36 / 289
第一章
この責任は……
しおりを挟む
<sideパウル(ホフマン侯爵家次男)>
ここに集まった人が、僕と同じ思いを持っていると思ったんだ。
そして、国王陛下でも本心はアズールさまのために誰か異議を唱える者を探していると思ったんだ。
でも……僕が大声を出した瞬間、大広間中にいた人全員の敵意に満ちた視線に襲われた。
これほどたくさんの人に敵意を持った目で睨まれて、自分が思っていた展開と違いすぎてどうしていいかわからなくなった。
「えっ、あ、あの……僕、そんな……」
そんなつもりじゃなかった。
てっきりよくぞ言ってくれたと、英雄になれるとばかり思っていた。
それなのに……。
とんでもない視線の強さに、立っていられないほど足がガクガク震える。
あまりにも怖すぎて漏らしてしまいそうなほどだ。
今更ながら自分がしでかしたことがとんでもないことだと思い知らされる。
それくらい、恐怖を感じた。
どうしよう……っ、どうしたらいいんだろう……っ。
パニックになってわぁーーっ! と大声を出してしまいそうになった時、
「パウルっ!! お前は一体何をやっているんだっ!!」
と僕が叫んだよりもずっとずっと大きな父上の声を浴びせられた。
その瞬間、
「ふぇぇーーーっん!」
と父上の怒声を打ち消すほどの威力のある可愛い泣き声が大広間中に響き渡った。
その声にまた静まり返り、僕に向いていた視線は一気に正面に向けられた。
僕もそれに倣うように正面を向くと、ルーディー王子が立ち上がり、泣いているアズールさまをあやしているように見える。
アズールさまの姿はあのブランケットに隠されているが、王子との声だけは聞こえる。
「ふぇぇーん、こあかっちゃー」
「ああ、よしよし。もう大丈夫だぞ」
「るー、ちゅっちゅちてー」
「わかった。ほら、ちゅー」
「ふしゃふしゃぁー、もふもふぅー」
「ああ、ふさふさのもふもふだぞー」
「ちもちぃー」
蕩けるような王子の甘い声と、幸せそうなアズールさまの声が聞こえる。
そして、そのまま王子の大きくて立派な尻尾に巻きつかれながら、眠ってしまったようだ。
アズールさまは、大人でも怖がるような王子の毛むくじゃらの顔ですら、嬉しそうに撫でているように聞こえた。
しかも、自分から指を差し出し舐めてもらうなんて……。
あんなの本気で好きじゃないとできるわけがない。
僕は、この二人のどこが不幸だと思ったのだろう。
異議を唱えることなんて何一つなかったのに……。
僕はただ、アズールさまの可愛い姿に見惚れて、自分のものにしたい一心で叫んだだけだったんだ。
ほんのわずかな間でも許嫁だったのだとそんなバカな話を間に受けて。
自分のものになんてできるわけもないのに。
こんな大事なお披露目の会で国王陛下の話を遮って異議を唱えるなんて……絶対にしてはいけないことだったのに……。
今更気づくなんて……愚か者だ。
自分がしでかしてしまった罪は償いたい。
でも、どうしたらいいんだろう……。
<sideルーディー>
やはりというか、なんというか、やはりしでかしたのはあのホフマン侯爵家パウル。
私にあれほどの敵対心を向けていたからな。
まだ子どもだからと思っていたが、いや子どもだからこそ、何も考えずに異議を唱えてしまったのだろうか。
父親が息子に怒声を浴びせている。
まぁ無理もないが、パウルがあんなことを言い出したのはあの父親の影響もあるのではないか?
そう思ったのは私だけでなかったようだ。
父上はすぐにあの父親のことを調べるように言っていた。
すぐにパウルがあんなことを言い出した理由がわかるだろう。
さて、どうしてやろうかと思っていると、私の腕の中にいるアズールが大声をあげて泣き始めた。
きっと眠かったのを邪魔されてぐずってしまったのだろうな。
こうなると立ち上がってあやさなければなかなか寝付かない。
いつものように声をかけながら、アズールの指を舐め、アズールの好きな私の尻尾で身体中を包みながら、背中をトントンと叩いてやると、アズールはすぐにスゥスゥと可愛らしい寝息を立て始めた。
ああ、本当に天使の寝顔だな。
いや、アズールの場合は起きている時も天使なのだが。
そんなアズールの寝顔に、つい頬が緩んでいると
「ホフマン侯爵、並びに子息のパウル。このルーディーとアズールの姿を見ても、この二人が婚約することに異議を唱えると申すのか?」
と父上の冷静ながらも厳しい声が、彼らにかけられた。
「い、いえ。そのようなことはございません」
「だが、ホフマン侯爵。其方はアズールがルーディーの許嫁になったことに憤りを感じていたという話があるが、それはどういうことだ?」
もう調べがついたのか。
流石に早いな。
「――っ!! あ、あの……そ、それは……」
「『神の御意志』の許嫁はウサギ族だというのは、誰もが知っていることだが、其方はそのことにも異議を唱えるつもりだったということか?」
「い、いえ。そのようなことは決して! も、もしアズールさまが、ウサギ族でなければ、私の息子の許嫁にと公爵さまにお話ししておりましたので、その話が流れてしまったのがショックだったというだけで……決して、王子さまから奪い取ろうなどと不届きなことは考えてもおりませんでした」
「ならば、息子が勝手にしでかしたと申すか?」
「は、はい。その通りでございます。で、ですが、息子はまだ子どもでございます。その子どもに免じて何卒お許しくださいますようお願い申し上げます」
「ふむ。なるほど。わかった」
「まことでございますか? ありがとうございます」
「ああ。子どもは許そう。その代わり、其方にはしっかりと罰を受けてもらうとしよう」
「えっ……そんなっ!」
「連れて行けっ!」
父上の声に、護衛の騎士たちが急いでホフマン侯爵を大広間の外に連れ出して行った。
ここに集まった人が、僕と同じ思いを持っていると思ったんだ。
そして、国王陛下でも本心はアズールさまのために誰か異議を唱える者を探していると思ったんだ。
でも……僕が大声を出した瞬間、大広間中にいた人全員の敵意に満ちた視線に襲われた。
これほどたくさんの人に敵意を持った目で睨まれて、自分が思っていた展開と違いすぎてどうしていいかわからなくなった。
「えっ、あ、あの……僕、そんな……」
そんなつもりじゃなかった。
てっきりよくぞ言ってくれたと、英雄になれるとばかり思っていた。
それなのに……。
とんでもない視線の強さに、立っていられないほど足がガクガク震える。
あまりにも怖すぎて漏らしてしまいそうなほどだ。
今更ながら自分がしでかしたことがとんでもないことだと思い知らされる。
それくらい、恐怖を感じた。
どうしよう……っ、どうしたらいいんだろう……っ。
パニックになってわぁーーっ! と大声を出してしまいそうになった時、
「パウルっ!! お前は一体何をやっているんだっ!!」
と僕が叫んだよりもずっとずっと大きな父上の声を浴びせられた。
その瞬間、
「ふぇぇーーーっん!」
と父上の怒声を打ち消すほどの威力のある可愛い泣き声が大広間中に響き渡った。
その声にまた静まり返り、僕に向いていた視線は一気に正面に向けられた。
僕もそれに倣うように正面を向くと、ルーディー王子が立ち上がり、泣いているアズールさまをあやしているように見える。
アズールさまの姿はあのブランケットに隠されているが、王子との声だけは聞こえる。
「ふぇぇーん、こあかっちゃー」
「ああ、よしよし。もう大丈夫だぞ」
「るー、ちゅっちゅちてー」
「わかった。ほら、ちゅー」
「ふしゃふしゃぁー、もふもふぅー」
「ああ、ふさふさのもふもふだぞー」
「ちもちぃー」
蕩けるような王子の甘い声と、幸せそうなアズールさまの声が聞こえる。
そして、そのまま王子の大きくて立派な尻尾に巻きつかれながら、眠ってしまったようだ。
アズールさまは、大人でも怖がるような王子の毛むくじゃらの顔ですら、嬉しそうに撫でているように聞こえた。
しかも、自分から指を差し出し舐めてもらうなんて……。
あんなの本気で好きじゃないとできるわけがない。
僕は、この二人のどこが不幸だと思ったのだろう。
異議を唱えることなんて何一つなかったのに……。
僕はただ、アズールさまの可愛い姿に見惚れて、自分のものにしたい一心で叫んだだけだったんだ。
ほんのわずかな間でも許嫁だったのだとそんなバカな話を間に受けて。
自分のものになんてできるわけもないのに。
こんな大事なお披露目の会で国王陛下の話を遮って異議を唱えるなんて……絶対にしてはいけないことだったのに……。
今更気づくなんて……愚か者だ。
自分がしでかしてしまった罪は償いたい。
でも、どうしたらいいんだろう……。
<sideルーディー>
やはりというか、なんというか、やはりしでかしたのはあのホフマン侯爵家パウル。
私にあれほどの敵対心を向けていたからな。
まだ子どもだからと思っていたが、いや子どもだからこそ、何も考えずに異議を唱えてしまったのだろうか。
父親が息子に怒声を浴びせている。
まぁ無理もないが、パウルがあんなことを言い出したのはあの父親の影響もあるのではないか?
そう思ったのは私だけでなかったようだ。
父上はすぐにあの父親のことを調べるように言っていた。
すぐにパウルがあんなことを言い出した理由がわかるだろう。
さて、どうしてやろうかと思っていると、私の腕の中にいるアズールが大声をあげて泣き始めた。
きっと眠かったのを邪魔されてぐずってしまったのだろうな。
こうなると立ち上がってあやさなければなかなか寝付かない。
いつものように声をかけながら、アズールの指を舐め、アズールの好きな私の尻尾で身体中を包みながら、背中をトントンと叩いてやると、アズールはすぐにスゥスゥと可愛らしい寝息を立て始めた。
ああ、本当に天使の寝顔だな。
いや、アズールの場合は起きている時も天使なのだが。
そんなアズールの寝顔に、つい頬が緩んでいると
「ホフマン侯爵、並びに子息のパウル。このルーディーとアズールの姿を見ても、この二人が婚約することに異議を唱えると申すのか?」
と父上の冷静ながらも厳しい声が、彼らにかけられた。
「い、いえ。そのようなことはございません」
「だが、ホフマン侯爵。其方はアズールがルーディーの許嫁になったことに憤りを感じていたという話があるが、それはどういうことだ?」
もう調べがついたのか。
流石に早いな。
「――っ!! あ、あの……そ、それは……」
「『神の御意志』の許嫁はウサギ族だというのは、誰もが知っていることだが、其方はそのことにも異議を唱えるつもりだったということか?」
「い、いえ。そのようなことは決して! も、もしアズールさまが、ウサギ族でなければ、私の息子の許嫁にと公爵さまにお話ししておりましたので、その話が流れてしまったのがショックだったというだけで……決して、王子さまから奪い取ろうなどと不届きなことは考えてもおりませんでした」
「ならば、息子が勝手にしでかしたと申すか?」
「は、はい。その通りでございます。で、ですが、息子はまだ子どもでございます。その子どもに免じて何卒お許しくださいますようお願い申し上げます」
「ふむ。なるほど。わかった」
「まことでございますか? ありがとうございます」
「ああ。子どもは許そう。その代わり、其方にはしっかりと罰を受けてもらうとしよう」
「えっ……そんなっ!」
「連れて行けっ!」
父上の声に、護衛の騎士たちが急いでホフマン侯爵を大広間の外に連れ出して行った。
348
お気に入りに追加
5,355
あなたにおすすめの小説
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」


【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる