上がり、泣いているアズールさまをあやしているように見える。
アズールさまの姿はあのブランケットに隠されているが、王子との声だけは聞こえる。
「ふぇぇーん、こあかっちゃー」
「ああ、よしよし。もう大丈夫だぞ」
「るー、ちゅっちゅちてー」
「わかった。ほら、ちゅー」
「ふしゃふしゃぁー、もふもふぅー」
「ああ、ふさふさのもふもふだぞー」
「ちもちぃー」
蕩けるような王子の甘い声と、幸せそうなアズールさまの声が聞こえる。
そして、そのまま王子の大きくて立派な尻尾に巻きつかれながら、眠ってしまったようだ。
アズールさまは、大人でも怖がるような王子の毛むくじゃらの顔ですら、嬉しそうに撫でているように聞こえた。
しかも、自分から指を差し出し舐めてもらうなんて……。
あんなの本気で好きじゃないとできるわけがない。
僕は、この二人のどこが不幸だと思ったのだろう。
異議を唱えることなんて何一つなかったのに……。
僕はただ、アズールさまの可愛い姿に見惚れて、自分のものにしたい一心で叫んだだけだったんだ。
ほんのわずかな間でも許嫁だったのだとそんなバカな話を間に受けて。
自分のものになんてできるわけもないのに。
こんな大事なお披露目の会で国王陛下の話を遮って異議を唱えるなんて……絶対にしてはいけないことだったのに……。
今更気づくなんて……愚か者だ。
自分がしでかしてしまった罪は償いたい。
でも、どうしたらいいんだろう……。
<sideルーディー>
やはりというか、なんというか、やはりしでかしたのはあのホフマン侯爵家パウル。
私にあれほどの敵対心を向けていたからな。
まだ子どもだからと思っていたが、いや子どもだからこそ、何も考えずに異議を唱えてしまったのだろうか。
父親が息子に怒声を浴びせている。
まぁ無理もないが、パウルがあんなことを言い出したのはあの父親の影響もあるのではないか?
そう思ったのは私だけでなかったようだ。
父上はすぐにあの父親のことを調べるように言っていた。
すぐにパウルがあんなことを言い出した理由がわかるだろう。
さて、どうしてやろうかと思っていると、私の腕の中にいるアズールが大声をあげて泣き始めた。
きっと眠かったのを邪魔されてぐずってしまったのだろうな。
こうなると立ち上がってあやさなければなかなか寝付かない。
いつものように声をかけながら、アズールの指を舐め、アズールの好きな私の尻尾で身体中を包みながら、背中をトントンと叩いてやると、アズールはすぐにスゥスゥと可愛らしい寝息を立て始めた。
ああ、本当に天使の寝顔だな。
いや、アズールの場合は起きている時も天使なのだが。
そんなアズールの寝顔に、つい頬が緩んでいると
「ホフマン侯爵、並びに子息のパウル。このルーディーとアズールの姿を見ても、この二人が婚約することに異議を唱えると申すのか?」
と父上の冷静ながらも厳しい声が、彼らにかけられた。
「い、いえ。そのようなことはございません」
「だが、ホフマン侯爵。其方はアズールがルーディーの許嫁になったことに憤りを感じていたという話があるが、それはどういうことだ?」
もう調べがついたのか。
流石に早いな。
「――っ!! あ、あの……そ、それは……」
「『神の御意志』の許嫁はウサギ族だというのは、誰もが知っていることだが、其方はそのことにも異議を唱えるつもりだったということか?」
「い、いえ。そのようなことは決して! も、もしアズールさまが、ウサギ族でなければ、私の息子の許嫁にと公爵さまにお話ししておりましたので、その話が流れてしまったのがショックだったというだけで……決して、王子さまから奪い取ろうなどと不届きなことは考えてもおりませんでした」
「ならば、息子が勝手にしでかしたと申すか?」
「は、はい。その通りでございます。で、ですが、息子はまだ子どもでございます。その子どもに免じて何卒お許しくださいますようお願い申し上げます」
「ふむ。なるほど。わかった」
「まことでございますか? ありがとうございます」
「ああ。子どもは許そう。その代わり、其方にはしっかりと罰を受けてもらうとしよう」
「えっ……そんなっ!」
「連れて行けっ!」
父上の声に、護衛の騎士たちが急いでホフマン侯爵を大広間の外に連れ出して行った。
ここに集まった人が、僕と同じ思いを持っていると思ったんだ。
そして、国王陛下でも本心はアズールさまのために誰か異議を唱える者を探していると思ったんだ。
でも……僕が大声を出した瞬間、大広間中にいた人全員の敵意に満ちた視線に襲われた。
これほどたくさんの人に敵意を持った目で睨まれて、自分が思っていた展開と違いすぎてどうしていいかわからなくなった。
「えっ、あ、あの……僕、そんな……」
そんなつもりじゃなかった。
てっきりよくぞ言ってくれたと、英雄になれるとばかり思っていた。
それなのに……。
とんでもない視線の強さに、立っていられないほど足がガクガク震える。
あまりにも怖すぎて漏らしてしまいそうなほどだ。
今更ながら自分がしでかしたことがとんでもないことだと思い知らされる。
それくらい、恐怖を感じた。
どうしよう……っ、どうしたらいいんだろう……っ。
パニックになってわぁーーっ! と大声を出してしまいそうになった時、
「パウルっ!! お前は一体何をやっているんだっ!!」
と僕が叫んだよりもずっとずっと大きな父上の声を浴びせられた。
その瞬間、
「ふぇぇーーーっん!」
と父上の怒声を打ち消すほどの威力のある可愛い泣き声が大広間中に響き渡った。
その声にまた静まり返り、僕に向いていた視線は一気に正面に向けられた。
僕もそれに倣うように正面を向くと、ルーディー王子が立ち上がり、泣いているアズールさまをあやしているように見える。
アズールさまの姿はあのブランケットに隠されているが、王子との声だけは聞こえる。
「ふぇぇーん、こあかっちゃー」
「ああ、よしよし。もう大丈夫だぞ」
「るー、ちゅっちゅちてー」
「わかった。ほら、ちゅー」
「ふしゃふしゃぁー、もふもふぅー」
「ああ、ふさふさのもふもふだぞー」
「ちもちぃー」
蕩けるような王子の甘い声と、幸せそうなアズールさまの声が聞こえる。
そして、そのまま王子の大きくて立派な尻尾に巻きつかれながら、眠ってしまったようだ。
アズールさまは、大人でも怖がるような王子の毛むくじゃらの顔ですら、嬉しそうに撫でているように聞こえた。
しかも、自分から指を差し出し舐めてもらうなんて……。
あんなの本気で好きじゃないとできるわけがない。
僕は、この二人のどこが不幸だと思ったのだろう。
異議を唱えることなんて何一つなかったのに……。
僕はただ、アズールさまの可愛い姿に見惚れて、自分のものにしたい一心で叫んだだけだったんだ。
ほんのわずかな間でも許嫁だったのだとそんなバカな話を間に受けて。
自分のものになんてできるわけもないのに。
こんな大事なお披露目の会で国王陛下の話を遮って異議を唱えるなんて……絶対にしてはいけないことだったのに……。
今更気づくなんて……愚か者だ。
自分がしでかしてしまった罪は償いたい。
でも、どうしたらいいんだろう……。
<sideルーディー>
やはりというか、なんというか、やはりしでかしたのはあのホフマン侯爵家パウル。
私にあれほどの敵対心を向けていたからな。
まだ子どもだからと思っていたが、いや子どもだからこそ、何も考えずに異議を唱えてしまったのだろうか。
父親が息子に怒声を浴びせている。
まぁ無理もないが、パウルがあんなことを言い出したのはあの父親の影響もあるのではないか?
そう思ったのは私だけでなかったようだ。
父上はすぐにあの父親のことを調べるように言っていた。
すぐにパウルがあんなことを言い出した理由がわかるだろう。
さて、どうしてやろうかと思っていると、私の腕の中にいるアズールが大声をあげて泣き始めた。
きっと眠かったのを邪魔されてぐずってしまったのだろうな。
こうなると立ち上がってあやさなければなかなか寝付かない。
いつものように声をかけながら、アズールの指を舐め、アズールの好きな私の尻尾で身体中を包みながら、背中をトントンと叩いてやると、アズールはすぐにスゥスゥと可愛らしい寝息を立て始めた。
ああ、本当に天使の寝顔だな。
いや、アズールの場合は起きている時も天使なのだが。
そんなアズールの寝顔に、つい頬が緩んでいると
「ホフマン侯爵、並びに子息のパウル。このルーディーとアズールの姿を見ても、この二人が婚約することに異議を唱えると申すのか?」
と父上の冷静ながらも厳しい声が、彼らにかけられた。
「い、いえ。そのようなことはございません」
「だが、ホフマン侯爵。其方はアズールがルーディーの許嫁になったことに憤りを感じていたという話があるが、それはどういうことだ?」
もう調べがついたのか。
流石に早いな。
「――っ!! あ、あの……そ、それは……」
「『神の御意志』の許嫁はウサギ族だというのは、誰もが知っていることだが、其方はそのことにも異議を唱えるつもりだったということか?」
「い、いえ。そのようなことは決して! も、もしアズールさまが、ウサギ族でなければ、私の息子の許嫁にと公爵さまにお話ししておりましたので、その話が流れてしまったのがショックだったというだけで……決して、王子さまから奪い取ろうなどと不届きなことは考えてもおりませんでした」
「ならば、息子が勝手にしでかしたと申すか?」
「は、はい。その通りでございます。で、ですが、息子はまだ子どもでございます。その子どもに免じて何卒お許しくださいますようお願い申し上げます」
「ふむ。なるほど。わかった」
「まことでございますか? ありがとうございます」
「ああ。子どもは許そう。その代わり、其方にはしっかりと罰を受けてもらうとしよう」
「えっ……そんなっ!」
「連れて行けっ!」
父上の声に、護衛の騎士たちが急いでホフマン侯爵を大広間の外に連れ出して行った。
279
お気に入りに追加
5,274
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
悪役令息の死ぬ前に
ゆるり
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる